インフィニット・ストラトス【Garbage Dance】   作::Crane

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第7話:ハイパーセンサー

 週明けの月曜日、その放課後。クラス代表を決める決闘の日。

 現在第三アリーナでは一夏君とオルコットさんの試合が行われている。かなり白熱しているようで、歓声が別室で待機している僕にまで聞こえてくる。

 この試合が終われば次は僕の番だ。最後に一夏君と戦うことにもなっているので結構ハードである。

 

「………………」

 

 それにしても落ち着かない。足もなんかふわふわする……。

 朝からずっとこんな感じだった。

 いつも制服として羽織っているパーカーを裏表反対で着ていたし、授業中も何回か注意されて織斑先生のアイアンクローが炸裂したし……今も部屋の中をウロウロしながら、掌に人って文字をひたすら書いている。

 時折傾いてもいない壁掛け時計の位置を……あれ? あの時計……やっぱり位置がおかしい……二ミリほど。直さなきゃ!

 

「――って、落ち着け馬鹿!!」

 

 両頬を力いっぱい叩き、大きくゆっくり深呼吸をして精神統一。よしっ、ちょっと落ち着いてきた。深呼吸って偉大だ。

 問題ない、今日までの一週間を思い出せ。更識さんも色々と教えてくれたんだから、後悔しないよう全力で戦いに臨めばいいんだ。

 でも更識さんが見に行けないって言ってたのはちょっと残念。まあしょうがないか。何かと忙しそうだし、見てほしいのは僕の我儘だ。こうなったらオルコットさんに勝って驚かせよう。

 

「…………一夏君とオルコットさんの試合ってどんなのだろう」

 

 二人の試合は観覧禁止となっている。なんでも公平を期しての処置らしい。当然と言ってしまえばそこまでなんなけど、やっぱり気になってしまう。

 

 ちなみに今日僕が使用することになっているISは、日本純国産の第二世代型IS『打鉄』だ。

 昨日、寮の部屋で更識さんにISの勉強を見てもらっていた時、突然やって来た織斑先生から『試合で使うISを決めろ。一〇秒でだ』と滅茶苦茶なことを言われ、僕は打鉄を選んだ。

 もう一つの『ラファール・リヴァイブ』も汎用性があって良さそうだったけれど、初めて触れたISということで打鉄に決めた。更識さん曰く打鉄は防御に特化したISだそうで、小一時間ぐらい熱弁された。腕をぶんぶん振って話してくれた更識さんを可愛いと思ったのは内緒だ。

 

『芥くん。織斑くんとオルコットさんの試合が終わりましたので、第三アリーナのAピットに来てください』

「!? は、はい!!」

 

 天井のスピーカーから山田先生の声が響いて、反射的に返事をしてしまった。僕一人しかいない部屋なので少し反響。

 何ともいえない羞恥心に苛まれつつ、足早に部屋を出てAピットに向かっていると、篠ノ之さんと(やつ)れた顔で分厚い本を抱える一夏君が歩いていた。

 あれは『IS起動におけるルールブック』だ。僕も読んだよそれ。絶対頭ぐちゃってできるよね。ホント鈍器だよね。

 

「一夏君、お疲れ様。試合どうだった?」

「……結構いいところまではいけたんですけど、エネルギー切れで負けました……」

 

 困ったような、悔しいような、そんな感情が混じった顔で一夏君が言う。……そっか。

 

「じゃあ僕が仇取らなきゃね」

「っ、頼みます、流善さん。俺、なんだかんだ流善さんと戦うのも楽しみにしてますから」

「! 臨むところだよ」

 

 コツンと互いの拳同士を突き合わせる。

 何かを言い合う二人と別れ、指定のピットに入った僕を待っていたのは、腕を組んだ織斑先生と椅子に座って何かを操作している山田先生だった。その奥には打鉄が鎮座している。

 

「来たか。現在オルコットは、織斑との戦闘で損傷した装備を回復させている。お前も今のうち打鉄を装着しろ。やり方は」

「……ISに背中を預けるように座る……ですよね?」

「ふっ、しっかり勉強しているな。さ、準備を開始しろ」

「はい!」

 

 打鉄に駆け寄り、手を伸ばす。

 

「――ッ!」

 

 装甲に触れた瞬間、初めて触れた時と同様に電流が走った。

 だけどぶっ倒れるほどじゃない。

 掌をグーパーさせて頷く。大丈夫、頭痛も気分も悪くない。

 何度も何度も読んだ手順通りに身を任せ、打鉄を纏う。

 視界がクリアになり、各種のセンサーが値を知らせてくる。そして、起動したISのハイパーセンサーが、オルコットさんの機体を感知した。…………何これ、やっば。

 

「オルコットの準備が整ったようだ。芥、行けるか?」

無問題(もうまんたい)ですっ。いつでも、行けます!」

 

 強い首肯で織斑先生に返事をして、ピット・ゲートに進む。大きく息を吸い、一気に吐いて声を張り上げる!

 

「芥、出ます!!」

 

 開いたゲートの先にはすでに『敵』の姿があった。

 

「…………あれが」

 

 あれがオルコットさんの専用機、第三世代型のIS『ブルー・ティアーズ』……か。

 鮮やかな青色を基調とした機体。背に従えた四枚の特徴的なフィン・アーマー。その外見も相まって、気高い王国騎士を彷彿とさせた。

 そして、彼女の手には二メートル以上はあるであろう長い銃器、六七口径特殊レーザーライフル《スターライトmkⅢ》が握られている。……カッコよぉ。

 アリーナ・ステージの直径は二〇〇メートル。ハイパーセンサーによれば、発射から目標到達までに予測される時間は〇.四秒。すでに賽は投げられている。

 

「今日はよろしくね、オルコットさん」

「……………………」

「? あれ? オルコットさん??」

 

 牽制の意味合いを兼ねて、とりあえず挨拶をしてみたもののオルコットさんは無反応。

 心ここに在らずというか、上の空って感じでぼーっとしている。ん? 頬が若干紅い? なんで?

 

「……もしもーし」

「…………」

「セシリア・オルコットさーん?」

「…………」

「オルコットさん!!」

「っ!? な、なんですの!?」

「なんですのじゃないよ、やっと反応してくれた。どうしたの、もしかして体調でも悪い?」

「い、いえ、そんなことありませんわ。体調に問題ありません。心配してくれてありがとうございます」

 

 ……………………誰???

 いや彼女の名前は分かる。だけどこの人ってこんな感じだったけ? 入学初日に見せられた男を見下す目と、あのプライドの高い高飛車っぷりは何処へ?

 今朝なんて『あなた達が奴隷なるのを楽しみにしてますわ』とか嫌味ったらしく言ってたのに……。

 

「…………えーっと、ひょっとして何かあった?」

「!? べ、べべべ別に何もありませわっ」

「絶対何かあった時の反応してるじゃん……」

「本当に何もありませんっ。いっ、一夏さんとも何もなくってよ!!」

「…………一夏君の名前は出してないんだけど……」

「ふぇっ!?」

「えぇ……」

 

 ぼっと顔を更に紅くするオルコットさん。

 …………どうしよう反応に困る。

 前の試合でオルコットさんのトゲトゲしさがほぼ全部抜けるって、戦ってる時に一体何したのさ一夏君……。

 オルコットさんもオルコットさんでちょろすぎない? 性格逆転してるじゃないか。完全に乙女だよ。セシリア・チョロコットだよもう。

 

「チョロコットさん」

「チョロ!?」

「あ、ごめん、間違えた。オルコットさん。何があったかは知らないけどさ、武器を構えなよ。結果がどうであれ、僕は君に勝つつもりでいるから!」

「……そうでしたわね、今はあなたとの試合。もう、男だからと言って見下しませんわ。イギリスの代表候補生として、セシリア・オルコットとして、最初から本気であなたを倒します!」

 

 即座にオルコットさんが構えた《スターライトmkⅢ》から、耳を劈く音と共に閃光が放たれる。

 咄嗟に腰の鞘から抜刀した打鉄の近接ブレード《(あおい)》でガードするも、空中でバランスを崩され、その隙を狙ったかのように数発の光が僕の体を撃ち抜いた。

 

「うぐっ!」

 

 バリアを貫通し、シールドエネルギーが削られる。ISに備わっている『絶対防御』で命は守られているとはいえ、神経情報を通じて実体に受けるダメージがキツイ。

 僕は直ちにオルコットさんから距離を取り、左手に展開(オープン)させたアサルトライフル《焔備(ほむらび)》で牽制射撃。

 だがしかし、彼女の前ではそんな僕の攻撃は幼稚で悠々と全てを躱される。そしてお返しと言わんばかりに二機のビットからレーザーが放たれ、打鉄の警告アラートに反応できないまま、僕は強制的に地面へと叩きつけられ、激痛。

 

 ――さっきからずっとこれの繰り返しだ。

 逃げても、逃げても、逃げても、空から光の雨が容赦なく降り注ぐ。

 たとえ自損覚悟で攻めても、寸前で阻まれ、また地面に叩き戻される。

 装甲を、

 シールドエネルギーを、

 精神を、

 圧倒的な力で削っていく。

 気づいた時には僕はアリーナの壁まで追いやられていて、荒々しく息を吐くことしか出来なかった。

 分かっていたけどここまで差があるとは!

 

「詰み、ですわね。そろそろ終わりにしましょう」

 

 上空のオルコットさんが《スターライトmkⅢ》の銃口を僕に向けて宣告する。その目には勝利への確信。

 

 動け! 動け! 動けよ僕の体!!

 今日までの頑張りが無駄になる!

 こんな僕にISのことを教えてくれた更識さんの優しさを無かったことにするな!!

 

「……ッ、ぐぅっ……、まだだ……!」

 

 目の端には警告の二文字。鼓膜に響くは危険を知らせるアラート。全身にも痛みが走る。

 下唇を噛み、ブレードを杖代わりにしてなんとか立ち上がり再度武器を構える。

 まだ終わっていない。まだ戦える。まだ諦めるな! せめてオルコットさんに一撃を当てろ!!

 その時だった。ハイパーセンサーが背後の観客席の声を鮮明に拾い、僕の鼓膜と意識に無理やりねじ込んできた。

 

『……ねえ、さすがに弱すぎない?』『だねー。さっきの男子がスゴかっただけだよ』『期待して損しちゃったー』『まあ、ISが使える男ってだけで、実力はこんなもんだよね』『それな。ただ逃げ回ってるだけでなーんもしてないもん』

 

 一瞬、心臓が止まったのかと思った。

 訣別したはずの昔の記憶がフラッシュバックして、ブレードを持つ手が小刻みに震え出し、自分の体温が急激に下がっていくのを錯覚してしまう。

 

 今そんなこと思い出すな! あの時とは違うだろ! ちゃんとケジメもつけた! あの人には成れない、追いつかない、届かないからって自分なりに進むって決めただろうが!!

 

「………………ッ?」

 

 あれ、今何してたっけ?

 

「………………ァっ??」

 

 なんで手が震えてる??

 

「ハァ……ッ、ハァ……ッ、ハァ……ッ」

 

 頭が真っ白になる。

 呼吸が荒くなる。

 どんどん視界が狭まっていく。

 鼓膜も痙攣して痛い。

 

 みんなの前であんなに啖呵切って偉そうに言葉を並べた癖に、いざ蓋を開けてみればこのザマだ。

 一夏君の仇を取るって言ってたのに、何もできていないじゃないか。

 勝てない。

 後悔したまま無様に負けてしまう。

 ここから先の戦う術が解らない。

 早くここじゃない所に行きたい。

 駄目だ……もう諦め――

 

「――――――――え」

 

 ――ISに搭載されている高性能のセンサー『ハイパーセンサー』は、操縦者の知覚を補佐する役目を行っており、視覚野の外、後方、そして()()()()()()()()()()()()を知覚することが可能である。

 

 だから見えた。

 見つけることが出来たのだ。

 オルコットさんの後方側の観客席に座っている、更識さんの姿を。

 自然と笑みがこぼれる。

 

「……はは、なんでだよ……。忙しいから来られないって、言ってたじゃないか……。あ、布仏さんもいる……」

「? 何を言ってますの?」

 

 オルコットさんが不思議そうに首を傾げる。

 気にしないで、こっちの話だから。あーでもヤバい。嬉しくてちょっと泣きそうになるし、これ以上あの二人にかっこ悪いとこ見せちゃいけないな。

 

「…………さて、と」

 

 とりあえず今は弱気になって不甲斐ない僕自身をどうにかしよう。

 このままの状態で戦ったら前と何も変わらない。絶対瞬殺される。

 だから僕は一旦ブレードを両手に持ち替え、空に掲げる。そして――

 

「ふんッ!!!」

 

 ブレードの峰部分を、勢い良く自分の前頭部に打ちつけた。

 

『!!!???』

 

 謎の行動にアリーナ全体が騒然とする。

 オルコットさんも口をぽかんとさせて困惑している。

 頭がぐわんぐわんするけど……うん、さっきより百倍マシだ。頑張れ頑張れ。

 頭を振って、力強くブレードを握り直す。

 息を吐き、空中に戻した視線の先には敵の姿。

 ……集中しろ芥流善。

 試合はまだ終わってないし、結果なんて誰にも分からない。

 それにお前はまだ――

 

「まだ……負けてない」

 

 さあ。最後まで思う存分、満足するまで、足掻き続けろ。

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