インフィニット・ストラトス【Garbage Dance】   作::Crane

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第5話:決闘準備

 みなさんどうもこんばんは芥です。

 今僕の目の前には風穴だらけの扉があります。

 なんぞ……これ。

 寮の扉って木製だよね? なんでこんなことになってんのさ。嘆息して当事者の少年へ怪訝な視線を向ける。

 

「……助けてって言われたから来たんだけど……一夏君、これ何? 帰っていいかな?」

「!? た、助けてくださいよ! 俺このままだと扉みたいに風穴空いちゃいますし、廊下で寝る羽目になるんですけど!?」

「アハハ」

「何笑ってるんですか!?」

 

 時は数分前に遡る。

 部屋で荷解きをしていたら更識さんから、『……シャワー浴びてる間だけ部屋の外に出ててほしい』と言われた。音を聞かれたくないのだろう。僕は頷き、廊下に出て夜ご飯の事を呑気に考えていたのだ。

 血相を変えた一夏君が来るまでは。

 なんでもルームメイトになった幼馴染を怒らせたらしい。

 

「で。僕はどうすればいいのさ」

「ほ、箒のやつを宥めてくれるだけでもありがたいです……」

「宥めるねえ……」

 

 扉を風穴だらけにした人を? 無茶言いよるわ。

 

「なになに、どうしたの?」

「あっ、織斑くんと芥さんだ」

「うわっ。何あの扉?」

 

 騒ぎすぎたせいで部屋からぞろぞろと女子が出てきた。みんな制服ではなく、ルームウェアといったラフな格好に着替えていている。中にはブラウスを羽織っただけで胸元を覗かせている子もいて、目のやり場に困る困る。男がいるんだからもうちょっと危機感を持って欲しい。

 

「あっくんやっほ〜」

 

 布仏さんもやって来た。彼女はきつねの着ぐるみみたいなパジャマを着ている。

 

「……布仏さんはそのままでいてね」

「? よくわかんないけどわかった〜」

 

 首を傾げる布仏さんにほっこりしつつ、扉をノック。すぐさま不機嫌を含んだ声が聞こえた。

 

「…………なんだ」

「一年一組の芥です」

「っ!?」

「えーっと。一夏君が何をしでかしたのかは知らないけど、彼も反省してるみたいなんで部屋に入れてあげてくれませんか?」

「…………」

 

 沈黙がしばらく続いたのち、扉がゆっくり開いた。

 中にいたのは剣道着を身に纏った少女。手には木刀が握られている。え、木刀(それ)で穴空けたの? やばぁ。

 

「……同じクラスの篠ノ之箒です。一夏がご迷惑をかけてすみません」

「別に迷惑じゃないよ。困った時はお互い様だし。開けてくれたってことは、一夏君のこと許してくれるのかな、篠ノ之さん」

「……許すかどうかはこれから決めます」

「そ、そっか……。二人ともなるべく喧嘩しないようにね?」

「は、はい!」「……善処します」

 

 頷く一夏君と、そっぽを向く篠ノ之さん。

 一夏君が部屋に入って行くのを見届けてから僕は部屋に戻った。その道中悲鳴のようなものが聞こえた気がしたが、聞かなかったことにした。

 

 

◆ ◇ ◆

 

 

 翌日。三時限目が終わり、今はつかの間の休み時間。

 

「…………うーん」

 

 相も変わらず小難しい単語のオンパレードで、僕の頭はパンク寸前だった。教科書を睨んで唸ることしか出来ない。

 授業に遅れないよう夜中まで復習をしたつもりだったけど全然だ。現実逃避しないで、入学前に渡された参考書をもっと読んでおけば良かったなと今更ながらちょっと後悔。

 ある程度を理解しても、複雑かつ厄介な数学の計算式を延々と解いてるような、そんな感覚に陥ってしまう。

 ちなみに次の時間は『空中におけるIS基本制動』だそうだ。なんのこっちゃ。

 さっきの授業も、山田先生がISの基礎知識を教えてくれたけど、女性にしか分からないことを例えで話されても困ります。下着のサイズがどうのこうのって、あと目が合った時照れないでください、反応しにくいでしょうが。

 それにしても一夏君の人気が凄い。

 彼の机に半数の女子達が詰めかけ、質問とか食事の誘いをしてる。それを離れた位置で眺める篠ノ之さんの顔は不機嫌だ。…………もしかして……あ、織斑先生。

 

「休み時間は終わりだ。散れ」

 

 出席簿で一夏君の頭を叩き、発砲音みたいな音が響く。女子達も蜘蛛の子を散らすかのように、自分の席へと戻って行った。

 

「さて、織斑、芥、お前ら二人のISだが準備に時間がかかる」

「「へ?」」

「予備機がない。だから、少し待て。織斑は学園側から。芥はとある企業が専用機を用意したいと言っているそうだ」

 

 専用機って、国とか企業に所属する人にしか与えられないはず……。

 教室がざわめく中、ちんぷんかんぷんな様子の一夏君に、織斑先生がため息混じりに呟く。

 

「織斑。教科書六ページを音読しろ」

「え、えーと……――」

 

 ――要約するとこんな感じ。

 ①ISの中心であるコアの制作技術は開示されておらず、現在ISは467機しか存在していない。

 ②ISのコアすべての作成者である篠ノ之博士以外コアを作ることは不可能。しかし篠ノ之博士は一定数以上の作成を拒絶している。

 ③ 男性IS操縦者のデータ収集のため専用機用意するからモルモットになれ。

 ――以上である。モルモットになれは酷いと思う。

 

「あの、先生。篠ノ之さんって、もしかして篠ノ之博士の関係者だったりするんでしょうか……?」

「そうだ。篠ノ之はあいつの妹だ」

 

 おずおずと手を挙げた女子の質問に、織斑先生はあっさりと答えた。

 いや、そんな簡単に答えていいんですか? プライバシー侵害のへったくれもない……。

 案の定、授業中だというのに、篠ノ之博士のことに興味津々な女子達が篠ノ之さんの元に集まる。

 

「あの人は関係ない!」

 

 突然の大声に僕は両目を瞬かせた。

 篠ノ之さんに群がっていた女子たちも、困惑の表情を浮かべる。

 

「……大声を出してすまない。だが、私はあの人じゃない。だから教えられるようなことは何もない……」

 

 そう言って篠ノ之さんは、窓の外に顔を向けてしまう。盛り上がっていた女子達は、冷や水を浴びせられたかのように各々表情を曇らせ、席に戻った。

 ……兄弟関係ってどこも複雑なんだな。

 一瞬、昔を思い出し、僕は下唇を噛んだ。

 

「……授業を始めるぞ。山田先生、号令を」

「は、はい! それでは、空中におけるIS基本制動を――」

 

 教室の重い雰囲気を感じながらも僕は、ノートを開きペンを走らせた。

 

 

◆ ◇ ◆

 

 

「今から箒にISを教えてもらうために剣道場行くんですけど、流善さんもどうですか?」

「……ISについて教えて貰うんだよね??」

「はい」

 

 放課後、教科書やノートを鞄に詰めていた僕に一夏君がそんなことを言ってきた。

 なんで剣道? と思いつつ、よく見ると一夏君の後ろには腕を組んだ篠ノ之さんが立っている。

 昨日と今日の朝みたいに不機嫌そうな顔をしているが、心做しかソワソワしているような……気のせい――ハッ!

 ピシャーン! と脳内に電流が走った。

 なるほどなるほど〜。そういうことか〜。

 鞄のファスナーを勢いよく閉めて答える。

 

「誘ってくれてありがとう! でも、僕もこの後ちょっと先生達に用事があるから、また今度ってことで。ごめんね!!」

「そうですか。ならしょうがな……テンション高くないですか? それに何かニヤニヤしてるし」

「気のせいだよ!! じゃっ、また後でね!!」

 

 鞄を背負って飛び出すように教室を出た。出る間際、篠ノ之さんへサムズアップ。だけど本人は「?」とよく分かってない感じだった。

 昨日のルームメイト騒動から何となく思ってたけど、篠ノ之さんって絶対一夏君のこと好きだよね? 幼馴染って話だし、キツく当たってたのも照れ隠しの一つだろう。僕が一夏君の誘いを断ったときもホッとしてたから僕の予想は当たっているに違いない!

 やっべぇー、青春だあ~。アオハルだあ~。爆発しろお〜〜。

 

「っと……そうだったそうだった。早く行かなきゃ」

 

 本来の目的を思い出し、職員室を目指して小走り気味に廊下を歩き始めた……のだが。

 

「職員室どこだよっ?」

 

 虚しい声が響く。

 先月までいた学校の数倍広いIS学園で僕は迷子になっていた。認めたくないけど!

 場所を聞こうにも、放課後なので生徒が一人もいない。そもそも自分の現在地すら分からない状況だ。……これはひょっとして……

 

「詰んだ…………?」

「どうかしたの?」

「っ!?」

 

 不意に聞こえた声に振り返る。

 そこにいたのは一人の女子生徒。ネクタイの色が黄色だから二年生だ。手には扇子が握られている。

 はっ、場所を聞くなら今がチャンス!

 

「あ、あのっ、職員室ってどこですか!?」

「職員室に行きたいの? 職員室ならこのまま真っ直ぐ行って、階段を下りた突き当たりの先にあるわ」

「本当ですかっ、ありがとうございます!!」

「どういたしまして。君も頑張ってね」

 

 何を頑張るかは分からないけれど、親切な二年生の女子生徒にお礼を言って、僕は職員室へと向かった。ようやくたどり着けそうだ。あの二年生がいなければ本当にやばかったかもしれない。ていうかこの学園は校舎案内とか初日にしないのかよ。僕みたいな迷子が今後絶対現れるぞ。

 階段を下り、教えられたとおりの突き当たりを曲がったことろで、ちょうど職員室から出てきた二人の先生に声をかける。

 

「織斑先生っ、山田先生っ」

「ん? 芥か、どうした」

「あ、もしかして、授業でわからないところでもありました?」

「それもまぁありますけど、今は別件です。えと、学園のISを貸し出ししてるって聞いたんですけど、それって本当ですか?」

 

 そう尋ねると、織斑先生は頷いた。

 

「ああ。申請をすればこちらから貸し出すことは可能だ。が、今のところ一ヶ月以上待つことになるだろう」

「いッ!?」

「ISの教育機関とはいえ数に限りがありますからね……。みんな練習したくて申請するので常に定員が溢れてるんです」

「そう……ですか……」

 

 甘く見ていた……いや、当然か。山田先生の言うとおり学園のISにも限度がある。僕みたいに練習したい人が大勢いるわけで、そりゃ借りられるまで一ヶ月以上かかるわけだ。…………どうしよう。

 

「来週の決闘のためか?」

「……まあ、流れで戦うことになっちゃいましたけど、戦うからにはやれるだけのことはしたいんで……」

「ふっ。『取るに足らないプライド』ってやつか」

「うぐっ……、掘り返さないでくださいよぉ……」

「ふふっ」

 

 ニヤニヤ笑う織斑先生が、昨日のことをネタにいじってくる。山田先生もニコニコ笑顔だし……。

 と、山田先生が思い出したかのように両手を合わせた。

 

「ISの貸し出しは難しいですけど、映像教材や試合の記録(ログ)でしたら貸し出せますよ? それでよろしければですが」

「そういうのもあるんですね。借りますっ、貸してください!」

「分かりました。今用意してきますので、ちょっと待っててください」

 

 そう言って山田先生は嬉しそうに職員室へと戻っていく。

 ISは残念だったけど教材や試合の記録(ログ)が貸してくれるのは僥倖だ。付け焼き刃程度になるだけかもしれなが、来週までこれで頑張ろう。睡眠時間を削るのも致し方ない。

 よし! 寮に帰ったら早速取りかかろう!

 

 ――――なんて、余裕をぶっこいていた僕は今、黄昏ていた。

 

「…………な、何これ」

 

 机と床に置いた、()()()()()()()()()を指さして目を見開く更識さんに、力なく答える。

 

「……えっと……大きい方がISの教材と資料で、小さい方が試合の記録(ログ)……。あとこれが、『せっかくだから、これについてのレポートを提出してもらおう。提出期限は来週の火曜日だ』って、織斑先生に渡されたレポート用紙の束です……」

「……………………頑張っ……て……?」

「ゔん゙……!」

 

 IS学園二日目。

 担任と副担任に対策を求めたら段ボール箱を乗せた台車が来た。そして余計な課題が追加され、ルームメイトに気を使われた僕は泣いた。

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