インフィニット・ストラトス【Garbage Dance】   作::Crane

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サブタイトルが長い!


第9話:ラブコメ的シュチュエーションは罰を受けるまでが常識である

 クラス代表を決める戦いの翌日。

 昼休みの終わりを告げる予鈴が鳴っている中、僕は寮と校舎の間の道に設置されたベンチに腰掛け、空をぼんやりと眺めていた。

 空は清々しいほど快晴で、雲は緩やかに流れている。

 頬に触れるそよ風も心地が良い。絶好の読書日和というやつだ。まあ、今持ってるのは愛読書じゃなくて、鞄に詰めた教科書とノートだけどね。もちろん、今日提出のレポートも忘れていない。

 自賛だけどレポートの完成度は高く、かなりの自信作だ。

 簪さんからお墨付きも貰ったし、これで織斑先生も文句を言うまい。

 ただ想定の倍以上の厚さになってしまった。没頭しすぎるのも考えもので、ほぼ冊子である。二度とやらない。やらないったらやらない。

 

「天気いいなぁ。寝ちゃいそう」

 

 なんて独り言を言って、大きなあくびをした。

 本当は今日一日安静ということで学園を休むつもりだった。

 実際今朝は酷くだるかったうえ、頭痛にも襲われたのだ。食欲も無かったので朝も摂っていない。

 でも案外ふかふかのベッドでぐっすり二度寝したら、酷かった倦怠感と頭痛が治まった。

 全快したとは言えないけれど、授業に遅れたくないから座学の授業ぐらいは受けられるだろう。

 それに織斑先生のことだから、休んでた分の課題を倍に出してきそうだ。現に午前中は休んだので嫌な予感しかしない。

 

「……昨日の()()ってなんだったんだろ?」

 

 ふと思い出したことを呟く。

 昨日のあれとは、オルコットさんとの試合中、その土壇場で感じた感覚のことだ。

 頭の中に響いた歯車同士が噛み合った音。

 瞬間、オルコットさんに肉迫してみせたあの超加速。

 教科書や映像教材での予備知識だけならあった、ISの運用における加速技術のひとつ――『瞬時加速(イグニッション・ブースト)』。

 練習もしていない。

 実践もしていない。

 意識もしていない。

 じゃあなんであの場面で『瞬時加速』が発動したのか。

 

「…………打鉄が僕に応えてくれた……なんて」

 

 あれこれ解らないことを今考えても仕方ない。また頭が痛くなるだけだ。

 もしかしたら織斑先生と山田先生なら知ってるかも? 教室に着いたらそれとなく聞いてみよう。

 

「さてと、そろそろ教室に――」

「だ〜れだ♪」

「!?」

 

 ベンチから立ち上がろうとした僕の視界が、突然、からかい混じりの声と一緒に遮られ、真っ暗になった。

 

「えっ! ちょっ、だ、おっ、えッ!??」

「誰かしら〜♪」

 

 混乱する僕の耳に聞こえてきたのは、無邪気さを多分に含んだ少女の声。どこかで聞き覚えがあるような?

 いや、思い出してる場合じゃない。なんなんですかこの状況。周りに誰もいないとはいえ、なんかちょっと恥ずかしいんですけどっ。…………しっ、しかも……!

 

 ――ふゆん。

 

 なんか当たってる! ナニとは言わないけど、柔っこいのが当たってる!!??

 

「……あっ、あのぉ……ど、どなたか、存じ上げませんが……その……当たって……るん……ですけど……??」

「えー?? 何が当たってるのかな? ちゃーんと言ってくれないと分からないな〜」

「へぁっ?」

 

 情けない変な声が出た。

 後頭部辺りに感じる柔らかい感触やら、鼻腔を擽ってくるシャンプー特有の香りやらで、僕の頭の中がぐるぐるぐるぐる回って混乱する。恐らく顔は紅くなっているだろう。滅茶苦茶熱い。

 

「ヒントあげましょうか? 私と君はすでに学園内で会ったことがあります」

「えっ?」

「なんなら少し話したわよ?」

「???」

 

 ますます分からなくなってきた!

 会ったことがあるってどこでだよっ? この一週間で話したのもクラスの人か簪さんしか思い当たらないんだが……。

 時間にしておよそ三〇秒。やっと視界が晴れ、後頭部辺りを優しく圧迫していたものも離れていった。や、やっと終わったぁ……。

 

「残念、時間切れ〜。答えてくれないなんて悲しいなぁ。あ! もしかして、あえて時間を稼いで私の胸の感触を堪能してたとか? 君って意外といやらしいのね。えっち」

「っ! だっ、誰がそんなこと!」

 

 聞き捨てならない言葉に振り返る。

 後ろに立っていたのは、悪戯っぽい笑みを浮かべた少女だった。少女が僕の顔を見てさらにニヤニヤ。

 

「ちょっと刺激が強かったかしら? 耳まで真っ赤にしちゃってかわいい〜♪」

「……ぐぅっ」

 

 心底楽しそうな表情でからかわれ、僕は困惑することしか出来なかった。

 同年代にも関わらず大人びた雰囲気だが、その中でどこか飄々としたものが見え隠れしている。

 締めているネクタイの色はが黄色。つまり彼女は学年が一つ上の二年生で……ん? 二年生?

 そこでようやく思い出し、自信なさげな口調で訊ねる。

 

「えっと……もしかして、職員室の場所を教えてくれた……?」

「ピンポ〜ン」

 

 言って少女は、取り出した扇子を広げる。そこには達筆な字で『大正解』と書かれてあった。

 そう、この人は入学二日目にして学園内で迷子になっていた僕を助けてくれた、とても親切な人なのだ。

 あの時はお礼を言ってすぐ職員室に行っちゃったけど、どことなく顔が簪さんと似ているような?

 

「思い出してくれたのは嬉しいけど、私としては声で気づいて欲しかったなー」

「なんか……ごめんなさい……」

「冗談よ冗談。あの時は一言二言しか話してないし、君も急いでたみたいだからね。職員室にはちゃんと辿り着けた?」

「あ、はい、おかげさまで。あなたがいなかったら多分ずっと迷子になってたと思います。本当ありがとうございました」

「……校舎の中で迷子になるってなかなかないわよ?」

「そ、それほどでも……」

「照れる要素あったかしら……。ところで隣座っていい?」

「え? あ、どうぞ」

 

 反射的に頷くと、大人びた顔立ちの少女は「ありがとう」と微笑んでから、僕の隣に座った。…………近くない?

 普通拳一個か二個ぐらい空けて座らないの? なんで零距離なんですか。さっきの『だ〜れだ♪』のせいもあって変に意識してしまう……。

 そんな僕のドギマギなどつゆ知らず、彼女は嬉々として話しかけてくる。

 

「昨日の試合。観させてもらったけど、かなり白熱してたわね。芥流善くん」

「……っ、観てたんですか……。それに僕の名前も……」

「そりゃあもちろん。この学園で君と織斑一夏くんを知らない子はまずいないわ。特に君は、代表候補生に喧嘩を売ったって有名だし」

「いや別に喧嘩を売ったつもりは……」

 

 どこまで広がってるんだよその話……。オルコットさんに色々言ったのは確かだけど、最初に喧嘩を売ったのは一夏君のはずなんだけど? なんで僕なのさ。噂の訂正を要求しますっ。

 

「そうなの? バカにされても怯まずに挑んでたところがカッコ良かったって聞いたけど」

「…………ならいいか」

「いいんだぁ……」

 

 広まってしまったものはしょうがない。人の噂も七十五日って言うし、大丈夫大丈夫。……意外と長いな、七十五日。

 

「それで、そのぅ……結局あなたは何者なんですか?」

「ああ、そういえば自己紹介がまだだったね。私の名前は更織楯無。このIS学園の生徒会長をやっているわ」

「!? せ、生徒会長……っ? それに更織ってことは……」

「そ。君のルームメイトである更織簪は、私の妹。カワイイからって手を出したらただじゃおかないわよ??」

「手なんて出しませんよ……あとが怖いんで」

「えっ! 女の子に興味ないの!?」

 

 なんでそうなるんだよッ!?

 

「普通に馬鹿みたいに興味ありますけどッ!!??」

「やっぱりいやらしい人だったんだ!!」

「ごめんなさいっ、滅茶苦茶口滑りましたッッ!!!」

 

 ベッチーン! と僕は両手で顔を覆い、勢いよく項垂れた。

 だっ、駄目だ……この人と一緒にいたらペースが乱されてしまう……!

 

「――君っておもしろいね」

 

 顔を上げると、生徒会長な更織さんがクスリと笑った。そしてベンチから腰を離すと僕の前に立ち、言葉を続ける。

 

「ISはね、時によって操縦者の性格が大きく出るわ。特にそれは、戦いの場において顕著に現れやすいと言っても過言じゃない。勝利への執着心は人の心を理性のない怪物に変えるの。昨日の君だってそうでしょう? 前半は完全に相手に押されて逃げ腰だったのに、後半からはまるで人が変わったみたいに戦ってた」

「…………それって褒めてます……?」

「褒めてないわ。呆れてるの。後がなかったとはいえ我武者羅に戦いすぎ。絶対防御で命が守らてるからって、自分からミサイルに飛び込むのは正気の沙汰じゃないと思うよ」

「……うぐっ」

 

 それについては簪さんと水を買ってきてくれた布仏さんからも、耳が痛くなるほど叱られた。二度とやらないでとも言われた。笑顔で圧をかけてくる布仏さんはちょっと怖かった。

 

「でも『眼』だけは良かったよ。最後まで諦めない、闘争心剥き出しの熱が込められた、眼。君のことを笑って観てた子達も最後は応援してたし、私もつられて応援しちゃった」

「そう……ですか。ありがとう……ございます」

 

 応援されてたのか、全然気づかなかった……。

 嬉しいような恥ずかしような、何ともむず痒い気持ちになってしまう。

 

「ずっと思ってたけど、なんで敬語なの? 確か同い年のはずでしょ?」

「……歳が同じでも、あなたは一個上の先輩なのだから敬語を使うのは普通では?」

「え〜。同い年なのに敬語っておかしくない? それに壁があるみたいでつまんない」

「つまんないって……」

「というわけで今から敬語禁止ね。私と会話する時はタメ口で話すように。これは会長命令よ!」

「えぇ……」

 

 横暴すぎるだろこの生徒会長……。まあ、本人がいいって言ってるんだからいいか。

 

「はいはい、会長サマの仰せのままに。これでいいかな? 更識さん」

「あ、私のことは苗字じゃなくて楯無って呼んでちょうだい。もしくはたっちゃんで」

「注文多いなこの生徒会長」

 

 流石にたっちゃん呼びは馴れ馴れしいと思う。あと普通に僕にはハードルが高いから勘弁してほしい……。

 だからといって下の名前で呼ぶのも、個人的になぜか負けた気分になる。

 

「……会長じゃ駄目?」

「ダメ」

 

 速攻で却下された。となると……あれしかないか。

 

「………………じゃあ……お嬢?」

「おっ、お嬢!? よ、予想外の呼び方が来たわね……。しかも案外悪くない……」

 

 物は試しで呼んでみたら意外と好評だった。

 彼女と簪さんの生家である『更織家』は、古くからある由緒正しきお家で、二人はそこのお嬢様だそうだ。

 ちなみ布仏さんはその家に仕えている家系らしく、自分は簪さんの専属メイドさんなのだと、自慢げに教えてくれた。

 

「……こほん。お、お嬢呼びは特別に許してあげる。よろしくね、流善くん」

「それは光栄だね。こちらこそよろしく、お嬢」

 

 更識会長改め、お嬢が求めて来た握手に応じようと手を伸ばし――――後方から強い風が吹き抜けた。

 その風は、あろうことかお嬢のスカートを捲り上げ、赤紫色がかかった茶色のパンティストッキング越しから、少し派手目の下着を僕に見せつけた。

 

「キャッ!」

「っ!!?」

 

 小さな悲鳴を上げてスカートを咄嗟に押さえるお嬢と、首を痛める勢いで顔を逸らして目を瞑る僕。

 ま、まさかこんなラブコメ漫画的なシュチュエーションに出くわすなんて……! ここで『見てません』はイコールで『見ました』になるって、昔読んだラブコメ漫画に描いてあった。つまり詰み。

 

「…………………………………………見た?」

「…………………………………………ぁ、はい」

 

 顔を真っ赤に染めたお嬢の問いに、僕は全身から冷や汗が噴き出すのを感じつつ正直に頷いた。

 

「…………ふ、ふーん……。あっさり認めるのね。不可抗力だったとはいえ、私のを見たのは高くつくわよ? 何か言うことは?」

「…………えーっと……ごめんなさい……。でも結構……その……アダルトチックな派手目でびっくりし――」

 

 左頬に生じた痛みとともに甲高い音が響き、ベンチ後ろの木に留まっていた小鳥たちが羽ばたいていった。

 

 

◆ ◇ ◆

 

 

「あ。織斑先生」

「ん? 芥か。もう動いて大丈夫なのか?」

 

 言葉選びがとち狂ったせいでお嬢に引っ叩かれ、じんじんヒリヒリ痛む頬を撫でながら教室へ向かっていたら、織斑先生にばったり会った。

 ちなみにお嬢はあの後、僕に『変態っ!』とか『バカっ!』とか『スケコマシっ!』と、あれこれ言って、顔を真っ赤に染めたまま僕から逃げるかのように去ってしまった。

 うん。スケコマシってなんでよ、生まれて初めて言われたぞ。あれって確か女の人を誑し込む的な意味だろ、僕にそんな趣味はないです! いや酌量の余地無しでお嬢の下着の感想を言った僕が悪いんだけどね。マジでなんで言ったんだよ僕……。

 

「は、はい。お昼で体調はほぼ回復したので、授業に出ようかなと」

「そうか。それは何よりだ」

「それに、休んだら休んだ分だけ課題がたくさん出そうだったので」

「分かってるじゃないか。泣いて喜べ。お前が欠席した午前中の分を課題にしておいたぞ。量は倍だ」

「ぅわ〜〜い、恐悦至極ぅ〜〜〜」

 

 先生の優しさに血涙しそうですよ。…………はぁ。

 

「ところでその顔どうした?」

「へっ? 顔?? こ、これは……えっと…………わ、若気の至り…………???」

「十六の小僧が何を言ってる」

「そ! そんなことより、先生これ!!」

 

 これ以上は僕が精神的に耐えられないので、話題を無理矢理変えようと、鞄からレポートを引っ張り取り出して織斑先生に渡した。織斑先生は僕を訝しみつつもレポートを受け取った。

 

「提出ご苦労。ちゃんと……思ったより厚いな」

「すみません。熱が入ってしまって、つい」

 

 まあいいだろう、と織斑先生がレポートに目を走らせながら口を開いた。あ、今読むんですね。

 

「今のうちに昨日の試合の講評でもしておくか」

「こ、講評……??」

「そうだ。本当は試合後にするつもりだったが、お前は倒れて気絶していただろう。さて、昨日の試合だが、端的に言ってしまえば酷いの一言だな。武器の特性を考えず、シールドエネルギー切れで負けた織斑以上だ」

「ゔッッ」

 

 織斑先生の辛辣な言葉に、ザラついた鈍器で頭を殴られたような衝撃に僕は、その場でよろめいた。

 講評の内容はお嬢と似ていたけれど、数倍増しで織斑先生の方が手厳しいものだった。反論が出来ないほど全体的に的を射ていて、頷かざるを得なかったのだが、僕の胸にグサグサ刺してくるのである。

 

「――しかし、ISを動かして間もないうえに練習なしで『瞬時加速』を使うとは……。まさか運任せのぶっつけ本番でやったのか?」

「し、しませんよっ、そんな博打みたいなこと! 正直僕にもなんで出来たのか分からないんです……。あの時はどうすれば作った数秒の隙を壊さず、空中のオルコットさんに接近出来るかだけを考えていたので……。そしたら頭の中で音がしたんです」

「音?」

 

 眉根を寄せた織斑先生に、僕は頷いて話を続ける。

 

「はい。バラバラだった歯車同士が噛み合うような重い音が聞こえたんです。そしたらいつの間にか」

「『瞬時加速』で、オルコットの懐に飛び込んでいたと。…………ふむ」

「IS操縦者にこういう感覚ってよくあるんですか?」

「いや。そんな話はあまり聞かないな。……これは仮説だが、あの時の芥は、極限の集中状態――所謂ゾーンに入っていた。だから無意識的に『瞬時加速』を使っていたかもしれんな」

「はぁ……、なるほど?」

 

 なんとも釈然としない感じになってしまった。

 まあ、ISは未だに謎が解明されていない部分が多くある、完全なブラックボックスな訳だし、そのうちあの感覚の正体も解っていくことだろう。うーん、もやもやする。

 

「それはそれとして、芥。教室に着いたら少し時間をやるからオルコットと話してこい。お前が倒れたのを自分の攻撃のせいだと思い込んでいる」

「…………彼女性格変わり過ぎてません?」

「プライド高いくせに根は繊細なんだろう」

「……わかりました。どのみちオルコットさんには言うことがあったので」

「そうか。喧嘩は売るなよ?」

「売りませんけどっ!?」

「ま、何はともあれ、あまり私達を心配させるなよ」

「…………はい」

 

 そうこうしている内に一年一組の教室に到着。扉を開けた織斑先生の後に続き、僕も教室の中へ入って行く。

 クラス全体の視線が一気に織斑先生と僕に集まった。

 

「すまない山田君、会議が長引いて授業に遅れた。コイツは廊下で途中拾った」

 

 拾ったってなんですか拾ったって。

 

「そ、そうだったんですね。芥くんももう安静にしてなくて大丈夫なんですか?」

「ええ。ふかふかのベッドでぐっすり寝たので大丈夫です。ご迷惑おかけしてすみませんでした」

「い、いえっ、芥くんが元気そうなら私も嬉しいです。でもあんな無茶は今後しないように!」

「は、はい」

 

 山田先生の優しさが沁みる……。織斑先生もですね、これぐらいの穏和さを――あ、なんでもないです。普段から優しいって思ってますよ? だからそんな射殺すような目で見ないでください。

 

「一夏君もごめんね? 仇取るってカッコつけたくせに負けちゃったし、その後倒れて戦えなかったから」

「お、俺のことは全然気にしなくていいですよ! 流善さんも色々と大変そうだったし、俺なら大丈夫です」

「そう言ってくれると助かるよ。…………さてと」

 

 自分の机に鞄を置いてオルコットさんの元へ向かうと、オルコットさんは、気まずさと申し訳なさを混ぜ合わせたような表情で椅子から立ち上がった。

 

「あ、あの……。わたくし……えっと……」

「謝ろうとしないでください。倒れたのは僕が後先考えずに突っ込んで自滅しただけで、オルコットさんには非はないよ。それに君は僕の我儘を訊いて戦ってくれようとした。それだけでもあの時の僕は、滅茶苦茶嬉しかったんだよ? ――だから、ありがとうございましたっ」

 

 手を差し出すと、オルコットさんはきょんとしていたが、すぐに強張っていた相好を崩し、僕の手を握り返してくれた。

 

「わたくしの方こそですわ。あなたのような男性と戦えて誇らしく思います。感謝を。ですがわたくしも、山田先生と同じであんな戦い方は関心しませんわ! 倒れられた時は心臓が止まるかと思いましたし……。本当にお体はもう大丈夫ですの??」

「う、うん……、さっきも言ってたけど、しっかり休んだから大丈夫」

「それならよろしいのですが……。――では改めて、これからは切磋琢磨しあう仲としてよろしくお願いします。わたくしのことはセシリアと呼んでくださいな」

 

 

◆ ◇ ◆

 

 

 夕方。寮の自室に帰って来た僕は、自分の机の周りを片付けていた。一週間お世話になった教材たちを返却するため、全部ダンボールに詰めているのだ。

 セシリアさんと話し終えた後、彼女がクラス代表になったと思い込んでいた僕は、それっぽい言葉で応援をした。

 するとセシリアさんは自分が代表であることを否定。

 理由を訊ねてみると、クラス代表を辞退してその座を一夏君に譲ったそうだ。

 これには一夏君も反論。

 だが敗者に口なしということで、我がクラスの代表は織斑一夏に決定したのである。

 セシリアさんが言うには『IS操縦には実践が何よりの糧!』らしく、山田先生は嬉々として『一繋がりでいい感じですね!』とのこと。一夏君には強く生きてほしい。

 六時間目は、昨日の試合映像を鑑賞しながらの解説が、あれこれ行われた。ただの公開処刑である。

 

 一夏君は最初の三〇分ほどセシリアさんに押されていたが、僕より早い段階で、ビット攻撃の弱点に気づき対処。

 試合が佳境に差し掛かったところで一夏君の専用機『白式』は、一次移行(ファースト・シフト)を終え、工業的な凹凸デザインから中世の鎧を彷彿とさせるシャープなデザインへと姿を変えた。何その主人公みたいな展開。かっこよ。

 最後はエネルギーを放出させた近接特化ブレード・《雪片弐型》で攻めるも、そこで試合終了。敗因は織斑先生が講評の時にも言っていた、シールドエネルギー切れだった。

 僕の試合? 見るに堪えなかったので割愛。

 

「はーい」

 

 扉をノックする音。

 返事をすると、扉を開けて部屋の中に入ってきたのは簪さんだった。簪さんがちょっとだけぎょっとする。

 

「おかえり、簪さん」

「う、うん、ただいま。何してるの……?」

「見ての通り片付けだよ。返さなきゃいけないからね」

 

 と、モニターに貼られた付箋を剥がしながら僕は答えた。

 

「そうなんだ。体調はもう大丈夫なの?」

「おかげさまでね。昼からは普通に登校出来るまで体調も戻ったし、無問題さ」

「そう。なら良かった。――……ところで、私の姉にセクハラしたって聞いたんだけど、どういうこと?」

 

 心臓がヒュッてした。

 冷や汗もだらだらと吹き出し滲む。

 心做しか部屋全体の温度が一気に下がった気がする。

 えっ、なんで知って?? お嬢から連絡があったのか??? あ、すっごい睨んでる!!

 

「…………黙ってるってことは本当に……」

「待っっっっっっ!!!!」

「待たない。生徒会に所属している本音のお姉さん経由で教えてもらった。もちろん本音も知ってる」

「ウソでしょッ!!??」

「………………………………流善」

「アッハイ、ナンデショウカッ!!」

 

 怒気を含んだ声で名前を呼ばれ、僕の背筋が伸びた。

 

「正座」

 

 このあと簪さんと、部屋にやって来て参加した布仏さんの二人から、滅茶苦茶説教された。




言葉選びをやらかす系オリジナル主人公
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