IS ~クロノス~   作:チャイナドレス先輩

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~前回のあらすじ~
今回は、天才な俺、暁人があらすじのお送りするよ。
紆余曲折あり、1年1組のクラス代表になった一夏。
一夏はクラス代表を決める戦いの中や一夏を祝うパーティー中、不思議な体験をした。
あの自分の中に誰かがいる感覚は?
零れるはずだったパフェが無事だった理由とは?

そして、始まりました今回はIS学園の日常編。
どんなことが起きるかなー、楽しみだなー!!
え?テンション高いって?

……テンション高くないと、やってられないの。


12話:IS学園の日常①

【サビ落とし】

2022年4月5日(火)

IS学園

第2アリーナ

 

IS学園に入学して2日目。

日中は普通に授業を受けたり、本音さんと遊だりして夕飯を食べ終わった俺は訓練の為に第2アリーナに足を運んだ。

お嬢様は俺がお願いした通り、深夜のアリーナ特別使用許可を取っていただいたのでありがたく使わせてもらう。

俺は打鉄(相棒)を纏った状態で、近接ブレード『(あおい)』を両手で握り素振りをかれこれ1時間続けていた。

 

「ふっ、ふっ、ふっ」

 

本来であればISの初心者である俺の訓練には織斑先生やお嬢様といった訓練をしてくれる人、あるいは見てくれる人が必要だ。

しかし、織斑先生は今頃一夏の方を訓練をしているので、俺の方には来れない。

お嬢様はIS学園生徒会長兼対暗部用暗部の長という仕事柄多忙の為、夜遅くまで仕事が入っていることもありお嬢様も俺の訓練を見ることはできない。

他の先生方も入学式直後で仕事が多くなり、残業も発生しているのでお嬢様と同様に俺の訓練を見れない。

織斑先生やお嬢様から俺たちが入学したてのこの1週間はいつもより仕事が多かったと、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ふっ、ふっ、ふっ」

 

そんなことを思い出しつつ俺は訓練の許可をいただいてきたお嬢様と危ないことをしないという約束をしてISを纏った状態に慣れる訓練をずっとしている。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ので、続いて右手のみでブレードを握り素振りをする。

 

「ふっ、ふっ、ふっ」

 

本当であれば飛行訓練もやりたいところであるが、まだ出来ない。

やらないのではなく、出来ないのだ。

お嬢様は訓練を見に来れないと言っていたが、あの人の性格上仕事がひと段落ついた時などに様子を見に来るだろう。

その際に慣れた様子でISを操作しているのを見られた際に、必要以上に怪しまれないようにするためという理由もあるが、一番の理由はまだ身体の感覚が完全ではないことだ。

日常生活でも、ふとした拍子に転ぶようなバランス感覚が悪い状態で、ISで飛んでみようものなら訓練中に事故がおこる可能性が考えられる。

だから、今は安全を考えてただただ素振りだけをおこなう。

 

「ふっ、ふっ……フッー」

 

長時間素振りをしていたので、いったん休憩にする。

ISを解除して、アリーナの地面に横になる。

 

「………」

 

そして、自分の右腕を顔の前に持っていき、その右腕に注目する。

何度も右手を開いたり閉じたりして感覚を確かめる。

 

「チッ」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……おぇ」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()

いくらISの操縦に関しては天才的だからと言って、バランス感覚や動きのイメージが完全ではない状態でのISの操縦は危険すぎる。

 

「ははっ、早く慣れないとな」

 

12年の間ずっと、右腕や右目が無いことが当たり前だったのだから――

 

「分かってる、無理はしないよ、だけどな」

 

あの時のことを……自身の時間間隔で約2年前の体たらくを思い出しつつ自身の相棒に話す。

 

「10年の間実戦も訓練もしてなくて、あれだけサビ付いたんだ」

 

腕がサビついていなければ、俺とあいつの結末があんな最後にならなかった可能性があったんだ……。

 

「はやくサビを落とさなとな……ああ、もう、わかっているから!!無理をしないから落ち着けって!!」

 

俺は相棒に諭されながら(はや)る気持ちを抑えて、身体の感覚を完全なものにする訓練を再開する。

 

 

 

 

 

【イギリス政府に意見書を送ろう】

2022年4月15日(金)

IS学園

1年1組の教室

 

クラス代表就任パーティーを開催してから2日が経った。

いつも通りに授業を受けて、今日の授業も無事に終わった放課後。

俺と箒と、あと教室に残っている少数の生徒は珍しい光景を見ていた。

 

「セシリア、これじゃあいつらは聞く耳持たない。もうちょっとここの部分とかを強めに書いていいと思うよ?」

「わかりましたわ……こんな感じでしょうか?」

「そうそう、良い感じ」

「「………」」

 

セシリアは自分の席のパソコンでカタカタと何か文章を作成していて、そんなセシリアに暁人が助言をしていたのだ。

因みに、のほほんさんは今日は用事があるなどと言って終礼が終わった後すぐに教室から出てどこかに行ってしまった。

 

「……セシリアと暁人は珍しく一緒に何をやってるんだ?」

「本当に珍しい組み合わせと話の内容で残っているクラスのみんながお前たちに注目しているぞ」

「ああ、一夏さんと箒さん」

「ん?一夏と箒……さんか」

 

セシリアとはクラス代表を競い合った中という事でお互いに名前で呼び合うようになった。

気安く彼女と暁人に声を掛けながら、俺と箒はセシリアの席に近づく。

 

「少しイギリス政府にIS武装に関する意見書のようなものを書いてましたわ」

「俺は、セシリアが書いた文章の添削の手伝い」

 

IS武装に関する意見書?

セシリアはなんでまたそんなものを書いているんだろうか?

そして、なんで暁人は平然とそれの手伝いとかしているんだ?

 

「政府に意見書をだすだと?……やはり凄いものなのだな、代表候補生というものは」

「そんな大したものではございませんわ……先日の試合での所感について書いておりまして、そのついでにわたくしの意見を書いているだけですわ」

「その割にはもっと強く書けとか言ってなかったか?」

「ハッ」

 

俺がそう言うと、暁人に鼻で笑われる。

 

「ただでさえも傲慢な政府なんだ……政府(あいつら)には胸ぐらを掴みながら言うことを聞かせるくらいでちょうどいいんだよ」

「ああ、それは暁人の言う通りだと思う。それぐらいの気持ちで政府(やつら)とぶつかった方が良いだろう」

「暁人と箒は政府に何か恨みとかあるのか?」

「「もちろんあるさ」」

「お……おう」

 

暁人と箒の政府への恨みが凄まじい……

箒は束さん関係で政府に一家離散の状態にさせられているという話は以前に聞いていたが、暁人は一体何なんだろうか?

暁人が入学してから2週間が経つが、現在でも暁人の話がニュースにならないことから考えると、暁人は何かしらの問題を抱えているのだろうと察せられた。

……そんな深い闇を抱えているのかというくらい毎日のほほんさんとセシリア、時々俺や箒と一緒に遊んでいるけどな。

とにかく、俺は政府の話題から話をそらすためにセシリアに話しかける。

 

「ゴホン……それで具体的にはどんな内容を書いているんだ?」

「え、ええ、先日の試合で色々と『ブルー・ティアーズ』の武装に関しての欠点が強く浮き彫りになりましたからね。特にミサイル型のビットに関しては、もう撤廃の方向でよいのではなどと伝えるつもりですわ」

「ぶっちゃけ、継続してミサイル型搭載するにしてもミサイルも発射筒も大きくて機動性の邪魔してない?とか、実験機とはいえビット操作中に本体が動けなくなるシステム組んでるの正気かよ?とか他にも色々と言いたいことあるんだよね」

「「「………」」」

 

お、お前……他の国の機体だぞ?

そんな剛速球ド真ん中ストレートなことを言っていいのか?

 

「……このように、実際に戦い勝利し、()()()()()()()ISに対して物怖(ものお)じしない率直な意見を仰っていただけるのはありがたい事ですので、有効活用しておりますわ」

「そんなw褒めんなよwww」

「……このように、他の国の事情もあることを一切考慮せず、あけすけに言うだけ言っておりますが仰っていることは尤もですので、不本意ではありますが有効活用しておりますわ」

「何で言い直した?何で言い直してわざわざ俺の株を下げたの?」

「さあ?なんででしょうね?ご自身でお考えになられては?」

「「………」」

 

2人がお互いに向かい合い雰囲気が険しくなったことを理解した俺と箒、そして周りの生徒たち。

周りの生徒たちはそそくさと教室を後にした。

そして、俺と箒は逃げ遅れた。

 

「そういえば、これからISの訓練を予定していたな……一緒にどうだセシリア?」

「そうですわね……折角ですし、そのお誘いを受けますわ」

「そうか、それはよかった。よし、今から第1アリーナだ……いくぞ一夏」

「はあ!?俺もなのか!?」

「ええ、そうですわ。なんといっても一夏さんはクラス代表なのですから、こういった訓練には積極的に参加するべきですわ」

「セシリアまで!?」

 

何故か知らない内に2人の訓練(ケンカ)に俺も強制参加させられていた。

く、くそッ!!こうなったら――

 

「ほ、箒もいっしょにどうかなぁ!?」

「わ、私まで巻き込むな一夏!?そ、それに、私にはまだ訓練機の使用許可がおりていなくてISを使った訓練に参加ができない……」

「そ、そんな……」

 

箒も一緒に参加させて、理不尽を分散させようとする俺の策が……

 

「ほら、早くいくぞ?」

 

ガシッと右脇を暁人に押さえられる。

……正直、箒に似た顔の暁人に間近に近づかれて少しドキリとしたが、脇を抑えられた目的をすぐに理解してそんなものはすぐになくなった。

 

「ええ、時間は限られておりますの……早く行きますわよ一夏さん」

 

続いてセシリアに左脇を抑えられる。

……女の子だから色々と柔らかい物が当たっているのは分かるが、そんな事を気にしている場合じゃ無い。

 

「え、え?ちょっと……」

「一夏……達者でな……」

 

俺は暁人とセシリアに両脇を抱えられて、そのまま第1アリーナまで連行され訓練に付き合わされた。

おかげで回避と防御の技量が向上したが納得いかない感情を抱えたまま一日が終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【兄さん?】

2022年4月18日(月)

IS学園

1年1組の教室

 

「くろろん!!」

「ほーちゃん!!」

 

いつもの教室、いつもの放課後、私たちはもはや見慣れた公開を目の当たりにしていた。

いつも通り、暁人と本音の二人が仲良く別れを惜しみながら抱き合っているのだ。

 

(これで二人が付き合っていないというのだから、恐ろしいものだな……)

 

もしこの二人が実際に付き合ったら、これ以上どういう風なお付き合いをするのか……

まあ、もしそうなったら確実に二人の姿を見てブラックコーヒーを飲む人が増えるだろうということは分かる。

 

「今日も生徒会の方に行かなきゃいけないから、今日はこれでお別れだね!」

「うん!特にほーちゃんは生徒会で仕事をしていないけど、ほーちゃんがいるだけで周りが明るくなるからね!お仕事頑張ってきてね!」

「ありがとう、お仕事頑張ってくるね!!」

「……何だこの新婚夫婦みたいな会話は?」

「家に残って家事をする主夫と、出勤する妻のような会話だよな」

「しかし本音さんは仕事をしていると言えるのでしょうか?」

 

二人の姿を見ていた私と一夏、セシリアの三人はそれぞれ思ったことを言いあっていた。

そんなことをしていたら、本音が手を振りながら教室を後にした。

 

「お待たせ―」

「遅いですわよ暁人さん?」

 

本音を見送った暁人は、普通のテンションに戻りつつ私たちに近づいてきた。

専用機持ち三人は今日も今日とてISの訓練のようで、暁人は他の二人を待たせていた状況だ。

 

「………」

 

よくクラスで話すこの4人の中で、私だけ専用機を持っていないという事に対して疎外感がある。

一夏とIS訓練もしてもっと一緒にいたいし、暁人とは剣士として戦いたい気持ちがある。

もちろん、私は学園に訓練機の貸し出しの申請書を提出して近い内に一夏たちとISの訓練ができるだろう。

しかし、それでも一夏たちといつでも一緒にISの訓練ができるよいう訳ではない。

……正直に言えば、今すぐにでも専用機が欲しい。

――そして、私にはすぐにでも専用機を入手する手段があるが、この手段は卑怯だ。

 

(それに、あんな事をした私にそんな資格なんて……)

 

「……箒?」

 

どうやら、私は考え事に集中をしてしまっていたらしい。

その所為で一夏が心配そうに私のことを見てくる。

 

「いや……なに、暁人と本音の仲睦まじい姿を見て少し考え事をしていた」

「箒……さん――ああ、俺とほーちゃんの仲か?フフン、羨ましいだろ?」

「………」

「リアクションないのはそれはそれで傷つくんだけど?」

 

私は暁人に気になっていることを聞いてみることにした。

 

「……いつも私のことを呼び辛そうに『さん』付けで呼んでいるな?」

「――ッ」

 

私がそう聞くと、暁人は目を大きく開き驚いた顔をする。

口を開くが言葉に詰まったようで、次の言葉が出てこない様子だった。

……正直、私たち姉妹に顔が似ているから、そんな顔でそんな表情をされると不思議な気分になる。

 

(そういえば、姉さんの驚いた顔なんて見たことがないな)

 

そんなことを思い出していると、暁人はやっと言葉にできた内容を口にし始めた。

 

「いやー、ほら俺達って顔似てるでしょ?」

「……そうだな」

「それで妙な親近感があったのかな?その所為で箒さんの呼び方がおかしくなっていたんだと思う」

「………」

 

血の繋がりはないはずなのに顔が似ていることで、妙な感覚を覚えていたのは私も同じだった。

 

(私の場合は、自分を見ているような……姉さんを見ているような感じであったが……)

 

とにかく、暁人の話には理解できる部分もあるので、そのまま話を聞く。

 

「だから、その、こういう風に似た顔同士の二人が出会ったのも何かの縁だと思うし……もっと砕けた感じで接したいなーなんて?」

「……つまり、お前は私ともっと仲良くなりたいということでいいか?」

「つまり、そういうことだね」

「――はぁ」

 

私たち姉妹――特に姉さんと似た部分があったから、暁人に対して身構えていた部分があったのだが、そんなことを考えるのが馬鹿らしくなってきた。

 

「……別に、私は気にしないから、いいぞ。これから、よろしく」

「そうか~、それはよかったよ~」

「う、うむ」

 

暁人はそう言いながら、ニヘラと笑った。

急に心理的な距離感が近くなって、私はまだ困惑しているのに暁人は()()()()()()()()()()()()()()()()面を食らってしまう。

 

(そういった、緩くなった表情は本当に姉さんにそっくりだ)

 

その笑顔を見て、心の中で何かが軽くなるような気がした。

そう、姉さんとは、もう6年は顔を合わせていないが、昔一緒に遊んだ記憶を思い出す。

本当に暁人と姉さんは似ていると思う。

 

世界が変わったあの『事件』から早十年。

姉さんがISを世界に知らしめてから、私たちの家族は重要人物保護プログラムの下、政府により一家離散の状態にさせられている。

ISを作るだけ作って逃げて行方知れずになった姉さんのことは嫌いだし、篠ノ之束の妹だからと言って執拗に監視と聴取を行った政府はもっと嫌いだ。

家族と離れ、一夏と会えなくなってからいい思い出なんて全くない。

 

――寂しい。

――ただただ、寂しい数年間だった。

 

(ふっ、ダメだな……)

 

心の中で苦笑する。

先ほども、こうやってうじうじと考えていて一夏に心配をされたというのに。

そんなこんな考えていると、一夏とセシリアが何かを話し始めたのが見えた。

 

「まあ、あなた方の見た目だけはまるで双子のようですからね」

「ん?この場合、どっちが兄でどっちか姉になるんだ?」

「……そこ、気にする所でしょうか?」

 

私たちが二人だけで話をしていたので、どうやら蚊帳の外の二人は私たちのやり取りを好きな様に言っていた。

 

「兄……お兄ちゃんか、それもいいかもね……よし、それじゃあ、これからは兄として接してもいいぞ」

「いや、親しくしてもいいとは言ったが、その関係性は突然すぎるだろう――」

 

まったく、何を言い出すんだなど思ったが暁人は私の話を聞かないまま、まるで、本当の妹に向けるような柔らかく暖かい笑顔を私に向けた。

 

「これからよろしくね、箒ちゃん」

「ッ――」

 

暁人のその笑顔を見て、言葉を聞いた瞬間――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

箒の脳内に溢れ出した――

 

 

 

 

 

()()()()()記憶。

 

 

 

 

 

 

『グスッ』

 

暗い部屋の中で、幼い頃の私が座り込んで泣いていた。

あれは、そう……小さい頃、ついかっとなって一夏のことを叩いてしまったんだ。

それで一夏と喧嘩になってしまい……逃げるように部屋に入り、そして座り込んで泣いていたんだ。

 

『グスッ』

『箒ちゃーん?入るよー』

 

暫くの間、泣き続けていると私の部屋に誰かが入って来る。

 

『兄さん……』

 

それは、()()()()()()()()だった。

 

『隣座るよ?』

『……うん』

『よっこいせ……また、一夏と喧嘩したって?』

『……一夏が悪いんだ』

 

私は意地になって、ついそんなことを言ってしまった。

兄さんはそんな私を苦笑交じり頷いてくれた。

 

『うんうん。でも箒ちゃん、それでも一夏のことを叩いたのはダメだよ?』

『……一夏は』

『うん?』

『一夏は私の事嫌いになっちゃったかな?』

『大丈夫だよ。一夏はちゃんと謝れば許してもらえるよ』

 

兄さんはそう言いつつ、立ち上がり私に手を差し出してきた。

 

『だから、ほら……一緒に謝りに行こう?』

『……うん』

 

私は兄さんの手を取って立ち上がった。

私を立ち上がらせた兄さんは手をつないだままの状態で私を引っ張り、一夏の所まで行って一緒に謝ってくれた。

 

『兄さん……いつも、その、ごめんなさい』

 

一夏の家から自分の家に帰る途中で、私は兄さんに謝った。

兄さんはまだ私の手をつないで前を歩いている。

 

『本当にもう、まったくだよ』

『うぅ……』

 

兄さんは笑いながらそう言ってくれたが、しかし兄さんは少なくとも迷惑に思っているのかな?

兄さんに嫌われているのではと心配になってしまった。

 

『だけど、俺はそんな事で箒ちゃんのこと嫌いになんてならないよ』

『え?』

 

そういう風に考えてしまい、また泣き出しそうになってしまった私の方を見ながら兄さんは続ける。

 

『だって、俺は箒ちゃんのお兄ちゃんだから』

 

そういって、兄さんは私に柔らかく微笑んだ。

 

 

 

 

 

(そうか……)

 

ツーと頬から涙が流れた。

 

(暁人は私の兄だったのだな)

 

 

「ほ、箒?」

「箒ちゃん……?」

「と、突然涙を流してどうされましたか?」

 

箒が静かになって、どれぐらい時間が経っていたのだろうか。

暫くの間、何かを思い出すような、懐かしむような表情をした箒がいきなり涙を流したことに俺たちは驚いていた

 

「グスッ……すまない、心配をかけたな。いや、なに、少し昔を思い出してな」

 

どうやら、俺たちが声をかけたことで、箒の意識が自分の記憶(?)から俺達の方に向いたようだった。

箒が気になることを言ったので、俺はそのことに言及することにした。

 

「昔?」

「ああ……」

 

 

 

 

 

「あの頃は、いつも兄である暁人に迷惑をかけていたと、な」

「「「……は?」」」

 

いきなり、変なことを言いだした箒に俺たちの思考は止まった。

そんなことは知らないとばかりに、箒の口は止まらない。

 

「一夏と喧嘩して、兄さんが仲裁に入っていて――」

「あなた方は、この学園で初めて出会ったのですわよね?」

「ああ、入学式の日が暁人と初めて出会った日になる。箒もそのはずだ……」

「……?それでは、一体、箒さんは何の話をしておりますの?」

「あの頃は楽しかったな……みんなで一緒に道場で稽古をして……」

「すまん、さっぱりだ……」

「ハッ、ハッ、ハッ……」

「暁人さんなんて、恐怖で震えて何も言えない様子ですわね……」

 

いきなりあるはずもないことをさもあったかのように言う箒に対して、暁人はガタガタと身体を震わせていた。

暁人も兄発言などは半分以上冗談のようなものだったと思う。

俺達はそんな二人に対して、なんて声をかけてよいのか迷っていた。

 

(俺も突然、知人や身近な人がこんなことを言い出したら怖くて震えるだろう……)

 

俺はそんなことを思いながら、事態を鎮静化するために、まずは箒に話しかけた。

 

「ほ、箒?そのー、ほら、暁人は兄として接してとは言ったけど、いきなり存在しない記憶を作り出すのはどうかと思うぞ?」

「……?」

 

何を言っているんだお前はという風に首を傾げられた。

それは、こっちが言いたいことなんだけどな?

 

「それにな、ほら、箒には束さんというお姉さんがいるじゃ無いか?」

「ふむ?」

 

そういうと箒は、少し考え込むような様子を暫く見せた後――

ポンと手を叩いて口を開く。

 

「一夏」

「――えっ?」

 

いつも緊張や悩みなどから表情が硬くなっている箒が俺に笑顔を向けてくる。

時々会話の中で見せるような笑みではなく、まるで数年来の悩みが解決したような晴れやかな様子だ。

そのギャップの差の所為なのか、俺は箒の表情から目が離せず心臓がドキドキする。

 

 

 

 

 

「どうやら、私には姉ではなく兄がいた様だ」

「流石にそれは、束さんが泣くぞ?」

 

心臓のドキドキはいつの間にか落ち着いていた。

 

 

 

 

 

手紙

2022年4月19日(火)

IS学園

1年1組の教室

 

「………」

 

放課後の教室で、一人の男子生徒が自分の席でカリカリと何か文章を書いている姿が見られた。

 


 

親愛なる星音へ

 

突然の手紙なんて驚いたよね?

俺の今の状況を伝えたかったり、星音のことが心配になり手紙を書くことにした。

 

さて、俺の近況だが、なんとか元気にやっているよ。

男子なのにISを動かせることが分かりIS学園に入学となったが、俺と同じく男子なのにISを動かした織斑一夏と友達になった。

その織斑一夏と授業を受けたり、イギリスの代表候補生と一緒にバカをやったりして日々を過ごしている。

だから、俺はなんとかIS学園でやってけそうだ。

 

俺の話を書いたけど、星音の方が大丈夫か?

俺と同じで学校が別の所になったと聞いた。

新しい学校で上手くやれているか?

友達はできたか?

何か悩み事ができたら、手紙でもいいから俺に相談をしてくれ。

 

あと、今までのことは気にするな。

あの件に関して、星音が責任を感じる必要はない。

俺も星音に気付かれないようにしていたから、

逆に気付かれていたら意味がないしな。

だから、あの件に関しては俺は星音に隠していたことを謝らない。

その代わりに、星音も謝るな。

 

ごめんな。

本当はもっと色々話したいけど、

検閲も入るだろうからあまり詳しい内容が書けないんだ。

 

だけど、これだけは伝えておきたい。

俺は星音のことは本当の妹の様に思っている。

いつか必ず、お前のことを迎えにいくと約束する。

また一緒に過ごせる日を願う。

 

星音の兄である暁人より

 

追伸

何故か同い年の妹ができました……。


 

「「「………」」」

「………」

 

複数の視線を感じながら妹分であるの星音への手紙を書き終わったので丁寧に封筒に入れる。

そして、視線を向けている奴らに話しかける。

 

「人が手紙を書く姿を見ているって、悪趣味って言うんじゃないか?」

「すまん、珍しくて、つい……」

「正直、暁人さんのイメージとギャップの差があって驚いていましたわ」

「……まあ、積極的に手紙を書くような性分ではないけど、一応離れている妹に書いた手紙だからあんまり見られて気持ちよくはなかったぞ」

「それは悪かったな」

 

二人が言いたいことは自分でも理解できている。

俺は手紙とかは出さない。

基本的に、SNSアプリやメールとかでやり取りをする。

しかし、相手や自分がそういったやり取りができない状態になっているので、仕方なく手紙を書いた次第だ。

 

「そうか、兄さんはマメな所もあるんだな」

「箒ちゃん、ごめん、まだその話を引きずってた?」

「……?何の話だ兄さん?」

「……因みに、箒ちゃんとしては星音――前に話した妹についてだけど、どう思っているの?」

「兄さんと離れ離れになっている妹分」

「うん、君と星音の関係性は?」

「面識がない他人だな」

「うん」

「だけど、兄さんの妹なら私の妹でもあるな」

「???」

「どうした兄さん?私と兄さんは同い年で、相手は一つ年下なのだから年齢的に妹だろう?」

「どうして、面識もない相手のことを妹扱いできるんだ?」

 

俺は箒ちゃんの認識について、本格的に頭を抱える。

先日から『兄さん』と教室でも食堂でも言い始めるものだから、それを聞いた生徒や先生たち……あと新聞部の黛先輩に説明を求められて苦労をした。

何とか、義兄妹の契りを結んだという説明でいったん納得してくれた……のだが、それでも箒ちゃんが存在しない記憶を口に出すので、周りがそれで混乱すると言った状態が発生している。

 

(このままだと不味いな……この二か月弱の間に正しい認識を持ってもらわないと)

 

箒ちゃんに専用機が手に入らないかもしれない――

 

「一夏さん……箒さんの、あれはいったい……」

「ほら、箒も家庭の事情で色々あったから……かなり家族愛に飢えていたんじゃないか?」

「……もう、このレベルですとカウンセリングが必要なのでは?」

 

ヒソヒソと一夏とセシリアは箒ちゃんに聞こえないように話をしているのが聞こえた。

()()()()()()()()()()()()()()と考えなら、俺は箒ちゃんと話を続ける。

 

「それにしても兄さん、何故このタイミングでその妹分の子に手紙を書いたんだ?」

「ああ、それはここ最近は色々あってバタバタしてたからね。こうやって、落ち着いている時間が出来たし……」

 

何より――

 

()()()()()()()()()()()()()()()()

「……?兄さんはおかしなことを言うな?今年からその子と離れ離れになったんだろう?」

「――ッ」

「まるで長い期間手紙を書いていなかったような言い方に聞こえたぞ?」

「……あはは、そうだよな。ごめんごめん、伝える言葉を間違えたよ」

「フフッ、兄さんは抜けているな」

「ああ、そうだな。気を付けるよ、()()()

「……?」

「それじゃあ、俺は手紙を出す為に職員室に向かうよ」

 

俺はそう言って、彼女たちからの返事を聞く前に逃げるようにして教室を後にする。

教室の扉を閉めてから、目を瞑りゆっくりと深呼吸をする。

 

(……みんなといるのが楽しくて、つい気が緩んでしまったか)

 

俺は頭をがりがりと掻いて職員室に向かった。




~次回予告~
暁人&一夏「どうしてこうなった……」
暁人「まあ、箒ちゃんは数年間辛い思いをしたからね」
一夏「それは、お前の方が辛かったと思うが?」
暁人「自分が一番不幸だったとは思わない。みんなそれぞれ辛い過去はある」
一夏「お、おう……そうだよな」
暁人「それに、俺の感覚だと10年以上前の話になるしな」
一夏「そういえばそうだったな。それよりも……次はだな」
暁人「ああ……やっと中華娘をだせる」

次回、第13話:中国から来た転校生
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