文々。異聞録 ~Retrospective Holy Grail Wars.   作:悠里@

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41.試練の先

 

 

セイバーのエクスカリバーから放たれた光の奔流。

膨大な魔力は光となり、光は断層となった。

光の断層は、あらゆる対象を焼き尽くし、そして切断する――。

 

バーサーカーを貫いた光は凍土を焼き払い、アインツベルンの城すらも破壊した。

様々な結界が施された魔術師の不夜城は、もはや瓦礫の山と化している。

 

これまで、どんな攻撃も届かなかった黒き巨人。

そのバーサーカーの姿は、見る影もなかった。

焼け果てた大地に、横たわるように転がっている巨大な消し炭。

それが、かつて最強のサーヴァントだったもの。

四肢が辛うじて残り、人の形をしてなければ、判断すらできなかっただろう。

これでは、いくら何でも再起不能だ。

バーサーカーの不死性を象徴した『十二の試練』。

それは、セイバーの『エクスカリバー』によって攻略された。

 

「…………」

 

その圧倒的な破壊力に、誰もが声を上げず、息を飲んでいた。

聖剣の担い手であるセイバーと、彼女のマスターの遠坂凛を除いて。

 

「これが……」

 

これがセイバーの宝具『エクスカリバー』の威力なのか――?

風王結界から解き放たれた抜き身の聖剣は、豪華な意匠は施されていなかった。

言ってしまえば、無骨な大剣だ。

しかし、その剣は誰の目も惹き付けるような美しさがあった。

 

エクスカリバーの担い手――それは、誰だって知る高名な人物。

古代ブリテンの王にして、円卓の騎士を束ねたという伝説の騎士王。

――アーサー・ペンドラゴン。

あの小柄な少女が、伝説のアーサー王だと言うのか。

……信じられない。

信じられないが、エクスカリバーの存在がそうであると示していた。

 

「あんたの拠点がこんな森の奥で助かったわ。もし町の中だったら、対城クラスの宝具はとても使えないもの」

 

エクスカリバーを市街地で使えば、確実に大惨事を招いた。

それは遠坂凛という、気高い少女が許すはずがない。そのため、使える場所が限定されていた。

遠坂は、その威力からセイバーの宝具を持て余していた。

だから俺たちと同様に、リスクを承知して魔術師の根城に乗り込んだのだろう。

 

「……凄いですね。あれがセイバーの宝具ですか。あんな高出力なのに発動まで大して時間も掛かっていない。可能なら立ち会いたくない相手です」

 

射命丸文も、手放しでセイバーを賞賛していた。

他者を貶める発言の多い彼女にしては、珍しい態度だった。

だが、こうしてバーサーカーが脱落した今、次の相手は間違いなく俺たちだ。

 

 

 

 

「………………」

 

イリヤは俯いたまま、小さな肩を震わせていた。無理もないだろう。

たった一度の宝具で、絶対と信じていたバーサーカーを倒されてしまったのだから。

 

「……やってくれたわね。バーサーカーの命を一度に7つも奪うなんて。こんな屈辱、生まれて初めてよ」

「は? …………なんだって……?」

 

イリヤの言葉は、俺の想像を遥かに逸脱したものだった。

それは恐らく、文も遠坂も、バーサーカーを倒したセイバーだって思ったはず。

 

「な……ッ!?」

「バーサーカー!! いつまで寝ているの!! さっさと起き上がって、殺される前に殺しなさい!!」

 

イリヤに身体に刻まれた令呪が赤く光り出す。

令呪の力に反応して、消し炭だったはずのバーサーカーが立ち上がった――。

焼け焦げた金色の眼球が光り出し、これまでと変わらない大地を揺らす咆吼を上げる。

 

『■■■■■■――――ッッッ!!!』

 

炭化していたはずの体組織が、咆哮とともにボロボロとこぼれ落ちていく。

そこにあったのは、傷ひとつないバーサーカーの姿だった。

更にイリヤの令呪によって、格段に戦闘能力を向上させている。

 

……あのエクスカリバーを以てしても、バーサーカーを殺しきれないというのか。

そんなふざけた道理があるわけがない。あるはずがない。

だがそんなふざけた事実が、現実のものとして起きてしまっていた。

 

「……ふざけてる! なんだって言うの、こいつ!?」

「…………!」

 

遠坂がバーサーカーのデタラメに狼狽えるが、セイバーは冷静だった。

 

「はあああ――!!」

 

バーサーカーが無手のうちに、抜き身のエクスカリバーで真っ向から斬り掛かる。

 

「ぐぅっ……!」

 

しかし、届かない。

狂化されたバーサーカーが、今までを超える速度で聖剣の腹を殴りつけた。

ギシリと音を立て、聖剣が軋む。

バーサーカーの並外れた力なら、エクスカリバーすらへし折っても不思議じゃない。

 

巨人は未だ熱を持つ大地から斧剣を拾い上げ、セイバーに叩き付けた。

斧剣は度重なる酷使によって切れ味は失われているが、バーサーカーにとって問題ではない。

己の膂力に耐える強度があれば、剣が切れようが切れまいが関係ない。

眼前にいる敵を、己の持つ最強の力で叩き潰せればいい。

 

「…………ふっ!」

 

セイバーは斧剣を受けようとはせずに、距離を広げて回避した。

バーサーカーはセイバーとの間合いを瞬時に縮めると、斧剣を連続して振るう。

セイバーは攻撃を受けようとはせずに、卓越した体捌きだけで躱し続ける。

狂化したバーサーカーの攻撃を一度でも受けてしまえば、そのまま圧し潰されてしまう。

 

「やあぁぁ――っ!」

 

セイバーは小さい体躯を活かして、バーサーカーを翻弄しようとした。

だが巨体からは考えられない俊敏さで、それすらも許さない。

セイバーもバーサーカーと同じように、圧倒的な身体能力で相手を叩き潰すタイプだ。

しかしバーサーカーは、遥か上を行く能力を持っている。

障害物のない場所だと、セイバーの体躯もメリットが薄い。

筋力で劣り、敏捷で劣り、耐久で劣り、リーチでも劣る。

城の前の開けた場所では、その差が顕著になってしまった。

セイバーはバーサーカーが相手だと、すべての面で絶対的に相性が悪い。

……いや、俺の知る範囲で相性が良いサーヴァントなんて、ただの一体もいない。

この剣の少女だけが、こうしてバーサーカーと渡り合える唯一の存在だ。

 

「クスクスクス。逃げ回るだけじゃ、わたしのバーサーカーには勝てないわよ」

 

崩壊した城の瓦礫に座るイリヤが、セイバーを挑発する。

戦闘中に腰を下ろす行為は、彼女の余裕の表れか。

仮にバーサーカーを無視して、イリヤを狙おうとしても不可能だ。

敏捷で勝るバーサーカーから少しでも目を離したら、その瞬間にやられてしまう。

 

『■■■■■■――――!!』

 

戦況は、堂々巡りだった。

バーサーカーは斧剣を振り回し、セイバーがそれを後退して避ける。

逃げの一手だけでは、セイバーがバーサーカーの懐へ斬り込むのは難しい。

……この状況を打開するにはどうしたらいいか。

遠坂の魔術では、バーサーカーに通用しないだろう。

かつて巨人の頭を破壊した宝石を複数持っているとは思えない。あるならとっくに使っているはず。

もし俺が割って入っても、バーサーカーに太刀打ちできるわけがない。

 

「ふむ。いよいよ大詰めかしらね」

 

隣で傍観している文は動かないだろう。彼女に遠坂たちを助けるメリットはない。

 

俺の思いつく限り、戦況を翻す手段は一つしか残されていなかった。

セイバーには、『十二の試練』を一度で7回殺した宝具がある。

それだけが、バーサーカーを唯一倒し切る方法――。

 

「――凛、宝具をもう一度使います! 発動の許可を!」

 

俺の思考と同じタイミングで、セイバーは二度目となる宝具の使用を求めた。

今だってセイバーは、斧剣を振るうバーサーカーから目を離さない。

たった一度の会話ですら、バーサーカーが相手だと命取りになる。

 

「駄目よ! 二日で三回も使用したら魔力が尽きてしまうわ!」

 

遠坂の魔力量があっても、エクスカリバーは頻繁に使えるものではなかった。

あれだけの破壊力。莫大な魔力を消費するのも当然だ。

サーヴァントはマスターの魔力によって、存在を保てている。

魔力切れを起こしたサーヴァントを待つもの――それは緩やかな死でしかない。

 

「ですが、このままでは千日手になる。……いいえ、悔しいが私ではバーサーカーに接近戦では勝てない」

 

今は会話をする余裕も何とか作れるが、それだって時間の問題だ。

セイバーは、敵愾心とは別の感情でバーサーカーを睨んでいる。

 

「くっ……!」

 

咬牙切歯。

歯を砕けるほど噛み絞め、堪え切れない悔しさを何とか飲み込もうとしている。

当然それは、パートナーである遠坂にも伝わっただろう。

 

「……わかった。でもその代わり確実にバーサーカーを仕留めなさい」

「はい――ありがとう、凛。必ずやバーサーカーを打倒して、マスターに勝利を捧げます」

 

セイバーは、マスターからの注文に力強く答えた。

風王結界から解かれているエクスカリバーであれば、解放に時間はさして必要としない。

だが、バーサーカーは数秒もあればセイバーをミンチにできる。剣の少女もそれを理解しているはず。

 

『束ねるは星の息吹──』

 

それでも、セイバーは目を閉じてエクスカリバーを眼前に掲げた。

聖剣に魔力が急速に収束していく。

 

『■■■■■■―――!!』

 

そんな真名解放のなか、バーサーカーが斧剣を薙ぎ払う。

セイバーのプレートを砕いて、血を撒き散らした。

 

『輝ける命の奔流──』

 

セイバーは、決して軽くないダメージを受けても、宝具解放を止めなかった。

僅かに身体を横にずらして致命傷だけは避けている。

バーサーカーに次ぐ耐久力を持ったセイバーのみに許された無茶だった。

 

『受けるがいい! 約束された勝利の剣(エクスカリバー)!!』

 

そして、二度目となる光の奔流が発生する。

しかも今回は、バーサーカーはセイバーの剣の届く範囲にいる。

一切の威力減衰もなく、ゼロ距離からのエクスカリバー。

一度目以上の火力──。バーサーカーは、間違いなく焼き尽くされる。

 

同じフィルムを再生するように、バーサーカーが魔力を持った光に飲み込まれた。

2メートル50センチの巨体が一瞬で見えなくなる。

 

……そんな中にあって、イリヤはセイバーと遠坂のやり取りを見ているだけだった。

ただ黙って、瓦礫に座ったまま何もせず傍観していた。

 

「……へえ」

 

そこにあるのは、表情筋が緩むのを耐えようとする底意地の悪い顔。

イリヤスフィールは、バーサーカーを単純に妄信しているわけではない。

バーサーカーには飛び抜けた実力があり、その能力を状況に応じて披露してきた。

今の笑いを堪えようとしているイリヤだって――。

根拠のない信頼ではなく、『何か裏付けがあるのでは』と考えてしまった。

 

 

結論から言うと――。

バーサーカーは、無傷で立っていた。

 

バーサーカーの全身から煙が上っていたが、ダメージを負っているようには見えない。

宝具の不発ではなかった。

その証拠に巨人の背後にあった森は焼き払われて、先の見えない道が作られていた。

モーゼの海割りのような奇跡は、エクスカリバー以外では再現不可能だ。

信じ難かったが、セイバーの宝具はバーサーカーに効果が無かったとしか思えなかった。

 

『■■■■■■――――ッッ!!』

 

バーサーカーは何事もなかったように再び斧剣を振るった。

絶望によって彩られた剣戟が再開された。

 

「馬鹿な――!?」

 

セイバーは茫然とした様子だったが、振り下ろされた斧剣を辛うじて対応する。

 

「くう……!!」

 

しかし、セイバーの動きは精彩さを欠いており、息すらも切らせていた。

 

「あれ? もう魔力切れなの? セイバーって、そんなちっちゃな身体なのに随分と燃費が悪いのね。それともリンの魔力が少ないのかしら。……まあ、そんなのどうでもいいわ。だって、二人ともここで死んじゃうんだから! あははは!」

 

イリヤが堪えていた感情を、全て吐き出すように笑いだす。

無邪気な子供が笑うようだったが、そこには身の毛がよだつ残虐性も含まれていた。

 

「どうして……? なんで、こんな……?」

 

絶望的な状況に遠坂ですら、弱音を呟いてしまう。

常に勝気で気丈であった、遠坂凛とは思えない姿だった。

 

「クスクス。いい反応よ、リン。何も知らないで死んじゃうのはちょっと可哀想だから、教えてあげるね。バーサーカーの『十二の試練』は11の命のストックだけの宝具じゃないの」

 

それだけではなく、イリヤは『神秘を打倒するにはそれ以上の神秘が必要』とも言っていた。

アサシンの物干し竿では、最後までバーサーカーに傷を付けられなかった。

 

「――もう一つの特性。バーサーカーは、一度でも受けた攻撃は二度と通用しない。だから、二回目のエクスカリバーは、ただの魔力の無駄遣いに終わったわけ。それを知ってたから、もう笑いを堪えるのが大変だったわよ。あははは――!」

 

そして、イリヤが勝ち誇るように再び哄笑を上げた。

 

「はあ、はあ……」

 

セイバーは、バーサーカーの攻撃を避けていたが、傍から見ても限界だった。

宝具発動直前に受けた傷と、魔力切れの影響があまりにも大きい。

目は弱々しく、剣を構える腕も力がない。立っているのだって、やっとに見える。

騎士王としての矜持なのか、バーサーカーの攻撃は未だ命中していない。

それは体捌きというより、未来予知めいた直感だけで何とか命を繋いでるようだった。

数秒先に潰されていても、何ら不思議ではない状態だ。

 

『■■■■■■――――ッ!』

 

そして一分もしないうちに、セイバーはバーサーカーの右薙ぎを腹部に受けてしまう。

 

「ぐぅ……はっ――!!」

 

斧剣が魔力で編まれた甲冑を容易に貫通して、横腹を抉り潰す。

その先端に、セイバーの肉片がこびり付いていた。

斧剣の切れ味の悪さが、セイバーに必要以上の苦痛を与えていた。

 

「不覚……でした……」

 

それでも――セイバーは倒れない。

崩れ落ちそうな体を剣で支えて、マスターの遠坂を庇うように立ち塞がっている。

 

「……セイバー!!」

 

遠坂がセイバーの名前を、ただ叫んだ。これではもう――。

 

「あーあ。これはバーサーカーの勝ちか。……参りましたね。セイバーのほうがまだ勝算があったんですけど」

 

天狗の少女が、これまで考えないようにしていた現実を告げる。そこには一欠片だって情がない。

セイバーはこれ以上、バーサーカーの攻撃には耐えられない。確実に命を落とす。

 

だったら、俺のやるべきことは一つだけ――。

頭が真っ白になって、身体が自然に動き出した。

 

だが――。

 

「おっと。行かせませんよ」

 

俺の腕を文が掴んだ。

外見からは想像できない握力によって、腕が音を立てている。痛みを感じないで済む、ギリギリのライン。

彼女が本気になれば、俺の腕など容易く握り潰せる。

 

「……文、放してくれ」

「絶っ対、駄目。ここでむざむざ士郎さんに死なれたら、何もかも興ざめですから。…………それと、念のため言っておきますけど、私はもう彼女たちを助けませんよ」

 

口にはいつもの薄い笑みがあったが、その赤い目は本気だった。

こいつは、本気でセイバーを見捨てる。

 

「だったら、今すぐその手を放せ!!」

 

大きな感情に飲み込まれて、声を荒げてしまう。そんな俺に、文は少し呆れたように肩を竦めた。

 

「……何を言っても無駄かも知れませんが、今あそこに行って何ができますか? 向こう見ずもいいところ。……そうやって思考を極端にしてはいけない。私は士郎さんにもっともっと悩んでほしい」

「ふざけるな!! 悩んでいる暇なんてあるか!! それに、行ってみなきゃわからないだろ!!」

 

残った理性ではわかっていた。

だが衛宮士郎という存在は、ここにいる事実に耐えられなかった。

 

「……士郎さん、あなたはバーサーカーにしたら路傍の石にも足り得ません。……その程度の存在が困っている人間を助けたい? はははは、笑わせてくれますね」

 

そして、烏天狗の貌が大きく変わった。もう笑みすら浮かべていない。

 

「力を持たない雑魚の分際で烏滸がましい。その態度、鼻につくわ」

 

俺を見る天狗の双眸が、一瞬のうちに白けてしまう。

それはかつて、学園の屋上で見せた顔だった。

その時の顔に言葉が伴うと、心臓が掴まれたような痛みがあった。

恐怖だけで、人は殺せるのだと実感する。

淡白な赤い瞳に映る俺の顔は、どれだけ情けなく引きつっているのか。

 

この腕は、どうやっても振りほどけそうもない。

俺にはもう文から視線を逸らすように、セイバーを見るしかなかった。

 

「……あ、うあああ!!!」

 

その時には、朦朧と立ち尽くしたセイバーの頭に。

バーサーカーの斧剣が触れようとした。

セイバーが終わる。たった一つの命が終わってしまう――。

俺は目を逸らさず、少女の最期を見届けるしかできなかった。

 

 

 

 

「…………?」

 

しかし、セイバーの姿が消えていた。

どこかに移動したわけでもなく、跡形すらもなく、バーサーカーの前から忽然と消失していた。

標的を失った斧剣が大地に刺さり、衝撃によって小さなクレーターが生まれる。

 

何が…………起こった?

空間転移なんて大魔術は、騎士であるセイバーには不可能。

優秀な魔術師でしかない遠坂にも無理だ。だとするとそれは――。

 

「――ッ! 令呪ね!」

 

いち早く理解したイリヤが叫ぶと、瓦礫の上から立ち上がる。

そして遠坂のいる方角を忌々しそうに睨んだ。

そこには、遠坂の姿もなかった。セイバーのように消えていた。

 

「あいつ……! バーサーカー!! リンはまだこの辺りにいるわ! 今すぐに追いかけて殺しなさい!!」

 

アインツベルンの森を管理するイリヤには、遠坂の居場所がわかる。

令呪の効力はサーヴァントだけであって、マスターには及ばない。

遠坂はセイバーをどこかに転移させた直後、自分の脚で戦場から離脱したのだ。

しかし、相手はバーサーカー。

アインツベルンのフィールドで遠坂凛が逃げ切れる確率は、ゼロに等しい。

 

「あんな雑魚――放って置いたらどう?」

 

遠坂を追跡しようとするバーサーカーを遮ったのは、射命丸文だった。

いつの間にか俺の隣から消えて、最強の巨人と対峙していた。

文の周囲には暴風が立ち上り、砂塵を撒き散らしていく。

 

「アヤ……?」

 

イリヤは当然の文の登場にきょとんとしたが、それも一瞬のこと。

すぐに嬉しそうな笑みに表情を作り替える。

 

「……ええ、その通りね。リンとの鬼ごっこなんかで、お兄ちゃんたちをこれ以上待たせるのも悪いもの。……いいわ。私と楽しく遊びましょう? もっとも、朝になってもおうちには帰れないけどね!」

「そういうこと。さあさあ! 掛かってきなさいな!」

 

翼を大きく広げて、臨戦態勢を取る。

微笑は浮かべているが、そこにいつもの慢心は含まれていない。

 

『■■■■■■――――ッッ!!』

 

バーサーカーも文を敵性存在と判断したのか咆吼を上げて、大気を震わせた。

 

「…………文」

 

そして、俺にできることは何もなく、二体のサーヴァントをじっと見るだけ。

………文に掴まれた腕から、ジンジンとした熱い痛みを感じた。

 

 

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