極悪少女は縛れない   作:どるふべるぐ

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戦場を遊園地へと移し、二人の決闘は更なる局面を迎える。
尾行する黄金の不適切発言と妄想が炸裂する中、極悪の手の平で踊る童貞は為す術もなく落ちて回って回る。

だが極悪よ心せよ。それはキレやすい童貞である事を。

――かくて、憤怒と共に暴君は目覚める。

さあ、逆襲を始めよう。


シーン12『虚ろな彼と惑える彼女の決闘《デート》~逆襲遊園地編~』

 生まれ落ちたその時から、わたしにとっての『世界』は玩具箱だった。

 自分以外の他者は『玩具』にしか思えない。人も獣も魚も鳥も、男も女も老いも若きも何もかも、全ての価値はただ一つ。

 

 ――遊べるか否か。

 

 それだけがわたしにとっての他者という存在の全てで、森羅万象の価値基準だった。

 楽しければ死ぬまで遊ぶ。つまらなければ殺して捨てる。そこに愛着はあっても愛情は無く、壊したところで壊れる様を楽しむだけ。

 そう、これがわたしだ。

 一片の愛情を抱かず。一切をかえりみることなく。揺るがず崩れず己が悪意のままに全てを弄ぶ絶対悪。

 わたしはただ、そう在れればいい。

 

 ――だから

 

 わたしがナイトに抱く感情も、きっとそういうことだろう。

 彼の困った顔に唇が綻ぶのも、その慌てる姿に思わず笑みが零れるのも、そして笑顔に胸が弾むのも、その全てに惹かれるのも、全ては楽しい玩具だからに過ぎない。

 愛情なんて知らない。恋なんてしていない。

 あるのはただの『悪意(あいちゃく)』だけ。

 彼を弄び、彼で遊び尽くそうとする『悪意(こころ)』だけ。

 

 ――大丈夫。わたしは何も変わっていないし、何も壊れてなんかいない。

 

 そう信じるために、こうしている。それを確かめるために、ここにいる。

 

 ――さあ、デートを続けましょう。わたしがわたしであるために。

 

 ◇◇◇

 

 人は何故、大空に憧れるのだろうか。

 遥かなる昔より、人は空を時に敬い、時に恐れ、時に憧れてきた。

 この背に翼が無い事を知りながら、叶わぬ夢と思いつつ。人は空を、天を、果て無き自由の大空を見上げることを止めなかった。あるいはそれは、重力の鎖に縛られ地上に囚われた魂が、果て無き空への自由なる飛翔を求める故かもしれない。

 だが、人は知っている。翼無き己がたとえ空を飛んだとしても、最後には墜ちるしかない事を。どれほど高く、どこまで遠くに飛んだとしても、重力に縛られたその果てに待つのは地への墜落であることを。

 それでも、人は大空に憧れる。たとえ墜死するまでの刹那だとしても、何者にも縛られぬ自由を夢見て。

 

 ――故に騎士は思う。あえて落ちることを楽しむとか馬鹿じゃねえの?と。

 

 地上五十メートルにそびえる垂直落下アトラクションのてっぺんで。

 

 天を衝く柱のごとく建つその側面に取り付けられたシートの中で、ガチガチに強張った身体を固定し座りながらそんなことを思っていた騎士であった。そんな彼の冷たい汗に濡れた頬を、夏の爽やかな風がおいちょっとリラックスしろよと撫でていく。が、生憎と今の緊張の極致まっただ中の彼にはどだい無理な相談だった。その姿に、隣のシートからクスクスと可愛らしくも絶対に無邪気ではない邪気満点の笑い声が響いた。

 

「あらあらナイトどうしたの?こんなにいい景色なのにそんな顔をしてたんじゃもったいないわよ」

 

 実に楽しげに言うのは、赤眼を悪戯っぽく揺らし、可憐な唇でサディスティックに笑う美しい紫銀の少女。

 青い空に紫銀の髪を靡かせて、思わず目を奪われる魔性の美が笑いかけるも、それに見惚れる余裕などとっくのとうに消え失せている騎士は、硬い声でせめてもの反撃に余裕のコメントを返そうとする。

 

「うるせえ今楽しく人類の愚かさを呪って現実逃避してんだ邪魔すんな」

 

 自分で言ってて全く余裕で無い事にも気付かない主人公だった。

 一方、眼下に広がる遊園地の景色とその向こうの街並みを赤い瞳で見下ろす少女はあらあらと肩をすくめる。

 

「青い海に綺麗な街並みがとっても素敵なのに。あなたはそんな顔をしてちっとも楽しまないのね」

 

 でも。と、そこで妖しく微笑んで騎士の顔を見つめた。

 

「わたしはそんな景色より、あなたの顔を見ている方がよっぽど楽しめるのだけれどね」

「……へえ何故に?」

「だってあなたのビビリ顔って最高にときめくもの❤」

「地獄に墜ちろ変態め!」

 

 いやんと両手を頬に添えて恥ずかし気に言う少女に全力の呪いを贈った騎士に、少女はふふっと笑って隣の彼の手を握り、絡み合う指が蟲惑的に二人を繋ぐ。

 

「その時はあなたも一緒よナイト。あなたとならきっと地獄の底だろうと楽しめるわ」

「ぜひとも一人で墜ちてくれ。お前ならたぶん地獄の鬼とも楽しくやれるさ」

「二人で、よ。何処までも堕ちましょう。手始めにまず、今ここで……」

 

 詠うような囁きの直後、ガクンとシートが揺れて次の瞬間、下からの強烈なGと共にシートが急速度で垂直落下を開始した。

 

「うぎゃああああああああああ!?」

「あっははははははははははは!!」

 

 そして、哀れなる10代とその醜態に爆笑する極悪の声が、遥かな大空に響いたのだった。

 

 ◇◇◇

 

 遊園地デート。

 ああ何と心躍る楽しげな言葉だろうか。きっとそれは愛し合う男女が絶叫マシーンやらコーヒーカップやら観覧車に乗って、キャッキャウフフと仲睦まじく乳繰り合う王道リア充イベントに違いない。無論騎士も年頃の童貞である以上、恋愛というものに苦手意識を抱きつつも内心密かに憧れていたりした。が、故に声を大にして言いたい。

 

「こんなの俺がやりたかった遊園地デートじゃねえ……」

 

 そう力無く呟く彼の顔色はそこらの幽霊よりも青白く、フラフラとした足取りに至っては生まれたての小鹿の方がまだしっかりしているだろうと思わせる弱々しさ。仮に今ここにホラー映画の監督がいれば、まず間違いなく幽霊かゾンビ役でスカウトしてくるだろう瀕死っぷりだった。

 

「情けないわねえナイト。たかがちょっと高い所に昇って落ちたくらいでしょ?」

 

 そんな彼を傍らで見て呆れ混じりにニヨニヨと微笑む少女に、騎士は恨めしげな眼差しを送る。

 

「誰のせいだと思ってんだよ誰の……ッ。遊園地に来ていきなり絶叫マシーン三連チャンとかありえんだろ」

 

 ちなみにメニューはジェットコースターからの回転ブランコからのフリーフォール(←今ここ)だった。うん清々しく三半器官をブチ殺す気満々のメニューである。

 

「だいたいあんなののどこが楽しいんだよ畜生……」

 

 くわえて騎士は絶叫マシンというものが大の苦手だった。一体何が悲しくて身体を固定された挙句に急加速やら強烈なGやらを浴びねばならんのだろうか。自由が利かずされるがままなあの感覚を楽しめる奴はきっと病的なマゾヒストに違いない。

 ちなみに、なぜそんな彼が絶叫マシンに乗ることになったかというと。

 

『なんか行きたいアトラクションとかあるか?』

『そうねえ……じゃあまずは定番の絶叫マシンとかどう?』

『あー……悪い。絶叫マシン系は俺苦手でな……』

『あらそうなの(キラーン☆)じゃあさっそく行きましょう♪』

『……え?』

 

 というやりとりが遊園地に着いて早々交わされたからである。

 挙句『いやなんでそうなるよ!?』という彼の抗議は『乙女の胸を鷲掴みする下衆童貞の分際で何か言ったかしら奴隷さん?』と殺意満点のニッコリスマイルで却下されたのだった。合掌。

 

「た、頼む……。次のアトラクションはせめてゆっくりできる物で……」

「だめよ~だめだめ❤」

「時事ネタはいいから!!」

 

 それなりに自信のあったモノマネをすげなく切り捨てられて若干拗ねた顔をした少女だったが、HP一桁で必死に頼み込む騎士の姿に心動かされたのか、ふっと微笑んで優しげに言った。

 

「わかったわよナイト。じゃあ次は二人向かい合って座れる定番回転アトラクションにしましょう」

「ま、まさかそれは……ッ」

 

 遊園地におけるぶっちぎり癒しスポットたる観覧車でせうか!

 

 福音にも似た少女の言葉に驚愕と感動のあまり言葉を無くす騎士の手を、少女は聖女のごとき慈悲深い微笑みを浮かべて、その手を取った。

 

「さあ、行きましょうナイト」

 

 その美しくも優しき姿に、騎士の眼から温かな物が流れ落ちた。傷つき打ちのめされ、それでも最後に救われた彼は声を詰まらせながら何度も礼を言い、少女はいいのよと微笑んで、寄り添う二人は次のアトラクションへと向かったのだった。

 

 なお、定番超高速回転アトラクションであるコーヒーカップのコーナーに世にも哀れな悲鳴が響いたのはこのすぐ後のことだった。

 

 ◇◇◇

 

 そんな二人を、私は物陰からコッソリ見つめていました。

 

「むむむ……今度はどこへ行くんでしょうか……?」

 

 訝しげに眉を寄せて呟き、隠れていたゴミ箱の陰から飛び出して前方にある看板の陰に隠れます。並んで歩く二人の背後から、しゅたたたたと物陰から別の物陰へと移動しつつ後をつけるのは、我ながら誇り高きマリアネット第12番姫ジャンヌとしては如何なものかと思わないでもありませんが、それが正義のためとあらば仕方ありません。

 

「一体何を考えているんですか…?…ナイトさん……」

 

 私が彼の姿を見つけたのは全くの偶然でした。

 今朝、日銭を稼ぐため日雇いのバイトを探すべく生活の拠点にしている漫画喫茶を出た私は、駅前公園に通りかかった時、時計塔の下で佇むナイトさんの姿を見つけたのです。

 声をかけようとした私ですが、その恰好に気がついた時、思わず言葉を無くしてしまいました。彼が着ていたのは漆黒のロングコートに厳ついブーツ。その所々を禍々しいデザインのアクセサリーで飾った正に闇黒騎士の様な恰好だったんです!

 それを目にした瞬間、私の全身を雷に打たれたかのような衝撃が駆け抜け、堪らず私は痺れた声で呟きました。

 

『か、カッコ良い……ッ!』

 

 正に痺れるほどにカッコよかったんです!

 ともすれば痛々しくなってしまうその恰好も、クールな鋭い目つきの彼が着れば最高にキマった闇黒ファッションになります。何と言っても漂うダークな雰囲気と危険な香りがもう堪りません。その姿はまるで闇に生きるダークヒーロー。輝く正義たる私とは正反対ですが、だからこその魅力があって、もし武装した私と二人で並べばそれはもう絵的に様になること間違いなしのベストカップルにって何考えてるんですか私はあああああ!?

 

(※なおこれは彼女個人の意見であり、作者の公式な意見及び見解ではありません)

 

 と、私が顔を真っ赤にして頭を抱え一人身悶えていると、そんな彼の下にとんでもない奴が現れました。

 

『へえ。朝からヤる気満々じゃない?頼もしいわねナイト』

 

 そう奴です。愚妹です。

 何故か普段とは違う清楚ながらも艶やかなワンピース姿で現れた極悪女は、ナイトさんににこやかに微笑み、親しげに話しかけています。

 

 ……いや何ですかあれは?貴女そんなキャラじゃないでしょう。基本万人を笑いながらブチ殺しにかかる人格破綻者がなにぶりっこしてるんですか。ていうか貴女ナイトさんと距離が近いですよ離れなさい泥棒猫が猫を

被ってるんじゃありませんよファッk(※不適切な言動のため削除)

 

 そして愚妹はあろうことか、なんとナイトさんの恰好を笑い物にしたんです!許せません!今すぐ詫びて腹を切りなさいサノバビッt(※不適切な発言につき規制)

 もしこれが私なら、全力で褒め称えてナイトさんもそんな私に『ありがとう。お前の恰好も似合ってるぜ。可愛いよジャンヌ(キラーン☆)』なんて爽やかな笑顔で言ってくれてってだから何考えてるんですか私わああああ!?

 

 と、近くの木の幹に頭をガンガンぶつけて邪念を振り払おうとする私の耳に、衝撃の台詞が飛び込んできました。

 

『だってデートは待ち合わせから始めるものでしょ?』

 

 ……はい?

 ……え…ちょ、まっ……何言ってんですか貴女は?

 さては非モテをこじらせて、ついに現実と妄想の区別がつかなくなったんですね分かります。ナイトさんここは痛いメンヘラ女に一発ガツンと言ってやって下さい。

 

『……ああ、そうだな。これはデートなんだからこれくらい当たり前か……』

 

 ………………。

 

 …………

 

 ………ふえ?

 

 おかしいですね。何かとてもありえないようなセリフを聞いた気がするのですがきっと幻聴でしょうそうでしょう。さっきちょっと意識が飛んだしこれはつまり私の脳に何らかの不調があって幻を聞いたに違いありま――。

 

『じゃあ行こうぜ。嫌な事なんか全部忘れるくらいに――楽しませてやるからよ』

 

 嘘だああああああああああああ!?

 

 いや、ちょっ嘘でしょうナイトさんって何か腕組んでるしいいいいいいい!?しかもあんなに近く密着して!一体何が起こってるんですか訳が分かりませんよ!

 

『――じゃあしっかりエスコートしてちょうだい。わたしのナイト様』

 

 と、常識では説明のつかない超常現象の数々に愕然とする私をよそに、二人は並んで歩きだしました。

 

『な、何でナイトさんと愚妹がデートなんか……ッ』

 

 こうしてはいられません。この怪奇現象の謎を何としても解明せねば。もし愚妹がナイトさんを洗脳でもしていたのなら納得安心もとい絶対に許せません!

 かくして私は正義のために二人の尾行を開始しました。

 そう正義のために。それ以外の理由なんてありませんったらありませんからね!

 

 ☆そして?分後☆

 

 あ…ありのまま今起こった事を話しますね。

『ナイトさんが首筋に大量のキスマークを付けて試着室から出てきました』

 な…何を言ってるのかわからないと思いますが、私も何が起きたのかわかりませんでした……。頭がどうにかなりそうです。セクハラだとかラッキースケベだとかそんなチャチなものでは断じてない、もっといやらしいものの片鱗を味わいましたね…。

 

 っていうかホントにナニしてるんですか貴方達わああああああ!?

 

 二人で試着室に飛びこんだと思ったら、ナイトさんの叫び声と愚妹の悲鳴が聞こえて、すぐ後にチュッチュッて明らかに何かに口づけたり舐めたり吸ったりしているとしか思えない音が中から響いてきた時は心臓が止ま

るかと思いましたよ!

 

 というか場所を考えて下さいよ場所をっ。あの時、私が咄嗟にフォローしなければ間違いなく店主さんにバレてとんでもない事になってましたよ!ど、どうせあの愚妹が無理やり色仕掛けでたらしこんだのでしょう。まったく見境の無い痴女ですファッキn(※不適切な表現につき自重)。これが私なら、ちゃんとロマンチックなホテルの一室でシャワーを浴びて身を清めてから、ベッドの上で『ナイトさん…私嬉しいです……』『俺もだよ。愛してるぜジャンヌ』『嗚呼。ナイトさん……❤』そして二人は一つにって鎮まれわたしいいいいいッッッ!!!!

 

 溢れて止まらない妄想を頭で壁ドンすることで粉砕し、そして何とか心を落ち着かせた私は、そのまま遊園地へと向かう二人を追いかけました。

 そして今。

 

「やめて俺をこれ以上回さないで!」

 

 私の目の前でナイトさんが回されていました。愚妹と二人コーヒーカップの中で。

 

「やめてやめろやめてくださいもうこれ以上回さんといてええええ!!」

「あはははははは!もう最高よナイトあなたの顔なんか特に!」

 

 眼を回して冷たい汗と悲鳴を撒き散らしながら懇願する彼に、愚妹はそれはもう楽しそうに笑いながら容赦なくカップの回転速度をガンガン上げていきます。

 

「まだまだいくわよもっともっと。回転の極致はこれからよ!」

「やめてえええええええええ!!」

 

 その誰にも救われぬ哀れな悲鳴は虚しく響き渡るのでした合掌……っていやホントにやめてあげなさいよ!?

 ナイトさん白目向いてるしガクガク震えてるじゃないですかっ。分かってましたけど貴女ナイトさんと遊ぶ気とか毛頭ありませんね。むしろナイトさんで遊ぶ気しかないでしょう。ええそうですね貴女他者を生物ではなく玩具としてしか認識できない破綻者ですもんね。

 

 これが私なら、『きゃっ。ナイトさんちょっと速いですよ……っ』『悪い。怖がってるお前が可愛くてつい……な』『もう…おかげでこっちは怖くて胸がドキドキして落ち着きませんよ(ぎゅっ)』『うおっ!?何で抱きつくんだよ』『これなら怖くありませんから。ナイトさんを感じているだけで、私は安心できるんです……あ、でもこれもだめですね』『え、なんでだ?』『だってこれじゃあ、もっとドキドキしちゃうじゃないですか……』なんてさすがにあざと過ぎですよね~っておかしいですよ今日のわたしッ!?

 

 ビシッと片手でセルフつっこみを入れていたら、アトラクションが終わったらしい二人がカップから下りてきました。鼻歌交じりに上機嫌な愚妹とは裏腹にゾンビもドン引きそうな顔色の悪さでフラフラと歩くナイトさん。おいたわしや。しかし笑う紫銀の鬼畜外道は遠慮気遣い一切無くそんな彼の手を引っ張って次なるアトラクションに向かいます。

 そして……。

 

「すまんもう降ろして下さい俺もう色々と限界です」

 

 私の目の前でナイトさんが回されていました。愚妹と二人メリーゴーランドで。

 

「あらどうしたのナイト?今度はちゃんと二人でゆっくりできる乗り物よ。そんな俯いて顔を真っ赤にしてないで楽しんだら」

「うるせえ畜生動くな寄りかかるな頼むからこれ以上俺を追い詰めないで下さいッ」

 

 大きめのお馬さんの背に愚妹とナイトさんが二人で乗っています。彼の腕の中で嗜虐的に微笑む愚妹と、それを後ろから抱きしめるように手を伸ばしてポールを掴むナイトさん。そして大きめとはいえ一つのお馬さんに無理やり二人で乗っているのですから、自然と密着せざるをえない訳でして……

 

「あらねえ照れてるのぉ?可愛いわねナイト。そんな顔されたんじゃもっと近くで見たくなっちゃうわ」

「だーかーらー近づくな顔を寄せないで身体を擦りつけるな息を吹きかけちゃらめえええ!?」

 

 いやむしろ積極的に密着して楽しんでますねあの糞ビッt(※不適切な言動につき消去)

 ああもうあんなに背中や髪を擦りつけて何ですかあれセクハラですか。っていや流石にお尻を押し付けるのは反則でしょうナイトさんを死な

す気ですか!?

 

 哀れナイトさんはその度に顔を赤くうつ向かせてビクビク震えてます。それはそうでしょう傍から見てるこっちですら若干引いちゃうくらいの密着度ですから。しかもこれ、公衆の面前で行われているんですよ。まさしく文字通りの360度全方位への公開羞恥プレイ。こんなのデートじゃありません。精神破壊系の拷問です。

 

「ふふ……本当に可愛いわよナイト」

「いやだからもうホントやめてそれ以上顔を近づけないでお願いだから!」

 

 いやちょっとマヂで調子乗り過ぎなんじゃないですかねあいつ。シメますかシメていいですかしまいには私ガチでキレますよ?

 

「……まるで子供みたいでとっても可愛いわよぉ・童・貞・くん❤」

 

 よしあの野郎ぶっ殺しt(※不適切な台詞につき撲滅)

 

 ――――ブチッ

 

 あれ?今の私じゃないですよ?

 どこからか響いた何かが切れた音に私が首を傾げた次の瞬間、突風の如く轟と噴きつけた殺気に全身を呑みこまれました。総身を走り血管すらも凍てつかせる悪寒は絶対零度の殺意によるもの。そして、肌をチリチリと焦がし焼けつくような熱すらも感じさせるのは爆炎のごとく迸る、彼の憤怒。

 恐怖に全身が震える。それがたとえ余波に過ぎないのだとしても、生存本能の絶叫が聞こえる。

 逃げろ。起こってはならない事が起こったと。切れてはならない物が切れてしまったと。

 それを浴びた周囲の人々が、悲鳴すら無く気を失い屍のように倒れていく。戦慄の中、私は震える瞳で災厄の中心地を見て、そして恐怖の根源を知った。そう、わたしの目の前で今

 

「ああ上等だ変態が。近くで見たいならお望み通りにしてやるよ」

 

 

 キレやすい10代が、キレていました。

 

 

 そして黒き炎のごとき怒りを立ち昇らせたナイトさんは、おもむろに愚妹の小さな顔をガッと掴んで

 

 「え?……きゃっ!?」

 

 荒々しく胸元に引き寄せていや押し付けたあああああ!?

 

「ちょっ……な、ナイトッ?」

 

 突然の行動に美貌を驚愕に染めて困惑の声を上げる愚妹に、ナイトさんは獰猛な笑みを浮かべて更にその顔を胸元に押しつけます。

 

 「おいおいどうした近くで見たかったんだろう?だったらこれでお望みどおりじゃねえか。なあおい笑えよ感謝しろ。雌犬のように鳴いて豚のように喘げよ変態」

 

 な、何ですかアレ。誰なんですか貴方は!?

 そこにはもうあの優しく紳士な彼はいません。ここに君臨するのは、憤怒と暴虐を以って全てを捻じ伏せ支配する

 

「や、めてっ……息、できな……ッ」

「ああそうかよ息も出来なくなるほど嬉しいってか変態が。いいぜもっと味わえもっと悶えてもっと俺を楽しませろ!」

 

 

 

 怒りに狂った獣のごとき暴君です。

 

 

 

「――ッ。調子にィ、乗らな――」

 

 苦しげな顔を何とか上げた愚妹が、その血錆のごとき赤瞳を怒りと屈辱に歪ませ、赤く濡れた唇を喰らい付くように彼の首筋に押し付けようとし――その小さな口内に太い指を捻じ込まれた。

 

「っんみゅぅ!?」

 

 無理やりに彼の人差し指と中指を咥えさせられた愚妹は、愕然と眼を見開きナイトさんを見上げます。彼はその姿を支配者のごとく見下ろし、嗜虐的な笑みをもって嘲笑いました。

 

「いつか言ったよなあ。『殺るのは俺で殺られるのはテメェだ』って、テメェはただやられるままにやられてりゃいいんだよ」

 

 果てし無く強引に限り無く傲慢に告げて、彼はもう一方の手で振りほどこうとする愚妹の柔らかな身体を抱き寄せました。いや、むしろかき抱くという表現の方が相応しいほどに彼は愚妹の細い背に回した腕に力を込め、華奢な肢体を、淡い胸を、その逞しい身体に押しつけます。

 それはまるで、狂える獣が無垢な獲物を貪り喰らうかのような姿でした。

 

「んちゅッ……ぷはっ、やめっ…んんんッ!?」

 

 愚妹が顔を反らして何とか指から口を離しても、すぐさま彼の指が容赦なく再び捻じ込まれ、その足掻きを封じます。

 そして彼は、涙目で屈辱に幼げな身体を震わせる哀れな愚妹に、穏やかな、いやむしろ優し気とも言える絶対的暴君のごとき声で言いました。

 

「指の味はどうだ?玩具に弄ばれる気分は?――俺は意外と悪くねえ」

 

 かくて、獣が哂い極悪が足掻く、獣の暴君の遊戯は、メリーゴーランドが止まるまで続きました。

 

 

 ……天国のマスターへ。私は今日、新しい世界を見ました……すごかったです。

 

 

 ❤しばらくお待ちください❤

 

 そして……。

 

「すまんかったあああああああああああ!!」

 

 私の目の前でナイトさんが土下座してました。散々弄んだ愚妹に。

 

「キレて思わずやっちまった正直後悔しているすまなかったあ!!」

 

 どうやらナイトさん気が済んだはいいものの、怒りが覚めて冷静になったら色々と罪悪感とかやっちまった感とか諸々が一気に押し寄せたらしく、現在まるで勢いで女をベッドに押し倒したものの、一夜明けてから途端に後悔した童貞のごとき心境で土下座を披露しているようです。

 一方の愚妹はというと……。

 

「…………」

 

 言葉も無く、ぼうっとした放心状態で立ち尽くしていました。

 力無く弛緩したその顔に表情は無く、ただその淡い頬が微かな朱に染まっています。まるでそれこそただの人形の様なその姿に、ナイトさんは伏せていた顔を上げて訝しげに声をかけました。

 

「……おい、大丈夫か?」

 

 その心配そうな声に愚妹はハッと意識を取り戻し、虚ろな美貌に初めて表情を浮かべました。

 赤い瞳を見開き、小さな耳が朱に染まり、柔らかな頬を火照らせ白磁の肌全てを赤く染め上げたそれは

 

「…ふぁっ…ぁ…ぁ…っ…」

 

 まるで恋する乙女のように赤面した顔でした。

 かああああっという音が聞こえてきそうなくらいに顔を赤くした愚妹は、わなわなと震える瞳で立ち尽くしています。

 その瞳を揺らすのは、羞恥と……困惑。訳が分からないとでも言いたげな様子で呻く愚妹に、ナイトさんは立ちあがって気遣うように手を伸ばしました。

 

「なあ、どうし――」

 

 伸ばしたその手は

 

「――――ッ!!」

 

 パンッ――と、愚妹の手で打ち払われました。

 

 その行動に思わず目を見開くナイトさんですが、打ち払ったはずの愚妹も、同じように呆然と彼の手を打った自分の掌を見つめ、それをそろそろと胸に当てました。それはまるでその奥にある何かを恐る恐る確かめるかのように。

 

「なに…これ……?」

 

 その小さな呟きは、自分自身への困惑と、

 

「知らない……こんな……わたしは……」

 

 ――そして、恐れに満ちていました。

 

 そのただならぬ様子に、ナイトさんは思わず声をかけようとし、それに気付いた愚妹はビクッと震え、その紫がかった銀の長髪をふわっと翻して

 

「――――っ」

 

 彼に背中を向けて何処かへと駆け出しました。

 行き先など決めていないのでしょう。ただ衝動のまま闇雲に駆けるその姿は、まるで暗闇を泣きながら走る迷い子のようでした。

 

「っ!?――待てよ!」

 

 慌てて後を追うナイトさんにバレないように、私もその後を追います。

 愚妹はまもなく前方にあった小劇場の中に飛び込み、続いてナイトさんもその中へと駆け入りました。

 私もまた、遅れるわけにはいきません。

 予感がするのです。抗えぬ運命が動き出す予感が。終幕のベルが鳴り響く予兆が。私の小さな胸の中で湧き起こり、高らかに告げるのです。

 

 ――これより彼らの決闘(デート)の、魅せ場(クライマックス)が始まるのだと。

 

 劇場の扉を潜る際に、私はここで上演されるらしい人形劇のタイトルを目にしました。

 

 

 

 

『オズの魔法使い』

 




Q,主人公がキレやすいヘタレなドSでヒロインが責めに弱すぎるドSとか何を考えてキャラ作ってるんでしょうねワタクシ?

A,何も考えておりません。

いつにもましてノリと勢いだけで書き上げた12話をお読みいただきありがとうございます。今回は黄金さんに頑張ってもらいました。一人称ぶっ続けをよくやってくれましたよ偉い偉い。ご褒美に次回からしばらく苛めてやろうウヒヒヒヒ。

そして次回は第一話最終回です。
まだ細部すらロクすっぽ決めてないノリと勢い任せで突っ走ておりますので、投稿にはやはり間が開きます。またまたゆるりとお待ちください。では最終話でお会いしましょう。
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