ウマ娘の世界に転生出来たのに人間だった。だけど親ガチャ勝利した。 作:庭顔宅
しっかりと思考を停止し、再起動するのに時間をかけ、言葉を吐き出した。
「ナゼ、ココニイルノ?」
なぜかカタコトになってしまった。彼女は息を整えることに精一杯で時間がかかりそうだった。俺は更に現状を見直そう。ログハウス、椅子に座って休む俺。痛みはあるが動けない程ではない程度だ。例えるなら筋肉痛。たった一つだけある扉にいるエイシンフラッシュ。俺が再起動するまでの間に少しは休憩になったようだだが、依然としてはぁはぁと呼吸を乱している。そういえばと、目線を机の上に向けると想像の物がそこにはあった。
「オミズドウゾ。」
机の上に置いておいたペットボトル水を差し出す。エイシンフラッシュはお礼を言って一気に飲み干す。無事にペットボトルは空になり、このログハウスには予備のペットボトル水が一本しかなくなった。これでタイムリミットは早まった。別の、この予備のログハウスではなく、住居用のログハウスに移動しなくては…
「トレーナーさんに連絡してきました。これからお世話します。よろしくお願いします。」
エイシンフラッシュはそう言って優雅に一礼する。フスッンと鼻息を勢いよく出す幻覚が見えた。
……一回整理して落ち着こう。
「トレーナーさんに連絡?」
「はい。」
「トレセン学園まで行ってきた?」
4時間程度でトレセン学園まで往復してきたと?全力疾走?靴擦れしたこと忘れていない?それあれ差しい引いても早すぎない?
「いえそこら辺にいた人に電話を借りて連絡しました。」
「……トレーナーさん何か言ってなかった?」
「何か言われる前に切りました。」
「あのね……」
想像してみよう。私はトレーナー。彼女と共にライバル達と切磋琢磨とトレーニングに明け暮れる日々。ある日のレース。ちょっとした事故が起こり、彼女は突如としてレース会場から逃げだし何処かへ走り去ってしまった。その背中には名前も知らない人がいた。
一日後。連絡が入った。急な出来事で知らない番号からだった。その連絡はしばらく帰らないという内容だった。
詳細は知らないが大まかこれぐらいだろう。
さて、どうやって安心しようか?無理だろ。気になりすぎて夜も眠れなくてこの身一つで走り出すぞ。俺ならやる。それに何か言われる前って、確信犯じゃないですか。最低限のコミュニケーションとりましょうよ。実質隠居生活している俺が言うことじゃ無いと思いますけど。
「そんなんじゃ心配は消えないだろうに…一回トレセン学園に行って顔を見せてきなさい。」
「いえ辞めておきます。」
ワイ?なぜ?
「その勝負服しか持っていないでしょ?一度帰りなさい。」
「大丈夫です。」
ま、まさか俺が連絡して、確保してもらうようにお願いすることがバレたのか?落ち着け、まだ俺が有利だ。家主は俺で、不法侵入者が彼女。そして怪我人が俺で、身体能力的強者が彼女だ。警察はいない…これ俺が先にヤラれるやつだ。
「そもそも何をしに来たの?あなたを養う暇はありませんよ?」
「その怪我では不自由だと思ったので、お手伝いしに来ました。」
「帰ッテ?」
「お断りします。」
くっつい本性が…落ち着いて、いや心理的に話しかけよう。彼女はウマ娘で俺は一般人。
「君はウマ娘。今が一番輝いている時期だろう?トレセン学園に所属し、結果も残している。なのにこんな場所にいるべきではない。」
深く考えるとその通りじゃん。絶対に帰さないといけない理由が増えた。
「ですが恩を恩のまま残したくはありません。」
「警察に連絡しないだけで充分だ。」
「それでは満足できません。」
「自己満なら余所でやってくれ。」
「なら警察に連絡しますよ?」
…は?つよい。え?逃げ道あるのか?彼女の要求を取るか、お縄につくか……しょうがないな。もっと奥まで心に刺さる言葉を言うしか無いのか。勝機は我らにまだあり。
「君は今が一番輝いているんだ。体は成長する。そして衰えていく。こんな事に時間を使うべきではない。」
俺は過去を振り返るように右膝を抱えた。十数年間生きてきたが身長が全く伸びない。140cmといった所だ。チビだ…俺はもう成長はしないだろう。衰える気は全くしないけど。
ま、人生は一瞬。ここで引いて後悔するより、言って自分クズだなぁって思った方がいい。どうせ他人。そうだ。他人だ。
もう進み出してしまった。後戻りはできない。するつもりもない。後悔もしない。俺は一人で生きていける。一人でしか生きていけない。俺が末代になる不孝をお許してね。じいちゃん。いや憎まれたほうが気楽だわ。
フッと声を出して一瞬だけ笑う。そしてエイシンフラッシュの目を見る。
「それで?蹴落としてきたウマ娘達はどうするつもりだ?」
「え?」
まるで目の前で人身事故が起こったみたいに、声を失っていた。予想していなかったと、想定もしていなかったと一人だけ周りの時間から隔離されていた。
「君が今まで蹴落としてきたウマ娘達の夢をどうするつもりだ。誰かが泣いた涙を本当に無意味にしてしまうのか?」
彼は追い打ちをかけるように言った。言ってしまった。
「……」
「もう一度言うが君は今が一番輝いているんだ。こんな事で無駄にしないでくれ。」
結論は出てしまったようなものだ。これで終わり。正直お縄についてもしょうが無いだろう。問われる罪はいったい何だろうか。まぁ終身刑にはならないだろう。
エイシンフラッシュはいつの間にか時間を取り戻し、言葉を失っていた。
だが急に、深呼吸を行った。3回。ゆっくりと行われた。あぁこれから殴られるんだろうな。
だが飛び出たものは予想とは違って想像すらしていないことだった。
「本当なら、大事故を起こして全治数ヶ月、リハビリにも数ヶ月かかっていました。違いますか?」
「知らないな。」
彼は動揺しすぎて間も置かずにそう答えた。
これが天才?天然?の考えることなのか?どうやってそんな思考に繋がったんだ。いったい何処まで自分を客観的に見ればそんな所まで考えつくのだろうか。
「死んでしまっていたかもしれない。違いますか?」
「わからないな。なんでそんなこと言うんだ?ただの予想だろう?死ぬなど、ばかばかしい。」
まるで犯人になった気分だった。違いますか?その言葉は推理系で答え合わせで核心に付くときに探偵的存在が言う言葉でしか聞いたことがない。
「電話を貸して貰うときに聞きました、その時の映像を見ました。」
「……」
そりゃ大ニュースにもなっているか。今思うととんでもない映像だな。いきなり飛び降りてきて、走り出して、高速で移動するウマ娘を抱えて、抱えられてその場を後にするなんて……末代までの恥だね。もう一生インターネット使えないよ。自分が主人公な特撮映像は見たくない。
「レースは命がけです。ばかばかしいなんてあり得ません。それに死ぬかもしれないと思ったから助けてくれたのではありませんか?まるでヒーローみたい急に現れて、そんな怪我までして助けてくれました。」
「…やめてくれ。そんな風に言われると英雄みたいに聞こえる。」
「そう言ってます。」
「俺は犯罪者だぞ。」
こんな名言がある。バレなきゃ犯罪じゃないんですよ?と。つまりバレたら犯罪なのだ。なので俺は犯罪者。もし捕まったら前科持ちとなる。
「ですがヒーローでもあります。罪だって軽くなると思います。」
「断る。俺は特殊で面倒くさい人生を送ってきた。そんな簡単な話ではない。もし捕まったら、もう戻れない。」
いまさらだが俺は記録上20歳だ。つまり去年までは未成年だったわけだ。専属弁護士の方のおかげでいろいろ過程を得て、ずっとこの生活が出来ていたが。法律的に俺がどうなっているかなんて知らない。ぜんぶ専属弁護士の方に任せてきた。もし、この資産が、私有地が法的問題により奪われるかもしれない。親族者はいない。里親もいないらしい。
未成年なのに里親もいなくて、孤児院でもない。義務教育も終わっていない。絶対じいちゃんパワーでグレーなラインを生きてきただろう。
こんなことなら前世でもっと法律関係学べば良かった。
「なら良いですね?これからお世話になりますよ。」
ますよ…?上からなのか下なのかわからないな。
「それで怪我が治るまでいるつもりなのか?」
「良いんですか?」
「いいから質問に答えてくれ。」
諦めた。いや諦めない。この状況から帰ってもらえるシチュエーションが見えないだけで諦めた訳では無い。まだ彼女が帰ることを望んでいる。
「はい、そのつもりです。」
「トレーニングはどうするつもりだ?」
「自主トレーニングします。」
まぁそうなるか。
「先ほどいったか君を養う余裕はないぞ。ここの水はあるが食料は自分で確保するしかないぞ。」
俺一人ならビスケットで生きていけるが、二人と考えると無理だな。
「えっと、家庭菜園ってどんな感じなんですか?」
「小規模なやつだ。野菜を当てにするな。1週間も保たないぞ。」
あれは生きる上で必要な栄養素を最低限はとるためだ。俺は別にベジタリアンではないのだ。
「…普段は何を食べているんですか?」
「草、虫、魚、獣、ビスケット、野菜、山菜。」
「虫!?」
おや?ふむふむ。なるほど?ターゲッツッロックオンッ
「そうだ。草原にバッタ、森に幼虫、川に魚、山に山菜が主食だ。基本的には焼く一択だ。安心しろ調味料はある。安全性も熟知しているから問題無いぞ。」
「ヒッ」
彼女は文明人であった。そんな彼女は虫を食べるなど想像も出来ないだろう。そして
「魚は自分お手で内臓を取り出す。」
「……」
どうやら放心状態のようだ。たたみかけろ。文明人としての弱みを突け。為せば成る為さねば成らぬ何事も。
「ここに水道やら下水道はない。野糞だ。」
「のぐそ?」
「いや忘れてくれ。最近気分が悪いんだ。意味の無い言葉を口走った。すまない。忘れてくれ。」
早口でそう言った。
今のはクズどころではない。カス以下だ。調子に乗りすぎた。今日のことは忘れてもらおう。願おう。祈ろう。全面的に俺が悪い……ここは良い記憶で植え付けて今の記憶を忘れてもらえるよう努力しよう。
「……今までのことは全て忘れてくれ。明日買い物に行こう。君の服も、食料もいろいろ買おう。荷物持ちはしっかりしてもらうぞ。」
「買い物?……ん?」
「お金はあるから問題無い。さて行くぞ。」
「え?え?…何処にですか?」
「秘密だ。」
椅子から立ち上がり、片足で外へ行く。エイシンフラッシュの横を通り過ぎて行く。目指すはこの私有地の中心部。ひいひいじいちゃんが作り上げた地だ。
ちなみにひいひいひいじいちゃんが最初の開拓者だ。ひいひいじいちゃんで開拓は完結させ、ひいじいちゃんが整備し、じいちゃんが整えた。この私有地は高祖父、曾祖父、祖父、叔父の歴史ある森である。俺はそのおこぼれを吸っているだけに過ぎない。甘い甘い汁だ。
この私有地にあるログハウスの内5つはじいちゃん達が建てたハウスだ。いろいろなんやかんやあって物置になっている。
だって中心部にありすぎて交通の便が悪いだ。それなりに大きさもあるので物置の方が便利なのだ。物置にしても余る程大きい中ログハウス。そもそも置く荷物が少ない。あ、中ログハウスというのは住居用という意味だ。大が付くと畑付き、小の場合は秘密だ。
ちなみにお湯が出るのはその5つだけだから定期的に行って、掃除をしているからいつも清潔だ。5つしかない理由は発電所を整えて、色々な機械を持っていくのは面倒くさいからだ。
さてこれから向かうのはひいひいじいちゃんが作り上げた地だが、わざわざそこに向かう理由は一つだけだ。
見えてきた。時間が過ぎるのは遅いようで速いな。
「いつ見ても綺麗ではあるな。」
二階建ての中ログハウスのすぐ側にある短草芝生地帯。上下のない平面、一周2400m、幅30m。森を切り開き、根ごと取り払われ確保された土地だ、芝生はわざわざ植えたらしい。ひいひいじいちゃんが嫁のためにと、心置きなく走り抜けるようにと作られた会場。除草剤を使わず人の手で雑草処理され、芝生の管理をするための専用の機械がなぜかある。その機械の専用の小屋にいざという時のために大型バッテリーまで確保された準備っぷり。
それを今管理しているのは俺である。使わないけど整えてはいる。
まぁ時間はかかるが良い暇つぶしだった。それにここの芝生は最高級のベッドだ。よく寝れる。これ以上のベッドは知らないね。
無駄にデカいベッドだが気にしないでおこう。さすがひいひいじいちゃん。行動力の化身。俺たちの祖先。
「わぁ…~~!」
少しして感動の声が後から聞こえてきた。
確かに圧巻だ。まず匂いがいい。良い自然の匂いがする。風を遮る物がなく、1直線に鼻の奥へ突き刺さる。近場に川もあり、豊かな水の音と香りを見せる。
これを全部一人で整備したぞと言い切れるのは気分が良い。達成感もある。
「ここってどうしたんですか?」
「先祖が作った。好きに使え。トレーニングスペースはあった方が良いだろう?」
自慢げに微笑みながら振り返る。そこには頬があがり、目がキラキラしているエイシンフラッシュがいた。
「走っても良いですか?」
気持ちを抑えきれずに耳と尻尾がゆらゆらと揺れている。ウズウズと今にも動き出したいと体全身が表現していた。
「どうぞ。」
「ありがとう!」
エイシンフラッシュは走り出しながらお礼を述べていた。その言葉を言い切る頃には既に遠くにいた。
そして俺は微笑んだ。
間違いない。先ほどの野糞などという失言はもう忘れているだろう。これで覚えていたら泣く……トイレ作らなきゃ。トイレと言っても穴掘って壁で周囲から隔離するだけだ。
野糞と言うのは本当だ。大自然にダイレクトインだ。トイレットペーパーはあるよ。トイレットペーパーは文明の利器。紙や草とは違うのだよ。だが水に溶けてしまうのでログハウス内に置いている。雨の日は下半身丸出しで帰宅することもしばしば…俺は文明人に片足は突っ込んでしまったのだ。後悔はしている、だが悔いはない。コラテラルダメージというやつだ。精神状態は安定しているので問題なし。いや既に発狂状態か?まぁいい。興味ないね。
衛生概念どうなってんねん。とお叱りを受けそうだが大丈夫です。
ひいひいひいじいちゃん直伝サバイバル式衛生概念☆講座☆
出す物は出したいときにしろ。しかし安全はしっかり確保するのじゃぞ。周囲の安全さえ確保すえれば問題無いぞ。
さてここでひいひいじいちゃんのポイント+の時間です。
なんで問題無いの?
孫よ…今日は何食べた?
山菜と水
孫よ…昨日は何を食べた?(水はもうよい)
山菜
孫よ…一昨日は何を食べた?
魚
孫よ…その前は?
猫じゃらし
孫よ…以下略
空気/魚/昆虫/空気/ビスケット/ビスケット/ビスケット/空気/肉/昆虫/空気/茸/ビスケット/ビスケット/山菜/茸……
もうよいぞ。孫よ。
猫じゃらしは空腹をまぎわらせるor口の寂しさを忘れるため。ビスケットは消費期限が近づいてきてるから消化しないといけないんだ。ビスケット生活が嫌になって空気とか食ってた。肉はお宝。魚はご褒美。昆虫は贅沢。山菜は定期的に。
ちゃんと周期で狩り範囲を変えないと絶滅させちゃうことになるから気をつけてね。
満足か?孫よ。
大方満足。
うむ。時間が押しているので連続で行くぞい。大量の油を食ったか?肉を食ったか?一汁一菜は出来たか?健康的て文化的な生活を送れておるか?体調を崩したか?
油は昆虫くらいかな?魚は焼くし、肉は生焼けで食べた。我慢できなかった。肉は昆虫と魚と獣。一汁ってなんですか?今の生活て中途半端に文化兵器を使ってますよね?これって文化的なんでしょうか?体調を崩すことはないです。
つまり我々サバイバル中の出る物は栄養価が高く自然にとって良い物なのじゃ。川に流れて問題ない。それに、他の動物たちの出し物が紛れておる。衛生を保ちたいなら動物たちを滅ぼせ。その代わり肉が食えぬが良いか?
ヨクナイ!!
肉は人生の娯楽!!
肉こそ至高の御馳走!!
ええい!!今は儂の時間じゃぞ!!!父と息子と孫はだまっとれ。
マゴヨ!全テハ食ベラレルゾ!
そうじゃ孫孫よ。胃を鍛えよ、毒性のある茸も少量づつ食べ体に抵抗力を付けよ。毎日草を片っ端から食べよ。木の皮をかじれ。
そうじゃな孫よ。真っ先に川の水を直に飲め。最近は除水機やらで細菌やら不純物を消しているようじゃが耐性を持っておいて損せん。たしかエキノコックスじゃったか?病原菌は重大な危険にも繋がりかねんぞ。生水は最も身近な
ええいぃぃぃィィだまれと言っておろうぅ!!今は儂の時間じゃと言ったはずッ!!
ハッ!所詮弱肉強食。息子、弱イ。
老人は大人しくくたばっておれ。儂こそが一番孫孫にふさわしいんじゃ。
なによ孫の顔も直に見たこともない先祖ごときがッ!最もそばにおった儂こそがふさわしいんじゃ!!
ええいッ!!だまれ!最も人間性がひいひいじいちゃんである儂こそがふさわしいとなぜわからんッ
最モ身体能力ヲ持ツじいちゃんデアル儂コソガ
身体能力と知能の遺伝子を引き継いだ儂こそ孫孫の!
オマエ孫孫ガ気二入ッタノカ?子供ダナ。ヤハリ相応シクナイ。
現代に適応し、その遺伝子を全て有す儂こそが最適解であろうが!
以上でひいひいひいじいちゃん直伝サバイバル式衛生概念☆講座☆は強制終了いたします。次回開催の予定はありません。
……さて道具とってこよ。
中ログハウスから程良く離れた場所に壁と扉と屋根を建てに行く。
ログハウスの外にある小屋から木材と工具を取りに行く。木材に関しては常に用意があるのでノコギリでぎこぎこしなくてもいい。二日とたっていないのに随分と片手足だけの生活に慣れたものだ。これなら日々日常から片手片足の訓練をする必要性がなくなったな。
木材を右肩に、工具を左手に持って、ぴょんぴょんと跳びながら移動する。そして適当な場所で地面を3m程掘る。さらに壁を建てるように10cmほどの溝を掘り、壁となる木材を埋め込む。扉の部分は埋め込まないので3辺だけだ。屋根を放り投げ壁の上に乗っける。そして木を登り屋根を壁に釘で打ち込む。木から下りて開閉用の金具を釘でとめる。扉となる木材も釘で打ち込む。
あっという間に出来た。往復の時間も含めて恐らく30分もかかっていない。
工具を持って中ログハウスへ戻る。
戻る途中で芝生地帯を見るとエイシンフラッシュが走っているのが見えた。楽しそうだな。
俺はログハウス内から除水された水を入れたペットボトルとビーチチェアを持って出てくる。
芝生地帯が見えるようにビーチチェアを置き、側の地面に水を置く。水分補給大切。そして片腕足を怪我しているのに地面に寝転ぶのは辛いので椅子を持ってきた。しっかりと背もたれを使えて足を伸ばせるビーチチェア。簡易的なハンモックのようだ。
他にすることもないので休憩と表し寝る。睡眠を取り過ぎると逆に体に異常をきたすと聞いたことがあるが本当なのだろうか?まぁ強靭な肉体ならなんとかしてくれるだろう。
目を閉じる。そよ風が頬を撫でる。大自然に包まれて、彼は眠りにつく。雨が降らない限り、彼はその場に眠り続けるだろう。
・・・
「…しゃさん!……不審者さん!」
体を揺さぶられ、目が覚める。不快に目を細めながらゆっくりと見開く。
そこには汗を垂らしながら不安そうに顔を覗き込んでくるエイシンフラッシュがいた。
「何か用?」
極楽の時間を邪魔をされたことに対する嫌悪感を隠さずに言葉に出す。残念ながら彼に社会的な一面などは無い。寝起きということもあり、自分の心に忠実だった。
「と、特に用は…ありません。」
エイシンフラッシュは悲しそうに申し訳なさそうな顔をした。そして俺は数秒間考え、気まずくなった結果、水分補給を提案することにした。
「そう……水どうぞ。」
水分補給は大切だ。人間は食料なしで7日間、水なしで3日間生きられると言われているのを聞いたことがある。そして人体の水分量は70%~50%と言われ、一日に必要な水の量まで存在しているレベルだ。
つまり水は適切に、そして頻繁に飲むべき。水を飲み過ぎると病気になると聞いたことがあるが、健康的に生きていたら問題無いだろう。
「ありがとうございます。」
「どういたしまして。」
このまま事務的な関係に落ち着くのだろうか。それなら是非お帰り願いたい。俺は他人に世話されるというのが大っ嫌いである。そして他人に利用されるのも大っ嫌いである。どうせやって貰うことなど無いのだから…いやどうやって帰ってもらうのだ?これからどうやって帰ってもらえるのだ?……彼は深く考えるのを辞めた。
能動的に、対応的に生きていこう。
「……この会場ってどうしたんですか?」
「ここは遠い祖先が作ったらしい…言っておくがここは一周2400mだぞ。感覚を間違えるなよ。」
一般的にレース会場は一周1600mだ。ひいひいじいちゃんの時代にはレースという概念が無かったのだろうか?もしあったとしてなぜこんなに広く作ったのだろうか?もしやそこに土地があったからなどと言わないだろか?
「へぇ~そうなんですか。」
「後怪我には気をつけろよ。病院なんて無いんだから。俺はもう寝る。何かあれば起こしてくれ。」
もう寝てしまおうと、ビーチチェアに背もたれた所で、晩ご飯の用意を忘れていることを思い出した。今は3時ぐらいだろうか?太陽が少しだけ沈んだ所にあった。だが俺はこのまま寝たいので素早く行動する。
振子のように右足で勢いを付けて、ビーチチェアから跳び、地面に立つ。そして中ログハウスへ向かう。
「あの!どうかしましたか!?」
早歩きで俺についてくる彼女が横にはいた。俺のうさぎ跳びは速いらしく、彼女は小走り状態だった。だがスピードは落とさない。中途半端に勢いを無くしてしまうと大変なのだ。
「晩飯を取ってくる。休んでて良いぞ。水は好きに飲め、家の中にあるやつは飲んでもいいやつだ。ビスケットもある。食べたいなら食べな。」
「わ、私もお供します。」
「別にいい。」
「それなら私はなぜここにいるんですか?」
「帰ってください。」
彼はそう言って中ログハウス内に入っていく。
「なっ」
後からそんな驚いた声がしたが、足音は聞こえてこない。どうやら中ログハウスが壁のように彼女の侵入を拒んだようだ。
彼はこのまま放置すれば帰ってくれるかなと思いながらも目的の桶を取りに行く。いわゆるリビングへ入り、桶を手に取る。目的地は畑の野菜。今晩さえ食事が賄えたらいい。明日の朝は外食なり、空気を食すなりなんでもいい。
「お断りします!お手伝いします!」
そんな事を考えているとエイシンフラッシュはビュンッと擬音が聞こえてきそうな飛び出し方をして俺が手に持っていた桶を横取りしてきた。
覚悟が硬いというべきか、頑固というべきか。買い物と表し、トレセン学園まで輸送しようか?だが彼女のせいで全てを奪われたくはない。全てを投げ出せば楽に生きれるだろうけど、俺には無理だった。むしろこの私有地が唯一の生きる理由のような物だ。
そこで彼はふと考えてしまった。
この森が無くなってしまったらどうするんだろう、と。無くなる理由はわからない。だがもし無くなってしまってもじいちゃん達の遺産がある。だけど何をして生きていくんだろう。ウマ娘達のレースを見るのは楽しいし、文明の利器に全身を突っ込んで生きるのも楽そうだ。だけどこの自由を、開放感を失った以上に得られる楽しさなんだろうか?ストレスから完全に隔離された俺がストレス社会に生きていけるんだろうか。
いや無理だな。
答えは見つかった。
挑戦と仮定して、数日間は生きていくだろうけど、数日で終わる気がした。今の生活が好きなんだ。前世で文明に生きたからこそ言える。この生活は不便すぎると。だけどその文明では得られないものが沢山この森にはあったんだ。ただどうでも良い日々を生きるなら、俺はこの森で生きていたい。
そのためには、この怪我が治るまで、そして彼女が満足するまで、この生活に慣れることだ。たとえ元の生活に戻れたとしても犯罪者はこの森の方面へ走り消えてしまったままで見つかるかの可能性がある。
いや彼女さえ黙ってくれたのなら、逃走だったり、変装なり、兄弟説で逃げ切れたりするのではないだろうか?
妄想してみる。実際に警察が調査に来た時。木から木へ飛び移り、この広大な森を逃げ回る。数でゴリ押されない限り大丈夫だろう。警察だって可能性の範疇でそこまではしない。
警察は全身黒フードで身長がチビだという事以外知らないのではないだろうか?
一番ネックな身長はどうしよう。最近盗人がこの森に不法住居していると言えばいけるのだろうか?
いや待て、あの専属弁護士さんなら何とかしてくれるのではないか?そうだ!あの専属弁護士さんなら何とかしてくれるな!
彼は一切の迷いも疑問もなくそういった考えた。その理由はこれまで実績ゆえだ。最たる例がクレジットカード。
俺は専属弁護士さんに、何か欲しい物はないかと定期的に聞かれている。ある時、俺はブラックカードが欲しいと言ったら一週間後にブラックカードを持って現れた。ブラックカードはそんな簡単に取得できる物では無かったはずだが、いとも簡単だったと言わんばかりの真顔で渡してきた。今でも金庫に保存している。使う機会はまだない。
専属弁護士さんは何者か。
それは俺が知りたい。
さて、現状を思い出そう。中ログハウス内で桶を彼女に奪われたぐらいだな。
俺はそのまま中ログハウスを出て行き、大ログハウスへ向かう。目的は畑の野菜だ。
「ちょっと不審者さん?何処に行くんですか?」
「家庭菜園へ晩飯を取りに。」
「ぁぁ…って昨日は野菜が入った桶なんてありませんでしたよね!?夜の間に取りにいったんですか!!??」
今朝のにんじん爆食い事件の事を言っているのだろう。今思い出しても恥ずかしい。早く忘れてくれないだろうか?
「そうだが?」
嘘をつく理由もないので素直に言う。是非とも俺の超人性を知ってもらい、安心してご帰宅願いたい。
「次は!絶対に教えてくださいね!無理矢理起こしてもでも!ですよ!!」
「必要ない。」
そう言いながらうさぎ跳びをしていた。彼女ははやり早歩き状態で後ろから声がしている。
「そういう問題じゃ無いんです!!」
このまま口論していも一生終わる気がしない。俺は折れる気はない。そして彼女は折れそうにない。さらに言うと俺は認める気は無いのでうるさいなーと無視をすることに決めた。
跳ぶ反動で後をチラ見するとぷんぷんとほっぺを膨らませながら小走りするエイシンフラッシュがいた。とてもシュールなので二度と後を見ないことを決めた。
決して笑いそうになったからでは無い。そして怒られそうだからと思ったからではない。反射的に吹かなかった俺を褒めて欲しいぐらいだ。