極悪少女は縛れない   作:どるふべるぐ

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クリスマスの終わりに贈る黄金さんの大活躍!
童貞の初めてが奪われたり極悪愚妹が発狂したり姉にどつかれたりするけど今日も頑張る黄金さん。
そんな彼女の大☆活☆躍☆始まるよ!

※用語(技名)一部変更しました。

最初に言っておく、別に作者はジャンヌに恨みは持ってない。ただイジめるのが好きなだけだ!!!!


ラストシーン『虚ろな彼と惑える彼女の決着《フィナーレ》~中篇~』

寄り添う二人の姿を、私はずっと見ていた。

 

物陰から、背後から、決して手の届かない場所で。

妹に笑いかけるあの人を。あの人に笑いかける妹を。

笑い合って、怒り合って、それでも触れ合って、寄り添い合う二人を。

 

一人きりで、見ていた。

 

それが必要だから。そうしなければならなかったから。

だけど、それでも、思ってしまった。

 

『もし、私だったら……』

 

何時の間にか、あの人の隣にいる自分を想ってしまう。あの人と寄り添う姿を想ってしまう自分がいて。

いけないはずなのに、叶うはず無いのに……私は。

 

――貴方のそばにいたいと、想ってしまいました。

 

 

◇◇◇

 

 

紫銀の大螺子が迫る。

まっすぐ、一切の躊躇いも迷いも無く、愛も恋も全てを振り切るかのように駆け抜ける殺意が、虚空を貫き迫り来る。

それを前に御伽騎士は――愕然と立ち尽くしていた。

何故だ。何故こうなった。どこを間違えた。どこで間違えた!

荒れ狂う混乱と困惑に恐怖すらも塗り潰され、逃げる事も、悲鳴を上げることすらも出来ず、ただただ立ち尽くす。

その見開いた瞳が、大螺子の先端と、その向こうに佇む少女を映した。その極悪で、醜悪な――泣き叫ぶような笑顔を。

 

「……あぁ」

 

――あるいはこれが、俺達の運命(きゃくほん)だったのかもしれない。

 

呆然と、呟く彼を、紫銀の少女の大螺子(おもい)が貫く、刹那――。

 

「ハアアアア!!」

 

騎士は、闇を切り裂く黄金の輝きを見た。

 

美しくも鮮烈な叫びと共に、大螺子が斬り払われる高らかな音が響く。

それを成したるは一振りの大剣。輝く刃が紫銀の凶器を砕き、紫の粒子に変えていく。その貴き輝きは正に至高の正義そのもの。だが、その輝きもそれを振るう少女を前にしては霞むと言わざるを得ない。夜闇を照らす太陽の如きその黄金の髪を前にしては。

そして騎士は、彼を守るべくその前に躍り出た黄金の正義の名を呟いた。

 

「ジャンヌ……」

 

闇に輝く黄金の髪。穢れ無き純白の肌は神聖さすら帯びて、白百合の如き華奢な身体は立ち昇る闘気を纏う。揺るぎ無き正義と大義に輝く翆緑の瞳が、限り無き戦意を以って極悪の少女を見据えていた。

 

「お怪我はありませんか?ナイトさん」

 

澄んだ声が問う。美しくも、感情の無い平坦な響きで。

 

「ああ。助かった……」

 

答えるも、何故だか声が震えてしてしまう。口が渇き落ち着かない。ぞわぞわと肌を撫でるような何かが、鳥肌となって張り詰めた緊張を訴える。まるで猛獣の近くにでもいるかのようなプレッシャーが、彼を襲い呑み込んでいた。

 

「そうですか。それは良かった……では、離れていて下さい」

 

ジャンヌは告げる。静かな、感情の無いどこまでも平坦な声で――否!

 

「――極悪を、殺します」

 

感情は在った。ただ殺意(それ)が、面に表せぬほどに振り切れていたのだ。

 

「―――ッ!?」

 

そのあまりの迫力に息を飲んだ、瞬間――殺気が、爆発した。

黄金の?否。これは静かならざる慟哭の如き殺意。

荒れ狂い、憤怒と妄執に発狂する紫銀の殺気だ。その中心地、燃え上がる怒気と狂気を殺気に変えて撒き散らす少女が、咆哮した。

 

「邪ァ魔ァだあああああああああああ!!」

 

そして放たれる新たなる大螺子。ジャンヌを、否、その背後に庇われる騎士を貫かんと飛来したそれは、だが再び大剣の一振りの下に斬り払われた。

紫銀の少女が絶叫する。

 

「なんで!?なんで邪魔するのよいつもいつも!わたしはわたしになりたいだけなのになんで!」

「――黙れ」

 

泣き叫ぶようなその声は、熱く凍えた響きに斬り捨てられる。

 

「お前は死ね。欠片も残さず死ね。肉の一片血の一滴、一つたりとも世界に残さず死に尽くせ」

 

その言の葉は殺意に凍えているというのに、発する闘気は熱く、憤怒に燃えていた。

ならば、それに応える声もまた、熱く凍えていた。

 

「――だァまァれェ」

 

涙を凍らせ、恋情を激情で焼き尽くすかの如く。

 

「おまえは殺す。欠片も残さず殺す。肉の一片血の一滴……」

 

彼への殺意(おもい)を邪魔する全ては

 

「一つたりとも世界に残さず殺し尽くす!!」

 

叫び、紫銀は自らの切札(きょうき)を解放した。

 

御伽術式(テイルズ)――《ブリキの木こり(ハートレス)》……」

 

『御伽術式』。それは、魔術世界においてマリアネットを史上最高の魔導人形と言わしめた究極の術式(プログラム)。空想上の奇跡(ものがたり)を現実に顕現させる究極魔術。傀儡の王より賜りし、あらゆる魔術の常識を破壊し、概念を覆し、限界を塗り変えた最強の矛。

 

御伽術式(テイルズ)――《聖処女(ラ・ピュセル)》……」

 

黄金もまた、自らの切札を解き放つ。

対峙する二人の総身から膨大な魔力が迸り、そのあまりの濃度に光すらも発したそれが、黒き夜闇を紫と黄金に染め上げた。

噴き上がる魔力に、おぞましき紫銀と輝ける黄金の髪がはためく。木々が震える。大地が揺れる。大気すらも張り詰め、空間そのものが悲鳴を上げるかのように軋みだす。

森羅が感じていた。万象が震えていた。

これより、現世の常識も法則も限界をも超えた幻世の戦いが――御伽噺にのみ存在するはずの空想上の奇跡が顕現するのだと。

そして、限りなく高まっていく戦意と殺意と魔力の波動が、最高潮にまで達した時――。

 

「「――開演(オープン)!!!!」」

 

二人の乙女が高らかに告げ、紫と黄金の閃光が全てを呑み込んだ。

 

「――ッッッ!?」

 

騎士は、瞳を焼く閃光に堪らず腕をかざして瞼を閉じた。ジャンヌの言葉に従い離れた距離に退避してもなお、強烈に照りつける光に顔を歪めつつ、やがて光が止んだのを確認して瞼を開き――美しき御伽の姫君を目にした。

 

「我は黄金。我こそ正義。輝ける絶対正義の名の下に、我はここに善を為す……」

 

それは黄金。それは輝ける正義の英雄譚。

カジュアルな現代服に変わってその身に纏うは、一切の穢れを赦さぬ純白の鎧。黄金のラインが走るそれは優美ながらも重厚。スカート部分が女性的な美を際立たせ、四肢と胸部を包む装甲が雄々しき気高さを以って黄金の威を示す。

 

「我は紫銀。我こそ極悪。揺るぎ無き絶対悪の名の下に、我はここに悪を為す……」

 

それは紫銀。それは()き叫ぶ極悪の残酷童話。

愛らしいワンピースに変わってその身に纏うは、穢れそのものの如き黒紫のゴシックドレス。銀のゼンマイと歯車があしらわれたそれは美麗ながらも醜悪。揺れるスカートが妖艶なる色香を漂わせ、その装飾が美しくも残酷な輝きを以って紫銀の威を示す。

 

それは幻想。それは伝説。それは世界に顕現した人形達の御伽噺(おとぎばなし)

対峙する英雄と絶対悪。物語にのみ描かれるような光景が、ここに在った。

 

「「いざ……」」

 

紫銀の極悪がその両肘から先をチェーンソウに変え、黄金の正義が大剣を構える。

 

「「――開幕(まいる)!!」」

 

開幕の咆哮の下、正義と悪の闘争劇が幕を開けた。

 

 

◇◇◇

 

 

それは御伽噺の戦いだった。

 

「ハアアアアアアアアア!」

 

大剣を振るうは黄金の英雄。可憐にして苛烈なる少女は自らの正義を掲げて悪に挑む。

 

「シャアアアアアアアア!」

 

凶刃を振るうは紫銀の極悪。美麗にして残虐なる少女は自らの悪意を示すため善に挑む。

肢体が舞う。刃が交わされる。弾ける火花が夜闇を照らし、爆ぜる衝撃が大気を揺らす。

そんな人ならざる戦いを、騎士はただ見つめる事しか出来なかった。

何もできず、何もなせず。二人の少女の殺し合いを前にただ立ち尽くす。

 

「なんだよ……これッ」

 

絶望を絞り出すような呟きは、締めつけられる胸の痛みと共に、自らを苛む。

 

「なんで……こうなったッ」

 

少女を救いたかった。その虚ろな心を埋めたかった……はず、なのにッ。

その少女は、今狂える悪意のままに戦っている。暴れている――否。

 

「死ね死ね死ね早く死ね死んでよお願いだから早くナイトを殺させてよおおおお!!」

 

()き叫んでいた。

涙すら流せず、激情のままに、荒れ狂う悪意の中で幼子の様に慟哭していた。

壊れている。狂っている。只一つの想いだけを胸に、哭き叫んでいる。

 

「畜、生……ッ」

 

何もできないのか。何もなせないのか……ッ。

救うと、幸せにしたいと願った女の子が壊れていくのを前に……俺はッ――。

震える拳を握り締め、己が無力に打ちひしがれる騎士の耳に、

 

「――いやはやニャんとまったく驚いた。実に見ごたえのあるクライマックスになっているじゃあニャいか」

 

そんな、場違いな程に暢気な声が響いた。

 

「この、声は……?」

 

背後から響く笑い声に騎士は思わず振り向き

 

「やあ騎士クン。なにやらニャかニャか盛り上がっているね♪」

「シャロ!?」

 

中空で愉快げに笑う黄色いチェック柄の猫人形と対面した。

 

「お前、どうして……?」

 

思いもしなかった人(?)物の登場に戸惑う騎士に、慇懃無礼な仕草でお辞儀をしたチェシャロックは、キザキザ口をニンマリ歪ませる。

 

「いやなに、ちょっと可愛い妹と可愛いユーの主演舞台を見に来たのさ。君の友にして我が姉君と一緒にね……」

 

相も変わらずの、からかうような口調でそう言ったチャシャロックの言葉に促され、夜闇の中から見慣れた、だが意外な人物が姿を現した。

 

「……無事か、ナイト?」

 

月光を浴びて艶めく蒼黒の髪を靡かせる美しき少女――雨宮凛花が、その凛とした青に染まった瞳を心配げに揺らし、騎士の下に歩み寄ってきた。

 

「凛花……」

「よかった……。無事なようだな」

 

騎士の体に傷が無いことを確認し、安堵の微笑みを浮かべる凛花。だが、その美貌はすぐに引き締められる。

 

「ここは危険だ。ナイト、すぐに離れよう」

「離れるって……ッ!」

 

その言葉に、騎士は震え、背後の戦いに目を向けた。そこで狂気と悪意を撒き散らして慟哭する極悪の少女の姿に――。

 

「できねえよ……あいつが、あんなになってるってのに……ッ」

「だが、ここにいては巻き込まれる。ナイトはただの人間だ。そうなればひとたまりも無いぞッ」

「わかってるッ。わかってるよ、けど……ッ」

 

悔しげに声を震わせ拳を握りしめるその姿を、凛花は憐れむように見つめ、だが厳しい声で、その想いを断ち切るように言った。

 

「――ナイト。私は君を守るために来た。私を救ってくれた君を、今度は私が救うために。……お願いだ。どうか今は一刻も早く逃げてくれ。――私は君を……君まで喪いたくないんだッ!」

「――ッ!……でもそれじゃあ、アイツは……」

「…………ッ」

 

その問いに、凛花は答えなかった。だが、悲しげに瞼を伏せ、言葉無く沈黙するその姿こそが、残酷な問いへの言葉にできぬ答えだった。

だが、

 

「なあ……おい答えてくれよ!あいつは――」

 

信じたくない。認めたくない。あいつがここで死ぬなんてそんなことはッ――。

 

残酷なその事実に本当は気付いていながらも、受け入れたくないゆえに必死に問いかける彼に、

 

「――壊れるねえ間違いニャく♪」

 

それは、あまりにあっさりと、告げられた。

楽しげに、愉快げに、高らかに笑いながら。

 

「アレは死ぬ。ここで死ぬ。何もなせずに何にもなれずに死んで逝く」

 

冷酷な猫が、残酷な真実を告げる。

 

「……まあ、そもそも彼女は最初からそうなる運命だったのだけど、ね」

「なん、だよ…、それ……ッ」

 

愕然と呟く騎士に、チェシャロックは答えず。ただニヤリと笑い、今だ激しく繰り広げられる二人の闘争劇に目を向けた。

 

「知りたければ『観察する(みる)』事だヨ騎士クン。それがどれほど残酷なものだとしても、眼を背けず瞳を開き向き合った者だけが『知識(しんそう)』を得る事が出来るんだ」

 

ガラスの瞳を愉快げに煌かせて戦いを観照するチェシャロックの言葉に、騎士もまたその戦いに目を向ける。それがどれほどに残酷だとしても、真実を知るために。

 

――そして彼は、極悪なる運命を知った。

 

「シィアアアアアア!」

「ハァアアアアアア!」

 

咆哮と共に刃が翻り、呻りを上げて激突する。

二つのチェーンソウが絶え間ない連撃を繰り出せば、大剣がその刀身ごと断ち斬らんと叩きつけられ、夜闇に舞う紫銀と黄金の髪が美しくも苛烈なる斬撃戦に華を添えた。

輝く黄金の大剣と煌く紫銀の双刃が激突するそのたびに、大気が震え火花が散り轟音が木霊する。

 

人ならざる力がぶつかり合う人外の戦いは――だが互角ではなかった。

 

ガギンッと、力の限り叩きつけたチェーンソウが大剣に弾かれる。腕に伝わる衝撃と痺れに顔を歪めた少女に、更なる斬撃が放たれた。

 

「死になさい!」

「お前がぁッ!」

 

繰り出された大剣を、左腕のチェーンソウにて迎え討つ。

輝く聖刃と廻る凶刃の一騎打ちは――砕け散る凶刃の音色によって決着した。

紫銀が容易く打ち負けた事に眼を剥く騎士に、チェシャロックは実に生き生きと解説する。

 

「ジャンヌは稼働率こそ落ちたとはいえ、シリーズ中上位の魔力出力(パワー)の持ち主。単純な力比べで彼女が勝てる相手ではないよ――それに……」

 

バキンッ――と、ビスクドールを壁に叩きつけたかのような不吉な音が響き、それは起こった。

 

「いッ、痛ァァ!?」

 

傷一つ無かった少女の白い肌に、亀裂が走った――攻撃を受けていない筈の二の腕に。

 

 

 

「――アレはもう、とうの昔に壊れている」

 

 

 

突如生まれた小さな亀裂は、パキパキと不快な音を立てて拡がっていく。攻撃を受けたわけでも、衝撃に耐えられなかったのでもなく、まるで、その身体自身が自ら滅びていくかのように。

 

「痛ゥッ、アアアアアアッ!!」

 

二の腕に走る激痛に美貌を歪める。だが少女は苦悶の呻きを咆哮に変えて、残る右腕のチェーンソウで斬りかかった。

その啼き叫ぶ刃は輝く大剣によって受け止められ、二つの刃は交差する。そして、壮絶な鍔迫り合いが始まった。

 

「ハッ、アァァァッ……ッ」

 

気合いと共に黄金の大剣が押し込めば、

 

「グッ、ウァァァッ……ッ」

 

紫銀の凶刃が呻りを上げて押し返す。

主より注がれた大魔力によって黄金と紫の魔光を放ち、火花を散らして攻め合う二つの刃。高まりぶつかり合う二つの闘気と魔力に、周囲の景色すら歪む中――再び、破滅の音が鳴り響いた。

 

バキィン。

 

と、不吉な音色が響き、少女の美しくも柔らかな頬が――ひび割れた。

 

「グゥッ、ギィィィィ……ッ」

 

葉をくいしばる。悲鳴を押し殺す。苦痛すらも呑み込むように美貌を歪め、彼女はその身に更なる力を込めた。それに悲鳴を上げるように、右頬に生まれた亀裂がビキビキと音を立てて拡がり、激痛と共に美貌の右半分を覆っていく。

その凄絶な光景に、見つめる騎士は絶句した。

 

「な、んだよ……ッ?なんなんだよあれは!?」

「――自己崩壊だヨ」

 

答えるのは、笑う黄色の猫人形。

 

「ミー達『姫傀儡(マリアネット)』にはマスター・ゼペットへの服従命令と、それに逆らった者への自壊プログラムが掛けられていたんだ。――だが、彼女はそれに逆らった」

 

残酷なほど丁寧に、極悪の真実を語る。

 

「故に、彼女がマスターに反旗を翻したその瞬間に、自壊プログラムは発動していた。マスターの死によってそれが停止したとしても、それまでに内部機関に受けたダメージは……正に致命的なものだったのだろうねェ」

 

その言葉に、騎士は思わず少女の左腕に目を向けた。刃が折られ、小刻みに震えるその細腕は、時と共に拡がる痛々しい亀裂に侵されていく。

 

「彼女は本来なら半身を吹き飛ばされようとすぐにその身を自己修復、再構築する事が出来た。だが今はそれが出来ていない……と、いうことはおそらく――彼女の自己修復システムはすでに停止しているか、限りなくその機能が低下している。機体の崩壊速度に追いつけない程に、ね。おそらくは崩壊していく速度を抑え五体を繋ぎ止めるのが精一杯だったはずだよ」

 

パキパキと、音が鳴る。ビキビキと、破滅が鳴り響き――死が、拡がっていく。

 

「もう崩壊は止まらない。ジャンヌがわざわざ殺すまでも無く、彼女は死ぬ。恐らくは今夜十二時の鐘が鳴る頃が、彼女の物語の終幕だ。だから騎士クン。ユーに彼女を救うことは出来ないんだヨ。――アレは最初から手遅れだったんだからね」

「そ、んな……」

 

無慈悲な真実に、騎士は呆然と呟いた。

嘘だと言いたい。そんな事は無いと否定したい。だが、目の前の光景が残酷な現実を何よりも示している。

絶望感に立ち尽くす騎士の耳に、その時、チェシャロックの呆れたような声が届いた。

 

「しかしまあ、『心』などのためによくやるものだよ。そうまでして『(じぶん)』なんてどうでもいいモノを求めるとは、まったく度し難いねえ」

 

ビクッーーと、力無く下がっていた彼の肩が、震えた。

 

「な…に……?」

「反逆はてっきりマリアネット・コードの暴走が原因かと思いきや、彼女の思考そのものの暴走だったとは……いやはやまったく分からなかったはずだ。『心』なんてミーにはまったく価値の見出せないものだからね」

 

騎士の硬い声に構わず、少女を眺めやれやれと肩をすくめる。

 

「自我?心?意志?なんだいそれはどうでもいいね下らニャい。ミー達は只の人形。身体も思考も全てが作り物だそれがなんだい?ミーはこの『好奇心(コード)』の赴くままに探求し知識欲を満たして満足できればそれでいい。……だというのに」

 

ガラスの瞳を光らせ、キザキザの口を嘲り歪め、嗤った。

 

「そんな『(じぶん)』とやらを求めて主を殺し自由になっておきながら、彼女自身が『(じぶん)』というモノを見失って迷い死ぬとは、まったくもって――馬鹿なお人形(ガラクタ)だ」

 

 

 

「ふっざけんなあああああああ!」

 

 

 

「……ニャんだい騎士クン?」

 

爆発した怒声に笑いを止めたチェシャロックに、騎士はその怒りをぶつける。

 

「ふざけんなよ糞猫が!お前にあいつの何が分かるってんだ!あいつはなあッ、確かに迷って惑って自分を見失ってワケわかんなくなってるけどよッ。それでもアイツなりに頑張って足掻いて『(じぶん)』を見つけるために戦ってたんだよ!それを何も知らずに、お前はッ――」

 

少女の想いも知らず、その悲壮な覚悟すら理解できずに嗤い侮辱する猫に、彼は怒りのままに言葉をぶつけ、

 

 

 

『感情データ『マリアネット・コード』作られた想い。植えつけられた本能。それがあいつの『悪意』なんだろ』

 

 

 

「――――ッ!?」

 

記憶の底から響いた声に、全身が凍りついた。

 

『ならあいつはただそれに従ってるだけで、そこにあいつ自身の意志なんてないんじゃないか?』

 

それはかつて、一人の少女を想い、憐れみ、

 

『だとしたらあいつは、造られた時から『悪』しか知らず、それ以外にやりたいことも何も無く、ただ植えつけられた『悪意』のままに罪を重ねてきた……』

 

救ってやりたいと願った少年が、

 

『――空っぽの人形だ』

 

少女の願いの何たるかも知らずに『人形』だと断じた言葉。

 

『お前にとって最大の禁忌であるゼペット殺しをすることに躊躇いは無かったはずだ。いやむしろ抑えきれなかったはずだ。それがお前の全てであるコードの命令だったんだからな』

 

それはどこまでもまっすぐに

 

『それでお前はゼペットを殺し、自分の存在意義に従って、自分の存在意義を否定した。そして――空っぽになった』

 

何も知らず、何も分からないまま

 

『だからお前は今でも悪を続けてるんだろ。自分の心を悪で得た快楽で埋めるために』

 

ただ少女を想い、救おうと手を差し伸べて

 

『おまえもあいつと、凛花と同じだ。だったら、俺がその空っぽを埋めてやる!何をすればいいのか分かんねえけど、できることなら何でもしてやる!だからッ――』

 

その(すべて)否定(こわ)した言葉。

 

 

 

『ねえ、ナイト――死んでみる?』

 

 

 

「――――ッッッッ!!!!」

 

ぐらりと、世界が揺れた。愕然と見開いた瞳に映る景色が暗く閉ざされ、足下がガラガラと崩れ落ちていくかのような感覚が全身を襲う。

その名は――絶望と言った。

 

「俺が……追い詰めたのか……?」

 

震える声は、恐怖に満ちて。

 

「俺が、あいつの想いも、願いも否定して……あいつを本当に傷つけていたのは……」

 

力無く呟くそれは

 

「俺、だ……」

 

己への絶望に、染まっていた。

 

「は、はははははは………」

 

嗤いながら、膝をつく。力無く、無様に。一人の少女に何もできず、何もなせなかった自分に相応しく

 

「なにやってたんだ、おれ……?」

 

虚ろに、呟いた。

 

ああそうだ。俺は守れなかった。俺はどこまでも無知で無力で、救ってやると誓っても、傷つけて、泣かせて、そして俺は何もできずに……。

 

「畜、生……ッ」

 

虚ろな無力感と冷たい絶望が、全てを喰い尽していく。

力も、希望も、何もかもが絶望に呑まれ消えていくのを感じながら、騎士は、

 

バリィィン――と、何かが砕け散る音を聞いた。

 

◇◇◇

 

闇の中で、煌く紫銀の欠片が飛び散った。

鳴り響く破砕音は、砕け散ったチェーンソウの断末魔。

黄金の大剣と紫銀の凶刃の鍔迫り合いは、剛力による凶刃の破壊によって決着した。

 

「ちいぃッ!!」

 

激痛に美貌を歪め、それでも咄嗟に距離を取ろうとした少女に、

 

「逃がしません!」

 

黄金の刃が、振り下ろされた。

 

「ぎッ、アアアアアアアアア!?」

 

響き渡るは少女の絶叫。

声を上げて崩れ落ちた肢体が纏うドレスの胸元は無残に斬り裂かれ、露出した淡い胸には――深き斬痕が刻まれていた。

 

「う、あ…あ……ッ」

 

咄嗟に飛び退いた事で絶命こそ免れたものの、その代償はあまりにも深く、痛い。両膝をつき、震える少女の中心で、胸の穴が虚ろな激痛を撒き散らした。

 

「いいいッッッ痛ァ――!!」

 

悲鳴すら途切れる程の激痛に悶え苦しむ少女。刃が砕けた両腕で己を抱きしめる彼女の、赤子の様に叫ぶ小さな唇が、震えて――。

 

「い、たいよぉ……」

 

()いた。

 

「痛い。痛いの……ねえ……」

 

彼に、向けて。

 

「いや、だ。わたし、まだ……『わたし』になれて…ないのに……ッ」

 

たった一つの願いを、こめて。

 

「あなたを殺せば…なれる…のに……ッ」

 

たった一つの想いを、向けて。

 

ころさせてよぉ(たすけてよぉ)……ナイトぉ……」

 

 ――御伽騎士を、呼んだ。

 

 

◇◇◇

 

 

あいつが、呼んでいる。

 

傷つきながら、傷つけた俺を。

壊れながら、壊した俺を。

足掻きながら、足掻く事すらできず絶望した俺を。

助けられなかった俺に、無様に膝をつく俺に、『たすけて』と――。

 

俺は……俺は――ッ!

 

「――なに、やってんだよおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

叫び握りしめた拳を、己が顔面に――女の子を泣かせた挙句、絶望に呑まれ全てを諦めようとしていた糞野郎にブチ込んだ。

 

「ナイト!?」

「へえ……」

 

炸裂する衝撃と痛み。視界が白く染まり、鼻のひしゃげる感触と共に、噴き出た鼻血が拳を濡らす。

 

痛え。痛え痛え痛え!。だが、あいつが感じている痛みは、あいつが抱く

苦しみは――こんなもんじゃねえ!

何を項垂れてる何を浸ってる!すぐそばで救いたいと思った女の子が泣いてるのなら、男がやるべきは一つだろ!

さあ、俯いていた顔を上げろ。地についた膝に力を込め、その足で地を踏みしめて――立ち上がれ!

 

そして騎士は――立ち上がった。

 

荒れ狂う激情を胸に、その瞳に決意を宿して。

地を踏みしめ、たった一人の少女を救うべく。

立ち上がり、決意と共に踏み出そうとしたその時、涼やかな、だが動揺に揺れる友の声に引き止められた。

 

「待てナイト!」

「凛花……」

 

青い少女の真摯な瞳が、騎士を見つめる。

そこに在る友への想いを裏切ってしまうことの痛みを感じながら、彼は告げた。

 

「悪い……。俺、行かなくちゃならねえんだ」

「だが、妹はもう……ッ」

「それでも、行かなくちゃならねえんだよ!」

 

猛る想いを告げる騎士に

 

「――で、ユーは行ってどうするんだい?」

 

笑う猫の問いが掛けられた。

 

「アレを救う?いいやユーには無理だ。ジャンヌから助け出したとしても、どのみち彼女の体は壊れている。運命(きゃくほん)は変わらニャい。何の策も力も無いユー一人では――」

「そ れ が ど う し た ?」

「……なんだって?」

「それがどうしたって言ったんだよ馬鹿。お前頭は良いみたいだが、何も分かっちゃいねえな」

 

侮蔑を含んだその言葉に、笑みを消したチェシャロックの纏う気配が、ざわりと揺れた。冷気すらも感じさせるほどの冷たい声が、マグマのごとく静かに煮えたぎって放たれる。

 

「……今、ミーを馬鹿と言ったのかい?この知識の探究者。マリアネット・シリーズ第三番姫『チェシャロック』を?」

「ああそうだよ馬鹿猫。いいか教えてやる――大事な女を助けるのに、そんなもんはいらねえ。無理無駄無謀?知るかんなもんどうでもいい。理屈じゃねえんだ。ただ救い(たすけ)たいから救い(たすけ)に行く。その『(おもい)』だけが在ればいいんだよ!」

 

叫ぶその瞳に、凛花は息をのんだ。

それは、あの忘れもしない夕暮れの中で、夏空の下で、絶望し涙を流す自分に手を差し伸べ、救ってくれたあの時の――熱く激しく、そして大切な何かを救おうとする瞳だったから。

 

「希望が無いなら戦ってでも作る。奇跡が必要なら起こすために血反吐を吐く。たとえ俺自身がブッ壊れても、あいつは俺が救ってやる!たとえ俺一人でも――」

「――いいや。一人じゃない」

 

ただ一人で征かんとする騎士に、凛とした声が、澄んだ決意を纏い寄り添った。

 

「凛花……」

「私も行こう。君一人では無理でも、私と一緒ならば何とかなるかもしれない」

「いいのか……?俺は、お前の気持ちを裏切ったのに……」

 

申し訳なさそうに伏せられた彼の瞳を、凛花の深い瞳が見つめる。そこには、何処までも澄んで、まっすぐな友への想いが、静かに燃えていた。

 

「君と同じだ。大切な人を助けるのに理由なんかいらない。……それに言っただろう」

 

そして、青い少女はその手に水の刀を作り、それを掲げる。

 

「ナイト、もし君が苦難にぶつかった時、私はこの身、この命の総てを以って君を助けると――もとより我が剣は、友への友情に捧げることを誓っている」

 

その言葉は澄み渡る刃のごとく穢れ無く、その誓いに一切の偽りは無い。

月下に佇む一人の青き武人の信義と友情が、騎士の胸を熱く打った。

 

「……ッ。ありがとな、凛花……ッ」

「いいんだ……さあ、征こうナイト」

「ああ、征くぜ凛花!」

 

そして二人は、共に並び、共に戦う事を誓って、共に力強く足を踏み出し――

 

「ニャッははははははははははははは!」

 

爆発した笑い声に足を止めた。

 

「そうかそれがユーの答えか!ニャるほどニャんとまあ馬鹿らしいね!勝算なんてどうでもいいと!式も解も分からずに難問に挑むとは愚かしい!しかもそれに一切の疑問も躊躇いも無いなんてユーの方がよっぽど馬鹿じゃないか!」

 

理解できないと、訳が分からないと言うチェシャロックは、しかしひどく楽し気で、黄色い腹を抱えてこれ以上ない程の声を上げて笑い転げるその姿は、まるで最高の餌を与えられた子猫の様な喜びようだった。

 

「面白い!こんなに笑ったのは生まれて初めてだよ。ミーの問いにまさかこんな『答えにもなっていない答え』をこうも気持ち良く返すとは……まったく騎士クン、ユーというやつは本当に最高だ。わざわざ煽った甲斐があったと言うものだヨ」

 

ひとしきり笑ったチェシャロックは、そう言うと踊るような身のこなしで騎士の隣に並び、ニッコリ笑顔で言ったのだ。

 

「じゃあ、征こうか♪」

 

さも当然とばかりに言う黄猫に、堪らず騎士はツッコんだ。

 

「いやお前なに何食わぬ顔してちゃっかり隣に並んでんだよ!?」

「やだニャあミーとユーの仲だろう。ユーが行くのなら不肖ミーも力を貸すのは友人として当たり前の事じゃニャいか♪」

「いやさっきまで俺にはあいつを救えないとかスゲぇノリノリで言ってただろ!」

「ああ言ったとも。『ユーの力』では、『ユー一人』では救えないと――故に、ミーの力で、ミーと一緒に救おうじゃないか」

 

その言葉に、騎士は思わずチェシャロックの瞳を凝視した。無機質なガラスのそこには、希望が無くともそれを見つけ出そうとする気概も、奇跡を起こそうという決意も無い。だが、己が知識と頭脳に対する絶対の自信と、確かな勝算を持つ者だけに宿る、策謀の光がそこに在った。

 

「何か方法が、あるのか……?」

「ああ、あるとも。この絶望の運命を変える一手を、彼女を救うための力を、ミーはユーに与える事が出来る」

「ッッッ!じゃあ今すぐその力を――」

「――ただしそのためには、ユーは大事なものを失わなければならない」

「な、に……?」

「何かを手に入れるためには、何かを失わなければならないのは世の道理。そして、それは失えば二度と戻らない、ただ一つきりのモノだ。ユーに、その代償を払う覚悟はあるのかい?」

 

猫の瞳が、騎士の瞳を覗き込む。一切の嘘も偽りも全てを見抜き、真実を暴く探求者のそれが、彼の覚悟を問うていた。

故に、騎士は答える。

躊躇いも、偽りも無く。己が覚悟をその瞳と言葉に込めて宣言した。

 

「当たり前だ。あいつを救う覚悟ならとっくに決めてんだよ」

「……いい、答えだ」

 

チェシャロックは笑った。

それはまるで窮鼠を捕らえた猫のようにニヤァと笑い、騎士に力を抜き目を閉じるように伝える。その言葉に従って、騎士は目を閉じた。

そして広がる、一面の闇。瞼の裏の闇黒の中で、彼は静かにその時を待った。

緊張がある。何かを失うことへの恐怖もある。だがその心に後悔は無かった。何故ならば、

 

ころさせてよぉ(たすけてよぉ)……ナイトぉ……』

 

救うと決めた女を喪う恐怖の方が、遥かに大きかったのだから。

 

「では、いくよ……」

 

そして、騎士は

 

「いただきます❤」

 

――逆レ●プ(べろちゅー)された。

 

ちゅっ!

れりゅんっ!

れろれろれろっ!

ぢゅ、ぢゅぢゅうううぅぅぅぅぅぅうっ!

……ぷはっ――ごっくん❤

 

押し付けられた。挿入された。舐めまわされた。吸って啜って吸い尽くされて、最後はごっくんと飲み込まれた。

 

……ホワイ?

 

あたままっしろで目を開けると、超至近距離の猫のお顔とこんにちは。

 

「ごちそうさま❤」

 

……。

………!!

………ッッッッッ!?!?!?!?!?

 

「な、なにすんじゃコラああああああああ!?」

 

そして絶叫。愕然と叫ぶ騎士と、唖然と目と口をまんまるにして顔を真っ赤に染めた凛花が立ち尽くす中、当の逆レ●プ犯ことチェシャロックは、口の周りを小さな舌でぺろりと舐めて、余韻を味わうようにウンウンと頷き、

 

「唾液からの遺伝子情報取得――登録完了、と。……ああ、実に良い味だったよ騎士クン」

 

騎士に向かってニッコリ笑った。

 

「てっ、テメぇい、いきなりなにをッ……ペッペッ!」

 

彼は口の周りを腕でゴシゴシ擦り、口内に残った逆レ●プ犯の唾液を一刻も早く吐き出そうと地面に唾を吐きまくる。

 

「は、初めてだったんだぞおおおおおおおおおおッッッッ!!!!」

 

――夜空に、無残に初めて(の、チュウ)を散らされた童貞の慟哭が木霊した。

 

「まあ落ち着いておくれよ。そんなユーに良い知らせが二つあるんだ」

「なんだよッ!?」

「ミーも初めてだ❤」

「死に晒せええええええええええええええええ!!」

 

そして騎士は凌辱された怒りに拳を振り上げ――チェシャロックの不敵な笑みを見た。

 

「そしてもう一つ――仮のマスター登録が完了した。これで、ユーは彼女を救える」

 

その言葉と共にチェシャロックの身体から光が溢れ、騎士は眩い光に包まれた。

 

 

◇◇◇

 

 

痛い。

痛い痛い痛い痛いッ!。

 

ひび割れた肌が痛い。砕けた腕が痛い。斬り裂かれた胸が痛い。

そしてなによりも

 

「ない、とぉ………ッ」

 

――あなたに逢えないのが、堪らなく痛いよ。

 

涙すら流せぬ程の痛みに震えながら、少女は想い人の名を呼んだ。

儚く震えるその声は、あまりに小さくて、愛しい人に届くその前に、冷たい虚空に淡く消える。

故に、彼女の声は届かない。それに応える者がいるとすれば、それは――。

 

「汚らわしい極悪が、あの人の名を呼ぶな」

 

哀れなる極悪を誅殺せんとする、黄金の正義だけだろう。

己が仇敵を睨みつけ、ジャンヌは言った。膝をつき痛みに震える極悪に、己が怒りを、殺意を告げる。

 

「あの人の想いを裏切ったお前が……」

 

『あいつを絶対に止めて見せる。あいつが虚ろな自分に苦しんでいるのなら、俺が必ずそれを埋めてやるよ』

 

「あの人の手を振り払ったお前が……ッ」

 

『放さねえよ。放せねえよ……絶対にッ』

 

「あの人を、呼ぶなアアアアア!」

 

叫び、憤怒と共に黄金の刃が振り上げられる。

月光に煌く黄金の大剣は、すなわち少女の命を刈り取る死神の鎌。冷たく輝く刃が告げる。

赦さぬと、貴様はここで死ぬのだと。

何も為せず、何にもなれずに滅びる事が、貴様の終幕なのだと。

 

「いや、だ……」

 

震える瞳を見開き、か細い声で、それでも確かに少女は言った。

いやだ。こんな結末は、こんな終幕だけは絶対に認められない、と。

想い、願い、壊れゆく身体に、力を込める。たとえそれ故にさらに肌がひび割れようと、激痛と共に砕けようとも、ただ一つの願いを叶えるために。

 

「わたしは、わたしはあああああああああああッ」

 

『わたし』になるまでッ、

 

「ナイトを(あい)すまで、死ねないのよおおおおおおおおお!!」

 

そして彼女は、闇黒の残酷童話を召喚した。  

 

――人々の想いが籠められた物には、力が宿る。

ただの石ころであっても、祈りと信仰を捧げられれば御神体となり、憎悪と恐怖を抱かれれば呪具となる。それが正であれ負であれ強い感情や想念のエネルギーを集めた物は、それそのものが一つの力ある存在となる。そして、古来より魔術師達はそれらの品を魔導具や魔術の媒介として利用してきた。

それはかの至高の人形師『傀儡王』ゼペットも同じく、最高傑作たるマリアネットを製作する際に、彼女はあるモノをその力の源として選んだ。

 

すなわち――『御伽噺(ものがたり)』である。

 

それは虚構。それは幻想。それは空想の中にしか存在しない、現実には在りえざる物。虚構の力を現実に、すなわち無から有を生み出す事など、いかな魔術の秘法を以ってしても不可能な筈の神の御業――だが、傀儡王は

それを成し遂げた。

 

かくて誕生したものこそ、人々(かんきゃく)の歓喜や感動や怒りに恐怖といった喜怒哀楽(かんそう)によって力を得た『力ある物語』を原典(モデル)に、その『空想上の奇跡』を揮う至高の魔導人形《姫傀儡(マリアネット)》である。

 

そして今ここに、その真骨頂が、現実に在り得ざる空想上の奇跡(ものがたり)が顕現する。

 

「グゥ、アァァァァ……ッッッ」

 

紫銀の少女の胸に空いた虚ろな亀裂から、眩い紫光が溢れる。暗く、虚ろな、冥府の底から届くかのごとき冷たい光は、だが狂おしい輝きを放ち、黒き夜を紫銀の色に染めていく。

そしてそれが一際強く輝いた時、それは現れた。

 

「来ォいいいいいい……ッ」

 

それは斧であった。

その刀身は白き月光を染め上げる紫光を放ち、緩やかに湾曲した刃が禍々しくも猟奇的な美しさを宿す一振りの戦斧。禍々しくも美しきその刀身が、少女の亀裂からその姿を現していた。

露出した刀身より先は今だ少女の内に在り、それがズズ……ッと音を立てて徐徐に外へと出てくる。そしてその度に、少女の身体からビキビキと異様な音が鳴り、無数に刻まれた罅割れがその領域を拡大させた。

 

「痛グゥ、アアアアアアアアア!!」

 

内部を喰い荒されるかのような激痛に少女が身悶える。だが、少女が悶えれば悶えるほどに、刀身はその大きさと鋭さを増して更に禍々しくも強靭な刃となっていく。それはまるで、戦斧自身が少女を喰らっているかのような異様な光景であった。

そして、それが約一メートルほどに露出した時、少女は再構築した手でその柄を掴み、咆哮と共に一気に引き抜いた。

 

第三武装(サードウェポン)痛哭の戦斧(ペイン・オブ・バルディッシュ)》!!」

 

かくて、凶刃なる狂気がその全様を現した。

小さな胸の亀裂を辛うじてくぐるほどの大きさしか無かった刀身は、今や少女の半身を覆う程の大きさとなり、禍々しき紫光を纏い殺意と悪意に輝いている。

 

それはまさに猟奇的な美しさと暴力的な残虐性をつきつめたかのような、およそ現実のモノとは思えない存在――然り。

少女が生み出したそれは虚構。それは空想。それは物語にのみ存在するはずの幻想。彼女の原典たる物語にて『木こりの手斧』として描かれたそれは、だが今、彼女自身の悪意と狂気によって歪められ、禍々しき戦斧となって現実世界に降臨した。

 

「……ッ!?……そんな、ものおぉぉぉぉぉぉ!」

 

その威容が放つ禍々しき圧にあてられ、ジャンヌは刹那気圧されたかのように動きを止める。が、すぐさま気を取り直し、咆哮と共に大剣を振り下ろした――瞬間。

 

――(ゴウ)!!

 

夜気を斬殺する呻りと共に、凄まじい衝撃が大剣を襲った。

轟く衝突音と花開く大輪の火花が夜闇を照らし、ジャンヌは驚愕の中で自らの刃を弾いた戦斧の煌きを見る。

それはただの一撃。単なる横薙ぎ。だがそれは先の双刃などとは比べ物にならぬ重さと超威力を以って、真っ向から黄金の大剣を退けたのだ。

戦慄と共に理解する。これが、これこそが彼女の全力なのだと。その身を削り命すらも縮めて生み出した正真正銘の最終兵器。

 

――で、

 

「それが、なんですか……ッ」

 

だからどうした。

 

「そんなモノで……私を、我が正義を止められるとでも思ったのか極悪が!」

 

命を捨てた全力?超威力の最終兵器?ああ結構だ片腹痛いぞ素晴らしい。

ならばよろしい教えてやろう。

 

「正義とは、あらゆる闇を絶えざる光もて切り裂く者。故に、その闇がどれほど深く暗くとも、我が黄金の光にて染め上げる!」

 

黄金の意志を聞け。正義の光を見よ。

 

「我が正義と尊きあの人への誓いに懸けて――滅せよ極悪。ここが貴様の終幕だ!!」

 

その誓いに迷い無く、その正義に赦し無し。

これぞ黄金これこそ正義――絶対正義ここに在り。

 

――で、

 

「それが、どうしたああああああああ!!」

 

だからなんだ。

 

「そんなモノで……わたしを、わたしの悪意(おもい)を止められるとでも思ったのかァ正義が!」

 

輝く正義?尊き誓い?何だそれはどうでもいいぞ下らない。

知れよ塵屑塵芥。

 

「極悪とは、あらゆる正義を捻じ伏せ潰し殺す者。たとえ光がどれほど眩く輝くとも、我が紫銀の闇が塗り潰す!」

 

紫銀の想いを聞け。極悪の闇を見よ。

 

「我が極悪と愛しきあの人への想いに懸けて――死ねよ正義。ここがお前の終幕だあ!!」

 

その想いに迷い無く、その極悪に救い無し。

これぞ紫銀これこそ極悪――絶対悪ここに在り。

 

互いに己が総てを宣言し、二人はそれぞれの武器を構える。

最早これより言葉は不要。その一撃をもって意志と成し、血と痛みによって語り(ころし)合おう。

黄金の闘気が高まる。紫銀の殺気が膨らむ。意識(せかい)から音を消し、臭いを消し、色すらも消して、視覚聴覚嗅覚触覚総ての感覚を限界まで高め、相手の全てを読み尽くさんと他の全てを遮断し、互いの世界を互いのみの(ゼロ)とする。

 

そして、二人の意識が共に同じ領域(ゾーン)に入ったその瞬間――二つの人形は地を蹴った。

 

「シャアアアアアアア!!」

「ハアアアアアアアア!!」

 

大気を貫き音の壁すらも突き破り疾走する二つの人形。互いに咆哮を上げて突き進む両者の距離が遂にゼロとなるその刹那――二人の一撃は互いに当たる事無く二本の腕で止められた。

 

「なッ!?」

「えッ!?」

 

激突の寸前、二人の間に突如現れた、

 

「たすけてよ、か……」

 

――御伽騎士によって。

 

「ああ。助けに来たぜ――お前をな」

 

 

◇◇◇

 

 

黄金の少女は、眼を疑った。

紫銀の少女は、眼を(みは)った。

 

けして現れるはずのなかった彼の登場に。

自分達の間に割り込み、あろうことかその一撃を止めた事実に。

そしてなによりも、彼――御伽騎士の在り得ざる姿に。

 

「ああ。助けに来たぜ――お前をな」

 

両手の指で二人の刃を掴み、そう極悪の少女に告げる彼の髪は――鮮やかな黄色に染まっていた。

あの黒々とした髪が、癖のある黄髪となって魔力を帯びて輝いている。のみならず、その黄髪の間からは猫の耳を思わせる形の機械が覗いていた。その身に纏うは黄色いチェック柄のインバネスコート。裾の長いコートにケープを合わせた特徴的なデザインは、かの探偵物語の主人公を思わせて――。

 

「まさか、その姿は……ッ」

 

ジャンヌは驚きと混乱の中で思い出す。

あの黄色い笑顔を。不思議の国の猫の『物語』と、そして世界で最も有名な探偵の『物語』を原典に持つ自らの姉を――。

 

「チェシャロック姉様……!」

『ご名答!』

 

高らかな声とともに、変わり果てた騎士の肩に黄色い猫が現れる。ホログラムの様に揺らめくその姿は一目で虚像の類と分かるが、その顔に浮かんだ笑みは本物の賞賛を湛えていた。

 

『一目で気付くとは流石は可愛い妹だ。ミーは嬉しいよジャンヌ』

「なんで貴女が……いえ、それよりもその姿は……ッ!」

『彼――御伽騎士クンを仮のマスターとして登録した。そしてこれこそが――』

 

 

 

――『仮の、マスター?』

『ああそうだよ騎士クン。ミー達マリアネットはマスター・ゼペット以外の人物の遺伝子情報を登録することで、その人物を二十四時間だけ仮のマスターにする事が出来るんだ。そして、仮のマスターは魔力の供給をはじめとして様々なマスター権限を行使できる。その一つが、マリアネットの武装化だ』

『武装化……お前らを武器にするってのか?』

よくできました(イグザクトリィ)。それぞれの人形の力を纏うことによって、人形遣いは人を超える力を得る。……そう、今の君のように』

『この、姿が……ッ』

『ああそのとおり。これが、これこそが―――』

 

 

 

『――武装形態(モード・ウェポン)《傀儡武装チェシャロック》さ!』

 

誇らしげに告げる猫の声が、高らかに響いた。

 

『これが、我らが騎士クンの新たな力だヨ』

「払った代償はでかかったがな……ッ」

『得た物も大きかったろう?』

 

苦虫を百匹ばかり噛み潰したような顔で呟く騎士に、ニヤリと笑ってその唇を窄め『チュッ❤』と音を出す逆レ●プ犯。それに騎士がビクッと赤面したのを楽しげに確認し、彼女は芝居かがった口調で言った。

 

『じゃあ登場シーンを華麗にキメた所で、早速ヒロインを救うとしようか。マスター・ナイト?』

「ああもちろんだ。その為に、俺はここにいるんだからな」

 

決意を込めて力強く応じる騎士。そんな彼に、震える声が問いかけた。

 

「……そ、んな……何故、ですか……?」

 

困惑する瞳で、動揺に揺れる声の主は

 

「ジャンヌ……」

 

黄金の少女は翡翠の瞳を見開き、己が大剣を――彼への誓い(おもい)を阻んだ彼自身へと叫んだ。

 

「それは、その女は貴方を裏切ったんですよ!」

「……ああ。そうだな」

「なら何でその女を助けるんですか!?貴方の想いを、貴方の手を振り払ったというのに、何故――」

 

叫び、問いかける。弾劾するように、糾弾するように――あるいは、縋りつくように。

そんな彼女のどこか悲痛な叫びは、他ならぬ彼の言葉によって断たれた。

 

「――それでも、俺はこいつを救いたいんだよ」

「――ッ!?」

「憶えてるか?あの夕暮れの喫茶店で交わした約束を。……あの時、俺はこいつを止めてやるって言ったのに――この様だ。こいつを知らずに傷つけて、壊しちまった……」

 

語る彼の瞳が、後悔に陰る。だが次の瞬間には、そこに力が宿り、問うジャンヌの瞳を強い意志の輝きをもって見返した。

 

「だからこそ、俺は今度こそ、こいつを救いたい。……すまねえジャンヌ。お前の誓いも、想いも、正義も知っておきながら、俺はそれを拒絶しちまう。でも、譲れねえし、退くわけにはいかねえ。これは俺の――ケジメだ!!」

 

――だから、俺にこいつを救わせてくれ。

 

そう語る彼の瞳を見た瞬間、ジャンヌはその胸が、いや、それよりももっと深いどこかが、ズキッとひび割れる――痛みを、感じた。

 

だから、彼女は……。

 

「いや、です……。ダメ、ですよ……。だって、約束、したじゃないですか……。私がこいつを殺すって……ナイトさんを裏切ったら……ナイトさんのために……私は……」

 

彼をこうした、この女を殺さなければならないと、思った。

 

その瞳に、鬼気が宿る。それは狂おしく、煮え滾り、恐ろしくもありながら――どこか棄てられた幼子を思わせる、哀しい瞳。

 

だから、彼は……。

 

「すまねえ……」

 

極悪の少女を殺す、この少女を拒絶しなければならないと、思った。

 

その瞳に、悲しみが宿る。だが、それを振り払うように全身に力を込めて、大剣の刃を指で挟み受け止めていた片手はそのままに、戦斧の刃を同じ様に受け止めていた方の掌を離し、ジャンヌの胸に掌底を叩きつけた。

 

「え!?――きゃッ!?」

 

胸部の甲冑に守られ痛みこそ無かったものの、人を超えた力による不意の一撃に彼女の華奢な身体は浮き上がり、凄まじい衝撃にて吹き飛ばされた。

そして彼女は落ちていく――最初の戦いで生まれた、深く穿たれたすり鉢状の穴の底へと。

 

「……そ、んな……!?ナイトさん……ッ!」

 

驚愕の声も虚しく、受け身すら取れず地面へと激突。

掌底による衝撃よりも、彼に拒絶された事実に打ちのめされ、それでも立ち上がり騎士の下へと駆け寄ろうとするジャンヌ。だが、そんな彼女の前に、突如巨大な水柱が噴き上がった。

 

「なっ!?」

 

間欠泉のごとき水の奔流が治まった時、そこに現れた人物に、ジャンヌはその翆眼を驚愕に見開く。

それは、青みがかった黒髪を靡かせ、凛とした眼差しでジャンヌを見据える、どこまでも青く澄み渡る大海の如き瞳の少女。

 

「凛花……姉様……!?」

 

マリアネット第二番姫『凛花』。ジャンヌをしてその人柄を尊敬しその武技を畏怖する姉が、彼女の前に立ちはだかっていた。

 

「久しいな。ジャンヌ……」

「なんで、貴女が……。いえ、今はそれよりもそこをどいて下さい!早くあの女を殺さなければ!」

 

その訴えに、だが凛花は静かに首を横に振り、蒼き眼差しを厳しくさせ告げた。

 

「ならば、私はお前を通す訳にはいかない」

「そんな……どうしてですか!?」

「ナイトに――我が友に誓ったのだ。彼が戦うのなら、我が剣の全てを以ってその戦いを援けると。……ナイトは今、己の全てをかけた戦いに挑んでいる。ならば、それを阻む者、その全てを斬るのが私の友情(たたかい)だ」

 

蒼の瞳に、迷いは無い。それがたとえ妹であろうとも斬り捨てると、蒼き刃のごとき眼差しを以って告げていた。

尊敬する少年に、敬愛する姉に、共に拒絶されたジャンヌは、愕然と立ち尽くすしかなかった。

翡翠の瞳を揺らし、澄んだ声を震わせて、呟く。

 

「な、んで……みんな……」

 

ドクンと、胸の深い場所が痛みに鳴いた。

 

「私を、拒むんですか……ッ。私は、ただ、大切な人のために……ッ」

 

ズキッと、温かな何かがひび割れた。

 

「なんで、どうして……。私が、何を間違えたっていうんですかッ!」

 

魂切るようなその叫びは、彼に届く事無く、ただ悲痛な残響となって木霊する。

その小さな姿を憐れむように、凛花は見つめ、言った。

 

「間違ってはいないんだ……誰も、何も。ただ、皆どうしようもなく惑っているんだ……」

 

虚ろな少年も。惑える少女も。黄金の彼女も。そして、己も。

惑い、それでも必死にどこかへ進もうとしている。

 

――故に、進むことにすら怯えていた己の迷いを断ち切り、進む勇気をくれた友の戦いを、進もうとする友を、邪魔させる訳にはいかない。

 

決意を胸に、想いをこめて、凛花は己が原典を解放した。

 

御伽術式(テイルズ)《乙姫》――開演(オープン)!」

 

開演の声が高らかに響き、その身が再び噴き上がった水柱に包まれる。そしてその姿が完全に隠れた瞬間、天を衝く水柱はその内側より叩き斬られた。それを為したるは一振りの刃。揺らめく水の刀が、ただの一太刀で水柱を無数の水滴に変えて夜闇に散らす。その全てが水滴となって弾け消えた時――そこには蒼き武人の姿が在った。

 

月光を浴びて輝く髪は澄み渡る青。夜海の如き黒髪は、今や波うつ青となって夜闇に流れる。白砂の如き肌は穢れ無く、蒼き瞳に迷い無し。その身に纏うはやはり藍。優美なる藍き和装が艶やかにその身を包む。

青に染まり藍を纏い蒼を統べる。清楚にして艶やかなるも凛とした美しさを宿す蒼水の少女――これが凛花の真の姿であった。

 

――そしてその瞳が、唇が、静かに告げる。

 

「妹よ。これより先に行きたくば……」

 

己自身を一振りの刃にするが如き闘気を漲らせ、言った。

 

 

 

「――私の屍を越えて征け」

 

 

 

それはまさしく友への誓いにして己への決意。不退転の覚悟を以って立ちはだかるその姿はかの忠義の武人・武蔵坊弁慶を思わせる威容である。

常人ならば対峙するだけで意識を失う程の闘気と殺気を浴びて、だが呆然と立ち尽くしていたジャンヌは、その恐怖にではなく、その言葉に反応した。

 

「越えて、征け……?」

 

小さな唇が、虚ろな呟きを紡いだ。

 

「ええ、そう。そうです行かなければ……ッ」

 

その声はじょじょに熱を持ち、狂おしい情念と鬼気迫る憎悪がそこに宿る。

 

「あいつが、あの女が全て悪いんです……彼を惑わすアレを殺せば、きっとナイトさんは目を覚ましてくれる……ッ」

 

絶望に沈む彼女の瞳に、希望の光が灯った。暗く輝く、殺意(きぼう)の光が。

 

「――征かなきゃ」

「――征かせんよ」

 

かくしてここに、蒼水と黄金の姉妹は、決定的な対立を果たした。

 

もはや後戻りはできぬ。後はただ己が全てを以って己が意志を通すのみ。

 

凛花は構えぬ。それこそが最大の構えである故。ただその身にその刃に、闘気を纏い戦意を充足させる。戦における万象に対処すべくただただ自然体で己を一つの刃へと高めていく、それはあらゆる武人の夢見る境地そのものであった。

 

ジャンヌは構えぬ。今の己のいずれの構えでも、眼前の武の大海を斬る事叶わぬ故。桁が違う。練度が違う。たとえ同じ母の手により造り出された物であっても、積んできた修錬が、越えてきた修羅場が違いすぎる。それらは圧倒的な技量の差となって、姉の前に立ちはだかっていた。

故に、自分は凛花に勝てない――そう、今までの自分では。

 

「ですがもう、勝てるんですよ……姉様」

 

――その瞬間、雷光が迸った。

 

夜闇を裂き夜天を染める雷の光が、ジャンヌの身体から迸る。

その身が完全に雷光に包まれたその瞬間、轟音と共に黄金の閃光が爆発した。

落雷の如き音と衝撃波を浴びて凛花は僅かに身じろぎするも、その眼差しは些かも揺るがず閃光の中心を見つめ――そして目にした。

 

雷光を従え、雷黄の舞踏服を纏う踊り子の姿を。

 

「装光《雷光の踊り子(トネール・ダンスーズ)》!」

 

その身に纏うは純白ならぬ雷黄。

鎧は華美な舞踏服へと装いを変え、揺らめくたびに電光を走らせている。

そしてその太陽のごとき金髪は、今や雷電の閃光に輝いていた。

 

凛花は知らない。

初めて目にするその姿が、どれほどの力を宿すのか。

凛花は分からない。

その光が、どれほどの速度を持つのか。

だが何も知らずとも、凛花は感じ取っていた。

 

――これは、ただの一瞬で私を殺せるモノだ。

 

一瞬の隙が即ち絶命の時。

絶望的な武威を前に、だが彼女は揺るがない。

 

――ならば、一瞬の隙も無く屠るのみ。

 

戦慄を超える戦意を以って臨む蒼き武人に、黄金の少女は笑顔を向けた。

泣き笑う様な、敬愛する姉へと捧げる――別れの笑みを。

 

「私はもう、貴女を殺せるんですよ。だから、さよならです……」

 

――私は、貴女の屍を越えて征きます。

 

かくしてここに、蒼水と黄金の姉妹の想いは、一つとなった。

 

雷光が輝き、水流が迸る。

二人の少女の想いを乗せて、二つの刃が嵐の如き闘争の幕を斬る。

 

「――マリアネット第2番姫『凛花』。我流戦闘術『三途』にていざ参る!」

「――我が輝きにて討ちます姉さまああああ!」。

 

――総てはただ、愛しき彼のために。

 

「うああああああああああああッッッッッ!!!!」

 

雷鳴の如き咆哮が夜闇に轟く。

怒り狂うようにも泣き叫ぶようにも思えるその声は、雷光と共に闇を裂き、雷電を放ち鳴り響く。その動きに本来の舞う様な華麗さは無く、代わりに在るのは――荒れ狂う激しさだ。

激情に輝く雷を纏い、踊り子は討つべき敵目がけ迅雷の如く疾走する。

 

迎え討つは蒼水の武人。

恐るべき雷電の化身を前に、揺るがず震えず闘気を纏い戦意を高め、手にした揺らめく水の刃を以って夜気すら断ち切る斬撃を放つ。

 

「当たりませんよオオ!」

 

だがその刃は雷速を以って避けられ、代わりに刃は少女が常に放つ光の糸のごとき電流に触れてしまう――瞬間。

 

「――ッ!」

 

刃を通って襲いかかる電流に、凛花はその美貌を歪めた。

感電による痺れが僅かな隙を生み、それをジャンヌは逃さない。

 

「そこです!」

 

繰り出されるは雷光の斬撃。美しき双剣の刃が雷電を放ち凛花に迫る。

 

「《水楯鋳造》!」

 

それを瞬時に造った水の楯にて防ぐものの、刃を受け止める事は出来てもその電流は防げない。電流は水そのものを通り容赦なくその身に襲いかかる。

 

「く……ッ」

 

咄嗟に飛び退き距離を取るも、痺れと共に生じる身の内から焼き尽くすような感電の痛みは、じわじわと、だが確実に凛花の体力を削っていく。その苦痛を感じながら、彼女は苦々しく呟いた。

 

「分かっていた事だが、やはりやり難いな……ッ」

 

水と電。元より相性が余りにも悪すぎた。

こちらの武器は魔術によって圧縮した水塊。変幻自在ではあるが、当たらなければ意味が無い。

対して、ジャンヌの武器は雷電そのもの。水に触れるだけでその雷は感電を果たし、凛花の内部を容赦なく焼き尽くす。ただし、それは攻撃ではなくあくまでただの『接触』。

 

当てなければいけない自分と、触れるだけでいいジャンヌ。

そして極めつけに最悪なのが、『当てるためには、触れなければならない』という事実。

回避しようが攻撃されようが、ただ在るだけでダメージを与えられる敵――それが雷光の踊り子たるジャンヌという存在だった。

 

「まったく……」

 

考えうるだけで最悪の敵である。

姫傀儡第12番姫《ジャンヌ》。努力しかとりえの無い自分とは違い、凄まじい潜在能力を秘めているとは思っていたが、まさかこれほどの力を得るとは……。

 

「ナイトのために、か……」

 

こんな時だと言うのに、微笑がこぼれた。

なるほど確かに、彼にはそこまでさせる何かが在る。彼のためならば、どんな壁とて越えてみせようと思ってしまう。彼を想い、その為に戦おうとするそれだけで、熱い力が奥底から湧き上がる。だがそれは――。

 

「此方も同じだ!」

 

不利も無謀も承知の上。相性最悪なんのその。この身はただ一振りの剣。これを捧げた友の敵を打ち果たす刃に、友情以外の一切合切関係無し。ただ己が総てを以って戦うのみッ――。

 

鋭く叫び、その刃を地へと向け、勢いよく突き立てた。

 

「『(もののふ)の、肉は水面に血は波に。戦の華よ大海に咲け』――《戦華武闘海》!」

 

瞬間――轟音ととともに地が震え、地に刺した刃の先から水流が噴出する。

地下水脈より招来し、凄まじい勢いで噴き上がる莫大な水量は瞬く間に穴全体に広がり、内部を水面に変えていく。たちまちすり鉢状の穴は水に満たされ、月光照らす蒼の泉――否、月下の大海となった。

 

月光降り注ぐ深く澄んだその水面に、凛花は沈む事無く悠然と立ち、雷光を纏って同じように水面に立つジャンヌを睨みつけた。

 

「心せよ妹よ。ここは戦の華咲く武闘の海。私を斃さぬその限り、ここから逃れること叶わぬと知れ」

 

地の大海を統べる蒼き武人。その言葉に、対峙する雷光の踊り子は――(わら)った。

 

「地の大海が、天の雷に届く訳無いでしょう……。いいですよ斃しますとも。貴女を壊し愚妹を殺して、私は――」

 

蒼き戦意を燃やす瞳と、金の鬼気に燃える瞳。

二つの瞳がぶつかり合い、二つの足が同時に水面を蹴った。

 

「――あの人の下へ行く!」

 

雷電纏う双刃と

 

「まかりならん!」

 

蒼水の刃が激突し、荒海に雷電迸る水柱が爆ぜた。

 

「はぁぁぁ……ッッッ!!」

「くぅぅぅ……ッッッ!!」

 

鍔競り合う一つの水刃と二つの雷刃。

共に超常の技によって造られ、人外の力が籠められたそれらは、互いに一歩も譲らぬ意志をもって押し合い鎬(しのぎ)を削る。が、その優勢は徐々に凛花へと傾いていく。じわじわと、だが確実に雷電の剣を押し返す蒼水の刃に、ジャンヌが賞賛の言葉を送った。

 

「さすがは姉様。《雷光の踊り子(このじょうたい))》の時は通常時より筋力が落ちるとはいえ、こうも押し返してくるとは敵ながら天晴れ。ですが……」

 

皮肉気な笑みを浮かべた、瞬間――。

 

「くッ、ツあああああああ!?」

 

ジャンヌの身体が更に輝くと同時、凛花の全身を電流が貫いた。

 

「刃は当たらなくとも、電流はあてられるんですよ。ただ触れているだけで――ねえ!!」

 

その言葉を証明するがごとく、再びの放電が放たれる。

 

「ッ――ぐ……うおおおおおッッ!」

 

絶叫する凛花の身体が、感電の轟音と共に雷光に包まれた。

血が、骨が、神経が、総てが焼きつき痺れ沸騰するかのごとき激痛が全身を襲う。

だが、大電流にその身を焼かれながらそれでもなお、凛花は水刀を離さなかった。

痺れる腕で、焼かれる掌で、己が友に誓い捧げた剣を握り締め、なおも刃を押し続ける。

その壮絶なる姿は、正に命をかけて忠義を貫く武人そのもの。

 

「そ、んな――ッ!?」

 

想像を絶するその力と覚悟に、ジャンヌの余裕が崩れる。

そして、いくら雷電で焼こうとも、いかに力をこめようとも、けして揺るがぬその刃が、彼女の身にジリジリと迫っていった。

 

このままでは殺られる!

 

ジャンヌの戦士としての本能が絶叫したその瞬間――。

 

「《槍衾鋳造》!」

 

凛花の叫びと共に、ジャンヌの周囲の水面から蒼き無数の槍が彼女目がけ飛び出した。

 

「なん、ですってえ!?」

 

驚愕の中、この時ジャンヌは初めて、眼前に対峙する者が何であるかを思い知る。

 

そうだ彼女は蒼水の人形。深き海の宮殿を統べる姫の物語を原典とする水の支配者。ならばここは、この戦華の大海は――凛花の武器そのもの!!

 

刺し貫かんと迫る槍の群れが、周囲を埋め尽くす刹那――。

 

「ナイトさん――」

 

祈るように想い人の名を呼び、ジャンヌは最大の賭けに出た。

 

「――力を、下さいッ!」

 

咆哮し、水の刃を押し止めていた双剣を――躊躇い無く引きはがした。

 

「血迷ったか!」

 

自ら命を捨てるがごときその行動に目を見開く凛花。

鍔迫り合いから解き放たれた水刃が迫る中、ジャンヌは持てる最高速度でもって後ろへと跳びその刃をかわし――槍衾に自ら突っ込んだ。

そこは無数の穂先が連なり殺到する槍の地獄。乱立する穂先がその身を貫かんと迫る中、ジャンヌはその手の双剣を奔らせた。

 

「ハアアアアアアアアアッッッ!!」

 

斬る。

迫る穂先を連なる槍を。とにかく目につくその全て。

己を害する総てを斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬るッッッッッッ!!。

 

無尽に繰り出す雷撃と斬撃のその果てに、ついにジャンヌの身体は槍衾を突き抜け、槍の地獄から脱出を果たした。

 

「はぁ…ッ…はぁ…ッ…」

 

荒く息を吐くその姿は、まさしく満身創痍。

避けきれなかった穂先が付けた無数の掠り傷が、その白い肌に遍く刻まれ、彼女が文字通りに潜り抜けた地獄の凄まじさを物語っている。

 

「自身を囮にしての全方位奇襲攻撃ですか……全く恐ろしい人ですね。後僅かでもタイミングが遅れていたら、私は全身を貫かれて死んでいたでしょう……ですが――ッ」

 

だが、その瞳は、そこに宿る鬼気は、いささかも衰える事無く――否。

 

「やはり貴女では私を殺せない。殺すのは――私の方です!」

 

――更なる殺意に燃え上がっていた。

 

そして殺意に輝く黄金の少女は、雷電の奥義を解放する。

それは莫大なる魔力消費と引き換えに、限られた時間その身の電力を最大にまで高める《雷光の踊り子》最高奥義の一つ。

その名は――。

 

「『雷電舞踏会』!」

 

高らかな叫びとともに雷鳴が轟き、世界が白き雷光に染まった。

 

閃光が収まり、世界が色を取り戻すと、そこには雷電の化身がいた。

殺気が違う。圧が違う。なによりもその雷電の桁が違う。

その身に纏い放つ物はもはや小さな電流ではなく、迸る雷そのもの。それは、のたうつ竜の如き雷電をその身に纏いて踊る雷光の踊り手。

かつて紫銀の極悪を圧倒した黄金の雷電が、ここに再臨した、

 

「おさらばです。姉様……」

 

その唇が紡ぐは、たむけの言葉。

唐突に思われるだろうが、どうしても今言っておかなければならなかった――この一瞬後には、姉は死んでいるのだから。

 

瞬間、ジャンヌは閃光と共に掻き消えた。

 

――否、疾走した。

 

雷電疾駆(パトネール)

 

それは自身を半ば雷電そのものと化し、物理の限界速度たる光速に至る雷電奥義。

思考すらも加速し、総てが遅延する世界の中で、ジャンヌは姉のもとへと疾走する。

 

殺すために。進むために。その屍を越えて彼の下へと征くために――。

 

ただ一心に駆け抜ける彼女の前に、無数の槍衾が現れた。

水面を突き抜け迫る槍の群れは、ジャンヌを貫かんと殺到し――。

 

「遅い!」

 

その身を掠る事すら無く虚空を虚しく貫いた。

 

「そんな物で――」

 

槍衾を回避した彼女の前に、だが新たな武器が現れる。

剣が、槌が、薙刀が、名も知れぬあらゆる武器が怒涛の如く水面より現れ襲いかかる。まさに水面を埋め尽くすがごとき凶器の群れを、だがジャンヌは――。

 

雷電(わたし)を捉えられるとでも思いましたかああああああ!!」

 

咆哮と共にその全てを回避し駆け抜けた。

その速度を前に、無数の凶器は触れる事すらできない。だがそれはけして武器の速度が遅かったというわけではなく、中には音速にすら迫る物もあったのだ。だがそれは、雷速には届かなかった――ただそれだけであった。

 

だが、それが、それだからこそ。

 

「そんな物で私を殺せるなどと思い上がった……だから――」

 

舐められた怒りが、爆発する。

 

「貴女は死ぬんですよオオオオオオオオ!!」

 

怒号と共に双剣を奔らせ、ジャンヌは蒼き武人へと斬りかかり――。

 

 

 

「――だからこそ、お前は斃れるのだ」

 

 

 

凛とした冷水の如き声と共に、自らの胸に咲いた――血の花を見た。

 

 

◇◇◇

 

 

花が咲く。

あかい…あかい……血の花が……。

 

「――え?」

 

なに……これ……?

 

鮮やかに、飛び散る赤を咲かせる私の胸に――灼熱の痛みが迸った。

 

「う、ああああああああああ!?」

 

熱い熱い痛い痛い痛あああああああ!!

 

焼けるような痛みが胸に爆ぜ、全身を貫く。

 

――斬られた。私を。森羅万象における最高速度であるはずの雷電を。

 

痛みよりも、熱さよりも、その事実が私を驚愕させた。

 

「な、んで……ッ!?」

 

愕然と呟く私の問いに、冷たい声が応えた。

凍りついた氷海の様な、どこまでも澄んだ殺意の籠った、姉様の声が。

 

「ここまでかかったが、ようやく雷電の流れを捉えられた……」

「捉え、た……?」

 

呆然と聞く私に、姉様は小さく頷き、言った。

 

「この海に迸る、雷電の流れ。お前が動く度に僅かに変わるそれを捉え、変化のパターンを読み解けば、自ずとお前の動きも読めてくる……」

「そ、んな……」

 

嘘だ。

平然と言うが、それはつまり常に電流をその身に受け痛みに耐えながら、感覚を研ぎ澄ませ全神経をその痛みに集中させていたという事。でなければその流れを読み解くことなど不可能だろう。だがそれは、逃避するべき苦痛を何十倍にも味わうと言う事。常人ならばまず途中で精神が崩壊する。

 

「それをやってのけたと言うんですか、貴女は!?」

 

また小さく頷いた姉様を、愕然と見つめる私の身体が、ぐらりと揺れた。

 

「――ぁ」

 

咄嗟に足を踏み出し体勢を立て直すも、その足すらも震えている。

その白い太ももに、赤い赤い血の花が、どろりと流れ落ちた。

 

「う…ぁ…ぁあ……ッ」

 

力が、抜ける。命が、流れる。死が、這い寄る。

 

「…………」

 

暗く震える視界(セカイ)の中で、凛花姉様が――静かにその水刀を、振り上げた。

白き月を貫くがごとく、夜天に翳された蒼の刃。

月の光に揺らめく、とてもきれいで、冷たくて、まるで死そのものの様な――蒼。

「い、やだ……」

 

私は……。

 

あの、人に……。

 

ナイトさんの、そばに……。

 

「いき、たいんですよオオオオオ!!」

 

叫び、想いそのものをぶつけるかのように双剣を振るい、私は――。

 

 

 

「――行かせんよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――斬。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ナイト、さん………」

 

セカイが、暗くなっていく……。

 

「どこ、ですか……?」

 

なにも、聞こえない……。

 

「わたし……ナイトさんのために……がんばったんですよ……」

 

なにも、見えない………。

 

「なのに、なんで……あなたは……いなくなるんですか……?」

 

だれも、いない……。

 

「ないと、さぁん……」

 

闇の中、手を伸ばそうとして――気付いてしまった。

 

「ああ、そうでした……」

 

――この手は、あなたに振り払われたんでしたね……。

 

「なん……で……」

 

ぜんぶが……やみに……きえた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ま■、君は救■れなかっ■■だね。

なら、■が君を救っ■やろう。

大■夫。今度こ■きっと救ってみせるから――ジャンヌ。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

「私も、甘いな……」

 

月光降り注ぐ水面で、私は逆刃にした水刀を眺め呟いた。

足下には、意識を失い舞踏服から純白の鎧に戻った妹が、力無く水面に浮かんでいた。

 

一撃目は確かにその身を捉えたものの急所を外してしまい。二撃目は咄嗟に逆刃に変えた水刀による峰打ちを見舞った。

手加減など出来ぬはずの強敵。故に殺すつもりであったはずだが、咄嗟に峰打ちにしてしまったのは、姉妹の情ゆえか、単にこちらの覚悟が足りなかったのか……。

とはいえ、月下の果たし合いは終わり、足止めという役目も果たせた。

 

……勢い余って倒してしまったが。

 

「あらかじめ、別に倒してもかまわなかったのか聞いておくべきだったか……」

 

呟き、すぐに頭を振って苦笑する。

 

「いいや。ナイトの事だ……きっと『二人とも死ぬな』と言うんだろうな……」

 

笑い、そして――水面に倒れ込んだ。

 

傷を負いすぎたな。外にも、内にも。

もはやこの身には立ち続ける力すらも残っていない。

瞼は重く。世界は暗くなり。意識が深い深い水底へと沈んでいく。

 

ああ、友よ。もはや私の出番はここまでだ……。

 

ならば、せめて……。

 

「頑張れ、ナイト……」

 

最後に、友の武運を祈り――私は、暗い水底へと沈んだ。

 




さて、世の中には苛められてこそ光るキャラというのが存在します。
昼ドラの清純ヒロインとか某聖杯戦争の毛髪海産物とか某怒りの日の紅蜘蛛さんとか、まあつまり何が言いたいかと言えば、そういうキャラはイジめてこそ華なのです!すなわちこれは愛!偉い人も『愛するなら壊せ』って言ってたし無問題(意味が違うとか言わないで)!あいむのっとぎるてぃー!!

……よし言い訳完了。証明終了。これで黄金さんのファン(いるか知らんけど)から刺されることは無いな一安心。

というわけで最終話……の中編です。
ハイごめんなさい例によって膨れ上がる文字数がヤヴァい事になりまして途中ですが投稿する事にしました。
続きは年内には投稿したいと思いますので暫しお待ちください。
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