なおご覧になる前に作者にはネーミングセンスが欠如していることを伝えておきます。
※一部内容を書きなおしました。
遠い日に、誰かが言った。
――私を、■ってくれるの?。
遠い日に、誰かに言った。
――俺が絶対に、お前を■ってやる。
それがいつかは分からない。それが誰だったのかも思い出せない。ただ全てが抜け落ち消えた。
何かをしなければならない。けど、それがなにかわからない。
そんな形の無い
◇ ◇ ◇
―――人生最凶最悪の日、
さわやかとはいいがたい怠惰そのものの目覚めの後、寝ぼけ眼で目覚まし時計と見つめ合うことゼロコンマ5秒。遅刻10分前という現実が、我が怠惰ながらも心地いい眠気を容赦なしにブッ飛ばす。
「くッそがああぁぁぁぁぁぁ!」
ダンッ
怒号一発。布団をはねのけ、彼はベッドから飛び出した。
「やっちまったじゃねえか畜生!」
それから大急ぎで洗顔を済ませ、自分が通う市立神原高校の制服の着用にかかる。まったく朝から慌しいことこの上ないが、男一人のオンボロ住宅なのだから誰にかまうことも無く思う存分喚きまくる。
『…本日、七月七日の神原市は深夜に強い雨が降り、場合によっては雷を伴う嵐となるでしょう…』
「死ね!ラジオ死ね!」
こっちのピンチなぞつゆ知らず。呑気に天気を伝えるラジオにキレやすい10代の殺意をぶつけたところで全ての準備が完了。
後は一目散に玄関へと直行し。いざ高校までの全力ダッシュを開始せん。
「いいぜやったろうじゃねえかオラァッ!」
あらん限りの気合いを込めて、彼は外へと飛び出した。
――それはあまり騒がしい、まったく人生最凶最悪の日に相応しい朝だった。
◇ ◇ ◇
炎天下の全力ダッシュのかいあって、どうにか遅刻ギリギリで間に合ったらしい。
肩で息をしながら2年B組の教室に駆け込み、崩れるように席に着いた彼に、賞賛の声がかけられた。
「やあナイト。今日も遅刻せずにすんだようだな。毎朝の事ながら、常に遅刻寸前で間に合うとは素晴らしい健脚だ」
金髪碧眼八頭身。黙ってても女が寄ってきそうな顔で、何やら遠まわしに小馬鹿にしたようなセリフをぬかすのは自称・彼の親友こと他称・残念なハーフイケメン
ちなみにナイトというのは、別に彼が英国王室から騎士の称号を授けられているというわけではなく、はなはだ不本意ながら彼のニックネームである。
ルックス・そこそこ整っているが目つきの悪い三白眼。
性格・基本冷めたキレやすい10代。
成績・可も無く不可もなく。
隠れた才能・こっちが知りたい。
彼女・いない。むしろ募集中。
特技・バカを殴ること。
かくも平凡な――一部そうでもないような気もするが――プロフィールの彼が唯一持つ非凡ポイント。それがその本名『
そしてそこから付けられたニックネームが『ナイト』
はっきり言ってこっ恥ずかしいことこの上ないが、これが彼の周囲で見事に定着しているのでどうしようもないのだ畜生め。
「で、本日の長距離ダッシュの理由はなんだ?ついに登校中に未確認生物と遭遇したか?もしくは時空の裂け目に迷い込んだのか?ぜひとも寝坊以外の理由を期待する」
コンプレックスを刺激され過去のトラウマへと思いをはせていた騎士に、スマイル100%でたわけた質問をする自称・親友。ちなみにこれは冗談でもからかっているのでもなく、純粋に大マジの質問である。代わり映えの無い日常に心底退屈しているらしい飛鳥は、騎士が遅刻ギリギリのたびに――つまり毎日この質問をしてくる。
「なにもねえよ。時空の裂け目も未確認生物も、ましてや謎の美少女にも遭遇してないただの寝坊だ」
「なるほど…」
退屈極まる返答に礼二は肩をすくめ、笑って不吉ゼリフを付け足した。
「もしくは、ついにご自慢の築50年ボロ屋敷が倒壊して命からがら登校してきたものかと思ったのだがな」
「……あまり怖いことは言わないでくれ。ぶっちゃけ強風の日は一日中恐怖の連続なんだ。最近は震度1でも震度5並みに家が揺れるんだよ。あのときは震度1にして死を覚悟したぞ」
「…それは死ぬ前に引っ越したほうがいいな」
「まったく。だがたかだか仕送り生活の貧乏学生に、引越しの費用なんかあるわけないのが現実だ」
「なら安美のアパートにでも下宿させてもらえばどうだ。おそらくは友人のよしみで家賃はいくらかサービスしてくれるぞ」
そう言われて背後に目を向ければ、一つ後ろの席に、二人の話が聞こえているのかいないのか、いやむしろどこを見ているのすらかいまいち特定不能な瞳を中空に泳がせている妙な女子――
何の因果かただ一人の女友達にして、騎士と礼二を含めた神原高校三変人の一人であるこの女子は、中学生かへたすりゃ小学生並みの幼児体型ながらよくよく見れば美人の部類に入るのだが、いかんせん性格がどうも個性的というか電波的というか不思議系というか、もうこれ以上言おうものなら放送禁止用語を言っちまうしかないくらいにアレな個性の持ち主である。ちなみにこの電波女の家はアパートを経営しているのだが、それがとんでもない問題物件であり……まあようするに。
「で、どうするんだ?」
「断固断る」
「それは残念。見たところ、安美もお前の事を気に入って入居させたがっているようなんだがな」
や、それだけは勘弁。あそこに住むならまだ虎穴をマイホームにすることを選ぶね。
それを聞いた礼二はお得意の爽やかスマイルで肩をすくめ、ふと話題を変えた。
「時にナイト。あの噂はもう聞いたか?」
「なんの話だ?」
と一応聞き返してみるが、どうせこいつのことだ。ろくな話題じゃないだろう。たとえばUFOとか未確認生物とか謎の古代遺跡とかオカルトとかオカルトとか…。
しかし、礼二が口にしたのはそのどれでもなかった。
「転校生だ」
「転校生?」
その珍しくもマトモな話題に、騎士は興味を引かれ、その様子に礼二は嬉しそうに続けた。
「そう。しかも極秘情報によれば今日、我がクラスにやってくるらしい」
「へぇ。どんな奴だ」
「聞いた限りでは人間らしいが、宇宙人の変装か未確認生物の擬態という可能性もある。詳しくは直接この目で見極めるしかないな。まあ高校2年の7月初頭という妙な時期に転校してくるんだ。まともな人物ではないのは確かだろう」
はい、お前が言うな。
なんともこの変人らしいセリフに、呆れて溜息をつく。
教室のドアが開いたのはその直後だった。
続いて担任教師の坂下が現れ、生徒たちは一斉に席に着く。
ツカツカと教卓の前に進んだおっとり巨乳女教師は、朝の挨拶もそこそこに、甘ったるいおっとり口調でこう言った。
「え~。今日はみんなに転校生を紹介しますね~」
途端、教室はにわかに騒がしくなる。
口々にかわされる転校生の話題。どんな人物なのかと予想しあう女子。出来れば可愛い娘であってほしいと軽口をかわしあう男子。たちまちざわめく教室に、再び担任の声が響く。
「はい静かに静かに~。静かにしないと一言ごとに成績一つずつ下げますよ~。……はいみんな黙りましたね良い子良い子。それではどうぞ入ってきなさ~い」
その言葉に促され、ドアの向こうから一人の少女が現れた。
◇ ◇ ◇
彼女が室内に一歩踏み出した瞬間、空気が変わった。
彼女は美しい。後ろで一纏めに流した青みがかった艶やかな黒髪。切れ長の、強い意思をたたえた深い青の瞳。だが、場の空気を一瞬にして変えたのは、そんな見せかけの美しさではない。
空気。
それは彼女が纏い、発する空気だ。獣のような獰猛さではない。闘士のような厳しさではない。――凛。冷たく、しかし冷酷さとは違う、己を律する者が備え、発するもの。それは澄んだ冷水の凛々しさ。そう呼ぶのが相応しいものを、彼女は纏っていた。
その凛とした美しさに、皆はただ呆然とする。
かわされる言葉も。
ささやきすら無い。
ただただ彼女が放つものに、みな圧倒されていたのだ。
そんな幾多の視線を悠然と受け止めて、転校生は黒板の前へと立った。
そして一切の無駄が無い動きで黒板に自分の名を書き、その達筆さによって再び皆を驚かせた後、前へと向きなおった。
そして教室に流れたのは、冬の小川のせせらぎのような、彼女の凛とした声。
「
その口調は十代半ばの少女が使うにはやや古風ではあったが、女武者を思わせる凛々しい彼女にはよく似合い、この場の全てに彼女の存在を刻み付けた。
誰もが目を離さない。誰もが目を離せない。凛花の存在感が、それを許さなかった。
騎士もそうして見つめる者達の一人となって、呆然と凛花を見つめていた。
と、
「……おや?」
青の瞳と目が合った。
すぐにそらすだろうと思いきや、凛花はじっと見つめ返す。その澄んだ刃のような眼差しに、たまらず眼をそらそうとして、出来なかった。凛花の瞳が、そこに宿る凄烈な――だがどこか虚ろな光がそれを許さない。そして、二人はどちらとも目をそらすことなく、互いに見つめあった。
「……」
「――」
見つめ合う。
「………」
「―――」
ただ見つめ合う。
「…………」
「――――」
ひたすら見つめ合う。
…………………。
かくしてウン十秒。そろそろやめないか、コレ。
なにやらアホらしくなってきた。一体なぜに転校生と初対面早々メンチきりあわないかんのか。幸いにも他の奴らは天宮に見惚れてその視線が誰に向いているかには気付いていない。ここは変な噂がたたんうちに切り上げよう。妙な奴に関わるのは自称親友の変人二人だけで十分だ。
かくしてこの転校生とは金輪際関わらないことを誓い、騎士は再び目をそらそうとした。
が、そんな彼のささやかな誓いと戦略的撤退を鮮やかにぶち壊す奴がいた。そいつはあろうことか突然立ち上がって騎士と転校生をズビッと指差し、高らかに叫んだのだった。
「フラグ成立うううーーー!!!」
「……は?」
「……なに?」
突然のことに唖然とする騎士と凛花。でもって『また始まったよ…』というクラス一同の白い視線。だが奇声をあげたバカ――飛鳥礼二はそんな諸々にかまうことなく、スマイル120パーセントでハイな興奮状態のままに勘違い電波トークをぶちまける。
「さすがだナイトよ素晴らしい!出会った瞬間ラブコメフラグを立たせるとは流石俺が見込んだ親友よ!!」
死ね。頼むから死んでくれ。
「転校早々いきなり見つめあう二人。これすなわち学園ラブコメの始まりだあああ!」
「おいこらそこのバカ今すぐ黙るかむしろ死ね。それと人を指でさすな」
「黙れ小僧!」
「いやお前も小僧だろ!?」
「寝坊し猛ダッシュで登校しておいて転校生にぶつかることができなかった貴様へのこれがラブコメ開始の最後のチャンスだぞ!」
「いらねえよんなチャンス!」
「だからお前は童貞なのだ!」
―――ブチッ
この瞬間、この場の全てが死を覚悟した。
神原高校2年B組には、三つの掟がある。
一つ。飛鳥礼二に関わるな。
二つ。万馬殿安美に気をつけろ。
そして三つ。
「……いいぜ悪友上等だ。手前ェで童貞捨てて殺るよ」
――御伽騎士をキレさすな。
瞬間、騎士と礼二の進路上にいる生徒が、席ごと全力で退避した。
そしてモーゼの奇跡のごとく出来た道を、キレた騎士は悠然と歩く。
まるで処刑人のごときその歩みを止める者はいない。ただ皆どうかとばっちりが来ないことを祈りつつ声も無く震えるのみ。
誰もが知っていた。誰もが恐れていた。
切れてはならない物が、切れてしまったことを。
よりにもよって今、クラス最凶の存在が――
――キレやすい10代が、キレていた。
「さあナイトよ!今すぐここでフラグをあと二・三本立てておくのだ!そうすれば今後の学園ラブコメがさらに愉快にッ――」
「黙れそして死ね」
ドゴッッッッ!!!
腹部を抉る鈍い音と衝撃が教室に轟き、全力の殺意を込めた拳を鳩尾にブチ込まれたバカ一匹は、電波トークを言い終える前にハイな笑顔のまま床に沈む。
「………」
はんのうはない。まるでしかばねのようだ。
バカの完全沈黙を確認。
「先生お騒がせしました。どうぞホームルームを続けてください」
「はいご苦労さま~」
いまやクラスの名物と化した礼二の暴走&騎士の肉体言語による強制沈黙という日常イベントを終えて、騎士は再び席に着く。毎度のことなのでもはや誰も気にしない。ただ一人これをはじめて目撃した凛花だけが愕然としてるが、まあじきに慣れるさ。
それからホームルームはつつがなく終了し。凛花は「あなた達仲よさそうだから隣の席にしますね~」というおっぱい教師の迷判断によって騎士の左隣の席となった。
なんだろうなこのテンプレ学園モノじみたお約束展開は。もしや現在口から魂らしき何かを出して倒れているバカの呪いか。くそ、どうやらまだ殺り足りなかったか。次はもちっと念入りに……て、なんだ?
背中を指でツンツンされる感触に、思わず背後を振り返る。
「なんだ安美?今バカの殺り方を考えるのに忙しいんだが……」
振り返った先には、あいかわらず目線特定不能な万馬殿安美たん。
「ないと……家がなくなったらいつでも来ていいよ。歓迎する…」
……ホームルーム前の会話、聞いてたのか。
なにやらドタバタしたホームルームは、安美の微妙にKYなセリフで幕を閉じたのだった。
◇ ◇ ◇
「どこへ行くんだナイト」
昼休み。購買までパンを買いに行こうと席を立った騎士は、なにやら妙なにやけ面の礼二に引き止められた。
「どこって、購買だが?」
なんともいやな予感がしつつも、極めてぶっきらぼうに答えた騎士に、礼二はやれやれと肩をすくめ。
「なあナイト。俺は悲しいぞ」
「何がだ?あいにく自分のお脳の具合を嘆いているのならそれはもう手遅れだぞあきらめろ」
「違う!いいか、今朝お前は謎の転校生と恋愛フラグを打ち立てるという全日本男子憧れの偉業を成し遂げたにもかかわらず、そのお前が次のイベントも起こそうとせずのんきに購買に行こうとしている腑抜けっぷりが悲しいのだ!」
いつもの爽やかオーラが一気に熱血ノリになりやがった。
そして眼をクワッと見開き
「そこで、この俺と安美の二人が、腑抜けたお前の恋路を全力でサポートしてやる!さあナイトよ。この心強い親友二人が応援してやるのだ。心ゆくまでラブコメるがいい!」
熱く拳を握り締めて力説する礼二。
うんやっぽ本物のバカだこいつ。
「……おい、なにを逃げようとしている」
「有害指定バカに遭遇した一般人がとるべき当然の退避行動だ」
でもってダッシュ。すぐさまエスケープ。力強く床を蹴って走り出す騎士。
さらばだ礼二。我が悪友よ。願わくば次会う時は悪友未満他人以下の関係にステップダウンしような。
「逃がすか!やれっ、安美!」
背後で礼二がなにやら叫ぶがもう遅い。出口はもはや目の前。騎士は余裕を持って教室の外へ――。
「(ヒュッ)」
ぷすっ!
外へ……て、あれ?なんだ、急に視界が斜めに…。力が、入らな――。
「て、め…、なに、を…?」
全身の力が抜け、その場に崩れ落ちる。必死に立ち上がろうとするが、意思に反して身体はピクリとも動かない。
「ふっふっふ。安美特製吹き矢の味はどうだ」
倒れ伏す俺を頭上から悠然と見下ろすバカ一匹。いや、その隣にもう一匹。手に吹き矢を構え黒い帽子のガンマンよろしくポーズを決めるバカ女は……。
「また、つまらぬものを撃ってしまった…」
万馬殿安美。
バカその2だった。
「安心しろ。吹き矢に塗ってあるのは痺れ薬で毒じゃない……毒じゃないんだぞ。じゃないったらないんだぞ!」
「毒だな毒なんだな!その偽り全開スマイルはそうなんだろ!」
「ワタシ、ウソ、ツカナイ」
「おもっくそ棒読みじゃねえかぁぁぁぁぁぁぁぁ、ぁ……(ガクリ)」
不覚。
憎憎しげな呻きを最後に、騎士の意識は闇へと沈む。
――その刹那に、廊下の窓から見える空の彼方で、小さな亀裂が走ったような気がした。
◇
空間が裂けた。
いや、引き裂かれたのは世界そのもの。はじめは1センチにも満たなかった裂け目は、じょじょに広がっていき、遂に人一人が通れる程のものとなる。その中に広がるは、無明の闇黒。その暗く深き深淵より、無限の闇よりなお黒くおぞましき銀色の邪悪が去来した。
それは闇黒の糸を引きながら、裂け目より現世へと躍り出る。
軽やかな足取りで。邪悪の笑みを振りまきながら。望むままに悪徳を成すべく。
かくて、この地に極悪の少女が降臨した。
「へえ。結構綺麗なところじゃない。命があふれてるわぁ」
邪悪は笑う。
「たぁっぷり、楽しめそうねぇ♪」
邪悪に、嗤う。
「嬲って犯して殺して喰らう。あぁ、今からとっても楽しみ」
そして、まだ見ぬ玩具のもとへと歩き出す。極悪の歌を口ずさみ。
「さあさ
作者のネーミングセンスの欠如っぷりはいかがだったでしょうか?これでも考えるのに三日はかかったんですよこ・れ・で!もし転生できるならチート能力とかいらないからネーミングセンスが欲しいです。
ちなみに騎士は「遅刻遅刻次~」とか叫びながら爆走しておいて転校生にぶつからずに教室に着いた主人公力皆無のキャラです。次回はそんな平凡系主人公がパン喰いながら転校生とフラグを立てます。いつ投稿するかは気分次第なのでゆるりとお待ちください。