インフィニット・ストラトス【Garbage Dance】 作::Crane
ISに触れてぶっ倒れたあの日から、僕の日常は目まぐるしく変わり、怒涛の連続だったと思う。
まず保健室で目を覚ました僕を待っていたのは、過剰なまでに囲む黒服姿の人達。
掴んだ僕の手をブンブン振って興奮する校長。『君は我が校のスーパースターだ!!』とか言われても困ります。記念の横断幕を作ろうとするのはやめてください、どう考えてもお金の無駄です。あと滅茶苦茶恥ずかしい。
全力で止めてくれた教頭には頭が上がらない。僕は教頭の胃に穴が空いてないか心配です。
帰ろうとした時も黒塗りの高級車で家まで送られた。
車内で黒服の美人さんに挟まれ、あれこれ質問されたけどまったく覚えてない。家に着くまでの間ずっと適当に相槌打ってた気がする。
あとは病院で丸一日精密検査受けたり、IS関連の規則とかルールを教えられたり、厄介な人達が家に来たり、寝込んだり……そんな感じで過ごした。
そして四月。春のうららかな陽気に恵まれた今日。
廊下を歩く僕の足取りは、鉛のように重かった。
……憂鬱だな。
こういう時ってどうするんだっけ?
確か外の景色を見れば少しはリラックス出来るとかなんとかって、雑誌に載ってたな。
ものは試しと、足を止めた僕は窓の外を見てみる。
新しい春に相応しい透き通るような晴れ晴れとした青空。そこで大きな翼を広げた鳥……ではなく、ISが薄雲を切り裂いて飛翔していた。
首根っこを掴まれて一気に現実に引き戻された気分になる。見なきゃ良かったよ、こんちくしょう!!
はあ……今すぐ帰りたい……。
ここは日本に設置された、IS操縦者育成用の特殊国立高等学校――通称『IS学園』。ISの操縦技術だけでなく専門のメカニックなど、ISに関連する人材はほぼこの学園で育成されているそうだ。
「おい、何をもたもたしている。早く着いてこい」
僕の数歩先を歩いていた女性が振り返った。
後ろで結んだ長い黒髪と、黒のレデイスーツ。スラリとした長身。鋭い吊り目が狼を彷彿とさせる。
この人は僕が今日からお世話になるクラスの担任の先生――織斑千冬先生である。
三年に一度開催されるISの世界大会『モンド・グロッソ』の初代優勝者という凄い経歴の持ち主で、その美貌と実力から敬意を表して『ブリュンヒルデ』と呼ばれている。
ISについてとことん無知な僕でも名前を知っているほど、超超超有名人なのだ。
まさかそんな、とんでもなくスゴい人が担任になるとは……さすがISの学校。スケールが違いすぎる。敷地も広すぎる。絶対迷子になる。
「あ、はい。すみません」
短く返事をして織斑先生の横へ。
背は僕の方が高いけれど、横に立っただけで圧倒的なオーラというものをひしひしと感じてしまう。さすが最強。ブリュンヒルデの名は伊達じゃない。
「…………」
織斑先生がジッと見てくる。
「……? 僕の顔に何か付いてます?」
「――いや。顔色が悪いなと思ってな。大丈夫か?」
「え? そんなことないですよ?? ここ来る前に頭痛薬と胃薬飲んできましたし、僕がここに入学したのも、『世界を巻き込んだ壮大なドッキリ!』なんじゃないかなって淡い期待なんてしてませんし、ご覧の通り体調も万全ですよ。アッハハハ…………はぁ、帰りたい。うわあっ、ISが飛んでるぅ!!」
「情緒不安定だな……。だが、どこかの研究施設でモルモットになるより
「……それは、まあ……そのぅ……そうなんですけど」
「喜べ、思春期。女の花園だぞ」
「とんでもないこと言ってるよこの担任」
あ、やばい、お腹がキリキリしてきたぁぁ……。
今更だけどなんで転校生スタイルなんだよ。絶対クラス全員の視線を浴ひながら自己紹介するパターンだよね? 失敗したら『変な人』とか『暗い人』とか『つまんない人』とかのレッテルが貼られるダメなやつじゃないか。
うあー、緊張で口から心臓がでゅるるんって出そう。ていうか吐く。
「さて、着いたぞ」
「え、断頭台にですか? 首チョンパはちょっと……」
「教室にだ馬鹿者。私が呼んだら入ってこい」
「あ、はい、了解です……」
いつの間にやら教室の前に到着していたようで、扉を開けた織斑先生が教室の中へと入っていく。
扉が閉まる瞬間、立ってキョロキョロとしている少年が見えた。タイミング的に自己紹介をしてたっぽい。……スベッたのかな? なんて言ったんだろう、とても気にな――
パアンッ!
………………何、今の音???
パアンッ!!
あ、まただ。今度はさっきのより音が大きい。教室の中で何が起きているんだろう? 誰か銃でも使ってます? 物騒すぎるだろIS学園。
「……そう言えば、自己紹介どうしよう」
やばい、全然考えてなかったや。
やっぱり無難に自分の好き嫌いとか、趣味嗜好を言えばいいのかな? でも言ったところでって思うし……もう名前だけでいいか。うん、そうしよう。
それにしても制服これで合ってます? 学園側から渡されたものをそのまま着たけど、学園のエンブレムが入った白黒のパーカーって……。まあ、タダらしいし、楽だから良いんだけどね。
「――――よし。入ってこい」
「!」
織斑先生に呼ばれ、僕の心臓が跳ねる。
……ついにきた。きてしまった……!
胸を抑えて軽く深呼吸。
大丈夫大丈夫、と自分に言い聞かせ扉に手をかけ、スライド式の扉を開け、いざっ!!!
自分へと一気に集中する女子の視線。
聞こえてくるヒソヒソ声。
……………………………………フッ。
「あ、失礼しましたあ〜」
僕は後ろに一歩下がり、扉をゆっくり閉めた。
う〜〜〜〜〜〜〜ん、無理☆
え、今からあそこで自己紹介するの? 想像の倍以上過酷すぎて無理なんだけど?? ていうか扉閉めちゃったせいでさらに入りづらくなったんですが??? 僕の学園生活終わったかもしれない……。
「…………お前は何をしている?」
「へ?
いつの間にか開かれていた扉から織斑先生の腕が伸び、顔面を思いっきり掴まれた。所謂アイアンクローである。
「痛い痛い痛い痛い痛いっっ!!!??? めり込んでるめり込んでる!? ミシミシいってる!?
「喚くな五月蝿いぞ。グズグズしているからこうなるんだ。……掴みやすいな、芥の顔」
「掴みやすいって何っ!?」
クソっ、振り解けない! どんな握力してるんですか、絶対頭蓋骨に指刺さってますよこれ!!
織斑先生にアイアンクローされたまま、ズルズルと引きずられ強制的に教室の中へ。そして教卓の前まで来ると雑に解放された。
「時間が無いんだ。さっさと自己紹介をしろ」
「……あ゙い゙。………………あく」
「まさかと思うが、名前だけ言って終わるだなんてつまらん自己紹介はしないだろうな?」
「ひぇっ」
マジかよバレてた。
気を取り直すように咳払いをし、前を向くと好奇的な視線が集まり気圧されそうになった。……ぐう、腹括るしかないか……。
「……えと、塵芥の芥に、流れると善悪の善で、芥流善っていいます。と、歳は十六で、みなさんより一つだけ年上ですけど、あんまり気にしないでください。ISの知識は限りなく皆無に等しいので、ここでみなさんと一緒に学ばせてもらえたらなって思ってます。……はい。よっ……よろしくお願いしゃふすんっ」
言って、ぺこりとお辞儀した。
……………………うん。なんで最後で噛むんだよ、バカか僕の舌は。頑張って回せよ呂律を。なんだ、しゃふすんって独特すぎるだろ。
「あ、顔赤くなってる」
「緊張してたんだね〜」
「ちょっとかわいいかも……」
クスクスと女子達の笑い声が聞こえ、もの凄い羞恥心に苛まれる中、僕の新しい春が始まった。
ちなみに織斑先生から四三点の評価を貰った。百点満点中のらしい。解せぬ。