愛しの御伽騎士とプールデートに来たドロシー。この機会にR18チックにイチャつくはずが、お邪魔虫共に邪魔され上手くいかない。特にやさぐれ金髪ビッチはここぞとばかりに騎士とイチャつきだす始末(ドロシー視点)! 「野郎許しちゃおけねえ!」かくして騎士とのディナーを賭けた水泳対決で白黒つけるべく、ドロシーは鬼教官ズによる地獄のトレーニングに挑むのだった……。
(以上のあらすじは全てドロシー視点ですので、一部実際とは異なる箇所もごさいます)
《すーぱーりぞーとパラオアンズ》
大日本帝国時代のパラオをテーマにした、神原市有数の色物スポットもといプール施設である。
その屋内プールエリア。ガラス張りの天井から降り注ぐ夏の日差しの下、ウォータースライダーの真横に戦艦の模型がどかっと鎮座していたり、鮮やかな南国の植物の陰にレプリカしゃれこうべが転がっていたりするカオス空間で、御伽騎士によるジャンヌの水泳指導が始まろうとしていた……のだが。
「じゃ、じゃあ……やるか」
「はい……」
……ぎこちない。
というか硬い。何がって騎士の表情が。
指導相手を決めるじゃんけんで負けたドロシーは、不満げにブーブー言いながら凛花と安美に引きずられるように連れていかれたので、騎士とジャンヌは青く煌めくプールの真ん中で二人きり。
泳げない彼女のために指導役を買って出たものの、こうして面と向かっていると……、
(ヤバイ。これめっちゃ緊張するッ……!?)
落 ち 着 か ね え。
向かい合う少女の、儚げな聖女のような美貌と濡れた肢体。水を吸ってしっとりとした金の髪から水の滴が艶やかな柔肌に滴り、つぅ……と白のスクール水着に包まれた形の良い胸元に流れ落ちる。そんな姿が何とも言えない色気を出していて――要は、童貞には刺激が強すぎるのである。
「……ナイトさん? あの、なにやら表情が硬いですよ?」
強張った騎士の顏に、ジャンヌも怪訝気に翡翠色の瞳を向ける。
「おっ、おう気にすんなっ……。ちょっと気合が入りすぎてただけだっ! さ、さあ始めるじょ!」
うん、もうガッチガチである。
だがそれも無理もないだろう。何せ目の前の少女は人ならざる
それが今や白のスクール水着という、マニアック最終兵器というべき衣装に身を包んでいるのだから目に毒どころかもはや凶器。童貞の理性とかなんとかをガリガリと削っていく。
けどここは耐えるのだ。耐えねばならぬ。そもそもジャンヌを元気づけるために今日のプール遊びを企画したのだ。当初の思惑とは違ったが、無気力状態だったジャンヌが今やドロシーへの対抗心で僅かながらも積極性を見せている。何はともあれ今の状況は決して悪くは無いはずだ。上手くすれば彼女の心を立ち直らせるきっかけになるかもしれない。
なのに、俺が美少女と向かい合う緊張で碌に指導できませんでしたとか男以前に童貞としても情けなさすぎる。頑張れ俺。負けるな童貞。ここが男の見せ所だ!
「……よしっ。じゃ、じゃあまずはバタ足の練習だ。俺の手を握って水に浮いてみろ」
「は、はい……」
騎士が差し出した両手。まだ溺れた時の恐怖が残っているのだろう。ジャンヌは、やや不安げな面持ちで手を伸ばし、それを握る。
(うおっ、やややや柔らけぃ!?)
「? なんでビクッとするんですか……?」
「ななんでもねえやい!」
絡まる少女の指先。その細さと柔らかさに思わずドキッとしつつも何とかごまかす。
そして、二人きりの水泳教室が始まった。
「(落ち着け落ち着け心頭滅却深呼吸ッ。みんなでつくろう平常心ッ。……よし、ちょっとは落ち着いてきた)まずはそのまま力を抜いて、足を離して……そうだ。水面に平行になるように浮いてくれ」
「こう…ですか」
可憐だが陰のある美貌に僅かな緊張を浮かべ、ジャンヌは水の中でふわりと浮き上がる。青い水面に水平に、ゆらゆらと揺れる華奢な体。
「いいぞ。次はそのまま足を動かしてみろ」
「は、はい……きゃっ!?」
「おっと」
ジャンヌが思ったより大きく足を動かしたことで、バランスが崩れる。
見開かれる翡翠の瞳。蕾のような唇から小さな悲鳴が漏れて。危うく沈みそうになる体を、騎士は咄嗟に抱き抱えた。
「ふぅ……危なかったぁ」
「あ、ありがとう……ございます。……あの……ナイトさん」
「ん? 何だ?」
どこか言いずらそうな声に目を向けると、腕の中で身を固くしているジャンヌと目が合う。その白い頬が、ほんのり赤く染まっている。
「あの、そろそろ……放してもらえませんか?」
「え――うおっ!? すッ、すまんッ!」
恥じらう声。騎士は慌てて密着していた体を離すものの、胸板で感じた少女の柔らかさと、そして熱に、頬が火照り鼓動がバクバクと跳ね回る。
「わ、悪い。咄嗟の事だったから……」
「い、いえ……もとは私がバランスを崩したのがいけないので……」
「いや俺の方が……」
「いえ私の方こそ……」
「「…………」」
気まずげに黙り込む、二人。
ぎこちない沈黙の中、水音だけが流れて、騎士の火照った頬を涼やかな風が少しは落ち着けとばかりに撫でていく。
「……練習、続けるか」
「……はい」
ぎこちなく、なるべくジャンヌの肢体を意識しないようにして騎士は再び手を握り、二人きりの水泳教室を続けることにしたのだった。
◇◇◇
一方その頃――
「(キュピーン!)はっ!? なんか金髪の身に羨まけしからん事が起こっている気がするわ!」
騎士達から引き離され遠く離れたプールサイドにいた、黒紫のビキニを纏う妖艶な美少女――ドロシー。
その女の感が、愛しい男と金髪お邪魔虫のラッキースケベをキャッチしていた。
「さては抜け駆けしてイチャつく気ね! このままじゃわたしのナイトがやさぐれビッチに汚されちゃう!」
すわ大変だ。一刻も早くNTRフラグをへし折りに行かねば!
そうと決まれば悪は急げ。緋の瞳に決意を宿し、紫銀の髪を靡かせて、いざ恋する乙女は彼の下へ――ッ
「今行くわナイト! 待っててね――ぐえっ!?」
どっこい力強く駆けだそうとした瞬間、横から素早く伸びてきた細腕にヘッドロックをかけられ、ドロシーは潰れたカエルの様な声を上げた。
「ど・こ・へ・行こうというのだ妹よ?」
「……練習をほっぽり出して男の所へ行こうとは良い度胸だな~。あぁん?」
そんなドロシーに掛けられる、対照的な二つの女声。
一つは凛と澄んだ声。今まさにドロシーにヘッドロックをかけている、青みががった艶やかな黒髪をポニーテールにした碧眼の少女――雨宮凛花のものだ。
そしてもう一つの、儚げだが院隠滅滅とした声は――
「……喜べウジ虫。そんな貴様にはハートマン軍曹も裸足で逃げ出す地獄の練習メニューをプレゼントしてやる~。終わる頃には貴様は立派な微笑みデブだ~」
膝まで届く黒髪に血の気の失せた肌。おまけに髪の隙間から覗く三白眼というオバケめいたアトモスフィアを感じさせる幼げな少女――万馬殿安美である。
ちなみに凛花はライトブルーのビキニ姿であるのに対して、安美は何故か黒いセパレートタイプの水着の上に大日本帝国の軍服を羽織っていた。
「ぐぎぎ……離しなさいよぉー。わたしはナイトにつく悪い虫を一匹残らず駆逐しなくちゃいけないんだからー!」
細首をガッチリ抱え込まれながらもジタバタと暴れるドロシー。だがもちろん二人の鬼教官が放しはしない。
「そうかなるほどそれは立派な心掛けだな。だが私はそんなお前に水泳を教える事を友と約束したのだ。故にお前が泳げるようになるまで、出歩く事は罷りならん!」
「……分かったのなら返事をしろ~。ただし貴様に許された返事は『はい』か『イエス』だけだ~」
かくも厳しく無慈悲な二人によって、哀れドロシーは恋する乙女の想いも空しくプールサイドの冷たい床の上に正座させられたのだった。
「うぅぅぅ……いいわよ。じゃあさっさと泳げるようになって、練習を終わらせてからナイトの所へ行くわ! それなら文句はないでしょう?」
ぶーたれつつも、すぐに立ち直りそう宣言するドロシー。
その姿に、凛花は「ほぅ……」と以外気な声を漏らした。
今までの妹なら、自分がやりたくない事は決して行おうとせず、きっといつまでもごねて逆らい従おうとしなかったはずだ。それが今……
「さあ、さっさとその練習とやらを始めなさいよ。すぐに終わらせてやるんだから! ――……って、なんで笑ってるのよお?」
おもわず、笑みが零れていた。
妹が見せた小さな成長。それが姉として嬉しくもあり、微笑ましくも思う、そんな笑みが。
「いや、何でもない……。――さあ始めるぞ妹よ。ナイトのために覚悟を決めろ! いいか。大切なのはこのハードなトレーニングメニューを続けられるかどうかだ」
「やってやるわー!」
頼もしく答える妹の姿に更に心の中で笑みを深めて、凛花は告げた。
ドロシーのカナヅチを克服するための、その方法をッ――
「ならまずは腕立て伏せ100回、上体起こし100回、スクワット100回、そしてランニング10キロだ!」
「水泳の練習じゃなかったっけ!?」
イエス! これぞ巷で最強のパワーを得られると噂のトレーニングメニュー!
自信満々に発表した練習法に、だがドロシーは愕然とツッコむ。
そんな妹に、凛花は大きなお胸様をドドンと張って、
「何事もまず基礎体力からだ! それを鍛えれば、きっと泳ぎにも役立つ! ……はず!」
「はず!?」
続いて隣の安美も小さなお胸ちゃんをペッタンと張って、
「……陸上を制する者は水の中も自在に動ける! ……と思うよ」
「思う!?」
何故だ。二人は自信満々のはずなのに不安しか感じない。
「……ねえ、何でそんなに発言がぱやぱやなの? というかあなたたちはその練習法で本当に泳げるようになったわけ?」
「いや、練習なんてしていないぞ」
「――え?」
恐る恐る聞いてみると、返ってきたのはまさかの問題発言。愕然とするドロシーの前で、凛花と安美はあろうことか揃って首を傾げやがった。
「そもそも私は練習するまでも無く最初から泳げたからな。どうすれば人が泳げるようになるかなど皆目わからん。むしろ泳ぐのに練習など必要なのか?」
「……まったくですね凛花さん。そして私も最初から泳げた派。そもそも人類は進化前は水生生物。泳ぐも潜るも余裕綽々でした。そして昔出来たことが今できないはずは無いのだウジ虫~」
だ め だ こ い つ ら 。
「ナイトーー! 今すぐ教官役を代わってー! やっぱりあなたじゃないと駄目なのーー!」
プールに響く心の底からのSОS。
切実すぎる悲鳴を上げ二人のブラック教官から逃げ出そうとする哀れな少女は、だがすぐさま両側から羽交い絞めにされる。
「ええい何処へ行く! さっそくトレーニングだ。まずはランニング10キロから!」
「……安心しろウジ虫。頭がハゲるまで頑張れば水の上をも走れるようになるぞ~」
「わたしは水の中を泳ぎたいんだけどーーーーーー!? 」
かくして地獄のトレーニングが始まり、ドロシーは凛花の松岡〇造的励ましと安美の海兵隊チックな罵声を浴びながら、屋内プールを涙目で「ひ~ん(泣)」と走らされる事となったのだった。
ちなみに、後にその姿を目撃した騎士は
「……何やってんだアイツら?」
軽く引いたという。合掌。
◇◇◇
――なんで、この人は私のためにこうしているんだろう?
青いプールにぱしゃぱしゃと響く、細い足が水を叩く音。
向かい合って手と手をつなぎ、騎士とバタ足の練習する中で、ジャンヌは戸惑っていた。
「お、だいぶ上手くなったな。バランスも安定してきたし、やっぱり元から運動神経いいんだな」
力強く私を支えてくれる、彼の腕。
重ねた掌から伝わる、彼の熱。
水の中で戸惑い揺れる私を見守る、彼の瞳。
「これならそろそろクロールの練習もできそうだな。いいぞジャンヌ」
分からない。分からない。
なんで、この人はそんなに嬉しそうにしているのか。
私は自分のために頑張っているだけなのに。
彼の恋人を打ち負かすためにやっているというのに……。
なんで、笑顔を向けてくれるの?
私なんて、あなたにとって価値の無いもののはずなのに。
「なんで……ですか」
胸の奥が、もやもやする。
戸惑いと、彼の笑顔を見ていると湧き上がる、気恥ずかしくもむず痒い何かに。
「ん? 何か言ったか?」
「なんでも……ありませんよ」
問いかけてくる騎士から逃げるように目を逸らし、ジャンヌは口元を水面に沈めた。
何を考えているのでしょうね。私は……。
ぶくぶくぶく。優しく澄んだ水の中、小さな少女の小さな呟きは、泡となって消えていった。
◇◇◇
共に手を繋ぎ、ぎこちなくもふれあう騎士とジャンヌ。
悲鳴と励ましと罵声を響かせ、屋内プール中を走り回るドロシーと凛花と安美。
――そんな彼らの姿を、静かに見つめる瞳が在った。
「ふふっ……。青春ですねえ」
呟く声は優しげだが老いていて、しかし弱弱しさや衰えは一切無く。
その瞳は穏やかに、鷹の如き鋭さを以って彼らを捉える。
「若人達の触れ合いと言うものは、年を取って見てみれば中々に面白いもの。……なるほど。今はもう失った若さの輝きとは、これほどに眩しいものなのでございますねえ」
微笑まし気に語るその声に、この場の誰も気づかない。いや、それどころか『彼女』の存在に気付く事すらも。
陽光の下、屋内プール全体を見渡せる高台の天辺に、彼女はいる。堂々と、隠れも潜みもせず、ただどこまでも自然にその姿をさらしている。
だが、誰もその存在を捉えることができないのだ。騎士にも、凛花にも、ドロシーにも、この場全員の視界に一度は入りながら、誰もそこに人がいるとは認識できない。さながら木石の如く、ごく自然に風景の中に気配ごと溶け込んでいるのだ。トリックではない。魔術でもない。ただただ超絶の気配遮断と隠密術によって、彼女はこの場の誰の目にも捉えられず、この場全てをその瞳で捉えていた。
「さて、いつまでも眺めていたいものですが……――来ましたか」
瞬間、空気が変わった。
陽光に熱された大気が冷え、張り詰めていくような感覚。
肌が泡立ち、生存本能が警鐘を鳴らす。
それは平穏を掻き消し、打ち壊す物。戦の始まりを告げる物。
これは、そう――殺気だ。
獲物を狙い、害さんとする意思が、平穏であるはずのこの場に現れたのを感じる。
殴ってやる蹴ってやる切り裂いてやろう傷つけそして――奪ってやる。
「これはこれは……なんとも品の無い、無粋な殺気ですこと。ですが――」
いやはやと溜息をついたその唇が、笑みを浮かべる。
己が主の命を果たさんとする、忠実なる従僕の笑みを。
「歌劇の盛り上げ役としては、悪くありません。せいぜい踊ってくださいませ。――我がいと醜くも、哀れなる旦那様を楽しませるために」
◇◇◇
それは、突然の事だった。
ゾクッ――肌が凍り付くかのような悪寒がした瞬間、白い霧のような物が何処からともなく溢れ出た。
それは瞬く間に広がり、屋内プール場を覆い尽くす。遊具も、観葉植物も、何もかもをのみ込んで、外界から覆い隠すがごとく。白に染まる景色の中、視界はほぼ限られて、おそらく10メートルも無い。
「ッ!? なんだ……これ――」
霧に覆い尽くされた周囲を見回し、騎士がドロシーたちの姿を確認しようとしたその時、体の力が抜け強烈な目眩に襲われた。
「ナイトさん!」
消失する平衡感覚。抜け落ちる力。
ふらりと崩れ落ちそうになるその体を、ジャンヌが咄嗟に支える。かろうじて体勢を保てたものの、霧を吸い込んだ頭の奥がぼうっとして、体が熱い。これは……。この霧は……。
「酒の、臭い……?」
「オゥイッエエエエエエエエエエエエエエエスッ!!」
突然の異常事態に戸惑い緊張する騎士とジャンヌ。そんな二人をあざ笑うかのごとく、陽気な男声が鳴り響いた。
「ジャパニーズサーガ『古事記』において、スサノオがヤマタノオロチを眠らせるために用いた神酒《ヤシオリ》。これはそれを霧状にしたものデースよ」
高らかなバリトンでそう語り、霧の向こうから何者かが現れる。
それはいかなる妖しの術を使っているのか、磨き抜かれた革靴で水面に悠然と立ち、警戒する二人に向かって慇懃な仕草で一礼した。
「ハッローウお二人とも。ワタクシはアントニオ。《
二人の前に現れたその男は、まさに奇人だった。
頭にはシルクハット。纏うはショッキングピンクのスーツ。
ラテン系だろう浅黒く掘りの深い顔立ちの中、横に長く伸びる巻き髭を片手で撫でている。
まるでコメディアンのような装いだが、生憎と笑うことなどできなかった。対峙するだけで全身に冷たく突き刺さる、この殺気を前にしては。
襲撃者、アントニオは告げる。
騎士達の平穏を壊し、彼らの前に現れた目的を。
「では、突然デェスが、――アナタを頂戴しますよ。マリアネット」
不安げに騎士に身を寄せるジャンヌ。その小さな姿を、獲物を狙うハイエナの如く爛々と光る、その瞳で捕らえながら。
お久しぶりの最新話。
久しぶり過ぎて作者も内容を忘れかけていましたけど投稿完了です。
ようやくバトルパートまで行けたー長かったー。
次回は久方ぶりの本格的なバトルです。
みんな頑張るよ。約一名ポッコボッコにする予定だけど……くっくっく。
それが誰になるかは次回をお楽しみに。でわ