極悪少女は縛れない   作:どるふべるぐ

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やっと投稿できた日常描写とかマヂしんどい。
とりあえず今回はラブコメのテンプレお食事イベントです。
なお本作は作者の力不足により一人称と二人称が所々でごっちゃになっております。
※ヒロインの外見を一部変更しました。


シーン2『お食事イベントIN屋上』

――唇の両端を上げて思う。私は今、上手く笑えているのだろうか。

 

「ねえねえ雨宮さん!」

 

昼休み。

私―雨宮凛花の周りにはちょっとした人だかりができていた。

笑顔で話しかけてくるクラスメイト――主に女子達に、私は何とか精一杯の笑顔を繕う。

 

「な、なんだろうか?」

「もう堅いよ~雨宮さん。クラスメイトなんだからもっと気軽な口調でいいんだよ~」

「え~でもいいじゃん。雨宮さんには似合ってるし」

「うんうん。雨宮さんって凛々しい美人さんだから、ちょっと堅い喋り方のほうが魅力的だよ!」

 

私に向けられる、キラキラとした色とりどりの笑顔。

夢と希望に満ちた、今この時を目いっぱい楽しんでいるそれが、私にはとても眩しくて、否応なしに感じてしまう。この胸にぽっかりと空いた虚ろな穴を。心の中の寂寥感を。空っぽな私にとって、近くにいるはずの彼女達は、とても遠い存在に思えた。

そう感じるたびに私は強張り、緊張していく。

 

「雨宮さん、どうしたの?」

「えっ?」

「急に黙っちゃって……もしかして気分でも悪いの?」

 

そんなことはない。

そう言おうとしたが、口から出たのは違う言葉で

 

「あ、ああ。どうやら少し疲れてしまったようだ……」

 

ぎこちなく、嘘をついてしまう。

 

「まあ転入していきなり御伽と飛鳥にからまれたら疲れるよね~」

「うんうん。雨宮さん大変だったね。怖かったでしょ?」

「飛鳥君はアレだし御伽君はすぐキレるから怖いよね」

「さっきだっていきなり御伽君を気絶させてどこかに拉致ってったもんね~」

「……大丈夫?なんなら保健室で休ませてもらったら?」

 

私を気づかうその言葉に、私はそうさせてもらおうと言って、席を立った。

保健室まで送ろうかと言ってくれる彼女らにぎこちない頬笑みで大丈夫と答え、教室を出る。

逃げるように。

いや、まさしく私は逃げ出したのだ。あのキラキラとした場所から。自身の空虚を否応なしに自覚させるあの眩い地獄から。

 

「情けないな……私は」

 

そして思う、私はこれほどまでに弱かったのかと。

己の無様さに自嘲の笑みを浮かべ、しばし体を休めて気を落ち着かせようと、保健室に向かおうとした時、目の前に珍妙なイケメンが現れた。

 

「見・つ・け・た・ZO☆雨宮凛花!」

 

私の名前を叫びつつ何故かアクロバティックなポーズを決めて現れたのは

 

「君は確か……ホームルームでなにやら騒いでいた……」

「人呼んで飛鳥礼二だ!だがそれは世を忍ぶ仮の姿だが今はどうでもいい!さあ一緒に来てもらうぞ雨宮凛花!」

「え、いや、どこへだ?」

「楽しいところだ!」

「……あいにく私は気分が優れず保健室に行くんだ。悪いが――」

「そうかそれは大変だなだが断る!」

「なん…だと……ッ」

「そして答えは聞いていない!やれ安美!」

 

そして次の瞬間、私は首にチクリとした痛みを感じ、意識を失ったのだった。

 

  ◇           ◇             ◇

 

 

「……で、なんなんだこの状況は?」

 

目覚めればそこは屋上。

でもって目の前には金輪際関わらんと決めたはずの雨宮凛花の何やら戸惑った美貌。左右には礼二と安美のアホ面二つ。中央には何の悪夢かうず高く盛られたパンの山。傍から見れば謎のパン山を囲んで座る怪しい四人組の図。もしくは新手のサバト。

……もう一度聞く。なんなんだこの状況下は?

 

「ふっふっふ。決まっているだろう」

 

まるで今こそ人生の華だと言わんばかりの笑顔のアホはバカ礼二。何が楽しいのか拳なんか握り締めちゃってる。

 

「ズバリ、屋上でのお食事イベントだっ!」

「わー。ぱちぱち」

 

巻き起こるやる気のない拍手。発生源はもちろん安美。こいつはこいつで単なる付き合いなのか自分なりに楽しんでいるのか謎だ。なにせ目線がどこを向いているのかすら特定不能の奴である。その心たるやまったく読み取れん。

 

「と、いうわけでだナイト」

「断固断る」

「さっそく雨宮と一緒に食事をして恋愛フラグを強化するのだ!」

「そしてやっぱ聞かないのなお前は!」

「なに、このパンは全て俺の奢りだ遠慮なく食してくれ」

「定番からちょっとマニアックなパンまで揃えたこのメニュー。喰って喰って喰いまくれ…」

 

陽気に勧める礼二と妖気に勧める安美たん。

うんありがとう。全然うれしくないぞコンチクショウ。

 

「おいこらちょっと待てこのキ○ガイ野郎」

「何だナイト?いきなり放送禁止用語とは相変わらずの変態ぶりだな」

 

はい、お前が言うな。

 

「何故に俺が雨宮と恋愛イベントなんぞを育まなけりゃならんのだ?」

 

これ以上ない半眼で問いかけると、それを待ってましたとばかりにアホ二人はものッ凄い笑顔と瞳だけが爛々と輝く無表情で

 

「それが運命だ!」

「ラブコメのね……(きらーん☆)」

 

ズバッとキメる礼二と安美。

心底思う。死ねばいいのに。

 

  ◇       ◇        ◇

 

かくして始まった『お食事イベントIN屋上』。

殺意をもよおす台詞をいい笑顔でキメた礼二と安美は、その直後「ではここからは若い二人にまかせよう。さらばだ親友健闘を祈る!(親指グッ☆)」「しっかりヤってね……(親指にょきっ☆)」と言って猛ダッシュで屋上から去り、結果、屋上には騎士と凛花の二人きりとなった……が。

 

「……あー……と……」

「……えぇ……と……」

 

いきなりほぼ初対面同士で二人きりにされ、正直どうすればいいのか分からない。

二人は互いに戸惑い混じりの視線を交わし、途方に暮れる。

ここはまず男の自分が何か軽口でもって場を和ませるべきところだろう。だが一人暮らし彼女無し友人と言えばバカ二人のみの騎士にそんなコミュ力が果たしてあるのだろうかいやない(反語)というかそんなスキルがあるのなら今頃あんなバカ二人とつるんでいない。

それでも何とか話しかけようと凛花に目を向けると

 

どこまでも深い、だがどこか寂しげな光を湛えた青の瞳。白雪のような肌。艶やかな黒髪。凛とした花のように美しい少女がそこにいた。

 

そして速攻で眼を逸す。

いや無理これは無理マジで無理だよこんな美少女相手に対面で話せとか俺のコミュ力の限界を軽く超えとるわむしろこっちが緊張でマトモに顔も見れんぞ何この無理ゲー!

なのでとりあえず。

 

「……食べるか。パン……」

「……あ、ああ。そうしようか……」

 

パン食うことにした。

……ヘタレとは言わないで。

 

◇   ◇   ◇

 

「……ねえ。れいじ」

 

屋上から去ったバカ二人の一方、安美がふと礼二に声をかけた。

 

「なんだ安美?お前から声をかけるとは珍しいな」

「……ないと。上手くやれると思う?」

「愚問だな。あれは俺が見込んだ主人公キャラだぞ。この程度のイベントをこなせないはずがない」

「……でも女性交際経験無しの童貞だよ」

「ほう……お前としては、上手くいってほしくないのか?」

 

冗談めかしたその言葉に、安美の感情を映さない瞳が、僅かに揺らめく。

 

「……ないとには、誰かと付き合って幸せになってほしいと思ってるよ……」

「なるほど……」

「……」

「まあ心配するな。我が親友はやるときにはやる男だ。……それにああいう女に対して、あいつがどんな態度をとり、その涙を見た時どうなるかは……お前ならよく知っているだろう安美?」

 

 そう楽しげに微笑み言う礼二に、安美は答えず、ただ静かに、騎士のいるであろう方向にその瞳を向けた。

 

◇   ◇   ◇

 

「……うまいか?(もぐ)」

「……ああ(もぐもぐ)」

 

食う。

 

「……行儀よく食うんだな(もぐ)」

「……そ、そうだろうか?(もぐもぐもぐ)」

 

ただ食う。

 

「……食べるの早いな(もぐ)」

「……まあ、な(もぐもぐもぐもぐ)」

 

ひたすら食う。

 

「………(もぐ)」

「………(もぐもぐもぐもぐもぐ)」

 

かくして十分後。

 

「……きっ」

 

気まずいッ!

 

何故だ!なぜ美少女と向かい合って食事をしているというのにこんなにも気まずいのだッ?

あまりに気まずすぎて食事は全く進まず味なんて微塵も感じない。あげく凛花の顔すらまともに見れず俯きながら食う始末。

なぜだなぜこうなった。いや決まってるあのバカだあの残念イケメンと無表情電波のバカ二人のせいだあいつらのせいで俺は今こんな思いをするハメにクソクソクソがああぁぁぁ……ッッッ。

マグマのごとく湧き上がる怒りと苛立ちを殺意に変えて、騎士はよしとりあえず今からあいつら殺しに行こうと俯いていた顔を上げ

 

凛花の暗く沈んだ顔を見た。

 

「……あ?」

 

その瞬間。

今まで熱く煮え滾っていた、怒りが、苛立ちが、何もかもが、凍るように……消えた。

 

「すま……ない……ッ……」

 

呆然とする騎士に、凛花が口を開く。

それは、小さな、震えた声で。

 

「……私の……せいで……」

 

濡れた瞳を、揺らしながら。

 

「……せっかく……私のために、してくれているのに……」

 

なんで、そんな顔をしている?

 

「……私は……こんなこと初めてで……緊張してしまって……」

 

誰が、そんな顔をさせている?

 

「……何も、話すことができなくなって……」

 

飛鳥礼二か?

 

「……本当は……嬉しかったのに……ッ」

 

万馬殿安美か?

 

「……君に、そんな顔を……気まずい思いを……させてしまって……」

 

いや、違う。

 

俺だ。

 

あの二人に無理やり巻き込まれてイラついて戸惑って緊張して、自分自身が気まずかったからずっと俯いてやり過ごそうとしていた御伽騎士だ。

それが目の前の少女に、何を感じさせるのかも想像できなかったクソ野郎だ。

挙句。

 

「……本当に…ッ…すまない……ッ…」

 

この凛々しくも優しい少女に、そんなクソのために涙を流させた大馬鹿野郎だッ!

 

「ッあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!!!」

 

叫ぶ。

怒りを苛立ちを、苦痛を悲しみを、自分への、凛花への、全てに対する滾り溢れたグチャグチャの感情を怒号に変えて解き放つ。

そして、突然の絶叫にその濡れた美貌を呆然とさせる凛花に向かって

 

「俺がすまなかったッッッ!!!」

 

全身全霊の土下座をした。

 

「……え?」

 

蒼い眼をキョトンと丸くする凛花。だが騎士はそれに構うことなくその思いのたけを全身でぶつける。

 

「お前のせいじゃない!俺が、俺のせいでお前にそんな顔をさせちまったんだッ!」

「…………」

「許してくれなんて言わない……気の済むまで殴ってくれたっていい……でもッ」

 

顔を上げ、彼女の瞳を見つめる。

どこまでも深く、悲しみに沈む蒼い瞳。涙で濡れた、騎士が眼を逸らし続けたその美貌を、今度は決して眼を逸らさずにはっきりと見つめ

 

「頼むッ。俺に、この大馬鹿野郎にもう一度チャンスをくれ!」

 

コミュ力不足?

緊張で顔も見られない?

馬鹿かんなもん関係ねえ。

俺は何故そんなもん気にしてた。男なら、たとえ何であろうと全身全霊全てを使って女を笑顔にするもんだろうがッ!

騎士とか名付けられた奴が女泣かせてんじゃねえよ!

俺が流させた涙なら

 

「――俺に、お前を笑顔にさせてくれ!」

 

俺が拭かないでどうするッ!

 

「……………」

 

騎士の叫びを、その想いをぶつけられた凛花は、言葉を発することなく、ただ青く澄んだ瞳で騎士を見つめ。

騎士もまた、その瞳をじっと見つめた。

思いのたけは全てぶつけた。言うべき言葉も全て伝えた。その答えがなんであっても受け入れよう

そんな覚悟を宿して。

 

――そして、凛花は

 

「……ぅ……」

「……」

「……ぅぅ……」

「……?」

「……ぅぁ、あ、あああぁあああああああぁぁああああ!」

 

号泣した。

 

「えッ!ちょっ、なッ!?」

 

全く予想していなかった反応に慌てる騎士。

 

「す、すまん!たしかに虫のいい話だが泣くほど嫌だとは思わなくてッ……」

「ち、違う!」

 

凛花は泣きながら首を振る。

ぼろぼろと涙を流す、蒼い瞳。

だがその涙は、どこかあたたかなぬくもりを感じさせて。

 

「……嬉し、いんだ……」

 

精一杯の、想いを伝える。

 

「……こんな私に……そう言ってくれる……君の優しさが……嬉しくて……ッ」

 

後は、言葉にならなかった。

 

澄んだ声で泣き続ける彼女を、騎士はそっと抱き寄せ、その背中を撫でた。

父親が泣く幼子にそうするように。

騎士はただ静かに、彼女が泣き止むまでその背を撫で続けた。

 

◇◇◇

 

「ありがとう……もう大丈夫だ」

それからまもなく、泣き止んだ凛花は、少し赤くなった瞳を向けて騎士に礼を言い、そして静かに頭を下げた。

 

「そしてすまなかった。私のせいで君に気を遣わせてしまって……土下座までさせてしまった」

「あー、いやそれはお互い様だ。俺だって実際お前の気持ちを考えず一人でテンパったあげく、雨宮を泣かせちまったんだし、お前が俺の事なんて気にすることねえよ」

「だがしかし私は――」

「はいストップ!」

「っ!」

「いつまでもこんな話はつまらんだろ。だからここはお互い水に流してこの話はここで終わりハイ終了オーケー?」

「っだが!」

「それでも!」

 

なおも譲らぬ天宮の言葉を遮り、騎士はまだ口を付けていないパンを手にとって

 

「それでも、雨宮が納得できないなら……一緒に飯を食って仲直りしようや」

 

笑って凛花に差し出した。

 

「言ったろ?お前を笑顔にさせてくれって」

「…………」

「一緒に飯食って、馬鹿話して、笑って仲直りしよう。俺は俺の全てを使ってお前を笑わせるから、お前もそんな顔はやめて笑顔を浮かべてくれ。それが俺の罪滅ぼしで、謝られるより何よりも、俺がお前に求めているものだからさ……」

「……ぅ……」

「……え、おいまさか」

「うあああああああああああっ!」

「またかーーーーー!?」

 

そして凛花は、泣きながらパンを噛みしめた。

 

「……ぅ、ぇぐ……する……」

 

あたたかな流れに、頬を濡らして。

 

「なかなおり……しよう…」

 

くしゃくしゃに、笑った。

 

  ◇      ◇       ◇

 

「――雨宮の好きな食べ物は?」

「そうだな……水羊羹が好きだ。冷たい水羊羹を濃い緑茶で頂くと特に美味しい。君は?」

「俺は胡桃だ。胡桃ならいくらでも食べれる。雨宮も一つどうだ?」

「ポケットから普通に取り出すとは……。いつも持ち歩いてるのか?」

「まあな。殻のままなら、いざという時に飛び道具としても使えるしな」

「君は一体何と戦っているんだ……?」

 

それから二人は、並んで色々な話をした。

それらは皆たわいもない話で、中身などほとんど無い様なものだったが、二人はそれを心から楽しんでいた。

騎士が礼二と安美との馬鹿話を話せば、それを聞いた凛花は鈴のような声で笑い。その笑顔に騎士もまた微笑む。

先刻までのぎこちなさがまるで嘘のように、二人の間にあった壁が涙とともに流れ落ちたかのように、二人は心から笑い、語り合い、同じ時を過ごす。

 

「そう言えば雨宮はここに来る前はどこにいたんだ?」

「……色々、だな。家族で世界中を点々としていた」

「え。てことは帰国子女ってやつか?」

「まあ、そうなるのかな……」

「で、なんでこの街に?」

 

騎士の問いに、凛花はどこか遠くを見つめるような、それでいて空虚な瞳で、静かに答えた。

 

「……私には、やるべきことが、やらなければならない事があったんだ」

 

ぽつり、ぽつりと。どうしようもない虚しさを滲ませて。

 

「だが、それはある日、唐突に失われた。永遠に消えてしまった。……それを失った今、私にはもう、やるべきことも、やりたいことも無い。どこに行けばいいのか、どこに行きたいのかも分からない。ただ、心に穿たれた虚ろな穴のどうしようもない虚しさだけに満たされた、空っぽの私がここにいる……」

「…………」

「学校とは、若者たちが自らの進むべき道を見つけるための物と聞いた。ならば、そこに行けば、あるいは私にも見つかるかもしれない。私のやりたいことが。やるべきことが。進むべき道が。……そう思って、私はここに来たんだ」

 

凛花は眼を閉じる。それは苦しみを噛みしめるように。

 

「……だが、クラスメイト達と触れあって思ったよ。空っぽな私には、夢に向かう彼ら彼女らの輝きは眩しすぎると。眼が眩むほどに。そんな彼女らと接するたびに、私は己の空虚さを思い知らされ、強張り、触れあうことに怖気づいてしまう」

 

ふと、眼を開き、騎士に小さく微笑んだ。

 

「……だから正直、君と出会った時は安心したよ」

 

あるいは、自嘲か。

 

「誤解しないでほしい。君を貶めるつもりは無いんだが……君と眼があったあの時、私は、君の瞳の中に、私と同じ空虚を感じたんだ」

「…………」

「ほぼ無理やりとはいえ、君と屋上で話ができると知った時、私は期待した。この人となら、私と同じ心に空虚を抱えた君ならば、私は常の心で接することができるかもしれないと……まあ、その結果は惨憺たるものだったが。……それでも、私は今こうして、君の優しさのおかげで笑っていられる」

そして再び、騎士に笑いかけた。今度は、心からの感謝に輝く、花咲くような笑顔で。

「ありがとう。……私は君のおかげで救われた。今なら、クラスメイト達とも、あの輝きにも、少しはまともに接することができそうな気がする」

 

そう、笑って覚悟を決める彼女に、騎士がぽつりと言った。

 

「……たしかに、俺も空っぽだよ」

「え?」

「昔ちょっと事故にあって昏睡状態になった事があってな。そして目覚めた時、俺の心のどこかに何かを失くしちまったような、ぽっかりとした穴が開いていた。それと同時に、何かをしたいと強く思うのに、それが何かが分からない。そんな衝動だけが溜まっちまって、それで苛立って、昔は色んなモンに当たり散らしてた」

「…………」

「今でも何がしたいのか分かんねえし。訳の分からん虚無感つーか喪失感も相変わらずだ。……それでも、今は馬鹿二人とつるんでそれなりに楽しくやれてる」

 

そこで僅かに顔を赤くし、頭をガシガシと掻きながら

 

「あーつまりだ。あんま難しく考えんな!真面目過ぎるんだよお前は。クラスメイトと接するのに一々覚悟決めてぶつかってくとかシンドすぎだろ。まずは無理せずダチとつるめ。そんで少しずつ空虚さってやつを埋めてって、それから改めて苦手な奴等とも触れあえばいい」

「だが、私には友達など……」

「いるだろ。ここに」

「え……?」

「一緒に飯食って馬鹿話して仲直りしたんだ。だったらそりゃあ友達以外の何だって言うんだよ?」

「…………」

「だろ?」

「……ぅぅ……」

「はいストップ!」

 

ゼロコンマ5秒で瞳を潤ませた凛花を慌てて止める。

 

「いいか頑張れ無理するな落ち着いて心を鎮めるんだ」

「わ、わかった……うん、もう大丈夫だ……でも、本当にいいのか?私の……友達になってくれるのか……?」

「もうとっくになってるよ。つーわけでこれからよろしくな雨宮」

 

凛とした美貌で、まるで幼女のように恐る恐る問う新たな友人に苦笑しつつ、笑って手を差し出す。

 

「……っ。……りんか、だ……」

「ん?」

「凛花、でいい。……友達、だからな……騎士」

 

白雪のような頬を赤く染めながら、凛花の手がおずおずと伸ばされる。

 

「わかったよ。凛花」

 

騎士はそれを、優しく、だがしっかりと握った。

それはまるで二人の間をつなぐ絆のように、この時、二人の手は分かち難く繋がったのだった。

 

【挿絵表示】

 

 

  ◇      ◇      ◇

 

なお

 

「……ありがとう、騎士……そして早速だが謝らせてほしい」

「え。何がだ?」

「すまないもう無理限界だ」

「ておいまさかっ」

「うあああああああああああああああああん!」

 

騎士の友達としての最初のミッションは、凛花を全力で泣き止ませることだった。

 

  ◇      ◇      ◇

 

「ただいま~」

放課後、なんの部活にも所属していない騎士はそのまま家路につき、人気の無い郊外に建つ愛しのオンボロホームへと帰宅した。

ただいまと言っても男の一人暮らしなので返事は無いが、実家に暮らしていたころの習慣というやつだ。身に染みついた物はどうもそうそうには抜けないらしい。

 

「ふい~」

 

夕食と風呂を済ませ、真っ暗な自室のベッドで横になる。

これといって見たいテレビもゲームもマンガも無い。することはなく。ただ窓から月明かりだけが差し込む部屋の中で、騎士はボーっと寝転がっていた。

そうしていると、ふと今日一日の出来事が甦ってくる。

朝の長距離ダッシュ。礼二とのバカ話。いつもの暴走と鉄拳強制沈黙。そして、転校生。

 

「凛花、か……」

 

凛として美しく、だがその心に自分と同じ空虚な穴を抱える少女。

凛々しく大人っぽい佇まいかと思いきや、意外と繊細で涙もろい、そして、愚直なまでにひたむきでまっすぐだからこそ、真正面からぶつかって傷ついてしまう彼女。

危なっかしくて放っておけないと思うのは、同じ空虚を抱える同族意識からか、それとも友達だからか、あるいはその両方か。

なにはともあれ、助けてやろうと思う。

いつか、あいつが誰にでも心からの笑顔で触れあえるように。

そう、明日も来るいつもの日常の中で。

そうして騎士は、そのまま静かに瞼を閉じる。

しばらくするとゆるやかに睡魔が襲い。彼は眠りの底に落ちていった。

 

 

――これが、超平凡的一般高校二年生であるところの俺の日常だ。昨日と同じような今日。今日と同じような明日。ただ三重奏(ワルツ)のように繰り返される日常。同じような毎日。少し退屈だけど、穏やかに流れる時間。

そう、俺はこんな毎日に満足していたんだ。朝は遅刻しそうになってあわてて、学校で悪友どもと馬鹿話をして、ちょっと寄り道して家に帰る。そんなどこにでもあるような日常に。そして俺は、こんな毎日が明日も繰り返されて、これからも続いていくと思っていた。何の疑いも無く。そう、あの極悪の少女に出会うまでは…。

 

 

目が覚めた。

いや、覚まされた。

突如押し寄せた圧倒的殺気が、騎士を眠りの淵からたたき起こした。

 

「ッ!!!」

 

一瞬にして汗が噴き出し、跳ね起きた騎士の身体は、すでに流れる汗にまみれていた。

 

な、んだよっ…!

なんだよこれは!?

 

騎士の心臓は壊れたようにリズムを打ち、呼吸すらままならない。胃がきりきりと痛む。脳髄をかき回す頭痛。視界を揺さぶる眩暈。おぞましい吐き気。

見えざる殺気は殺人的圧迫感となって騎士という存在の全てを締め上げ、押しつぶす。ともすれば圧殺されるような殺気に、騎士は全身を晒されていた。

 

「うっ、あああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

狂死するほどの苦痛の中、全ての気合を叫びにこめて解き放つ。

耐えるために。生き延びるために。ここで気を失えば、全てが終わるのだ。

 

「あぁぁぁぁぁっ……っハア、ハア、ハア…ッ!」

 

そしてようやく、騎士は殺人的圧迫感から解放された。殺気に耐え切った騎士は、濡れ鼠となってゼェゼェと荒い息をつく。

 

なんだったんだ、今のは…?

 

「へぇ。今のを喰らって生きてるなんて根性あるじゃん」

 

それは音となった悪意だった。

どこまでも澄んだ声にのせられた、極上の悪意。

思わず振り向いた先、開け放たれた窓から降り注ぐ月光の中に、紫銀の絶対悪がいた。

 

「ハァイ。いい月夜ね♪」

 

【挿絵表示】

 




日常シーンはこれにて終了。次回からやっとバトルに入れます。
性悪系出オチヒロインとキレやすい10代の対決は気分次第で投稿しますのでしばしお待ちください。
ちなみに作者は高所恐怖症なので屋上で飯を食える人達とかマヂ尊敬します。
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