インフィニット・ストラトス【Garbage Dance】 作::Crane
「芥、ちょっと待て。お前に話がある」
「はい?」
四月も後半に突入したある日の放課後。
第三アリーナで行われる、来月開催のクラス対抗戦に向けた一夏君のIS操縦特訓を見学しつつ勉強させてもらおうと、教室を出ようとしたところで僕は織斑先生に呼び止められた。ちなみに一夏君の教官は、篠ノ之さんとセシリアさんで、毎日のように二人して一夏君を取り合っているのだ。今も廊下で騒いでいる。
「お前に用意する専用機についてだ。思いの外時間が掛かってしまったが、ついさっき企業から連絡があった」
「専用機……ですか?」
「ああ、そうだ。外出許可をやるから、早速今週の日曜日にでも会って話を聞いてこい」
「はぁ……」
織斑先生が寄越してきた外出届の小さな紙を、よく分からないまま受け取り、首を傾げる。
はて…………専用機…………?
「あ」
そこでようやく思い出す。
そういえば企業が用意してくれるとかなんとかって言ってたけ? IS学園に入学してから色んなことがあったから、すっかり忘れてたや。なるほど……専用機か。
「まさか、忘れていたのか?」
「いや、えっと……えへへ、それほどでも……」
「どこに恥じらう要素があった」
「あはは……」
呆れたような表情をする織斑先生と、苦笑する山田先生。だってしょうがないじゃないですか、ここ最近忙しかったんですから。忘れる僕も僕だけど。
「それで、企業ってどこに決まったんですか?」
訊ねると、山田先生がこれまた分厚い資料とファイル、企業のパンフレットを渡してきた。相変わらずである。IS関連のものって分厚いって相場が決まってるんですかね? 鞄に入り切らないんですけど。一旦寮に置いてこよう。
「芥くんの専用機を用意してくれることになったのは、“
「確か元々、手術を支援するロボットとか医療用のマシンを作ってる会社ですよね? あと薬も。IS開発の進出に伴って三年ぐらい前に会社を新設分割。そしてそのLogos・High-endは、頭のネジがぶっ飛んだ人達で組織されていて、今ではあらゆるメディアから色んな意味で注目集めてるとか――」
「詳しすぎません??」
「兄がそこに務めてるので」
目をパチパチさせて驚いている山田先生の隣で、織斑先生が嘆息して腕を組み直した。
「織斑先生?」
「…………いや、入学当初からまさかと思っていたが……、芥お前、
「…………兄と知り合いなんですか?」
「知らん……! あんなヘラヘラした道化じみた男なぞ、私の記憶には無い……。皆無だ」
「…………えぇ」
絶っっ対知ってるじゃないですか。
ていうか織斑先生と兄ちゃんって知り合いだったんだ。なんか意外だ。
どういう関係なのかあれこれ詳しく聞きたいけれど、それをやってしまったら次の瞬間に僕の頭がモザイク処理されてしまうだろう。なのでお口にチャックだ。
「……ええっと、織斑先生と芥くんのお兄さんとの関係はあとで根掘り葉掘り訊くとして」
「訊くんじゃない」
「訊くんですね」
「あ、芥くんのお兄さんって、もしかして、あの『アクタ』さん……ですか……?」
頬を少し赤らめて、おずおずと訊ねてくる山田先生。
やっぱり山田先生も知ってるよね、IS界隈じゃかなり有名な人だし。なんならファンクラブがあるっていう噂もちらほらと聞く。そんな物好きは本当にいるんだろうか? 真相は明らかになっていない。
「まあ……もしかしなくても、その『アクタ』さんだと思いますよ」
「本当ですかっ? 私、ファンなんですっ!」
いたよ目の前に。
「ファンクラブにも加入してますっ!」
解明されちゃったよ真相。
「……山田先生。弟の僕が言うのもなんですけど、兄だけはやめといた方がいいですよ? あの人基本自由人ですし、面白いことにしか興味ないですから……」
「『オレが愉しければ全て良し』が座右の銘ですよね! 望むところです!」
「なにが????」
ガチのファンじゃないかこの副担任。
僕は嘆息し、その場で名前と理由を書いた外出許可の紙を織斑先生へ手渡した。
「山田先生の事情は置いといて。日曜日、Logos・High-endに行ってきます」
◆ ◇ ◆
ガタンゴトンガタンゴトンと、一定間隔の低い振動音が足裏に伝わってくる。
企業の人と会う約束をした日曜日。僕を乗せた電車は、地下トンネルの真っ暗闇を走って、Logos・High-endへと向かっていた。あと数駅で到着する。
「…………」
扉の窓に映る、吊革を掴んだ自分に問いかける。『お前に専用機がちゃんと上手く扱えるのか?』と。
専用機が与えられること自体は光栄だし、滅茶苦茶嬉しい。
だけどその反面、僕以外に適任がいるんじゃなかというネガティブな思考になるのだ。
初めてISに触れた時とセシリアさんとの試合で倒れた時からずっと、自分とISの相性が最悪だということを疑っている。試合後に数回だけ授業でISに触れる機会があったけど、その度にバチって手が弾かれたし……。マジで意味が解らん。
……………………断るか?
いや、それは絶対に駄目だ。相手に失礼すぎるし、与えられた幸運を捨てるようなものだ。
大丈夫大丈夫……と、自分に言い聞かせ隣をチラリ。
「なーんでお嬢は着いて来てるのかな??」
僕が隣に立つお嬢をジト目で見ると、彼女は『何を言ってるの?』みないな表情で顔を向けてきた。
「え? 君が学園外の女の子達に性犯罪しないよう監視してるの」
「しないよ! 電車ん中で名誉毀損しないでくれるかなっ」
「事実でしょう? 私の下着を見て感想を言った変態さんだし。それに私の胸を――」
「ゴホッゴホッ!! ゲホッ!!」
他の乗客に聞かれないよう、僕はワザとらしく咳き込んだ。こ、この生徒会長……、僕を社会的に抹消するつもりかっ? Logos・High-endに辿り着く前に留置所にぶち込まれてしまう……!
「あら風邪? のど飴舐める?」
「いっっっっっっっっっっらない。――……ていうかお嬢、今更だけど生徒会の仕事はどうしたのさ」
実際なんでここにいるんだよ、布仏さんから毎日忙しいって聞いたんだけど? 机の上にどっさり書類の山があって、猫の手も借りたいってぐらいに。
目を泳がせるお嬢は、広げた扇子で顔を隠し、ボソボソと唇を開いた。
「…………た、たまには、息抜きも必要よね」
「なるほど。サボりだ」
「流善くんのくせにナマイキっ」
「イダっ!? 図星だからって足踏むなよ!」
「ふんっ」
そっぽを向くお嬢に、僕は小さなため息を吐いた。
当初は(心細いから)誰かを誘って一緒に行こうと思っていたんだけど、残念なことに、誘った人みんな予定が入っていて断れてしまった。
いや、一夏君は行くつもりだったらしいけれど、お前にそんな暇はないだろう、と二人の鬼教官に連れて行かれたのである。死ぬなよ一夏君……!
と、そこでポケットの中のスマホが震えた。
取り出してスマホを見ると、メールが一通。兄ちゃんからだ。どうやら社用車で迎えに来てくれるらしい。
「お嬢。駅降りたら近くの公園に行くよ。ロゴスから迎えが来てるって」
「そうなの? ――それにしても流善くんにお兄さんがいることは知ってたけど、それがまさかあのLogos・High-endの『アクタガラク』博士とだったとは……。学園に有名人の兄弟が三人もいるって案外世間も狭いわね。………………ねぇ、流善くん」
さっきまでのからかう様子が一変し、扉の窓に映るお嬢の表情はどこか陰鬱とした雰囲気が漂っていた。
「…………流善くんは、その……お兄さんと仲良いの?」
「兄ちゃんとの仲? うーん、どうだろう、普通……かな」
「………………そう。…………羨ましいわ…………」
「? それってどういう――」
声を掻き消すように、電車内にアナウンスが流れた。
同時に電車は軋るような音をたててゆっくりと停車し、噴射音を出して扉が開かれる。目的の駅到着したようだ。
「ほら、なにぼさってしてるの。お兄さん待たせてるんだから、早く行きましょう?」
そう言って僕の背中を押すお嬢の顔には、あの陰鬱としていたものは無くなっていた。
ぞろぞろと下車する人達に続き、プラットホームを降りた僕らは、駅を出て、メールに添付されたURLの地図を頼りに待ち合わせの公園に向かった。だが……
「いないし」
「いないわね」
「キレそう」
「どうどう」
公園に兄ちゃんの姿は見当たらなかった。
いや、いろよ。なんでいないんだよ。自由か。
駅近くの公園はここしかないし、あの自由人が待ち合わせとして指定してきた場所で合ってる。にも関わらずいないということは、十中八九どこかで道草を食っているのだろう。……ため息しか出ない。
「……電話にも出ないな……。ホント面倒だけどとにかく探そう。約束までの時間はまだ余裕あるけど、万が一があったらシャレにならない。マジで面倒だけど」
「そうね。もしかしたら公園の中で待ってるかも」
「うん。じゃあ、公園から探そう。クソ面倒だけど」
「どんだけ面倒くさいのよ……」
「ぶっちゃけアレ放置して先に行っていいと思う」
「アレ呼び…………って、流善くんあそこ」
「ん? んんん??」
目を凝らして、お嬢が指さした先を見ると、公園の奥の方で人集りが出来ていた。そしてその中心。遊び回る元気な子供達に紛れて、パンダの形をしたスプリング遊具に跨って遊ぶ、見覚えのある一際目立つ男性の姿があった。
「ねえ、あの人って流善くんの」
「知らない人ですね」
「なんかコッチ見てるけど」
「全然、全く、これっぽっちも知らないですね」
「あ、手振ってる」
「なんだ変質者か。お嬢、110番しよう」
「どうどう、どうどう」
耳に当てたスマホがお嬢に制される。
いや、あの人さ、何やってんの? なんでちびっ子たちに混じって遊んでんだよ、ストレスでも溜まってるのか? しかもヘラヘラしててめっちゃ笑顔。
「流善ンンンンーーーーーー!!!!」
ゔわ゙ッッ、コッチ来た!?
「…………はぁ。お嬢、ちょっと離れてて」
「え? う、うん……」
ハイテンションで突っ込んで来る
息をフッと短く吐くと同時に、飛びかかってきた兄の腕と胸ぐらを流れるように掴んで――
「ヨイショオォッッ!」
勢いよく投げ飛ばした。
「どぅわっ!!?」
「えぇっ!?」
宙を舞って地面に転がる兄と、目を見開いて困惑するお嬢。僕は手の砂埃を払い、お嬢に向き直って言う。
「これが芥家です」
「物騒すぎるでしょ……。お兄さん大丈夫なの? ぐったりしてるけど……」
「ああそうだった、起こさなきゃ」
倒れたままの兄ちゃんに近づいてベシベシ肩あたりを叩く。
「兄ちゃーん起きろー」
「おまっ……流善テメェ……。久々に会った兄ちゃんを当たり前のように投げ飛ばすなやぁ……。あとそれ地味に痛いからやめてね」
「ハハッ、照れる」
「褒めてねェよ!?」
ツッコミ入れてくるこの男の名は芥
僕の実の兄にして、ISを開発したあの天才、篠ノ之束博士と同格と言わしめるほどの頭脳とセンスを持ち合わせた現代の怪物である。
一部の人達から『バケモノ』とか『厄災』なんて物騒な異名で呼ばれている兄は、言うまでもなく天才で、僕の“挫折”だ。
「久しぶり、兄ちゃん。で、なんで待ち合わせ場所にいないで遊んでたんだよ。見た目完全に不審者だったから引いた」
「引くな引くな兄ちゃん泣いちゃう。や、待ってる間暇だったから年甲斐もなく童心に帰ってはしゃいでた。案外悪くなくてオレびっくり」
「あっっっそう。怪しすぎて通報されても知らないからね」
「なんだと!? 成人男性が楽しく健全に遊んでるどこが怪しいんだ!!」
「もれなく全部だよ。時と場所と場合と歳を考えなよ社畜」
「弟が辛辣すぎる……。――っと、さっきからずっと気になってたんだが、そちらの嬢ちゃんはどちら様? 流善の友達か?」
兄ちゃんが僕の隣にいたお嬢に気づく。
お嬢は一歩前に出て、恭しく一礼した。
「初めまして。私、IS学園で生徒会長を務めている、更識楯無と申します。芥博士にお会いできて光栄です」
「! へぇ……学園の生徒会長サンか。それに更識のお嬢様ときた。そんな大層なお方に認知していただけるなんて嬉しいねェ。流善の兄貴の芥我楽だ。博士って柄じゃねーし、むず痒いから別ので呼んでくれ。こんななりしてるが、Logos・High-endの技術開発室で室長をやっている。ヨロシクな。……ところで」
兄ちゃんが顎に手を置いて、僕とお嬢の顔を交互に見る。
「二人はどういう関係なんだ?」
「彼女です☆」
「違いマース。タチの悪い赤の他人デース」
戯言をほざいて腕に抱き着いて来ようとしたお嬢を回避。お嬢がキッと睨んでくる。
「ちょ、ちょっと、おちゃめで冗談言っただけじゃない! そんな拒絶の仕方されたら流石の私でも傷つくんだけど!? それと少しは照れなさいよ!!」
「お嬢の冗談は冗談で通じないからムリ」
「なんでお嬢呼び??」
「僕がこの人の名前を呼んだら負けた気分になるから」
「そういう理由だったの!?」
それ以外に理由あると思う? うん、ないね。
「じゃあ今呼んで、今! ほら、楯無! たーてーなーしー!!」
「いーやデース」
「ホンッット可愛げ無いわね!」
「お嬢よりはあると思うよ」
「なんですってっ!」
「なにさっ!」
僕らは互いに睨み合う。
「……二人とも、ガチで付き合って」
「「ない!!!」」
「え、だってオレの前でイチャイチャ」
「「してない!!!」」
「息ピッタリじゃねーか。バカ面白すぎんだろ」
このあと昼食を食べに行くまでの間、僕とお嬢の言い合いは続いた。
◆ ◇ ◆
「よーし着いたぞー。二人とも長旅ご苦労さん。――此処が、“Logos・High-end”だ」
兄ちゃんの運転する車でおよそ三〇分。
車から降りた僕らの目の前に、立派なオフィスビルが聳え建っていた。
全面ガラス張りのビルは螺旋構造をしており、上に行けば行くほど回転軸が変わって、生き物のような曲線を創り出している。
なんかあれだ。近未来風なデザインがSF作品とかアメコミヒーローの映画に出てくる『秘密結社の基地』感があって滅茶苦茶カッコイイ。こういうの堪らん。
屋上とか絶対変形するでしょ。展開してスゴイものがドーン……みたいな。
「どーよウチの会社、中々イカしてんだろ」
「うん、凄い。建築費用高そう。億超えてる……」
「出てきた感想それかよ。まあ億は軽く超えてるらしいけどな」
「絶対変形する……」
「しねーよ」
「……なんだ………………しないのか…………」
「すっごくテンション下がったわね」
「解らんでもない」
「わかるんですか……。確かこの建物をデザインしたのって海外の有名なデザイナーさんでしたっけ?」
「ああ、社長と旧知の仲らしいぞ、よく知ってるな。んで、お前はいつまで萎えてんだ、ほら行くぞ」
首根っこを掴まれビルの中へと引きずられる。
建物の内装は、自分の想像を遥かに超えるほど、近未来的で眩しいぐらいにキラキラしていた。
受付窓口の頭上にあるビジョンモニターもかなりでかい。
その他にも、難しい話をしながら白衣姿の人達が、忙しく行き来したりもしている。果たしてあれは何語だろうか。
――……ヤバい……なんだコレ、心臓が騒いで五月蝿い!!
「流善くんニヤニヤしすぎ」
「へっ? 本当? うあー、恥っず……」
「緊張してるの?」
「まあ……そんな感じ、かな」
「……そーゆーとこはカワイイのよねぇ……」
「? 今なんて?」
「別になーんにも。ほら、お兄さん来たよ」
手続きを済ませた兄ちゃんが、ストラップの付いたカードを持って戻って来た。そしてそれを僕らに寄越してくる。
「二人ともこれ入館証、ここにいる間だけは首にかけといてくれ。流善はあとで顔写真撮って正式のやつを作るからな」
「分かった。これから何するのさ」
入構証を首にかけて訊ねると、兄ちゃんは取り出したスマホを操作し始めた。
「オレは今から流善の専用機を準備してくるから、流善は先に――」
「――――芥室長〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」
なにやら遠くの方から、声が響いてきた。
「…………はぁ」
兄ちゃんが嘆息する。どうやらこの声の主が分かるらしい。僕とお嬢は目を見合せて首を傾げた。
声が聞こえてきた方に視線を向ける。開かれた自動扉から、白衣姿の黒茶髪の女性が、凄ましいスピードでこちらに走ってくるではないか。
女性は、キキッとブレーキをかけるかのように足を踏ん張って、僕達の前に停止。肩を上下させて息をしている。
「……ぜぇ……ぜぇ……」
「どうしたんだよ
「どーしたもこーしたもありませんよっ! なんでおひとりで弟さんのお迎え行っちゃったんですか!? 未来の
「誰が誰の義姉だ。つーかお前、ヨダレ垂らしてぐーすか寝てたじゃねーか」
「わーわー! 人前でなんてデリカシー皆無なこと言うんですか!? 訴えますよ!! 求婚しますよ!! 一緒のお墓に入ってもらいますよ!!!」
「え、なに、脅迫?」
「プロポーズです!!」
「スマン、オレ生涯独身でいたいから」
「知ってます!! でも諦めません!! 絶対に室長のハートを射止めてみせます!!」
「フッ……おもしれー女」
……なんのコントを見せられてるんだろうか。こっちは置いてけぼりなんだけど? ほら見てよ、お嬢も微妙な顔してる。
呆気に取られたままでいると、兄ちゃんがこちらをチラリ。咳払いを一つした。
「アー、こいつはオレの部下兼助手だ」
「Logos・High-end技術開発室所属、新橋
「個性強すぎない?」
「流善君のことは室長から飽きるほど聞いてますよ、趣味とか性癖とか!」
「ちょッッッと待って!? 何教えてんの!!??」
「スマン。流れと勢いで、つい」
「ついってレベルじゃない!! ていうか性癖ってなんだよ、一度も口にしたことないでしょーがっ!?」
「……メガネだろ?」
「ソレあんたの
「流善くんって、メガネフェチなの……!??」
「ややこしくなるからお嬢は黙ってて!!」
ああもうッ、収拾つかない!!
周りの職員の人達もコソコソしてるし、このままじゃありもしない僕の性癖が広がってしまう……!!
「そ、そんなことより、兄ちゃんはさっき何言おうとしてたんだよ!」
「ん? あぁ、そうだったそうだった。流善、先に社長と会ってこい」
「………………なんで??」
「お前と色々話したいんだとさ。まあ、最終面接みたいなもんだろう。ウチの社長只者じゃないが、気楽に行ってこい。更識の嬢ちゃんは準備を手伝ってくれ。」
「……えぇ……」
「わかりました」
僕は眉根を寄せ、お嬢は頷いた。
……最終面接と社長相手に気楽とは……?
「……そんな難しく考えなくてもいいぜ? 社長は善い人だし優しいからな。つーわけで新橋、流善の案内頼むわ」
「はいっ、任されましたっ。では流善君、お
義姉ムーブをかましてくる新橋さんに連れられて、僕は社長室があるという建物の最上階までやって来た。目の前には重厚そうな扉がある。
ここに来るまでの間も新橋さんは、兄ちゃんのことを滅茶苦茶聞いてくるのだ。怒涛の勢いで。
とりあえず兄ちゃんへの意趣返しを兼ねて、兄のセーフティゾーンは一五歳以下です、とだけ言っておいた。嘘とはいえ、それを可愛いと恍惚になる新橋さんには軽く引いた。兄ちゃん、やべぇ人に狙われてるね。
新橋さんが扉をノックする。
「社長。件の少年、芥流善君をお連れしました」
「――どうぞ、お入りください」
少しの間を置いて、部屋の中から聞こえたのは女性の声。
それじゃあ頑張ってね、と新橋さんに小声で促され、僕は恐る恐る扉を開ける。
「……し、失礼……します」
社長室に足を踏み入れると、そこは広々とした部屋だった。
床に敷かれた豪奢な墨色の絨毯、アンティーク調のソファとガラステーブル。天井には洒落た照明があり、壁に絵画が掛けられている。
その部屋の最奥。一面ガラス張りの窓から外を眺める背を向けた男性と、机の横に控える秘書らしき女性。
男性が振り返り、相好を崩す。
「やあ、初めましてだね、芥流善クン。だがまぁ、我楽に会う度キミの話を沢山聞くから、どうにも初対面の気がしないがね。――私の名は
本当は流善の専用機の話を一話完結にするつもりでしたが、書きたいことだらけだったので次回に続きます。
感想お待ちしております。