インフィニット・ストラトス【Garbage Dance】   作::Crane

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専用機の話の後編です。
オリキャラが多めに登場します。


第11話:骨を纏いて共に歩む

「あ、えと、その……は、初めまして、こちらこそよろしくお願いします! あの……ほ、本日はお日柄もよくっ」

「ハハハ、そんなに畏まらなくてもいいよ。固くならず、他愛のない雑談をする程度にリラックスしてくれても構わない。さあ、立ち話もなんだ、座ってお茶でも飲みながら話そうか」

「は、ハイ!」

 

 天羽社長に促され、僕はソファに腰を下ろす。

 やっぱり話す相手が社長のなので、自然に姿勢がピンッとなって正された。

 ガラステーブルを挟んで前に天羽社長が座り、秘書の女性が慣れたような所作で、お茶の用意を始めた。

 

「……さて、何から話そうか。色々とお喋りしたいところだが……生憎私も多忙の身でね。この後海外へ飛ばなければいけないんだ。でも安心してくれ、キミとの楽しい有意義な時間を過ごせるのなら、多少飛行機に遅れても――」 

「何巫山戯たことを言っているんですか社長? 絶対に駄目です。許しません」

「おや、これは手厳しい」

「まったく……。それで前回会合に遅れそうになったのをお忘れですか? ――どうぞ」

 

 ティーカップを乗せたソーサーが手前に置かれた。紅茶の芳しい香りが鼻腔をくすぐる。

 僕は秘書の女性にぺこりと会釈した。

 

「あ、ありがとうございます……えっと……」

「天羽社長の秘書を務めている、椿と申します。芥さんのお話は私も芥室長から聞いております」

「へ、へぇ……」

 

 どんだけここの人に認知されてるんだよ僕は。

 社長室に向かう道中も何人かの職員に『芥室長の弟さんですよね?』って声かけられたし……喋りすぎだろ兄ちゃん、本当勘弁してほしい……。

 

「結構……その、特殊な、ご趣味をお持ちで……」

「全部兄が言ったデタラメです! 真に受けないでください!!」

 

 あとで絶っっ対兄ちゃんシバく!!!

 心の中でそう決意し紅茶を一口啜る。あ、この紅茶うまぁ、高級なやつだ。

 

「さて、流善クンも事前に学園から聞いているとは思うが、イギリスの代表候補生との試合を映像記録(ログ)で拝見させてもらったよ。見たのは私と、技術開発室に所属する一部の人間だけだ。映像記録もすでに削除している。学園との約束だからね」

 

 そう、僕の専用機を用意してくれるにあたって、先日行われたクラス代表決定戦の試合映像を渡していたのだ。なんでも僕の戦闘データをある程度把握するためらしい。

 本来学園の情報は、お国がらみの事情もあって機密扱いになっているのだが、厳しい条件のもと特別に開示されたのだ。

『外部の人間への口外及び、伝聞を厳禁とする』

『代表取締役並び、権限が与えられた者のみ閲覧を許可する』

『映像記録の閲覧後、情報漏洩を防ぐため、閲覧開始から二四時間以内に削除する』

 これが主な条件。

 詳しくは知らないけれど、他にも細かいものがあるそうだ。

 

「……技術開発室の人達が見たってことは、やっぱり兄も見たんですよね」

「ああ勿論。というより我々の中で一番我楽が見ていたと思うよ。仕事をほったらかして時間ギリギリまで机に齧りついていたって、彼の部下が口を揃えて言っていたからね。そのあとは自宅にも帰らず、開発室に篭りきりで流善クンの専用機開発に没頭していたそうだ」

「そ、そうですか……すみません、兄がご迷惑を……」

「いやいや、そんなことないさ。我楽はいつもああだし、弟の専用機を手ずから作るのがよっぽど愉しいんだろう」

 

 まあ仕事をしないのは目に余るがね、と苦笑して紅茶を飲む天羽社長。椿さんも無言で頷いている。

 これもう父さんと母さんに連絡しとこうかな、自由奔放の兄ちゃんが唯一頭が上がらない相手だし。本当、すみません天羽社長。

 

「それにしてもキミの試合……打鉄の鞘で狙撃を凌いだり、零距離の砲撃を受けても怯まないとは、中々無茶を押し通すような戦いをするんだなっ! 私は嫌いじゃないよ、最後まで諦めない愚直な姿は。流善クンのこれからが楽しみだ」

「ど、どうも、ありがとうございます……」

 

 IS学園のみんなに不評だったあの試合を、まさか企業の社長からは好評だなんて、なんか照れてしまう……。

 ……でもこうして天羽社長と直接話していると、電車の中で考えていたことが頭にチラつく。

 

「ところで流善クン。私の気のせいだったら申し訳ないが、さっきから何か思い詰めた様な顔をしているね。不安なことでもあるのかな?」

「…………え……?」

 

 口元に近づけようとしていたティーカップを持つ僕の手が止まる。

 天羽社長へ視線を向けると、その眼には聡明さが宿っていた。

 

「……えっと、それはどういう…………」

 

 ソーサーにティーカップを置いて訊ねると、天羽社長は顎髭を撫でながら口を開いた。

 

「人間の心理的感情は目に現れやすい、と、私は考えている。立場上、そういうのを見抜くことが重要な場面が多いからね。――だから今のキミの目には、緊張と懸念が入り乱れているように感じられた。違うかね?」

「…………っ」

 

 核心をついてくるような天羽社長の物言いに、僕の心臓が跳ねた。

 ……ここの社長は只者じゃないって、兄ちゃん言ってたけど……目だけで全部解るとか、只者ってレベルじゃないぞ……。

 

「…………顔に出てました、か……?」

「ああ。おそらく我楽も勘づいていたと思うよ」

「そ、そうですか……」

 

 僕は一気に紅茶を飲み干した。そして、目を伏せたまま話を続ける。

 

「……天羽社長の言うとおり不安はあります……。専用機が用意されるって聞いた時、滅茶苦茶嬉しかったと同時に、僕なんかが本当に専用機を受け取っていいのかなって思ったんです。ここに向かう道中もずっと考えていましたし……」

「ふむ……。それはどうしてだい?」

「……初めてISに触れた時、頭痛とか鼻血を出して倒れたんです。天羽社長が学園から見せてもらったその記録の、最後の方はカットされてますけど、同じように倒れました。色んな人に怒られて迷惑をかけました……」

「――……なるほど。体調不良が起きるというのは稀に聞くが、倒れるのはあまり聞かないね。椿クンは聞いたことあるかい?」

「芥さんのような症状は社長と同じで私もあまり……」

「だよねぇ」

 

 困り顔をする天羽社長と椿さんに、僕は話を付け加える。

 

「あとISに触るたび、バチって一度手が弾かれます」

「それは初耳だねぇ……」

 

 天羽社長は紅茶をひと口啜り、ソファに深く座り直した。

 

「つまりキミはそれらを鑑みて、自分はLogos・High-endに相応しくない、専用機を受け取る資格がない――そう思ってるのかな?」

「いやっ……えっと、そのぅ……端的に言ってしまえば、そうなってしまい、ますね……。これ以上、体を壊してまで心配とか迷惑はかけたくないので…………」

「なるほどなるほど。――――……流善クン」

「ッ!?」

 

 冷たく重い声にゾワリとした。

 見ると、天羽社長の目付きが、プレッシャーをひしひしと感じてしまうほどの鋭いものに変わっていた。

 

「Logos・High-endに――私の会社に臆病者はいらない。泣き言を吐き続けたいのであれば、即刻、ここから立ち去りたまえ」

「……っ」

 

 心臓を突き刺す無情の言葉。

 だけど僕は、何も反論することが出来なかった。正論だったからだ。

 縮こまる僕を見てか、天羽社長が肩をすくめる。

 

「……周りの人間を心配させたくない、迷惑をかけたくないと思いやれるのは素晴らしいことであり、キミの美徳なんだろう。だがね、それらを許容し、支えながら見守っていくのが我々大人の役目だ。まあ、許容出来るのは範囲内でだけどね」

「で、でも――」

「そもそもキミはまだ学ぶことだらけの学生だろう? にもかかわらず、周りの様子ばかりを伺って気を遣いすぎていると、成長も進化も何も出来いまま、いずれ心と肉体が疲れてしまうよ。そういうのは程々でいいんだ。程々にね」

「…………」

 

 …………ほどほどに、か。

 そう考えると、少しだけ胸の中のもやもやが晴れた気がした。

 再び天羽社長が見据える。

 だけどもう、僕は目を逸らさなかった。

 

「――うん。良い眼になったじゃないか。私の杞憂だったかな?」

「い、いえ……そんなことないです。天羽社長の言葉がなかったら僕は、天羽社長の言うとおり臆病者のままでした。だから、えっと……ありがとうございます……」

「礼なんていらないよ。私はただ自分が言いたいことを言ったまでさ」

 

 そう言って顔を綻ばせ、天羽社長は手をひらひらさせる。

 

「――この先必然としてキミの歩む道には幾重もの壁が立ちはだかるだろう。だがそれらの逆境に抗い、壁を越え、成長を遂げたキミが何者になるのかを見せてほしい! 我々や世界中の人間にね」

「……っ、壮大すぎません……?」

「物事は壮大であることに意義があるんだよ」

 

 愉しそうになんてことを言うんだこの社長は……。

 まあでも、芥我楽の弟ってだけの単純な理由で僕に過度な期待をして、失望するような身勝手なあの大人達と違う。この人は『芥流善』という一人の人間を見てくれている。

 覚悟を決めたのなら僕がやるべきことはただ一つ――

 

「あ、あの……!」

 

 Logos・High-endの期待に応えられるよう頑張ろう。もう、かっこ悪いところは見せたくないし。

 

「ビビって断ろうとした癖に、お願いするのは烏滸がましいって思われるかも知れません。だけど!」

 

 拳を力強く握りしめ、僕はソファから立ち上がった。

 

「僕に、専用機の話、受けさせてくださいっ!! ……今の僕は全然で、滅茶苦茶弱いです。でも、強くなります……! 誰にも負けないぐらい強くなって、いつかっ――」

 

 ふと、脳裏によぎったのは、少し昔の記憶。

 あの頃の僕は、現実の惨めさと自分の底に打ちのめされ、心が折れてしまい、目を背けた。

 なんで今このタイミングで思い出すんだよ……。諦めたって思ってたのに……やっぱり無理だったのか。……自分に呆れて笑えてくる。

 …………多分、()()を言ってしまったらもう、後戻りは出来ないし、もしかたら今度こそ僕の心は完全に壊れてしまうかもしれない。

 それでも僕は、心の奥底に閉じ込めていたかつての“憧れ”と“夢”を口にする。

 

「――『バケモノ』になってみせます……!!」

 

 僕の表明に椿さんは口に手を当てて驚き、天羽社長は一瞬キョトンとしたのち、呵呵大笑した。

 

「ああ、笑ってすまない、自分の予想を遥かに超える答えだったからね。――なるほど……バケモノになるときたか……。今、流善クンが言ったのは、篠ノ之束(天災)芥我楽(厄災)の二人にしか許されない至高の領域とやらに、足を踏み入れるということだ。それでもキミは、苛烈の道を歩むのかい?」

「はい」

「――うん。いい返事だ。これならキミに専用機を託せそうだね」

 

 相好を崩した天羽社長がソファから腰を上げ、僕に手を差し出す。

 

「改めて歓迎しよう、ようこそLogos・High-endへ。キミがどんな風に成長していくのか、その行く末を愉しみにしているよ」

 

 

◆ ◇ ◆

 

 

 天羽社長の最終面接を終えた僕は、このオフィスビルの地下にあるという訓練と実験を兼ねた施設へと向かっていた。椿さんの説明によると、そこで専用機のフィッティングが行われるそうだ。

 

「あ、お嬢」

「あら、流善くん」

 

 エレベーター前でお嬢とエンカウントした。お嬢が衣服のような物を抱えている。

 

「こんな所で何やってんの?」

「何って、流善くんを待ってたのよ。だって君、すぐ迷子になるじゃない」

「ならないよ。僕のことバカにしすぎでしょ」

「本当は?」

「………………五分ちょっと……迷った……」

「なってるじゃない」

「いや、これは誤差だ」

「迷子に誤差ってなに。まあ、いいわ、はいコレ」

 

 お嬢が渡してきたのはISスーツだった。会社のロゴが入っている。

 それから僕とお嬢は、エレベーターに乗って一気に地下へ下降。

 更衣室でISスーツに着替え、電子音と共に開いた自動扉をくぐるとそこは、だだっ広い空間だった。

 広さは学園のアリーナと同じぐらいで天井もとにかく高い。四方八方には壁を守るための特殊なバリアが、何重にも張られていた。さすが建築費用億超えの会社だ。

 奥の方には大きなコンテナがあって、兄ちゃんと新橋さんが真剣な表情で会話をしている。誰ですかアレ?

 

「まだ準備忙しそうだな」

「そうね。あ、準備運動でもしてたら? 手伝ってあげる」

「その案は賛成だけど手伝いはいらだだだッッッ!? どこ引っ張ってんだよ! 腕もげる!?」

「安心しなさい。私、こーゆーの得意だから」

「何も安心出来ないんだけど!?」

「あら〜、お客さん凝ってますね〜」

「なんだその茶番!?」

 

 などと騒いでいると、こちらに気づいた兄ちゃんと新橋さんが近づいて来た。

 

「オイオイまたイチャついてんのか? お熱いねぇ〜」

「……アンタの目は節穴か?? 眼科行ってこいよ眼科に……!」

「そんなキレることある?」

「青春ですね!!」

 

 なんでそうなるんですかっ、ニヤニヤ生暖かい目で見ないでくださいよ! ていうかお嬢はいつまで腕引っ張ってんのさ、さっきからずっとミシミシ鳴ってるからァァァ!!??

 

「そういや流善、社長に会ってみてどうだったよ」

「社長に……?」

 

 お嬢から解放された僕は、兄ちゃんの問いかけに腕をぐるぐる回しながら答える。

 

「純粋にスゴい人だって思ったよ。すぐ考えてたこと見抜かれたし……怒られた」

「だろうな。流善の顔ヘタレ全開だったから、社長の説教食らって当然だ」

「ヘタレ全開て……」

 

 全くもってそのとおりなので、否定出来ないのが悔しい……。

 

「まあ、そのおかげで色々吹っ切れた」

「そりゃ良かった。フィッティングまでもうちょいかかるから流善と嬢ちゃんは――」

「ああ、それから。兄ちゃん」

「ん?」

 

 僕はなんとなしの口調で、それを言う。

 

「僕はもう、()()()()()()

 

 一瞬だけ、兄ちゃんは驚いた表情をする。僕が言った言葉の意味を理解しているからだ。

 そして、安堵するかのような声音で「――そっか」とだけ言った。

 

「「?」」

 

 お嬢と新橋さんが首を傾げる。

 気にしないで、こっちの話だから。

 

「さて。さっきも言ったが、フィッティングまでもうちょい時間がかかる。つっても人手が足りないってだけでもうそろそろしたら――噂をすれば何とやらだな」

 

 自動扉が開かれ、白衣姿の個性が強そうな人達が入って来た。

 

「ああ……吾輩はこの瞬間(とき)を待ちわびていたぞ……! 見たまえ、吾輩の筋繊維たちが高揚している!!」

「ウッセーぞっ、筋肉ダルマっ、電話に集中できねーだろうが! オメーの暑苦しい声が(天使)に聴こたらどーすんだよ!」

「…………………………僕の人生はもう終わりだ……。これから生きていける自信が無い……。ッ、なんであんな屑野郎なんかに彼女が取られるんだ……!」

「まーた寝盗られたんすか。今回で二〇回目っすね〜。――って、この企業なんもネタ持ってねーとか、ハッキングして損したっす。さすが貧弱企業ってとこっすか」

「ねぇねぇ、あ、あの男の子が室長の弟くん? ふひっ、ふひひっ、男の子なのにISが動かせるなんて不思議だねぇぇ?? ……あ、ダメ……ふひっ、想像したら濡れてきちゃった…………」

 

 …………………………………………や、ヤベェ…………。個性が大渋滞してる!!

 Logos・High-endは頭のネジがぶっ飛んだ人達で構成されたって話だけど、形容しがたいヤバさだ。ていうかあの女の人怖いんだけど。こっち見て小刻みに震えながらハァハァ言ってるし……。

 

「ハ〜イ全員集合〜〜〜。駆け足〜〜〜」

 

 手を叩いて招集する兄ちゃんに、白衣姿の人達はバタバタ集まっていく。そして兄ちゃんは指をパチンと鳴らした。

 

「さぁっ! イカれにイカれ狂ったロゴスメンバーを紹介するぜッ!! まずはコイツだァ!!」

 

 大柄の男性が一歩前に出て、肉体美を自慢せんとばかりにポージングを決める。

 

「ロゴス随一の怪力の持ち主! 我が肉体は芸術。筋肉こそが至高にして極上! ゴードン・ゴーシュ!!」

「室長の弟殿よ……聴こえるか? 吾輩の愛しき筋肉たちが奏でる魅惑のハーモニーを!」

「え、あ、はい。…………え???」

 

 リアクションに滅茶苦茶困る……。

 

「天使な妹のためなら社畜を極めるのもアリ! 妹グッズを自作するのがマイブーム。喧嘩上等シスコンヤンキー! 漆嶋(うるしま)哲汰(てった)!!」

「ほら目に焼き付けろ。俺の(天使)可愛いだろ? 可愛いって言え。言わないと地面に埋める」

「か、可愛いです……ね?」

「はァ!? 結婚したい!!?? 調子乗ってんじゃあねェぞ!!」

 

 えぇ……理不尽すぎる……。

 

「付き合った女は必ず間男にNTR! それでも僕は恋をする。ラノベ主人公ばりにモテるのに報われない悲しき男! 金城(かなしろ)隼也(しゅんや)!!」

「…………ついさっき、彼女と知らない男が全裸で抱き合う動画が送られてきて、ありとあらゆるものが破壊されたよ…………」

「えぇと…………えぇ……」

 

 かける言葉が見つからない……!

 

「三度の飯よりハッキングが好き! ロゴスの社員情報は全把握。企業の黒い噂を世界に暴露することが最高のストレス発散法! アッシュ・ウォッチ!!」

「どーもっす、室長の弟さん。アッシュっす。ハッキングしてほしいとこがあれば何時でもオイラに言ってください。大企業のハッキングとか希望するっす」

「い、今のところ、予定ない……ですね」

 

 今後もないと思います……。

 

「マッドサイエンティストガール! 薬品は香水です。仕事そっちのけでヤベーもん作るヤベー女! ニールベル・ホルムクロム!!」

「ねぇねぇねぇねぇ、貴方のこと、身体の隅々まで調べていいかな? 解剖(バラバラ)にしていいよね?? ふひっ、ひひひ、じゅるるッ」

「ヒェッ」

 

 思わず悲鳴が出てしまった……。

 

「野望は室長のお嫁さん! 料理のレパートリーが増えました。外堀を埋めたいけど埋め方が分からない! 新橋汐理!!」

「お義姉(ねぇ)ちゃんだよ!!!!!!!!!!」

「違います」

 

 相変わらず圧が凄いです新橋さん。

 

「よし! 簡単な自己紹介も終わったところで早速始めるぞ。楽しい愉しいお喋りはあとだ。全員配置につけ!」

『了解!!』

 

 地下施設に響いた号令に、技術開発室の人達が忙しなく作業に取り掛かり始める。

 そして、作業開始から一時間弱。展開されたコンテナの中からついに、その鎧は、姿を現した。

 

 ――――それは、『骨』だった。

 

 どこか冷たさを感じる、異質な白色。白濁とした骨の鎧が、肋のような装甲を両開きで解放して操縦者を誘っていた。

 

「…………これが」

「名は『骨喰(ほねばみ)』。オレ達が創り上げた、オマエの専用機だ」

「…………」

 

 僕の掌はいつの間にか、骨喰の冷たい装甲に触れていた。無意識だ。けれど、ISに触れるたびに生じていたはずの、僕を拒絶する衝撃はない。ただ、馴染む。脳が理解する。これが何なのか。何のためにあるのか。その存在意義を。

 

「ぼけっとしてないで装着しろ流善。今からノンストップでフォーマットとフィッティング、それから最適化(パーソナライズ)を行うぞ。骨喰の運用法と装備はやりながら説明するから、全力で脳髄に叩き込め」

 

 タブレット端末を操作する兄に急かされ、僕は骨喰に背中を預ける。するとすぐに装甲は、僕の体に合わて閉じた。そして、通常の倍以上はある無骨で巨大な腕を装着したと同時に、プシュー、という空気を抜く音が響く。

 打鉄を纏った時には感じなかった一体感が僕の身を包み込みんだ。融和するように、溶け合うように、散り散りの波長が共鳴し合うように、僕と骨喰が『繋がる』。

 

 こうして骨喰を纏った僕は、およそ四時間ぶっ通しで稼働させてフィッティングに必要なデータ入力を徹底した。

 やっていることは主に飛行操縦と、試合で無意識に出来た瞬時加速(イグニッション・ブースト)を完全に習得すること。そして無限湧きする自販機サイズのエネミーたちを破壊し続け、体が疲労で悲鳴を上げても、骨喰の戦闘スタイルを叩き込んだ。

 

「ハァッ、ハァッ、ハァッ」

 

 破壊したエネミーの残骸で築き上げられた山の上で息を荒げる。

 ……キツい、とにかくキツすぎる……。激しい筋力トレーニングをした直後に急勾配の坂を登らされている気分だ。

 ……あー、しんどっ。

 だけれどその結果。データの蓄積と調整を終えた骨喰は一次移行(ファースト・シフト)に至り、劇的な変貌を遂げ、ついに僕専用の機体に成った。

 息を整え、改めて機体を見ると、思わず身震いした。

 紅く発光する各所は脈動する血液のようだと思わせ、目立っていた凹凸は洗練され、滑らかな流線を描くシャープなデザインへと変わっている。

 そして何より変わったのは、その両腕だった。

 

 ――――面制圧式重装機動剛腕・《無骸(むがい)》。

 

 これが第三世代型IS『骨喰』のメイン装備であり、要であり、重要な役割を担っている。

 もともと骨喰は中距離型のオールラウンダータイプとして開発が進められていたらしい。

 けれど、僕の試合記録を見た兄と技術開発室の面々が開発方針を転換。『圧倒的な力量を持って捩じ伏せる』をコンセプトのもと、骨喰は超近接撃滅格闘型として生まれ変わった。撃滅格闘型ってなんか物騒な分類だ。

 

『流善、一旦こっち戻って来い!!』

 

 ハイパーセンサーが兄ちゃんの声を拾う。僕はその指示に従って、兄ちゃんとお嬢たちのいる場所へと戻った。

 

「想定よりちょいと時間はかかったが、無事一次移行も完了したわけだし、仕上げに入るか」

「仕上げ??」

 

 首を傾げると、兄ちゃんは頷いて「ああ」と言った。

 

「流善もあらかた骨喰を理解しただろう。つーわけで今から戦闘実践だ。と言っても、あいにくうちの専属パイロットは海外に出張ってる。嬢ちゃんは難しいよな?」

「ええ、学園内ならまだしも、外でのIS展開は原則禁止ですので」

 

 言って、お嬢は扇子に付けられた菱形のストラップを僕らに見せる。

 

「え、お嬢ってIS持ってるの?」

「あら言ってなかったかしら。こう見えて私ロシアの国家代表なの」

「は? 国家代表?? 日本じゃないんだ」

「日本の代表候補生は簪ちゃんだからね」

「…………ま?」

「マジよ」

「………………びっくらぽん……」

「疲れすぎてリアクションがアホっぽくなってる」

「おーい、脱線してんぞー」

 

 叩かれた手の音にハッとする。

 簪さん、日本の代表候補生なんだ……。いや、あれだけISに詳しければそれも納得。ということは専用機も持ってるってことかな。今度機会でもあれば見せてもらおう。

 

「なんだっけ、戦闘の実践? 何と戦うのさ」

「コイツだよ」

 

 兄ちゃんはタブレット端末を操作。すると背後からガチャガチャと物々しい音が聞こえた。

 振り向いて見ると、破壊したエネミーの残骸の山が再構築され、四本の腕とランチャーを備えた巨大なエネミーへと姿を変えた。……化学の力ってスゴい…………。

 

「オレたちはバリアの外側で観てるから、お前はあの『ギガント・エネミー』を破壊しろ。ここのバリアは頑丈に出来てるから思う存分暴れ回っていいぞ」

「破壊しろって……」

「絶対防御で死なないとはいえ、余所見してっと痛い目みるぜ?」

「は――」

 

 ――警告。ターゲット戦闘体勢に移行。エネルギー熱源を確認。

 

「ッ!?」

 

 ギガント・エネミーが腕をガトリング砲に換装して連射。無数のエネルギー弾が僕に降り注ぐ。

 着弾の寸前。僕は左腕を横に伸ばし、《無骸》の掌で荷電粒子を爆発させ真横に回避した。うん、ちゃんと反応出来てる。

 

 ――この《無骸》の大きな特徴は、荷電粒子の爆発を推進力に変換、流用を可能にしているということだ。それによって、骨喰の機動力を異常なまでに向上させているのである。

 

 回避した先で体を反転。体勢を立て直し、飛んできたミサイルに荷電粒子を叩きつけた。――――充填開始。

 

「――フッ」

 

 短く息を吐き、背部のスラスターと自身の後方に向けた両の無骸で加速する。

 ギガント・エネミーが、攻める僕を阻もうとミサイルを発射した。センサーの解像度が鮮明なおかげで良く視える。だから僕は、()()()()()()()()()()()()()

 

『はァ!?』『なんとォ!?』『ミサイル掴むってアリっすか……!?』『さすが室長の弟さんですね!』『本当……無茶苦茶な戦い方するわね流善くんって……』

 

 ギガント・エネミーの頭部に着弾した爆発音で聞こえなかったけれど、みんな驚いってるっぽい。お嬢は呆れてるし、兄ちゃんは愉しそうに笑ってる。

 

 ――ターゲット照準固定(ロックオン)。シンクロ率安定。充填完了。セーフティロック解除。

 

 カメラと思考回路が破損したせいか、電ノコに換装させた腕を振り回しながらガトリング砲も乱射するギガント・エネミー。

 僕はその攻撃を全て躱し、物騒な電ノコの腕も破壊。ギガント・エネミーの頭上高くへ移動した。

 そして、無骸を天に掲げ、溜めた荷電粒子を一気にバースト! 真下へ一直線に突貫する。

 巻き起こる爆発と轟音。その衝撃によって周囲のバリアは砕け散り、破片が舞って光り輝く。

 大きく出来たクレーターの上には、ただ一人、僕だけが立っていた。

 

「流善、問題ないか?」

 

 こちらにやって来た兄ちゃんに僕は答える。

 

「反動で少し体痛いけど無問題だよ。スゴいねコレ」

「そっかそっか、そりゃあ良かった。……にてしも、エネミー消し飛ばしてクレーター作るはヤベェなぁ……」

 

 口元をひくつかせて遠い目をする兄。あとからやって来た人達も似たような顔をしている。

 

「また財務室の人達に怒られちゃいますね」

「俺あいつら苦手なんスよ……。嫌味とかネチネチ言ってくるし……」

「いつもいつもやらかしてるオイラ達が悪いんすから、しゃーないっすね」

「だが、エレオノーラ嬢よりは幾分マシなのでは?」

 

 知らない名前出てきた。

 

「あー……。あの人、三体同時に相手して蹂躙してんたもんね……。ならこれはマシなほうかな……?」

「ふひひ、あれすごかったねぇ。特に修繕費用とかが」

 

 どうやらヤバい人らしい。

 

「ま。オレ達全員で正座してごめんなさいすればなんとかなるだろう。ちなみに嫌味は確定だ。諦めろ。あ、流善は全然悪くないからな?」

「……本当に?」

「オレが暴れ回れって言ったんだからいいんだよ。つーか、お前と骨喰の相性が良すぎて、ぶっちゃけビビってる。そりゃエネミーも消し飛ばすわな」

「ならいいんだけど……って、どうしたのさお嬢」

「う〜ん?」

 

 口元に扇子を当ててお嬢がニコニコ。

 

「流善くんと戦う時が楽しみだなーって思ってね」

「うわぁ……弱いもの虐めだぁ……」

「なんでそうなるのよ!」

 

 扇子でべちべち肌部分を叩いてくる。地味に痛い。いやっ、ちょっ、待っ、マジで痛いっ。同じところばっか叩くなよ!

 

「うわわっ、またイチャついてる」

「「だからイチャついてないっ!!!」」

 

 僕とお嬢の重なった声が、地下全体に響き渡った。

 まぁ何はともあれ、これからよろしくね。骨喰。

 

 ――一緒に、歩いていこう。




これで一旦、書き溜めていたものを全て投稿しました。
続きは執筆中ですし、投稿の頻度が遅くなりますのでご了承ください。

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