文々。異聞録 ~Retrospective Holy Grail Wars.   作:悠里@

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25.夜が終わらない 《2月7日》

 

 

――俺の名前は、衛宮士郎。

 

表向きは、とある学園に通う普通の生徒だ。

……裏の顔? 正体は何者かだって?

そうだな……一人の魔術師であり、一人の正義の味方とでも言っておこうか。

 

そんな俺は、聖杯戦争という争いに巻き込まれてしまった。

七人の魔術師が万能機たる聖杯を求めて殺し合うという、くだらない揉めごとだ。

 

聖杯戦争に参加する魔術師は、聖杯の力を借りて、パートナーとなるサーヴァントを召喚する。

サーヴァントとは、過去の英雄――すなわち英霊を召喚して共に戦うのだ。

 

そして、俺のパートナーは射命丸文という天狗の女の子。

かなりの美少女で、清く正しく、気立ても良い。

もちろん、顔が可愛いだけじゃない。

見た目とは裏腹に、なかなかの腕っ節の持ち主だ。そして美少女で、美少女だ。

それでも、俺ほどの強さはないけどな。美少女ではあるが。

 

初めて戦ったサーヴァントは、ランサーという槍の使い手だった。

やつの扱う槍はなかなかのスピードだったが、俺の神域の目にとっては児戯も同然。

容易く槍をつかみ取ってやり、驚愕するランサーの顔面に俺の拳をめり込ませてやった。

ランサーは、捨て台詞を吐いて逃げ出したが、俺はそれを見逃した。(※ランサーとは初日に会ったきりです。今はどこにいるんでしょう?)

逃げる相手を追うのは、好みじゃない。

俺の敵は勇猛な獅子であって、臆病な兎じゃないからだ。

 

いつも通り、俺は学園(※学校とは何が違うのでしょうか?)に行く。

聖杯戦争という些事に、俺の生活スタイルを崩されるのは許されない。

俺の行動はすべて俺が決める。誰かに脅かさせていいものじゃない。

もっとも、学園にサーヴァントが現れようが、大した問題じゃない。容易く撃退できる。

 

廊下で学園のマドンナ(※誰でしょうかね? 美人の偶像的存在?)である遠坂凛とすれ違った。

彼女もまた、聖杯戦争のマスターの一人だ。

腐れ縁である彼女は、何かあるとすぐ俺にちょっかいを掛けてくる。

いわゆる、ツンデレ(※ツンツンデレデレの略らしいです)というやつだろう。

俺に惚れているのはバレバレだったが、ワザと気づかないふりをしてやってる。(※実際は不明。拗らせた感じはします)

可愛いやつだ。射命丸ほどじゃないがな。(※えへへ(*^^*))

 

昼休みは、下級生の女子と昼食を取った。(※先日の重箱五段は引きました。加減しろバカ!)

彼女の名前は、間桐桜。ある事がきっかけで知り合った女の子だ。(※ある事は不明です)

いつもは大人しい性格なんだが、俺が他の女の子と話すだけで嫉妬の視線を向けるのが困る。(※士郎さんェ……)

当然だが、俺に惚れている。(※ガチです。裏取れてます)

 

夕食は、桜と一緒に藤村大河という俺の姉のような女性(※後見人?)と取ることが多い。

本来、料理は交代制(※私も作ろうかしら?)なんだが、この藤ねえだけは作ろうとはしない。

やれやれ、困ったやつだ。当然だが、俺に惚以下略。(※詳細不明。でもきっかけがあれば秒で結婚しそう)

 

夜は聖杯戦争のため、冬木の町を散策する。(※聖杯戦争飽きた。日本各地で美味しいものが食べたい)

そこでバーサーカーという巨人(※超でかい!)、そして雪のように白い少女(※超かわいい!)と遭遇した。

彼女もまたこのくだらない聖杯戦争に巻き込まれた哀れな子なんだろう。(※ガチっぽい。洗脳教育されてそう)

だが、俺という男に出会えたのだ。その運命の鎖を引きちぎってやる!

 

イリヤスフィールと名乗る少女は、俺に熱っぽい視線を送ってくる。(※これも詳細不明。拗らせ度は70~90ぐらい?)

俺は、バーサーカーの攻撃(※当たったらペシャンコです(T_T))を巧みなステップで翻弄しつつも、雪の少女に視線を返した。

途端、少女が顔を赤くした。しまった! 俺の眼には魅了の効果があるんだった!(※ないです)

 

バーサーカーは強い。並大抵の力じゃ倒すことはできないだろう。(※勝てる気ゼロ!)

俺は、左手に封印した暗黒の力を解放し、バーサーカーを討つ!!(※本当にどうしよう(^o^))

 

「うおぉぉぉぉ! 左手の暴走が止まらない!!」(※左手への謎の特別視)

 

 

 

 

射命丸文は現在、与えられた部屋でグラスを片手に、原稿と向かい合っていた。

そのグラスには、外界に来る際に持ち込んだ天狗の酒が注がれている。

かなりのアルコール度数を誇る日本酒だが、うわばみの天狗にとってなんてことはない。

 

間桐家から帰宅した文は、熱い風呂でその日一日の疲れを癒した。

上空二千メートル以上の場所に何時間もいたため、妖怪ではあっても疲労はそれなりにある。

そして、今は酒を飲みながら原稿を書くという至福のなかに彼女はいた。

 

「んふふー」

 

ぽかぽかの風呂上がり、冬の寒さでよく冷えた酒を傾ける少女。

頬を赤く上気させており、どこか艶めかしい。

彼女の着ているパジャマは、士郎が用意したものだ。

ピンクを基調とした女の子らしいデザインであり、とてもよく似合っていた。

 

彼女が書いているのは、新聞に掲載しようと考えているノンフィクション小説のプロットだ。

外界の新聞を読んで、事件や事故といった記事だけではないコンテンツの豊富さに影響を受けたもの。

コラムや小説といった外部からの寄稿もあって、プロの小説家も連載している。

その連載という形式だったら続きが気になって、継続契約の購読者が増えるかも知れない。そんな小さな企みがあった。

 

故あって射命丸文は、聖杯戦争という奇妙奇天烈な体験をしている。

こうして、本格的に参加してしまった以上、特集記事だけでは少々もったいない。

多少の脚色を加えて、荒唐無稽な小説にでもすれば面白いだろう。

 

物語の主人公は、文のマスターである衛宮士郎が大抜擢された。

当然許可は取ってない。事後承諾の予定だった。

タイトルは『俺と聖杯戦争』――。

魔術師としての顔を持つ正義の味方の衛宮士郎が、個性豊かなヒロインたちに言い寄られつつも、他を寄せ付けない強さでサーヴァントを打倒していく話だ。

繰り返すが、脚色はほんの僅かだ。

 

小説なんて初めて書くが、思いのほか筆が進み、傑作が生まれる予感が文にはあった。

この時の射命丸文は、ライダー戦の高揚、間桐兄妹との問答、深夜のテンション、度数の高い酒のせいで変な方向に入っていた。

 

「……こ、これは、士郎さんにも見せなければ!」

 

ああ、今宵傑作が生まれてしまった。文は、心の底からそう思った。

頭が有頂天な天狗少女は原稿を手に取ると、士郎の部屋へふらふらと歩いていく。

もう日付が変わって久しい。

だが、今の文の思考力は烏と変わらない程度まで落ちていた。

大脳が麻痺して、自己抑制や判断力が著しく低下している。

そもそも、士郎は絶対安静のはずだが、それすらも文の頭から抜け落ちていた。

ライダーに穴だらけにされた身体で、この怪文書。士郎は一体どんな顔をして読めばいいのか。

 

「いえーい! うえーい! 士郎さーん! ちょっとこれ読んでくださーい!」

 

浮かれ切った天狗は、ノックすらもせずに士郎の部屋に押し入った。

しかし、そこには士郎の姿はなかった。

 

「…………?」

 

酩酊した頭で、部屋の隅から隅まで見渡すも、やはり誰もいない。

 

「あ、これヤバいわ」

 

文は、冷や水を浴びせられたように、少し冷静な思考を取り戻した。

そして自らの考えが甘すぎたと、痛感する。

士郎は、間桐慎二に会うために、傷だらけの身体でこの家から抜け出したのだ。

それも、聖杯戦争がもっとも活発となるこの時間に。

 

まさか、士郎がそこまで慎二に執着するなんて、射命丸文にとって計算外だった。

あんなリアクションしか能がない失禁男に、どうしてそこまでする必要があるのか。

聡明な頭をフル回転させても、文には少しも理解できなかった。

 

天狗の少女は、パジャマから着替えることも忘れて、士郎の部屋から外に飛び出した。

 

 

 

 

「――うわああッ!!」

 

バーサーカーの斧剣が、コンクリートで舗装された道路を次々と破壊していった。

モグラ叩きのように振り下ろされる凶器を、俺は転びそうになりながらも何とか躱していく。

 

「クスクス。お兄ちゃん、頑張ってね。頑張らないと死んじゃうよ?」

 

狂戦士の主たるイリヤスフィールは、そんな光景を少し離れた場所から楽しそうに眺めていた。

 

ここは新都に通じる、冬木大橋の近くの住宅地。

かつて、バーサーカーとセイバーの戦闘があったところからそう遠くない。

 

「クソ……!!」

 

どうして、こうなってしまったのか。俺はいまバーサーカーに襲われている。

慎二を探すために、冬木中央公園まで行こうと思った矢先。

まるでタイミングを見計ったように、バーサーカーを引き連れたイリヤスフィールが現れた。

しかも、イリヤスフィールに先に見つけられてしまったため、俺は明確な死を覚悟した。

少女は一言二言の挨拶を済ませると、バーサーカーに俺を襲わせた。

 

もちろん、バーサーカーは本気ではない。

本気で俺を殺す気だったら、最初の一撃で肉塊と化していただろう。

つまりは、イリヤスフィールが手加減をするように命じていたのだ。

理性を失くしたバーサーカーに、そんな器用な真似ができるのかと思ったが、俺は現に生きていた。

 

だけど、これでは慎二に会うどころの話じゃない。

下手をすれば、ここで衛宮士郎の何もかもが終わってしまう。

 

「シロウ、このままだとバーサーカーにぺしゃんこに潰されちゃうよ」

 

イリヤスフィールが、鈴のような声を鳴らした。

子供そのものの声質に反して、彼女の言葉はあまりにも残酷だった。

 

「はぁ……はぁ……」

 

息は、だいぶ前から上がっていた。

ライダーから受けた傷が熱を持って痛み始めてる。

塞がりかかった傷が開いて、服の上から血が滲み出していた。

少しの衝撃で、体がバラバラになりそうなほどの激痛。

このまま何もしなければ、無惨に殺されるのもそう遠くないだろう。

 

「フフ……」

 

どうやら俺は、イリヤスフィールによって逃げられる場所を限定されていた。

フォックスハンティングのように、どこか特定の場所に誘い込まれているのかもしれない。

……そして記憶が確かなら、この先の道を進むのは非常にまずい。

逃げ道を変更しようとしても、途端にバーサーカーの攻撃が鋭くなり、あえなく失敗する。

 

「…………くっ!」

 

気づけば、目の前に乗り越えられそうもない壁があった。

そして、すぐ後ろにはバーサーカー。

つまりは、袋小路。俺はもう、前にも後ろにも、どこにもいけない。

この行き止まりが少女の目的地で、イリヤスフィールによって誘導された場所。

 

「もう後がないね、お兄ちゃん」

 

イリヤスフィールが、バーサーカーの隣へ並んだ。

バーサーカーは攻撃を中断しており、少女を庇うように静止している。

どう考えても絶体絶命の状況だったが、俺には一つ腑に落ちない点もあった。

 

「イリヤスフィール……何が目的なんだ?」

「んっと。イリヤスフィールだと、少し長くて呼びにくいから、わたしのことはイリヤでいいわ」

「……じゃあ、イリヤ。なんでわざわざこんな真似をするんだ? 俺を殺そうと思えば、いつだって殺せたはずだ」

「だって、こうしないとシロウとゆっくりお話ができないじゃない」

 

なんだって……?

 

「昼にお城を抜け出して、お兄ちゃんを探したけど見つからなかったわ」

 

昨日の昼は、ずっと冬木中央公園にいたから、この近辺を探しても見つからなくて当然だった。

 

「だからね、シロウ。わたしとお話しましょ?」

 

イリヤの思いがけない発言に、俺はきょとんとしてしまう。

少女の話し方も命令するようなものではなく、どちらかというとお願いに近いものだった。

その顔に浮かぶのも、いつもの冷酷な無邪気さではない。

家族に願いを乞うような、年相応のもの。

そう言われても、どうしたらいいのか。突然の事態に考えがうまく纏まらない。

 

「シロウ……」

 

俺がいつまでも返事をしないのを不安に思ったのか、眉を下げて悲しげな顔になる。

これはひょっとしなくても、俺に断られるのを恐れているのか――?

今のイリヤは絶対的優位な立場であり、その気になればいつだって俺を殺せる。

なのにどうして『話がしたい』なんてちょっとしたお願いで、そんな悲しそうな顔をするんだ……?

 

「…………」

 

それ以上は、イリヤの悲しげな顔は見ていられなかった。

そうして、少女に話しかけようとした時――。

 

「なにやってんですか!!」

 

突如、俺の頭の上から、馴染みのある声がした。

そう思った瞬間に、その声の主は俺とバーサーカーの間に割って入る。

まるで俺を庇うように立ち塞がり、バーサーカーと対峙する烏天狗の少女。

 

「文!?」

「あのサーヴァント……!」

 

そんな突然の来訪者に、イリヤは苛立ちを覚えていた。

俺と話がしたい少女にとって、射命丸文は邪魔者以外の何者でもなかった。

 

「ああもう! 士郎さん! 私の書き置きを見たでしょう!」

「ああ……見た」

「だったらなんで、こんなところでこんなことになっているんですか! どう見ても絶体絶命じゃないですか!」

「あ、ああ……そうだよな。ごめん」

 

今まで見せなかった剣幕で、俺の浅慮な行動を糾弾する。

その迫力に、反射的に謝ってしまう。

ただ今の彼女からは、妖怪としての恐ろしさではなく、年齢の近い女の子に怒られている感じがした。

だが、まずは気になったことがあったので、それを先に言っておこうか。

 

「それよりも文、そんな格好で外を出歩くと風邪を引くぞ」

 

彼女は、俺が先日購入したピンクのパジャマを着ており、しかも裸足だった。

家が火事にでもならない限りは、こんな格好で外には出歩かない。

 

「――あ」

 

つまり彼女にとって、家が火事になるのと同レベルの一大事があった。その原因は間違いなく。

 

「はい? 今なんと?」

 

俺の何気ない発言に、文が青筋を立てる。

それなのに顔は、いつも以上に笑っており、それが余計に怖い。

 

「こんな格好でいる原因を作ったあなたが言わないでください!!」

「ごもっともです。ごめんなさい」

 

その通りだった。間髪入れずに謝罪をした。

そんな文の顔をこれ以上気まずくて見ていられなくなり、つい視線を逸らしてしまう。

そんな俺たちを見て、イリヤが唖然としていた。

確かに敵対サーヴァントの前で、こんな醜態を見せられれば誰だって呆気にとられる。

 

しかし少女の反応は、思わぬものだった。

 

「あははは! お兄ちゃんのサーヴァントって面白いね! 何なのその格好!」

 

イリヤが、本当に可笑しそうに俺たちを見て笑った。

 

「あ、あんな小さな子供に笑われちゃったじゃないですか! 今まで築き上げてきた私のクールなイメージが台無しです!」

 

イリヤの反応に顔をより一層赤くして俺をなじるが、文にそんなイメージあったのだろうか?

聖杯戦争で一番の色物枠なのは、間違いないと思うけど。

 

……なんだか今の文は、表情をころころと変えて面白いな。

いつもと違って発言に裏表がなく、人間味さえも感じてしまう。

つい数時間前に、ライダーと死闘を繰り広げていた彼女とは別人みたいだ。

 

それにこのタイミングだったら、さっきイリヤに言えなかったことも言えそうだ。

 

「……なあイリヤ。俺と話がしたいんだったよな。だったら、ここだと寒いしウチまで来ないか?」

 

今の俺は、パジャマ姿の文にバーサーカーから庇われており、大変アレな状態だ。

それでも、恥を忍んでイリヤに話し掛けた。

いくら重ね着をしても、身に染み入るような寒さを感じる冬の深夜。

文なんて、肌着の上にパジャマ一枚を着ているだけ。それも裸足のまま。

第一、文がこんな格好をしているのは、間違いなく俺の責任だ。

 

未だ行方知れずの慎二が頭に浮かんだが、これから探そうとしても、文に止められるだろう。

それと文は、慎二と会っているはずだ。あいつが今どこにいるのか聞けるかもしれない。

 

「…………」

 

俺の発言に、文とイリヤの二人が目を丸くして驚いていた。

あれ? そこまで変なことを言ったか?

文も着替えられるし、イリヤも温かい場所で俺と話ができる。双方にとって、メリットしかないはず。

 

他の誰かに同意を求めようと周囲を見渡すも、そこには物言わぬ黒い巨人がいるだけだった。

 

 

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