インフィニット・ストラトス【Garbage Dance】   作::Crane

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第12話:姉と妹

「あ。おはようございます流善さん」

「おはよう一夏君」

 

 Logos・High-endを訪問した翌日の朝。学園へと向かうその道中で、一夏君にばったりと会った。篠ノ之さんの姿はない。いつも一緒にいるイメージがあったから珍しい。

 

「そういえば昨日、専用機見に行ったんですよね? どうでしたか?」

 

 一夏君に訊かれ、僕は顎に手をやって答える。

 

「端的に言うと……ヤバい……!」

「や、ヤバい?」

Logos・High-end(ロゴス)の人達が」

「そっちですか」

 

 だって全員インパクト半端なかったから……。

 毎分筋肉を自慢する人、ガラの悪いヤンキーシスコンの人、延々と彼女との思い出話を語るNTRの人、ハッキング厨の人、怪しものを飲ませようとしてくる人、義姉を名乗る兄ちゃんLOVEの人。

 ほら、字面とんでもないでしょ? それにプラスしてお嬢もからかってくるからマジで悪趣味。ホントあの人何しに来たんだ……。

 

「ロゴスの人達みんなキャラ濃ゆかったんだよ……。小難しい話とか、質問とかいっぱいされたし……」

「それは……ご愁傷さまです」

「でも、メアドは交換した」

「しっかり仲良くなってる」

 

 お陰様で僕の電話帳は変人たちで潤ったよ。

 

「そうだ、流善さんも専用機貰ったわけですし、放課後俺と勝負しましょうよ」

「うーん、OKしたいところだけど、まだ手元にないんだよね。残念ながら」

「え、そうなんですか?」

 

 僕はうんと頷いた。

 なんでも骨喰に、ある『とっておき』をインストールするためらしい。それによって僕の専用機は乗りやすくなり、更に強なるとのこと。詳しくは教えてくれなかったけれど、楽しみにしておけと言われたので、楽しみにしておこう。イヤな予感がするのは気のせいだ。うん。

 余談だが、ISに触れる度弾かれる衝撃と、歯車が噛み合う感覚についての謎現象を兄ちゃんに聞いてみたら――

 

『は? 何それ知らん。怖あ……』

 

 と、何故か軽く引かれた。いや引くんじゃないよ、こっちはちょっと悩んでたんだからさ。

 

「ま、色々と機体の調整があるみたい。だからもうしばらく時間かかるんだってさ」

「それなら仕方ないですね」

 

 そらから二人で他愛もない会話をしながら教室に到着。扉を開けて中に入り、自分の席に着いた僕らにクラスメイトが挨拶してきた。

 

「芥さん、織斑くん、おはよー」

「おはよー」

「ああ、おはよう」

 

 IS学園に入学して数週間が経過し、それなりに女子とも話せるようになったと思う。打ち解けたと言っても過言ではない。前の学校は女子とあんまり会話してなかったし、友達も一人だけだったからなぁ。

 

「ねえねえ、ところで二人とも、転校生の噂って聞いてる?」

「「転校生??」」

 

 僕と一夏君の声が重なる。

 

「今の時期に?」

「なんか中途半端な時期だよね。一組に来るの?」

「ううん、二組なんだって」

「そうなんだ」

 

 今はまだ四月とはいえ最終週に突入している。そのタイミングでの転入なんて、何かトラブルでもあったんだろうか。しかもこの学園の転入試験は、国の推薦も必須なので、かなりの難易度だと聞いたことがある。それらをクリアしたということはつまり――

 

「ひょっとして代表候補生?」

「ピンポーン、大正解。なんでも中国の代表候補生らしいよ?」

「へー」

「ふーん」

 

 やっぱり代表候補生か。ということは、あの高難易度の試験を突破した実力者――ガタッと席を立つ音が聞こえた。

 

「あら、わたくしの存在を今更ながらに危ぶんでの転入かしら? それもそうでしょう。なにせわたくしはイギリスの代表候補生にしてエリート。そして、このIS学園で数少ない専用機持ちなのですから!」

 

 バーン! と、我がクラスのイギリス代表候補生、セシリア・オルコットさんは、今日も腰に手を当てたお馴染みのポーズで登場。相変わらず様になっている。でも別に危ぶまれてはないと思う。

 

「どんなやつなんだろうな」

「む……気になるのか?」

「ん? まぁ……多少は」

「……ふん」

 

 一夏君の何気ない呟きに、窓側の最善列にいたはずの篠ノ之さんがいつの間にか一夏君の側に立っていて即反応。むすっと目に見えて不機嫌になり小言を言う。

 

「……今のお前に、転校生の女子を気にしている余裕があるのか? クラス対抗戦を来月に控えているというのに……。鼻の下を伸ばす暇があったら少しは緊張感を持て」

「伸ばしてねーよっ」

 

 篠ノ之さんの言うクラス対抗戦とは、クラスから選出された代表者達によるリーグ戦の事だ。

 IS学習が本格的に始まる前の現時点における実力指標を作るためと、クラス同士の交流および団結を兼ねたイベントでもある。ちなみに一位のクラスには、優勝商品として学食デザートのフリーパス半年分が貰えるらしい。一夏君には是非とも優勝して貰わねば!

 

「まあ……、やれるだけやってみるか」

「やれるだけでは困りますわ! 一夏さんには是が非でも勝っていただきませんとっ!」

「そうだぞ。男たるものそのような弱気でどうする」

「織斑くんが勝つとクラスみんなが幸せになるんだよ! ハッピーなんだよ!!」

 

 一夏君の周りはいつの間にか女子で埋め尽くされていた。うん。今日も一年一組の教室は平和だ。

 

「織斑くん、頑張ってね!」

「フリーパスのためにも!」

「そうだそうだ、絶っっっ対に勝ってよ! 負けたらマリアナ海溝に沈めるから!! もしくは捻り切る!!」

「何を!?」

 

 だって学食デザートのフリーパスなんだよ? 半年分なんだぜ? そりゃあガチになる。

 

「糖分は正義だよ? 沈めるとか捻り切るは冗談として、負けたら⬛︎⬛︎だから」

「なんで伏せて言ったんですか!? すげえ怖ぇんだけど!!」

「でも、今のところ専用機を持ってる人って一組と四組だけだし、織斑くんなら余裕で勝てるよ!」

 

  四組の専用機持ち――簪さんのことか。……お昼一緒に食べようって約束してるし、言ったら放課後にでも見せてくれるかな?

 きゃっきゃっと楽しそうな女子達に囲まれた一夏君は短く「おう」と一言だけ、気疲れたしたような表情で返事を返す。

 

「――悪いけどその情報、古いよ」

 

 不意に教室の入り口から声が聞こえた。

 

「二組も専用機持ちがクラス代表になったの。そう簡単には優勝できないから、覚悟してなさい!」

 

 現れたのは、艶やかな長い髪をツインテールにした小柄な少女だった。腕を組み、片膝を立てて扉にもたれかかっている。

 

「鈴……? お前、鈴か?」

「そうよ。中国代表候補生、(ファン)鈴音(リンイン)。今日は宣戦布告に来たってわけ!」

 

 ビシッ! と一夏君を指差して、ドヤ顔なチャイナツインテール少女――凰さんが八重歯を見せて不敵な笑みを浮かべる。

 

「何格好付けてるんだよ、すげえ似合わないぞ?」

「んなっ……!? なんてこと言うのよ、一夏! 人がせっかくイイ感じに登場してやったんだから少しは驚きなさいよ!! 気が利かないわね!!」

「イイ感じってなんだよイイ感じって」

 

 さっきまでの気取っていた雰囲気が霧散し、毛を逆立てた猫みたいに一夏君へキシャーと噛み付く凰さん。

 元気な子だなー。というか彼女は一夏君と知り合いなんだろうか? 親しげだし、なんか距離感が近いような? あ、篠ノ之さんとセシリアさんがおもしろくなさそうな顔してる。なるほど、いつもの修羅場ですね。

 

「――おい」

「なによっ! キャンッ!?」

 

 後ろを振り向いた凰さんの頭に、出席簿の痛烈な一撃が放たれた。織斑先生ご降臨である。

 

「ち、千冬さん……っ」

「織斑先生と呼べ。それにもうSHRの時間だ。さっさと自分の教室に戻れ、そして入り口を塞ぐな馬鹿者。邪魔だ」

「す、すみません……」

 

 若干涙目でビクビクと扉から離れる凰さん。織斑先生のことも名前で呼んだってことは、やっぱり知り合いなのか。それにしてもビビりすぎじゃない? 一体何したんですか織斑先生。

 

「あとでまた来てやるんだから、絶対逃げるんじゃないわよ、一夏!」

 

 言ってることが三下のソレである。

 

「早く戻れ。それとももう一発食らいたいのか?」

「しっ、失礼しましたっ!!」

 

 脱兎の勢いで二組に戻って行く。どんだけ織斑先生が怖いんだよ。

 

「つーかアイツ、IS操縦者だったのか。初めて知った」

「……い、一夏、今のは誰だ? 知り合いなのか? えらく親しそうに見えたのだが??」

「い、一夏さん!? あの子とはどういう関係ですのっ!? 納得のいく説明を――」

 

 一夏君の口からぽろっと出た言葉に、篠ノ之さんとセシリアさんが詰め寄る。そのほかにも、興味津々なクラスメイトからの質問攻め。あ……まずい。

 

「席に着け、馬鹿ども」

 

 華麗に織斑先生の出席簿が火を噴いた。

 こうして今日も今日とてISだらけの一日が始まる。

 

 

◆ ◇ ◆

 

 

「お前のせいだ!」

「あなたのせいですわ!」

 

 四時限目が終わって昼休みに入るやいなや、篠ノ之さんとセシリアさんが一夏君に文句を言っていた。

 

「なんで俺のせいなんだよ……」

 

 二人とも、午前中だけで山田先生に五回注意され、織斑先生に三回叩かれている。そして居眠りをしてしまった僕は織斑先生のアイアンクローを食らった。今もじんじん痛い。

 

「まあ、文句はメシ食いながら聞いてやるから。とりあえず学食行こうぜ。流善さんも一緒にどうですか?」

「お誘いは嬉しいけど、先約があるから゙ァンッ!?」

「流善さん!?」

 

 いきなり真横から衝撃。どうにか耐えて見ると、謎のタックルをしてきた布仏さんが、僕の脇腹にがっしり抱きついていた。あらキュートな笑顔っ。じゃなくて。

 

「……な、何してんすか、布仏さん……」

「そこにあっくんがいたから〜」

「僕は山か」

「早くお昼行こ〜?」

「約束してたもんね。でもタックルはマジで危ないし、無闇に抱きつくのも――って、あ、ちょっ、分かったからパーカー引っ張らないでっ。伸びちゃう伸びちゃう」

 

 最近、布仏さんの距離感が近い気がする。物理的に。

 さっきみたいに抱きついたり、引っ付いたり、時には背中にしがみついてきたりするのだ。なので柔っこいものがふにふに当たってくるわけで。

 うーむ、由々しき事態ですよこれは。

 多分彼女自身、友達としてただ単にじゃれついてるだけだろうけど、恋愛経験皆無の思春期男子高校生にはつらい。キモイ方向に勘違いしそうだ。絶対男として見られてないよね。うん。

 

 僕は布仏さんを剥がし、一夏君にルームメイトとお昼の約束してるからと陳謝。

 それならしょうがないですね、と一夏君は数名のクラスメイトを引き連れて、学食へと移動して行った。

 

「さて。簪さん迎えに行こっか」

「は〜い」

 

 一組から四組までは差程遠くないので直ぐに到着。

 窓から教室内を覗くと、後ろの方の席に座っている簪さんを見つけた。真剣な表情でキーボードを叩いている。何やってるんだろう?

 そんな様子を眺めていた僕の肩を布仏さんが揺する。

 

「あっくんどうしたの〜?」

「いや、他のクラスの教室におじゃまするのは、躊躇するというかなんというか……」

 

 それに周りの女子達からの視線がちょっと。

 

「あっくんって本当ヘタレだね」

「そんな真顔で言わなくても」

「いいから行くよ〜」

「……はいはい」

 

 布仏さんに腕を引っ張られ教室の中へ。

 四組の人と目が合ったので、ぺこりと会釈して手を振り返す。あ、目逸らされた。なんかコソコソ話してるし……。ごめんなさいね、直ぐ出て行きますから。

 

「あ、二人とも」

 

 僕と布仏さんに気づいた簪さんが空中のディスプレイを消した。一瞬だけ見えたのは数値とパラメーター、そしてISの名前らしきもの。打鉄……弍式……?

 

「購買に行くんだっけ?」

「うん。なんてったって、今日は新作の菓子パンが出てるからねっ」

「相変わらず甘党」

「……フッ。よせやい」

「別に褒めてない」

 

 教室を後にした僕らは、購買で各々パンと飲み物を購入し、今日は天気が良いからと布仏さんの提案により、外のベンチで食べることになった。話題はもちろん、僕の専用機のことである。

 

「じゃあ、正式に流善の元に専用機がくるのって来月末になるの?」

「おそらくね」

 

 僕は頷き、菓子パン(三つ目)の袋を開けてから言葉を続ける。

 

「だから『骨喰』の調整が終わるまでしばらくお預け。その間に打鉄かラファールのどっちか借りられたら、瞬時加速(イグニッション・ブースト)の練習したいなーって思ってる」

「あっくんの専用機、骨喰って言うだね〜」

「戦闘タイプは何?」

「超近接撃滅格闘型」

「「な、なんか物騒……」」

 

 あ、やっぱり二人もそう思う? それにしてもこの新作菓子パン美味い、クリームも多くて当たりだ。また今度買おう。

 

「そう言えば簪さん、日本の代表候補生なんだってね」

「――え……」

 

 ふと思い出したことを言うと、ミルクティーを飲もうとしていた簪さんの目が、大きく見開かれた。

 

「な、なんで、知って……」

「お嬢が教えてくれたんだよ」

「……ね、姉さんが……?」

「うん。姉妹揃って代表候補生ってすごいよね。 さっき教室で見てた『打鉄弐式』って、簪さんの専用機? もし良かったら、放課後にでも――」

「わっ、私、用事思い出したから先戻ってる!」

「へっ?」

 

 いきなり立ち上がった簪さんは、逃げるかのように走り去ってしまった。

 一瞬だけ捉えた彼女の表情は苦渋。その後ろ姿からはどこか寂しさを感じた。

 ひょっとして僕は、何か地雷を踏んでしまったのだろうか……。

 隣に座っている布仏さんがゆっくりと唇を開いた。

 

「――……かんちゃんの専用機はね? まだ、完成してないの〜」

「完成してない……?」

 

 どういうことだ? 確か代表候補生ならIS学園に入学する前に専用機が与えられ、ある程度の稼働時間を積む必要があるって、セシリアさんが話してた。それなのになんで……。

 

「……かんちゃんの専用機の開発元は、織斑くんの白式と同じところ。つまり――」

「! 全部のリソースと人員が白式に回された……?」

「…………うん」

 

 布仏さんが小さく頷いた。…………なるほど。

『世界初のIS男性操縦者』と『日本の代表候補生』、どちらの専用機開発が有益になるのか、天秤にかけた時点で真っ先に前者が選ばれたんだろう。十中八九政府が絡んでいるに違いない。

 

「だからかんちゃんは、引き取った打鉄弐式を、自分一人の手で完成させようとしているんだ〜」

「専用機を一人でって……なんで」

「追いつくためだよ。……楯無お嬢様に」

 

 普段と違う、憂いを帯びた声色。顔もどこか暗い。

 

『…………流善くんは、その……お兄さんと仲良いの?』

『………………そう。…………羨ましいわ…………』

 

 そこで脳裏に過ぎるは、昨日、Logos・High-endへ向かう電車内でのお嬢の言葉とあの陰鬱な雰囲気。

 二人の間に一体何が?

 それにしても……姉に追いつくため、か。

 

「…………昔の僕と同じだな……」

「え?」

「ああ、何でもないよ。さてと、そろそろ昼休みも終わるし、教室戻ろっか」

「待って!」

「? 布仏さん?」

 

 ベンチから腰を上げた僕の腕を、布仏さんが両手で掴んだ。その手には力が込めらており、目尻にも僅かの涙を浮かべている。

 

「あっくんがかんちゃんのルームメイトになってから、お屋敷にいる時に比べて、かんちゃんはちょっとだけ笑うようになってくれた。……だからこれは私のわがままで、余計なお世話だって言われるもしれないけど、あっくんにお願いがあるのっ」

「お願い?」

「かんちゃんを――私のお嬢様を、助けてください!」

「うん。いいよ」

「ほぇ?」

 

 二つ返事の即答が予想外だったのか、布仏さんはきょとんとした。僕はそんな布仏さんの前にしゃがみ、パーカーの袖口で彼女の涙をそっと拭ってやる。

 

「そもそも断る理由なんてないさ。簪さんには、ISの勉強とかで色々見てもらったしね」

「ほ、本当にいいの〜?」

「もちろん! まあ、ド素人の僕に出来るのは些細なことだけだろうけど……」

「そんなことない! あっくんがいたら百人力だよ〜〜!!」

 

 嬉しそうにはしゃぐ布仏さんに、僕の顔も自然とほころんだ。うん、やっぱり布仏さんは笑っている方が良く似合う。

 受けた恩はちゃんと返さないといけない。

 何より、心を擦り減らしてまで成し遂げようとしたことが報われない結末なんて、どうしようもなく我慢ならないからだ。

 

 

◆ ◇ ◆

 

 

「――とは言ったものの。僕が簪さんに出来ることって何だろう?」

 

 放課後。

 寮に帰る前、自販機に立ち寄った僕は独り言をぼやきながら、百円玉二枚を投入口に入れた。

 稼働データの収集は手伝えそうだけど、解析とか装備開発の云々はてんでダメだからなぁ……。ゆくゆくはそっち方面も勉強すべきかな?

 まあ一旦、そのあたりは棚上げするとして、まずは簪さんと話を――横から何者かの手が伸び、押そうとしたボタンが押される。目を向けるとそこに現れたのは、お嬢だった。

 

「あら流善くん。奇遇ね☆」

「おや? 誰かと思えば、生徒会の仕事サボって布仏さんのお姉さんに小一時間説教された生徒会長(笑)のお嬢じゃないですかー」

「ど、どうしてそれを……なに鼻で笑ってるのよ!」

「おっと危ない」

 

 ひょいひょいとお嬢の手刀を躱す。ふっはは、悔しかろう悔しか――あ、コラ脛を蹴るんじゃないよっ。

 

「それで? お嬢が来たのって偶然じゃないでしょ。僕に何の用?」

「……話が早くて助かるわ。はい、これ」

 

 そう言ってお嬢は、小さな長方形の物体を渡してきた。USBメモリ……?

 

「それ簪ちゃんに渡してくれないかしら? あ、極力私の名前は出さないでね」

「渡す分には構わないけど、なんでお嬢の名前言っちゃ駄目なのさ」

「そ、それは……そのぅ…………。あの子、私に対して引け目を感じてるっていうか…………」

 

 人差し指同士をちょんちょんさせて、言葉を濁らせるお嬢。目も泳ぎまくっている。……なるほど、把握。

 

「その様子だと、簪さんとまともに話してないね?」

「うっ……」

 

 図星を突かれてか、お嬢がしょんぼりと項垂れる。

 更識姉妹の関係に生じた不和。あれこれ策を講じる姉と、反発する妹……か。ますます昔の自分を思い出してしまう。

 

「はぁ」

 

 僕は自販機に放置していた炭酸飲料を取り出し、お嬢へ差し出す。

 

「ん。あげる」

「え? ど、どうしたの急に……」

「別に、ただの気まぐれってやつさ。……僕は所詮赤の他人だから、君と簪さんの問題に深く首を突っ込まないつもり。でも、昨日みたいにからかってこないお嬢は……その、調子狂うっていうか……らしくないっていうか……」

「……流善くん。もしかして君ってかまってちゃんなの?」

「んなわけないでしょ、僕のシリアスと心配を返せよ」

 

 なんだよもう、心配した僕がバカみたいじゃないか。

 そんな僕を見てかお嬢がクスクスと笑いだす。

 

「ごめんごめん、心配してくれてありがとう。お言葉に甘えてジュースも美味しく頂くわ」

「どーいたしまして。それじゃあ、USBメモリ(これ)の件は任せておいてよ」

「うん。よろしくね」

 

 言って最後にお嬢は一礼して立ち去った。……律儀な生徒会長だな。

 でも、見送るその背中からは、昼の簪さんに似た寂しさがあった。

 




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