極悪少女は縛れない   作:どるふべるぐ

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熱くなる体。心。
それにただ抗う理性。
エロくなる意味をいつか分かる時もっとエロく

――もげろ、そのチ●●



シーン1『MOGEROΩ』

 窓から心地良い初夏の朝日が射しこむ。

 温かな湯気と食欲をそそる香りに包まれた、そんな穏やかな朝。

 色とりどりの料理に彩られた食卓を前に、御伽騎士(おとぎきし)は――。

 

「ふぁ~~ぁ……」

 

 料理ではなく、大きな欠伸を呑みこんでいた。

 

「あぁぁ…ぅん…」

 

 眠い。

 それはもう眠い。

 

『――現在イギリス各地で起こっている異常気象と謎のテロに対して、イギリス政府は警戒を一層強めると――』

 

 テレビから聞こえるなにやら物騒なニュースも耳に入らず

 

「――まったく昨日も深夜になるまで帰ってこないで、わたしがどれだけ退屈したと……」

 

 向かいに座る紫銀の同居人が垂れ流す文句も右から左へと素通りしていく。

 寝不足の頭がぼうっとして瞼が重い。モフモフの羊たちが夢の世界へと誘う声が聞こえてくるくらいに眠い。メェメェはよ寝ろメェメェメェ……。

 

「くぅ……」

 

 迫る眠気と安眠への誘いに耐えきれず、欠伸はついに寝息に変わり――

 

「ナイト!」

 

 美しくも恐ろしい鈴の様な怒声に叩き起こされたのだった。

 その声に驚きビクッと震え、夢の国から帰国した騎士は、慌てて頭を振って眠気を振り払う。そして幾分か眠気が晴れた所で、テーブルの向い側で腕を組む少女に目を向けた。

 美しい少女である。朝日に煌く紫がかった銀髪。シミ一つ無い白磁の柔肌。幼さを脱したばかりと言った顔立ちは可憐ながらも、どこか妖婦の様な艶やかさを宿している。その身に纏うは銀の飾りがあしらわれた黒紫のゴシックドレス。やや古風なそれはビスクドールめいた少女にはよく似合っていた。

 

 およそ現実とは思えぬ、まるで幻想の世界から現れたかのような美少女――ドロシー。

 だがそれも間違いでは無いだろう。彼女は人ならざる者。稀代の魔術師にして人形師《傀儡王(ピグマリア)》ゼペットによって創られし史上最高峰の魔導人形《姫傀儡(マリアネット)》。その十三体のうちの一人なのだから。

 

 だが、その美貌は今途轍もなく不機嫌そうに頬を膨らませていた。

 

「人がせっかく話しかけているのに寝ないでよ。昨日だってそうやって帰ってくるなりご飯とシャワーを済ませて直ぐに寝て、結局わたしはあなたを少しも弄べなかったじゃない!」

「ああ。うん…悪かった…よ……」

「一日一度は弄ばなくちゃ気が済まないっていうのに、これじゃあ退屈で死んでしまうわ。しかもそれがここ毎日よ!」

「ほんとにすまな……くぅ……」

「喋っている途中で寝ないの!とにかくわたしが言いたいのは、もっと自覚を持ちなさいってことよ」

「自覚……?」

「そうよ。あなたはその身も心も全てを以って、わたしを愉しませる義務があるの。……ぱ、恋人(パートナー)としてのね……」

 

 なんだか心なしか小さく呟いたその頬が赤らんでいるように見えるが、眠くてしかたのない騎士はそれに気付かず、緩慢と頷くだけで精いっぱいだった。

 

「うん。保護者(パートナー)としてな……」

「そう分かっているのならいいのよ。だからあなたは常にわたしを愉しませることを心がけなさい……そしたらわたしも、あなたを愉しませてあげても……」

「……くぅ……」

「寝るな!」

 

 そんな、美しい怒声と寝息が彩る賑やかな朝の食卓。

 騒がしくも平和なそれは、だが騎士のスマートフォンの着信音で終わりを告げた。

 

「ん……安美からか?」

 

 眠い目をこすってその画面を見た騎士は、次の瞬間仰天した。

 

「ってもうこんな時間かよ!?」

「そりゃああれだけ寝てたらそうなるでしょ……」

 

 そんな呆れた呟きも耳に入らず、慌てて身支度を整え鞄をひっつかみ、彼は玄関へと走り出す。

 

「じゃあ昼と晩飯は冷蔵庫に用意してあるから温めて食べろよ。それとデザートにチョコレートアイス作っといたから後で食べとけ――」

 

 言うべき事を伝え、じゃあいってくると扉に手をかけた時――。

 

「待ちなさいナイト。大事な事を忘れているわよ」

 

 そんな言葉をかけられ、何事かと振り返った騎士にドロシーが抱きついてきた。

 

「んなっ!?」

 

 思わず目を丸くする騎士に悪戯っぽく微笑んで、彼女はその細い腕を彼の首に回してもたれかかる。押し付けられる柔らかな肢体と微かな膨らみ。蕩けるような少女の熱を感じて、騎士の胸は高鳴った。

 

「な……にを……?」

「ふふ……」

 

 艶っぽく微笑み、微かに濡れた唇を突き出した。

 それはまるで、何かをねだるように……。

 

「あ……」

 

 そして彼は思い出す。

 大事な大事な、二人の契約の事を。

 

「思い出した?なら、早くして……じゃないと、わたし死んじゃうわよ?」

 

 ――《マスター契約》

 

 彼女達マリアネットは、本来ならばある程度は自力で魔力を生み出せる。だが、今の彼女はコアたる《王の核心(エジソンコア)》の損傷によってそれが出来ず、結果修復機能が大幅に低下している。そのままでは崩壊する肉体に修復機能が追いつかずに自壊する彼女に魔力を補給する手段、それがマスター契約である。遺伝子情報の登録によってマスター契約を結んだ者は、仮のマスターとなりパスを通じて自身の持つ魔力を供給できるようになるのだ。

 ただしそれは、二十四時間だけの仮の物で……。

 

契約(キス)、し直しましょう……」

 

 一日一度は、登録し直さなければならないのだ。

 だからこれは仕方のない事で、それにだいたい初めての事でもないのに、だがそれでも――口が渇く、高鳴る鼓動が止まらない。

 

「う…あ……」

「ふふ。赤くなっちゃって……もう何回もしてるのに……」

 

 ――可愛い……。

 

 艶やかな唇が紡ぐ甘い声に、頭が痺れ、その唇から目が離せない。

 

「して……ナイト……」

 

 誘う赤い瞳に導かれ、騎士は

 

「――ッ!」

 

 覚悟を決め、その唇に口付けた。

 

「……んっ」

 

 触れた唇から感じる、ほんのり濡れた柔らかな感触。初めの触れあいは唇同士を軽く合わせた物で、だがそれは始まりでしかない。

 

「んん……はぁ……」

 

 熱い吐息と共に蕾の様な唇が開かれ、彼女の瞳が誘うように揺れる。騎士は自らも唇を開き、濡れた少女の中へと熱い舌を入れた。

 

「……ちゅ…ん…はぁ…ちゅくぅ……」

 

 彼女もまた小さな舌を出して、彼のそれを出迎える。

 

「ん、ちゅ…ちゅぅ…くちゅ……」

 

 触れ合う唇は熱く、絡め合う舌は濡れて、抱き合う身体が燃え上がる。

 痺れるような熱と甘い少女の香りに頭は陶然として、高鳴る鼓動と共に抑えきれぬ熱い何かが湧きあがり騎士は――。

 

「――ッ!!」

 

 バッと、その唇を離した。

 勢い良く二人の唇は離れ、名残惜しげに繋がった唾液の糸が切れると共に熱い何かも鎮まった。とはいえ今だ鳴り止まぬ激しい動悸に荒く息をつく騎士の前で、ドロシーの喉がこくんと動く。

 

「んくっ……唾液からの遺伝子情報取得――マスター登録完了。おつかれさまナイト」

 

 そう可憐な仕草で微笑む彼女の唇は艶やかに濡れて――

 

「――っな、なあ。普通のキスじゃだめなのか?」

 

 騎士は堪らず目を逸らし、何かを誤魔化すような早口で聞いた。

 

「だ~め。唇だけじゃあなたのを飲めないでしょ❤」

 

 淫蘼に笑う少女は、悪戯っぽく唇を舐めて

 

 

「もっと、してみる……?」

 

 甘く、囁いた。

 

「~~~ッッッ!?」

 

 その瞬間、騎士は一気に顔を赤くして、身を翻し玄関の扉を開けた。

 

「じゃ、じゃあ行ってくる。あとチョコアイス食った後はちゃんと片付けとけよっ。じゃあな!」

 

 焦りまくりの早口で告げて、騎士は飛び出すように廊下へと出て行った。

 

「いってらっしゃい❤」

 

 その姿を余裕の笑みで見送るドロシーの前で、扉が閉まっていく。

 バタン……と、扉が閉まった後も彼女の笑みは崩れなかった。

 ……崩れなかった。

 

「…………」

 

 そして彼女は、その笑顔のままくるりと回ってソファーに向かう。

 何故かその足取りはぎこちなく。踏み出すたびにガキンゴキンと音がしそうな油の切れたブリキ人形めいた動きで、手と足を同時に出して歩いていく。

 張り付いたような笑顔でソファーの前まで来た彼女は、そのまま――。

 

 ぼんっ!!

 

 という音と共に頭から大量の湯気を噴き出し、ソファーに倒れ込んだ。

 へにゃんと力の抜けた華奢な肢体をソファーに沈め、「ふあぁぁ……っ」と呻くその顔は――薔薇の様な赤に染まっていた。

 

「すご…かったぁ……」

 

 ほうっと呟く彼女の肌は桃色に火照り、胸の鼓動は止まらない。何もかもが甘く痺れて蕩けていくような心地で、ドロシーは自らの唇にそっと触れた。そこに熱が、彼の感触がまだ残っているように感じて……。

 

「こんどは平気だと、思ったのにな……」

 

 何度もしているのに、今だに恥ずかしくて堪らない。なんとか彼の前では余裕を装えても、いなくなった途端にこの様だ。あんなに弄ぶと言っておきながら、恥ずかしい。今度こそ。次こそはと思っても、その決意ごと彼の熱に溶かされてしまう。

 

「ぅぅ……だいたいナイトだって悪いのよぉ……」

 

 恨めしげに揺れる瞳は、拗ねたように潤んで

 

「するたびに……上手くなってるし……」

 

 今日なんか彼の方から舌を入れてきた。いつもはせめて受け身にはなるまいと自分からしていたのに……。

 

「~~~~ッッッ!!」

 

 その濡れた熱さと舌使いを思い出し、更に赤面してソファーに顔を埋めるドロシー。

 そうしてしばらく「うあああああ」と悶絶した後、少しは落ち着いてきた時、ふと彼の言葉を思い出した。

 

「チョコ……あるんだっけ……」

 

 丁度いい。甘いものでも食べて落ち着こう。

 そう考え立ち上がりかけて、やめた。

 

「あと、ちょっと……あとちょっとだけ………」

 

 食べるのは、あと少し経ってからにしよう。

 この唇に残るチョコよりも甘い彼の味を、もうちょっとだけ味わっていたいから……。

 

 

 ◇◇◇

 

 

「ふぁ~~……」

 

 今日も今日とて何とか遅刻せず登校し、教室に入り自分の席に座った後も、騎士は相変わらず欠伸していた。

 

「これはまた見事な大欠伸だなナイト」

 

 そんな彼の姿を隣の席から面白そうに眺める金髪碧眼のイケメン。珍獣を見るようなその眼差しに不機嫌丸出しで睨みつける。

 

「ふむ。目の下に隈が出来ているぞ。おかげで目付きの悪さが三割増しだ」

 

 一般人なら即逃げ出すか失禁する一睨みを受けて、だが余裕の表情でコメントするイケメンに溜息をつき、騎士は呆れたように言った。

 

「うるせーぞ礼二。こっちは見ての通り寝不足なんだ。お前に構ってる気力はねえんだよ悪友」

「ほう寝不足……。なるほどそうか」

 

 文句を言ったのに何故かニヤリと笑うイケメンこと飛鳥礼二(あすかれいじ)。その不気味な笑顔に嫌な予感を感じて問いかける。

 

「おいなんだよその顔は?」

「いやなに気にするな。若いとはやはり素晴らしいと思っただけだ。しかしなるほど、俺と安美が背中を押したとはいえやはりこうなると感慨深い物があるな……。とはいえ親友として祝福しよう。おめでとうナイト」

「お前さっきから何言ってんだ……?」

「リア充デビューおめでとうと言ったんだ」

「……は?」

 

 意味不明の発言に、騎士は思わずポカンと口を開けて固まった。

 目の前の悪友が何を言っているのか分からない。いや分からないのはいつもの事なのだが、それでも今のこれは一等だ。

 

「リア充?俺が?」

「ああそうだ。ようやく念願の彼女を持てたのだから立派にリア充だな」

「いや誰だよ彼女って!」

 

 感慨深げに語る悪友に本格的に困惑し騎士は声を張り上げる。

 そんな彼の姿にいよいよ不気味な笑みを深めて、礼二は言った。

 

「決まっているだろう?――雨宮凛花(あまみやりんか)だ」

「は?」

 

 雨宮凛花。

 自分との友情のために命すらもかけてくれた、かけがえのない親友にして恩人。

 だが、彼女ではない。一体全体何がどうなってそんな話になった?

 

「とぼけるなよ親友。お前と雨宮が深夜二人で人気のない所に行く姿をクラスの何人かが目撃しているんだ。もうすっかり学校中の噂だぞ」

「――っな!?」

 

 その言葉に、騎士は声を失った。

 

「ま、さか……ッ」

 

 見られていた。知られていたのか。俺達の夜の行動を。

 いや別に人目を忍んでいた訳ではないのだが、それがまさかこんな事に――!?

 

「その顔だとやはり真実の様だな……。しかし夜中に何度も二人で人気のない場所に行って寝不足とは、まさかラブコメから一気にエロコメにいくとは流石はナイト。俺の見こんだ主人公キャラだ!」

「いやいや待て俺達は別に――」

 

 最高に楽しげな笑顔で褒め称える礼二に慌てて何事かを言おうとする騎士だったが、その言葉は突如鳴り響いた校内放送によって止められた。

 

『二年B組の御伽騎士君~御伽騎士君~至急生徒指導室まで来なさ~い』

 

 聞き覚えのあるおっとりのほほんとした声は、そこはかとなく腹黒そうな響きで騎士の名を呼んだ。

 何やら聞いているだけで嫌な予感のしてくるそれに騎士は顔をしかめる。

 

「……呼んでるな」

「の、ようだな。さて今度は何の件だろうな……などと、考えるまでも無いか」

 

 本来ならば呼び出される心当たりなど星の数ほどある問題児二人だが、今だけは何の要件だか想像がつく。が、やっぱり行きたくない。と言うか出来れば顔を合わせたくない。このおっとりした声の主にだけは。

 躊躇う騎士に、再びの放送が呼びかけた。

 

『二年B組の童貞の御伽騎士君~。早く来なさ~い』

「っておい待てい!?」

 

 何やら聞き捨てならない単語に声を上げる騎士に、更なる放送が応える。

 

『二年B組の童貞で小学生にして家庭教師のお姉さんを押し倒した挙句、胸を揉みしだいた御伽騎士君~。早く来ないと~……うふふ☆』

「やめろおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

 堪らず叫んだその瞬間、教室の空気が凍った。

 それはもう、なんというか――限界までドン引いた絶対零度に。

 

「え、なにそれ小学生で!?」

「どんなケダモノよ!?」

「その欲望で雨宮さんまで……ッ」

「雨宮さんかわいそう……」

「女の敵!」

「お前の罪を数えろ!」

 

 痛い。みんなの視線が痛すぎる特に女子!

 

『二年B組の童貞で家庭教師のお姉さんをお風呂で――』

「行ってやるよ畜生オオオオオオ!!」

 

 クラスメイト達の冷たい視線に背中を刺されつつ、騎士は全力で教室から飛び出したのだった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

「はいようこそ生徒指導室へ。ちゃんと来てくれて先生とっても嬉しいわよ~♪童貞で家庭教師のお姉さんの生乳を――」

「もういいだろおおおおッ!!」

 

 廊下を猛牛ばりの全力疾走で駆け抜け生徒指導室に飛び込んだ騎士を待っていたのは、クズ教師のおっとりスマイルだった。

 血涙を流さんばかりに絶叫する騎士に、指導室のソファーにゆったりと腰掛けた巨乳――クラス担任の坂本は、とろんとした垂れ目を細めてのほほんとほほ笑む。

 

「あらあら照れなくてもいいじゃない。楽しい思い出でしょう?」

「おぞましい黒歴史です!」

 

 全力の否定に坂本は肩をすくめた。

 そのちょっとした動きで明るい栗色の髪が揺れ、それに負けじと二つの果実もプルンと揺れる。思わずその動きを見てしまいそうになるが、我に返りいやいやと気を引き締める。目の前にいるのは見た目こそおっとり巨乳お姉さんだが、その実態は腹黒性悪クズ教師だ。一瞬たりとも気を緩めては――。

 

「何か失礼な事を考えてないかしら?童貞で家庭教師のお姉さんの初めての唇を――」

「微塵も考えてませんですサー!」

 

 海兵隊ばりの敬礼で答えたところで、この部屋に居るもう一人の人物に気付いた。

 

「凛花……」

 

 後ろで一纏めに流した青みがかった美しい黒髪に、深海の如く深く澄んだ切れ長の蒼い眼が印象的な少女――雨宮凛花は、騎士の登場に若干驚きつつつも微笑んだ。

 

「ナイト。君も呼ばれたのか?」

「ああ。てことはお前もか?」

「ああ。生徒指導室の前を通りかかった時に声をかけられたんだ」

 

 そう答える彼女の澄んだ声は、だがどこか疲れたような響きだった。常ならば凛としたその雰囲気も、今は憂いを帯びている。それはまるで肉体的にも精神的にも疲れ切っているようで、その瞼の下に出来た隈を心配げに見ながら騎士は聞いた。

 

「……ちゃんと寝てるか?」

「……いいや。寝なければとは思っているんだが、なかなかな……。そういう君こそどうなんだ?」

 

 こちらにも同じように出来ている隈を見て問う凛花に、騎士は苦笑して首を横に振った。自嘲的なその姿に「そうか」と呟き、凛花は物憂げに溜息をつく。

 

「すまないな。私のせいで……」

「いや。これは俺が――」

 

 申し訳なさそうに瞳を伏せる彼女に、騎士が口を開いたその時――。

 

「あの~。二人仲良くメランコリックしてるとこ悪いんだけど~、そろそろ先生の話を聞いてほしいなぁ」

 

 おっとりのほほんとした、だが有無を言わせぬ声に言葉を断ち切られた。

 それに促され、二人は揃って並び前を向く。その様子を満足げに眺めて、坂本は口を開いた。

 

「さて、今日あなた達に来てもらったのは、御伽君と天宮さんの二人に関するある噂についてなの……心当たりはあるかしら?」

 

 その言葉に、凛花はしばし考え込むも首を傾げる。

 未だに騎士以外のクラスメイトとは気後れして距離を置いている彼女は、校内の情報に疎く心当たりがなかった。が、その一方で既に悪友からそれらしい話を聞いていた騎士は苦々しい顔で頷いた。

 

「御伽君は分かっているのね。今からあなた達に聞くのも、ズバリその事についてよ。そう――」

 

 

 ……ごくり……。

 

「――騎士君が雨宮さんを無理やり手籠めにして●●●したっていう噂のね!」

「ってなんじゃそりゃあああああああ!?」

 

 予想の斜め上の発言に故・松田優作ばりに絶叫する騎士と、目と口をまんまるにして唖然とする凛花を、坂本は腕を組んで見つめる。その組んだ腕に巨乳がたぷんと『乗った』事にも気付かぬほどに狼狽して騎士はツッコんだ。

 

「普通そこは『付き合ってる』とかだろ!?」

「万年童貞の君に彼女が出来たなんて超常現象より、キレた勢いで力ずくで手籠めにしたって言う方がよっぽど信憑性があるでしょ?」

「ねえよ!」

 

 一瞬何故かドロシーとジャンヌの顔が思い浮かんだが多分気のせいだ。

 

「なら彼女とでもいうのかしら?」

「ただの親友だ!」

「心の友だ!」

 

 我に返った凛花と二人で答えると、それでようやく納得したのか坂本は「ああなるほど」と頷いて

 

「つまりセックスフレ――」

「言わせねえよ!」

 

 のほほん笑顔の戯言を騎士は叩き潰した。

 

「とにかく俺と凛花はそんなんじゃなくてだな――」

「ただの攻略済みヒロインだ!」

「……未使用のハーレムメンバーです」

 

 そしてなぜか入口から礼二と膝まで届く黒髪の怨霊少女――ではなく万馬殿安美(ばんまでんやすみ)が現れた。

 

「何しに来た馬鹿共!?」

 

 絶対確実にこの場を更にややこしくするだろう二人の登場に戦慄する騎士に、礼二は実にいい笑顔で答えた。

 

「なに、親友のピンチを華麗に助けるのは友情物の醍醐味だからな」

「……友情フラグは華麗に回収するのが親友キャラの嗜みですから」

 

 白い歯をキラーンと光らせる礼二と、焦点の合わない瞳をギラアァァァンと光らす安美に堪らず頭を抱える騎士を尻目に、礼二は坂本に向き直り無駄に堂々たる口調で言った。

 

「坂本教諭よ。なるほど確かにナイトはキレやすいが、それで無理矢理女を手籠めにするような男ではない!」

「……礼二」

 

 力強いその言葉には、一片の偽りも無かった。ただ友を信じる男の、熱い信頼と友情が籠ったそれに、騎士は思わず胸を打たれる。だが、坂本の垂れ目はそれをどこか冷やかに見つめていた。

 

「あらあら凄い自信ね。……でも根拠はあるのかしら?」

「あるとも……」

 

 そして、礼二は言った。疑いの目をまっすぐ見返し、全世界に向かって宣言するように――ッ

 

「――キレた勢いで女を押し倒せるような男なら、そもそも童貞をやっていない!!」

「なに言ってんだクソ悪友が!?」

「それもそうね☆」

「納得すんなよクズ教師!?」

「……これにて一件落着」

「俺の名誉はズタボロでな!!」

 

 ともあれ、これにて騎士の●●●犯の疑いは晴らされたのであった。

 が、それでは改めて残る疑問に坂本が首を傾げる。

 

「――じゃあ。あなた達二人はなんで深夜に何度も出歩いていたの?」

「――――ッ!?」

 

 その問いに、二人の顔が強張る。

 互いに目を合わせ、逡巡し、何度か考え込むように押し黙って、ついには仕方ないと観念したように――雨宮凛花が口を開いた。

 

「……妹を、探していたんだ」

 

 重く沈んだその言葉に、どこか緩んでいたこの場の空気が変わった。

 冷たく、物憂げな雰囲気が、霧のようにこの場を覆う。

 

「妹さん?」

 

 僅かに真剣さを帯びた坂本の言葉に、凛花は頷いた。

 

「数日前に姿を消した妹を見つけるため、ナイトと二人で深夜まで街を探していたんです……」

「誘拐?警察には言ったの?」

「室内に争った形跡は無かったから、おそらくは自ら出て行ったんだと思う。警察は……訳があって頼れないんです……」

 

 そう語る彼女の声には、苦しさとやるせなさが滲んでいる。

 妹を救いたかったのに救えなかった自責の念が、そしてなによりも、自分の失態によって生じたこの事態を解決すべく力を貸してくれた友にも迷惑をかけてしまった事への、申し訳なさと情けなさがその身に重くのしかかっていた。

 

「その事をナイトに相談したら、彼は自らも力を貸すと言ってくれた。……私は、それに甘えてしまい、巻き込んでしまった……」

 

 その声が、震える。

 その瞳が、濡れていく。

 

 それでも凛花は、震える声で、濡れた瞳で、坂本に深々と頭を下げて――言った。

 

「全ては私の責任です。だからどうかナイトの事は――」

 

 許して――と言おうとした彼女の言葉は、だが最後まで言う事は出来なかった。

 

 その途中で轟いた

 

「俺の責任だ!!」

 

 ――御伽騎士の、叫びによって。

 

「これは俺の意志で、俺が決めた事だ!勘違いすんなよ凛花。たとえお前に協力を断られていたとしても俺は勝手に探してた!だからこれはお前のせいじゃねえ。俺のしたことは全部俺の責任だ!」

 

 誰にも、坂本にも凛花にも否定させないと言うその意志が、この場の自責と憂鬱に満ちた空気を吹き飛ばす。

 騎士の瞳は燃え上がるような意志を湛えて、坂本の瞳を見詰めていた。

 

「――話は分かりました」

 

 やがて、暫しの焼けつくような静寂の後、坂本が口を開いた。

 そしてこの場に緊張が走る。どんな判断が出されるのか。どんな罰を下されるのか。

 たとえそれがどんなものだとしても、凛花一人には受けさせない。

 痛みも苦しみも共に分かち合うのが――友達なのだから。

 そう堅く誓う騎士の前で、坂本は――

 

「なら特に問題は無いわね♪」

 

 ――と、極上のほほんスマイルで言ったのだった。

 

「「――――へ?」」

 

 そのあまりにあっけらかんとした発言に、一瞬意味が分からずポカンとする騎士と凛花。

 津ンな二人の様子を楽しげに眺め、坂本はお気楽口調で言った。

 

「別に不純異性交遊じゃないのなら特に問題は無いわよ~。というかここで先生がいくら言ってもあなたたちは止めないでしょう?だったら言うだけ無駄。面倒な問題児は基本放置するのが先生の方針なの♪」

 

 照れ隠しや温情とかではなく、ただ単に本当にそう思っている事がありありと窺がえるクズ発言だが、今はそれが有難い。

 騎士は思わず身体の力が抜けて、盛大に呆れ混じりの溜息をついた。

 

「まあなんつうか……ありがとうございます坂本先生」

 

 そして頭を下げる。

 

「普段からそれくらい素直なら私もやりやすいんだけどね~。まったく君は昔から……」

「うっ!?……い、以後生活態度には気をつけます!」

「はいはい。期待しないで期待しているわよ~」

 

 全く信用していない笑顔で言うと、そこで坂本は二人に何やら白紙を手渡した。

 

「ああそうそう。次に夜の街を出歩く時は常にこの紙を携帯しておくようにね」

「なんですこれは?」

「これに今から『私達がどうなろうともすべてその責任は自分に在り、担任教師の坂本先生には一切の責任はありません』って書いて血判を押してもらうわよ~」

「あんたホントにクズ教師だな!?」

 

 騎士のツッコミにのほほんと笑うその手には、鋭く尖った彫刻刀が有無を言わせぬ輝きを放っていたのだった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 そして放課後。

 騎士と凛花は、ある場所に来ていた。

 

 あの後、事情を知る事となった礼二と安美が「友情イベントキタコレ」と捜索に協力を申し出て情報を集めてくれた。曰く『妖しい奴の情報は妖しい所に転がっている』と言っていた二人は、ある心霊サイトから『神原市のある場所に謎の金髪の人影が現れる』という情報を得た。眉唾ではあるが藁にもすがりたい騎士と凛花は、学校が終わると同時にさっそくその場所に向かった。

 

 そこは郊外にある、うち捨てられた廃工場が立ち並ぶ地区だった。

 元々は巨大な企業の一大工場地区だったらしいが、バブルが弾けて企業は倒産し、そして間もなく廃墟となった。

 

「流石に暗いな……」

 

 郊外と言う事もあって移動に時間がかかり、着いた頃にはとうに日が沈み夜となっていた。

 

「足下に気をつけろよ。凛花……」

 

 礼二と安美には別の場所を探してもらっているから、ここには騎士と凛花の二人きり。気遣い声をかける騎士に、凛花は微笑んだ。

 

「ありがとう。君には気をつかわせてばかりだな……」

 

 僅かに申し訳なさの宿ったその言葉に、騎士はあえて何でも無いように答える。

 

「ダチがダチを思いやるのは当たり前だろ。ただの友情に気をつかうも何もねえよ」

 

 その言葉に、凛花は暫し声を詰まらせ、ぽつりと言った。

 

「ありが…とう……」

 

 熱く潤んだ、想いを――。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 その後、広大なこの場所をくまなく探すため二手に分かれて捜索する事にして、騎士は凛花と別れ一人廃墟の中を歩いていた。

 

「……まるで墓場だな」

 

 生きる者が誰もいない、無機質な静寂に満たされたここは、なるほど確かに鉄の墓場だ。

 全てが朽ち果て、うち捨てられて、でもだからこそ、同じように世界から捨てられた者達を引き寄せるような何かがあるように感じて……。

 

 ――もしも全てに絶望した者が逝き着くとしたら、此処こそが相応しい。

 

 そんな事を思った、時だった。

 

 突然の轟音と共に、目の前の壁が吹き飛んだ。

 瓦礫が舞い、破片が飛び散り、衝撃が地を揺らし轟音が轟く。

 何事かと驚愕し、目を見張る騎士の瞳が――闇に躍る、くすんだ金色を見た。

 

 それは地獄の様な絶望に墜ちた瞳と、輝きを失った黄金の髪の少女。

 

 

 

 

「――ジャンヌ!?」

 

 

 

 

 叫んだその声が、光無き夜闇に木霊した。

 

 

 




バレンタインに贈る極甘エピソード楽しんでくれたかなー?
ちなみに自分は終始こんなテンションでした。

もげろおおおおおおおおお!!
もげろもげろもげろもげろもげろおおおおお!!

自分で考えた設定ながらここまでムカついたのは自分でも驚きですね。
だってこいつら一日一回はべろちゅーしてるんですぜしかも最後はごっくん❤で。

うんぶっちゃけ『もげろ』としか言えませんねウフフフフ……( ´∀`)

さて次はバトル回です。
甘さはたっぷり補給したから次はちょっと苦くても問題ないはず。
さーてヒロインフルボッコ頑張るかー。


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