極悪少女は縛れない   作:どるふべるぐ

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マリアネット第12番姫《ジャンヌ》は魔導人形である。
彼女を創造した傀儡王は世界征服を企んでいない只の人形師である。
ジャンヌは御伽騎士の命と平和のため、愚妹と戦うのだ!

……だったのだが。


第二幕『救えぬ怪物と救われぬ聖女』
プロローグ 『A Old Hero.A New Tales.』


 燃える。

 

 燃える。

 

 黄金の髪が。白百合の肌が。翡翠の瞳が。

 輝く彼女の全てが、誰よりも愛し誰よりも守ろうと誓った少女の総てが――赤い炎に燃えていく。

 

 それを僕は、ただ見つめている事しかできなかった。

 火刑台に縛られ、炎に焼かれ、群衆達の歓声と嘲笑の中で燃えていく彼女を前に――絶望する事しか、できなかったんだ。

 守りたかったのに。救いたかったのに。愛していたのに。

 僕の想いも、誓いも、赤い炎が燃やしていく。炎に焼かれて、消えていく。

 

 ――誰も彼をも救おうとして、誰も彼もに救われなかった彼女の命と一緒に。

 

 

 

 

 

 

 ……ふざけるな。

 

 認 め ら れ る か こ ん な 結 末 !

 

 こんな…こんな終幕……僕は認めない認められない認めるものか!

 たとえ神が定めた結末だとしても、彼女の物語には相応しくない!

 僕が、僕が創ってやる。新たな彼女の物語を。

 例え総てを犠牲にしても。男も女も子供も神も!

 

 お前達のために彼女が死んだように、今度はお前達が彼女のために死ね!

 

 ――そして今度こそ、僕は君を救ってみせるよ。■■■……

 

 

 ◇◇◇

 

 

 光無き闇の中を、彼女は走っていた。

 まとわりつく不安と恐怖を振り払うように。行くべき場所を見失った迷い子の様に。

 ただただ、走った。彼女にはもう、それしかできなかったから。

 

 荒れ果てた廃工場の立ち並ぶ廃墟。夜闇に沈む、朽ち果てた墓地を思わせる静寂に、甲高い足音が響く。

 早く、速く、闇の中に一つだけ響く一人ぼっちの足音は、だが緊張と焦燥のリズムを刻んでいた。

 

「はぁ…はぁ…ッ…」

 

 それを奏でるのは、黄金の髪を振り乱し息を掠らせ走る一人の少女。

 美しい少女だったのだろう。だが今の彼女の姿は、かつての美しさを辛うじて留めるものでしかなかった。

 太陽の如く煌いていた黄金の髪はくすんで、纏う鎧の純白は土と埃に汚れ傷つき見る影も無い。元より華奢だった身体はやつれ、白百合を思わせる肌は疲労と苦悩に艶を失っていた。それは己が正義を信仰し、その輝きに満ちていた黄金の少女――ジャンヌ。

 だが今、その全てがかつての輝きを失い、くすんでいた。

 

「はぁ……くぅ…ッ……」

 

 魔力はとうに尽き果て、身体には碌に力が入らない。

 剣を持つ腕が重い。かつて力強く大地を踏みしめていた足が、もつれる。

 蓄積した泥のような疲労が力を奪い、空腹ががらんどうの腹を蝕んでいく。

 

 最後に食事をとったのは、はたしていつだったか……。

 思い出すのは、あの日本家屋で姉が運んでくれていた食事の数々。結局口を付ける事は無かったが、それでよかったのだと思う。姉の優しさが、その想いが、伸ばされたその手が――もう、■■ったから。

 だから、ジャンヌは逃げた。あの温かな姉から、優しい地獄から。

 逃げて、逃げて、逃げて、そして辿り着いたここで一人――蹲った。

 膝を抱えて、顔を伏せて、瞼を閉じて何もかもから眼を背けて、そうして壊れる時まで一人でいようと思っていた。

 もう、誰にも会いたくなかったから。もう、誰にも傷つけられたくなかったから。もう誰にも、見捨てられたくなかったから……。

 一人だけで良い。一人ぼっちで構わない。もう、私は……。

 

 なのに、それすらもう叶わない。

 《奴ら》に、見つかったから。

 

「――ッ!?」

 

 背後からの殺気を感じて、ジャンヌは咄嗟にその場から飛び退いた。

 なけなしの力を振り絞って地を蹴ったその直後、彼女がいた場所に大量の白い糸がふりかかった。粘性を帯びたその糸は路面に張り付き凝固していく。こうなればアスファルトごと引き剥がさぬ限り取ることはできず、もし捕まれば自分とてひとたまりもあるまい。

 その脅威に戦慄しながらもジャンヌは感じていた。

 背後にそれを放った者が迫っている事を。己を狙い、捕えんとする恐るべき追跡者の殺気を。

 

「何なんですか…あれはッ…!」

 

 隠れ潜んでいた自分を発見し、奇襲をかけたその存在。素早く、獰猛で、何より異様。おそらくはホムンクルスだろうが、全く見た事の無いタイプだ。

 それだけでも脅威だというのに、追跡者はそいつだけではなかった。

 

「アアアアアアア!!」

 

 走るジャンヌ目がけ、突如物陰から黒い影が奇声を上げて飛びかかってきた。

 

「な!?――チイィ!」

 

 慌ててそれを大剣にて切り払う。

 疾走の勢いを乗せた大剣は狙い違わずその胴体を分断し、一刀の下に切り捨てた。二つに分かれて地面に激突するそれは、全身を黒いボディスーツで覆ったホムンクルス。

 何とか迎撃できたが、その為に僅かにスピードが落ちたのを、追跡者は逃さなかった。

 

「シィイイイイアアァァァァ!」

 

 獣とも虫ともつかぬ咆哮が轟き、ジャンヌはその方向に振り向いた――瞬間、凄まじい衝撃に吹き飛ばされた。

 

「きゃッ……!?」

 

 悲鳴を上げ、体当たりを喰らったジャンヌは廃工場の壁に激突する。全身を貫き骨まで震わせる程の衝撃と激痛に苦悶が漏れそうになるが、それを堪えて目を見開き、霞む視界で捉えた眼前に――奴がいた。

 

 全身を覆う黒い繊毛。その手足は異様に細長く、僅かに胸部が膨らんでいることから女だと分かるが、筋肉に覆われたその身体は女性の柔らかさよりも獣のごとき暴力性を宿している。それだけでも醜悪であるが、極めつけはその貌だ。鋭い牙を剥き出した口は裂け、貌の中央に在るのは蟲の如き巨大な複眼。

 人型の蜘蛛を思わせるその姿は、まさに怪人と言うべき異形のホムンクルスだった。

 

 怪人は闇に赤く光るその複眼でジャンヌを睨み、もはや逃がさぬと立ちはだかる。

 その背後からは、先程倒した者と同じ姿の黒ずくめの者たちが、闇の中から続々と現れ怪人ごとジャンヌを取り囲んだ。

 

「く……うぅ……」

 

 絶望的なその光景を前に、ジャンヌは呻く事しか出来なかった。

 やつれ、傷ついたその身にはもはや僅かな力しか残っていない。絶え間ない鈍い痛みが意識を蝕み、このまま気絶した方がマシなのではないかと思えてくる。

 そんな痛みの中で思い出すのは、この街に来る前にカラクレアと繰り広げた追跡劇。あの時は自分が追う側だったというのに、今はこの様だ。立場は逆転し、あの愚妹と同じ――。

 

「……いいえ。違いますね……」

 

 漏れたのは、自嘲の呟き。

 そう。違う。妹は確かに追われる側だったが、その瞳には、それでも生きて何かを成したいという確固たる意志が――光が、在った。

 対して今の自分は……。

 

「あ、は…ははは……」

 

 なんて、無様。

 

 輝く光も信念も何も無い。伸ばしたこの手は振り払われ、救おうとした人にすらも見捨てられた惨めな小娘――それが今の自分だ。

 

「嗤え…ますねぇ……」

 

 虚ろな自嘲の笑みを浮かべて、ジャンヌは嗤った。

 自分を。運命を。何もかもを。

 

 その姿を見つめる怪人は何を思うのか、その人ならざる複眼からは窺い知ることは出来ない。ただ、その姿を節くれだった指で差し、しゃがれた声で言った。

 

「……蒐集…セヨ……」

 

 蜘蛛が無理やり人語を絞り出したかのようなたどたどしいそれは、だが哀れな獲物を捕えるべく下された無情の命。それを聞いた周囲のホムンクルス達が一斉に身構え、地を蹴った。

 命を果たすべく殺到する十を超える敵を前に、ジャンヌは――。

 

「う、アアアアアアアアアッ!!」

 

 咆哮し、その大剣を振り上げた――自分が背にする、廃工場の壁に向かって。

 

「ハァッ!!」

 

 叩きつけた刃は壁を粉砕し、その衝撃と剣風で周囲に瓦礫交じりの土埃を巻き上げる。

 思いもしなかったその行動に追跡者達が動きを止め、土埃に視界が遮られたその瞬間――。

 

「今のうちにッ」

 

 ジャンヌは、壁に穿たれた穴の中へと飛び込んだ。

 

 傷つき汚れた小さな身体で。

 闇を見詰め、闇の中を走るその瞳に、光は無い。

 自嘲と絶望に染まった地獄のような闇をたたえて、一人ぼっちの少女はただ、走る。

 何もかもから逃げ出すように。

 

 

 

 

 

 

 ――果てしない闇の中へ。

 

 




というわけでようやく第二幕開始!
そしてここからはメインヒロインを交代してジャンヌが主役です。

この物語は古今東西の名作のオマージュをブチ込んでますが、今回から輝く正義の黄金さんがメインという事もあって、早速あのヒーローへのオマージュをブチ込みました。というかこれからもガンガンぶち込みます。
なのでジャンヌには手始めに地獄に堕ちてもらいました。地獄兄と葡萄弟の間でどっち方向に堕とすか相当悩んだけど、やっぱりここは地獄をセレクト。また映画に出てくれないかしら兄貴……。

そんなわけで安定の黄金さんフルボッコはまだまだ続くよ☆
では、いよいよ騎士達も登場する次回をゆるりとお待ちください。
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