インフィニット・ストラトス【Garbage Dance】   作::Crane

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久々の投稿です。
色々忙しくてやっっっっっと、書けました。
多分忘れられてるでしょうけど、よろしくお願いします。
・・・誤字脱字あったらごめんなさい。


第14話:私のわがまま

「(……この状況、どうするの……?)」

「(……ど、どうしましょう……)」

 

 寮の自室に戻った簪さんと僕は、ひそひそ話しながら後ろをチラリと見やる。

 そこにはツインテールの少女が椅子に座っていた。

 あの後、緊急処置として連れて帰ったのだ。

 今は僕があげたカフェオレを飲んでいる。どうやら、大分落ち着いたらしい。ほっ、と二人して胸を撫で下ろす。ちなみに、夕食前に作ったトランプタワーはすでに崩れていた。

 

「(とりあえず、喋れそうにはなった、かな?)」

「(うん。それで、どうするの?)」

「(どうするって……、簪さんお願いします)」

「(な、何で私なの。流善が連れて来たのに……)」

「(だって、あのまま放置は出来ないじゃないか。ここは女子同士ということで、お願いします、簪お嬢様)」

「(…………)」

「(……うん、お嬢様呼びしたの謝るから、無言で足ぐりぐりするのやめてね)」

 

 姉妹揃ってやってくるじゃん、それ。しかも踵で。シンプルに痛い。

 

「……ちょっと、そこの二人。隅っこで何コソコソやってんのよ……」

「「!?」」

 

 いきなり声をかけられ、振り返る。

 ツインテール少女が怪訝な様子で僕らを見ていた。若干、目元が赤い。

 

「あー、えっと……もう、大丈夫……?」

「ええ、おかげさまで。悪かったわね、迷惑かけて」

「君が大丈夫ならそれで良いんだけど……。あ、僕は一年一組の芥流善。で、こっちが四組の」

「……更識簪、です……」

「流善と簪ね、そう呼ばせてもらうわ。――私は凰鈴音。もう知ってるかもしれないけど、中国の代表候補生として、この学園に来たの。よろしく」

 

 求められた握手に近づき、その手を取る。

 

「うん、よろしくね、凰さん」

「……よろしく」

「鈴でいいわよ。みんなそう呼んでるし」

「じゃあ、鈴さんだね」

 

 手を離し、とりあえず机の上を片付ける。

 鈴さんが泣いていた理由は、デリカシーな部分に触れそうだったので、訊かないつもりだ。

 けれど、多少なりとも気になってしまうわけで。これが人間の(さが)というやつなのかな? 多分。

 なので僕は、トランプを箱に仕舞いながら「一体何があったんだい?」と訊ねてみた。

 すると、鈴さんの顔がたちまち怒りに染まり、わなわなと震えだす。

 そして空のボトルを掴んだまま、力いっぱい机に叩きつけられた。

 

「アイツが……! 一夏が悪いのよ!!」

「……わぁ」

「……荒れてる」

 

 ――話をまとめるとこうだ。

 鈴さんは一夏君の幼馴染らしく、久しぶりの再会だそうだ。

 いざ会って話してみれば、自分とは別の幼馴染がいるうえに、金髪の代表候補生と一緒にいた。篠ノ之さんとセシリアさんの事だろう。

 そして放課後。一夏君との何気ない会話の中で、ルームメイトが篠ノ之さんであると知った鈴さんは、即行動を開始。

 一夏君と篠ノ之さんの部屋に突撃し、部屋を変わってほしいとお願いしたそうだ。……あー、だからボストンバッグがあるのか。フットワーク軽いね。

 それから案の定、納得のいかない篠ノ之さんと言い合いになったり、ISの部分展開をしたり、昔にしたという約束を忘れてしまった一夏君を……

 

「……ビンタしてしまった、と」

「ええ、そうよ」

 

 あっけらかんと頷く鈴さん。

 そっか……なるほどなるほど、そういう感じか……。

 ……ふむ。

 

「つまり鈴さんは、一夏君の事が好きなんだね?」

「はァ!!??」

 

 顔を真っ赤にし、鈴さんが声を張り上げた。

 

「なっ、ななななんでそうなるのよ!?」

「なんでって……、その反応がもう正解を言ってるようなものじゃないか。部屋交換の直談判しに行くほどだしね。違う?」

「〜〜〜っ!!」

 

 鈴さんの顔が更に紅潮する。

 うん、これで確定だね。しかもぞっこん。

 幼馴染二人で好きな男子を取り合うシチュエーション。

 自分の気持ちを察してくれず、つい、手を出してしまった……。これはアレだ、ラブコメ漫画でよくある展開の……って。

 

「マジの修羅場じゃないかっ」

「うわっ。なんでちょっとテンション上げてんのよコイツ……」

「流善、真面目にして」

「ア、ハイ」

 

 怒られてしまった。

 いや、簪さんの言う通りなんだけどね。ラブコメの波動を感じて、テンションを上げてる場合じゃない。

 というか、やっぱり一夏君ってモテるだな〜。いつもクラスの女子達に囲まれてるもんね。是非とも爆ぜてほしい。四散する感じで。

 

「でもまあ……怒って殴っちゃたっとはいえ、よっぽど大切なんだね。その約束」

「べ、別に大したやつじゃないわよ」

「じゃあ、どんな約束したの?」

「そっ、それは……」

 

 簪さんの問いかけに、鈴さんが口ごもる。頬も赤いままだ。どうやら恥ずかしくて言えないらしい。

 

「ひょっとしてアレかな? 大きくなったら〜、みたいな告白っぽい約束だったりして」

 

 ふと。頭に思い浮かんだ事を言ってみた。

 ……うん。自分で言ってはなんだけど流石にないか。そんなベタな約束。リアルで聞いた事もないし。

 ほら心做しか簪さんも呆れて――鈴さんが固まった。肩を小刻みに震わせ始める。

 

「「……えっ」」

 

 僕と簪さんの声が重なる。

 え、マジなの? マジなのか??

 あー……うん。なんというか……えーっと……はい。

 

「ごめんね?」

「謝ってんじゃないわよ!?」

「いやあ……だって、まさか正解しちゃうとは……」

「当たってないし! 全然違うから! 変な勘違いしないでよね!!」

「ツンデレだ……」

「ツンデレ……」

「ツンデレって言うなッ!!」

「スゴく痛い!!」

 

 投げられたボトルが僕の額にクリーンヒットした。

 いや、本当申し訳ないです。マジで。切実に。最近こういうのばっかりだなぁ……。

 

「で。何が違うのさ」

「な、なんでアンタに教えなきゃいけないのよ!? そこは普通スルーでしょ!?」

「や〜、ここまで来ると知りたくてしょうがなくなるよね。ほら、全部吐いちゃいな? 大丈夫。楽になれるって」

「あたしは容疑者か!!」

 

 しばらくして観念したのか、鈴さんは「うぐぐぐ……」と唸りながらも教えてくれた。

 ――彼女の両親は昔、中華料理店を営んでいたそうだ。一夏君もよく通っていたらしい。

 そして、小学生の時。

 鈴さんは一夏君に『いつか料理が上手になったら、毎日あたしの酢豚を食べてくれる?』と言って、約束をした。俗に言う『毎日味噌汁を〜』のやつで、告白を通り越したプロポーズだ。

 たが、一夏君はその約束を『奢ってくれる』と間違って記憶。これに腹を立てた鈴さんが、ビンタをしたまでが一連の流れである。

 

「最低……。やっぱり、織斑一夏は悪……」

 

 話を聞き終えた簪さんが冷めた目をする。

 いや悪て。

 こらこら、分厚い教科書で素振りするんじゃありません。殺めるつもりですか? 怖いよ??

 鈴さんが叫ぶ。

 

「そもそもアイツは鈍すぎるのよ! 女子から付き合ってくださいって告白されても、買い物に付き合うって返すぐらい鈍感だし!! どういう思考回路したらそうなるわけ!? しかも放課後の校舎裏!!」

「お、落ち着いて落ち着いて……」

「あと今更だけどセカンド幼馴染って何!? 意味わかんないうえに、すっごい腹立つんだけど!! あんなおっぱいポニテがいるんなら先に教えときなさいよ!! バカ一夏!! 唐変木!!!」

「えーっと……ドンマイ☆」

「慰め方が雑!! でもありがとッ!!」

 

 うーん、荒ぶってらっしゃる。

 情緒がジェットコースターだ。天地逆転するタイプの。

 それにしても一夏君は鈍感なのか……。ますますラブコメ漫画みたいだ。

 篠ノ之さんもセシリアさんも、これから苦労するんだろうなあ……。大丈夫? 一夏君、後ろから刺されない? 夜道とかで。

 

「――でも結局、何だかんだ言って好きなんでしょ?」

「うぅ〜〜……」

 

 照れて唸る姿を見て、僕はくすりと笑う。見てて微笑ましい。

 

「とりあえず今日はお開きにしよっか。明日も学校あるし、時間も遅いからね。多少はすっきりしたでしょ」

「まあ……うん。言われてみれば、イライラは少し収まったかも……」

「それなら良かった。野暮かもしれないけど愚痴ぐらいは聞くからさ、何かあったら何時でも頼ってよ」

「「…………」」

 

 何故か、鈴さんと簪さんが僕を訝しげに見てくる。

 あ、あれ? 心做しか視線が痛いよう……な?

 

「ど、どうかした? 二人とも……」

「流善、なんか女の子慣れしてる……。ヘタレなのに……」

「これはアレよ。優しくして勘違いさせた挙句、告白された後に『そんな気はなかった、ゴメンね』って感じで断るタイプね。タチ悪いわ」

「当たり厳しくない??」

「アンタ絶対前の学校でモテたでしょ? 目つき悪いけどよく見たら顔は結構美人寄りだし、その顔でどれだけ誑かして沼らせたのよ」

「なんて言い草! っていうかモテるどころか誑かした事すらありませんけど!?」

 

 というか避けられてた!! まあ、自業自得なんだろうけどね!!

 その後、少し話して鈴さんは自分の部屋へと帰って行った。……寮長の織斑先生に見つからない事を祈っておこう。

 

 ――翌日。生徒玄関の廊下前には『クラス対抗戦日程表』が大きく貼り出されていた。

 その対戦カードを見て、僕は思わず笑みを零してしまう。――ああ、来月の試合が楽しみだ。

 

 ○第一回戦

 一年一組代表・織斑一夏

      対

 一年二組代表・凰鈴音(中国代表候補生)

 

 

◆ ◇ ◆

 

 

 今は五時限目の座学の授業。

 担任の先生が解説しながら板書をしているのに、私――更識簪は、その姿をぼーっと眺めながら聞いていた。

 元々内容は事前に勉強しているから、問題はないけれど、どうしても頭に入ってこない。

 広げたノートは半分すら書き写していない。

 ……集中しなきゃ。

 そう思い、筆記用具を握り直すと、鮮明に昨日の出来事と流善の言葉が頭に過ぎる。

 

『君は無能なんかじゃない。絶対に。これだけは断言する』

 

「――っ……」

 

 顔が熱くなるのを感じ、咄嗟に首を振る。

 ……あんな風に言われるなんて思わなかった。

 それに、男の子から褒められたのも生まれて初めて。

 名前も知らない大人達に陰で『更識家の無能』と呼ばれている私を、流善は真正面から否定してくれた。そして私が始めた機体作り(わがまま)を手伝わせてほしいとも。

 

 ――嬉しかった。

 

 ずっと抱いていた価値観をいとも簡単にひっくり返されたような気がして、心が震えるのを感じた。

 強引だったけれど聞かせてくれた流善の昔話。

 偉大過ぎる兄への憧れと苦悩……そして挫折。

 それでも再び前へと歩き出し、今度こそかつての夢を叶えてみせると宣言した時の流善は、凄く格好良くて、眩しかった。

 まるで、どんなに打ちのめされても立ち上がる、『ヒーロー』みたいで――ふと流善の優しい笑顔を思い出す。

 途端に何故かドキドキと胸の鼓動は早くなってしまう。うるさくて、変な感覚。……不整脈? これも初めてだ。

 

 ……多分私は、流善に甘えてるんだと思う。

 更識の人間として、誰かに弱音を吐いたり、より掛かろうとするのは良くない事だって分かってる。

 でも、それでも、私は彼の手を取りたいと思っている。思ってしまっている。

 だけどそれだけでは駄目。

 流善に背中を押してもらって、勇気づけられたのに、ただ手を取るだけじゃ何も変わらないだろう。

 ちゃんと私自身とも向き合わなければいけない。

 そうしたら私も、流善みたいに前を向いて歩けるだろうか。

 ……歩けたら、姉さんとまた一緒に笑えるかな?

 

「――更――ん」 

 

 あ、その前に気持ちの整理をさせたいって言っちゃったから、なるべく早く応えなきゃ。流善は嫌な顔しないと思うけど、長く待たせちゃうのも悪いし……。

 

「――更識――ん!」

 

 そういえば昨日、鈴との会話の中で流善はモテたことないって言っていたけれど、あれは絶対にウソだと思う。

 確かに背が高くて目つきはちょっと怖い……でもその分口調や接し方は優しい。絶対前の学校で女の子達に囲まれていたに違いない。

 最近では本音がよく一緒にいるのを目にする。……胸あたりがもやもや? 変な感じ――

 

「更識簪さん!!」

「!?」

 

 名前を呼ばれ、私の意識がハッとする。

 見るとそこには、担任の先生が腕を組んで立っており、クラスの視線が私に集中していた。

 

「何回も呼んでいるのに返事がないなんて、何か考え事?」 

「い、いや……えっと、大丈夫です……」

「そう? なら良いんだけど。今は授業中なんだからこっちに集中してちょうだい。じゃあ続きから呼んでくれる?」

「続き、ですか……?」

 

 ど、どうしよう、全然聞いてなかった……。どのページのどこを読めばいいかが分からない。

 目を走らせ必死にページを捲って探していると、先生が小さなため息を吐いた。うう……罪悪感。

 

「一四ページの頭からよ」

「は、はいっ。……えーっと……?」

「……教科書、逆になってるわよ」

「え? ……あ」

 

 くすくすと笑い声が微かに聞こえる。

 は、恥ずかしい……。

 穴があったら入りたい……。

 羞恥心に苛まれながら反省し、今度はちゃんと授業に集中しよう、と誓う私なのであった。

 

 

◆ ◇ ◆

 

 

 あれから数週間が経過したものの、鈴さんと一夏君の喧嘩(?)は継続中らしい。というか悪化した。何故に。

 なんでも、約束の件で一夏君を問い詰めた所、なんやかんやで口論に発展したそうだ。

 怒り心頭の鈴さんからは『一夏に貧乳って言われたァァァ!!!』と、半泣きかつ叫ばれながら僕はタックルを食らった。しかも廊下で。ホント最近、物理的ダメージが増えた気がする……。

 

 そんなある日の放課後。

 僕は簪さんに連れられてIS整備室を訪れていた。

 ここには授業や演習で使われた機体が集められており、生徒達自身が整備している。なのでとても忙しない。

 奥の方まで歩いた所で簪さんが足を止めた。こちらを振り返り、説明してくれる。

 

「……本来この設備は、二年生から始まる『整備科』で使われる場所。でも私は、先生達に無理言って、使わせてもらっているの。――……じゃあ、始めるね」

 

 言って、簪さんは右手を前に翳す。

 

「おいで……『打鉄弐式』」

 

 その声に呼応して、中指にはめられたクリスタルの指輪が光り輝く。

 光はやがて簪さんの身を包み、装甲を纏ったのと同時に浮遊する。

 

「これが……」

 

 整備室に向かう道中にしてくれた説明を思い出す。

 確か『打鉄』の後継機で発展型と聞いていたけれど、外見はずいぶんと違うようだ。

 

 腰のスカートアーマーは機動性能が重視された独立のウィングスカートに換装されており、防御型の打鉄に対して、弐式の方は機動型らしい。

 腕部装甲も打鉄よりスマートなラインになっている。おそらく格闘戦における、運動性能を活かすための構造にしているのだろう。

 

「あれ? 肩はシールドじゃないんだ」

「……うん、大型のウイングスラスターにしてる。あとは小型の補佐として、ジェットブースターを前後で二基搭載。……よいしょっと」

 

 ISを跪かせて装着を解除した簪さんが、解説を続ける。

 

「機体は形になっているだけで、武装は全然まだ……。……稼働データの方も取れてないし、他の細かい調整もしないとダメ……」

「そっか、なるほどね。ちにみに武装はどんなの?」

「マルチ・ロックオン・システムによる高性能誘導ミサイル……。最大で同時に四八発の一斉射撃を可能にする予定……です」

「何それ、ロマンの塊じゃないかっ」

 

 実践で戦ったらインパクト凄そうだ。

 でもイイよね、ミサイル。あのドドドッって感じの。ドが多いほうがなお良し。

 そういえば兄ちゃんが言ってた、骨喰に入れる『とっておき』って一体何だろう?

 もしかして《無骸(むがい)》以外の武装かな? ミサイルだったらちょっと嬉しい。楽しみだけれど、期待しないでおこう。

 そんな事を考えながら、打鉄弐式に近寄る。

 

「…………。簪さん、触ってみてもいい?」

「う、うん、いいよ」

「ありがとう」

 

 掌を打鉄弐式の装甲へ。

 するとその瞬間、あの激しい衝撃と共に手が弾かれた。

 ……うーん、やっぱりか。本当何なだろうね、これ。痺れて痛いし。

 慌てた様子で簪さんが駆け寄ってくる。

 

「りゅ、流善大丈夫!?」

「ああ、大丈夫だよ」

 

 ほらね、と手をひらひら振って返す。

 

「ISに触れたらバチッてなるんだよね、僕。でも最初だけだから……ほら、もう大丈夫でしょ?」

「それって体質……?」

「うーん、どうだろう。現段階じゃ何も分からないんだ。織斑先生に聞いても知らなさそうだったし」

「そうなんだ」

「兄ちゃんには変な目で引かれた」

「……引かれたんだ」

「うん」

 

 反射的に手を出さなかった僕は偉いと思う。足は出ちゃったけど。まあ、躱されてしまったが。……腹立つ。

 不意に腕が軽く引っ張られる。見れば簪さんが僕の袖口を掴んでいた。

 

「? どうかしたかい?」

「あ、あのね、流善に聞いて欲しいことがあるの……!」

 

 緊張からなのか、声が少しだけ震えている。

 

「――……私には、何もないって思ってた。打鉄弐式を引き取って始めた専用作りも、自分を肯定したいが為のわがままで自己満足。……ずっと、逃げてたの。更識からも、姉さんからも。――でも、今は違う……!」

 

 決意に満ちたその瞳は、僕を真っ直ぐ見つめていた。

 

「もう逃げたくない! たとえ姉さんに嫌われていても、ちゃんと向き合いたいの! だからお願いっ、私のわがままに付き合ってください!!」

「――! ……そっか。……そっかぁ」

 

 僕は安堵して、その場にへなへなと座った。簪さんが不思議そうにする。

 

「りゅ、流善? どうしたの……?」

「あぁ、いや、安心してね。手伝いの提案をした時に結構出過ぎた真似してたから、断わられなくて良かったなって。考えてくれてありがとう」

「そ、そんな、出過ぎた真似なんて思ってない……。あなたが言ってくれたおかけで、諦めずに頑張ろうって決心がつけれたの。だからお礼を言わなきゃいけないのは私の方……。背中を押してくれて、ありがとう」

 

 そう言って微笑んだ簪さんに、僕はほっと胸を撫で下ろした。どうやら随分と前向きに考えてくれたらしい。本当に良かった。ふと、ある事を思い出す。

 

「あ、そうだ。簪さんに渡すものがあるんだった」

「? 私に渡すもの?」

「うん。まあ、これを受け取るかどうかは君次第だけど」

 

 僕はポケットからUSBメモリを取り出した。

 それを見た簪さんが首を傾げる。

 

「それは……?」

「機体作りに役立つデータ媒体だと思う。お嬢が簪さんに用意したんだ」

「え……!?」

 

 予想通り簪さんが驚いた表情をする。

 今思えば、あの時Logos・High-endに着いて来たのも、おそらくデータを用意するためだったのだろう。僕が社長と面談している間、技術開発室の人達から話をあれこれ聞いていたらしい。

 ……そういえばこのUSBの件は内緒だったっけ。つい流れで話してしまった。

 お嬢に怒られるかな? でも何れは気づかれるだろうし……。うん、あとでちゃんと謝っておこう。

 

「お嬢は仲直りしたいんだよ」

「仲直り……?」

「うん。――だけど長い間まともに話せてないから、君との接し方が分からないんだ。強く拒絶されるのも怖いしね。それでも、助けたい気持ちで機体データ(これ)を用意したんだよ」

「…………っ」

「さっき言ったとおり、受け取るかどうかは君次第。……

さあ、どうする?」

「私は…………」

 

 簪さんは、差し出した僕の手を見つめる。

 そして数秒考えた後、首を横に振った。

 

「ううん、大丈夫。姉さんの気持ちは嬉しいけど、姉さんには頼らないで完成させたいの」

「そっか」

「それに、今は流善がいるから……」

「ん? 僕がなんだって?」

「な、なんでもないっ」

 

 何故か顔を逸らされた。ほんのり赤いのは気の所為?

 それはともかく、予想はついていたとはいえ、やっぱり断ったか。なんか少し嬉しいな。

 僕はUSBメモリをポケットの中に戻し、軽く手を叩く。

 

「さて、思い立ったら吉日ってことで……早速行こうか」

「? 行くって何処に……?」

「そんなの決まってるじゃないか」

 

 ――お嬢、あの時は『所詮赤の他人だから、君と簪さんの問題に深く首を突っ込まないつもり』って言ったけど……ごめん、前言撤回だ。

 僕は首を傾げる簪さんに、ニヤリと笑って見せる。

 

「君のお姉さんのとこにだよ」

 

 君ら姉妹の問題に、意地でも首を突っ込ませてもらうよ。

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