ああ、姐さん。
俺にならできるよ……いや、俺にしかできない。
だから、約束するよ。
俺が――
~前回のあらすじ~
今回はあたし凰鈴音があらすじを担当するわ。
まあ、あらすじと言っても、私が登場したぐらいしか話せることはないわね。
……はあ?もっとまじめにやれ?
それは本編でふざけたことして、状況をややこしくした暁人に言われたくないわよ?
その所為で、自分も他の奴も困ったことになったんじゃないの?
2022年4月21日(木)
IS学園
食堂
俺が女の敵(?)疑惑が解消した後すぐに
そして、俺たちはいつも通り午前の授業を受けて、昼休みとなった。お腹を空かして俺は箒、セシリア、暁人のいつもの3人とのほほんさん、あとクラスの女子数人で食堂に向かい……食堂に着いたら何故か鈴が待ち構えていた。
折角なので、鈴とも食事を取ることになったが食堂に配置されているテーブルの大きさ的に10人弱で一つのテーブルで一緒に食事をすることができない。
そのため、俺たちは2つのグループに分かれて各々昼食を取ることになった。俺は箒、セシリアと鈴のグループで一つ、暁人と本音さんやクラスメイト達でもう一つのグループを作り、それぞれのテーブルで食事を始めた。
因みに、俺は日替わり定食、箒はきつねうどん、セシリアは洋食ランチ、鈴はラーメンを注文した。
暁人やのほほんさんなどの別グループの注文したものは遠くてよく確認できなかった。
「それで、鈴はいつ日本に帰って来たんだ?おばさんは元気か?いつ代表候補生になったんだ?」
「質問ばかりしないでよ。アンタこそ、なにIS使ってるのよ。ニュースで見た時びっくりしたじゃない」
食事もある程度食べ終わったところを見計らって、俺は鈴に話しかけた。丸一年ぶりの再会ということもあって俺は鈴に沢山の質問をしてしまった。
突然、帰って来たて驚いているという事もあるが、当分顔を合わせられないと思っていた幼馴染とまた一緒になれて嬉しいという気持ちが強く出てしまっているようだ。
「一夏、そろそろどういう関係か説明してほしいのだが」
疎外感を感じてか、箒は多少棘のある声で聞いてくる。
「そうですわね……朝のSHRではバタバタとしておりましたのでわたくし達にも説明をしていただけるとありがたいですわ」
セシリアはいつも通り落ち着いた様子で聞いたきた。
「別に、ただの幼馴染だよ」
「幼馴染……?」
箒は怪訝そうな声で聞き返してきた。
「あー、えっとだな。箒が引っ越していったのが小四の終わりだっただろ?鈴が転校して気のは小五の頭だよ。で、中二の終わりに国に帰ったから、会うのは一年ちょっとぶりだな」
そういえば、箒と鈴って面識がなかったな。箒が引っ越した後すぐ入れ違いで引っ越して来たんだ。
「で、こっちが箒。ほら、前に話たろ?小学校からの幼馴染で、俺の通っていた剣術道場の娘」
「ふうん、そうなんだ」
鈴はじろじろと箒を見る。箒は負けじと鈴を見返していた。
「……これからよろしくね」
「……ああ、こちらこそ」
そう言い、ふたりはお互いに挨拶を交わす。一見すると、普通の挨拶なんだが、俺には何故か火花が散ったのが見えた。
また自分が気付かない内に疲労が溜まっていて幻覚が見えているのか……?
(久しぶりに料理長に夜食をお願いしようか?)
「それでは次はわたくしですわね。わたくしはイギリスの代表候補生、セシリア・オルコットと申しますわ。よろしくお願いしますわ、凰鈴音さん」
そんなことを考えていると、箒と鈴のやり取りを我関せずと紅茶の入ったカップを口に付けていたセシリアが鈴に挨拶をした。
「あ、うん。よろしく……」
鈴は挨拶を返しながら、セシリアに少し探るような視線を向けていた。鈴はなんでそんな視線を向けているのだろうか?
「因みに、わたくしはおふたりと違い一夏さんのことをお慕いをしておりません」
「なぁ!?」
「ちょ、ちょっと!?」
「ん?急にこっちを見てどうしたんだ、ふたりとも?」
俺にはセシリアの言っていることはよく聞き取れなかったが、聞こえていたらしい箒と鈴のふたりは驚いた表情を受けべながら俺の方をすごい勢いで向いた。
なんでふたりは突然俺の方を向いたのかと疑問に思い首を傾げた。
「ですので、ご安心ください」
何を安心すればいいのか分からないが、セシリアはそう言い終えると、言いたいことは言ったとばかりに再び紅茶に口を付けた。
「今言った内容に関しては喜んだ方が良いのだろうが……」
「はぁー、幸い本人にはどうやら聞こえなかったようだし……」
箒と鈴はセシリアに何か言いたげな様子だったが、自分を無理やり納得させるかのように深く座り込んだ。
「まあ、その話は一旦置いておいて……あたし一つ気になることがあるんだけど?」
鈴はチラリと別のテーブルの方を――暁人たちの方をいぶかし気な目で見た後にそう切り出してきた。
「あのもう一人の男子は何なの?」
「……?何って、私の兄さ――」
「箒さん、しばらくの間、静かにしてましょうか?」
余計なことを言って場を混乱させる前に、セシリアが箒の肩に手を置いて止めてくれた。俺は箒を止めてくれたセシリアに心の中で感謝しつつ鈴の質問に答える。
「一応、ISを動かした『2人目』の男子って話だ」
「あたしはこの学校来るまで……というか、あの教室に入るまでISを動かした二人目の男子なんて話聞かなかったんだけど?」
「「「………」」」
何と説明をしたらよいか俺たちは悩んだ。
「な、なんで3人して黙るのよ?」
「……やっぱり、IS学園以外でその情報は伝わってない――いや、鈴の場合は情報を伝えられていないのか?」
「ええ、先日イギリスの担当官にそれとなく聞きましたが、話をはぐらかされて何も答えてくれませんでしたわ」
「知っている者は知っている話ってことか。だけど、IS学園に転入する代表候補生にすら知らせていないってことは……」
「兄さんの話は、IS業界で一種のタブーになっているのか……」
「ちょっと、3人で話さないでよ!」
「ああ、ごめんごめん」
俺達3人は今の俺達で暁人について集められた情報を整理していると、鈴に怒られてしまった。
「実は俺達もIS学園で生活をしている暁人のこと以外話せることがないんだ」
「日本国内のニュースやSNSですら、暁人さんの情報が出てこないですの」
「……まあ、アンタ達も詳細は話せないってことね」
鈴は納得はできない様子だが、俺たちの様子から暁人の事情をある程度察してくれた様子だった。
「それで、その話している男子は、隣の席でなにやってんのよ……」
「ん?何の話だ?」
「んっ」
鈴が親指で別のテーブルを指差す――というか、暁人の方を指さしたので釣られてその方向に目を向ける。
「くっろろん♪」
「ほーちゃん♪はい、あ~ん♪」
「あ~ん♪」
「おいしい?」
「おいしいよ、くろろん♪……くろろんも、ほら♪」
「あ~ん♪」
暁人はのほほんさんに、プリンを『あ~ん』で食べさせあっていた。
そして、テーブルに一緒にいるクラスメイト達はふたりの姿をブラックコーヒーを片手に微笑ましく見守っている。
「「「………」」」
「いつもの光景だ。気にするな」
「あれを気にしていたらこの学園で生活できないですわよ?」
「漫画の中でしか見かけないセリフよね、それ……それにしても一学期始まってから、まだ一ヵ月も経っていなわよね?あんなに仲が良いなんて……中学校の頃からの知り合いで付き合っていたとか?」
「いや、兄さんと布仏のふたりはまだ付き合ってないし、入学式の日に知り合った時からあの調子だぞ?」
「……マジ?」
俺達は無言で頷いた。それを見た鈴は頬をヒクヒクと引きつかせた。
「そ、そう……それで、アンタ、クラス代表なんだって?」
「お、おう。成り行きでな」
「ふーん……」
鈴はレンゲを持った手を止めて、俺に何かを言おうとしていた。
「あ、あのさ。ISの操縦、みてあげてもいいけど?」
顔は俺から逸らして、視線だけこっちに向けてくる。言葉にしても、鈴にしては珍しく歯切れの悪いものだった。
「そりゃ助か――」
ダンッ!テーブルが叩きながら箒が立ち上がった。そして、その勢いのまま顔を強張らせて箒は叫ぶ。
「一夏に教えるのは私達の役目だ。それに、お前は二組だろう!?」
「……まあ、クラス対抗戦の時期に他のクラスの方が教えるのはあまりよろしくないかと思いますわ」
箒とセシリアのいう事はもっともだ。今の時期に他のクラスの代表と訓練をする姿を見られれば、お互いのクラス内での評判は悪くなる可能性がある。
「私は一夏にいってんの。関係ない人は引っ込んでてよ」
「か、関係ならあるぞ。私は一夏から頼まれているのだ……それに千冬さんにも頼まれたんだ」
「あ、そうなの?でも、あたしの方が付き合いは長いんだし」
「そ、それを言うなら私の方が早いぞ!それに、一夏は何度もうちで食事をしている間柄だ。付き合いはそれなりに深い」
「うちで食事?それならあたしもそうだけど?」
うん?確かに、箒と鈴の家で食事をしたことがある。しかし、鈴の場合は食事をしたの意味が違う。
そう、鈴の家は中華料理屋で俺は千冬姉がいない時に食べに行っていたのだ。鈴の家の店は俺の家から近く、そして安くて量が多いかったので週に四、五回行っていた。
「いっ、一夏っ!どういうことだ!?聞いていないぞ私は!」
「え、その……よく鈴の実家の中華料理屋に行っていたって話だぞ?」
俺が正直にそう言うと、さっきまで余裕の表情をみせていた鈴が途端にむすっとふてくされる。対照的に、箒はほっとしたような顔をした。
「な、何?店なのか?」
「ああ、そうだよ……それにしても鈴の親父さん、元気にしているか?まあ、あの人こそ病気と無縁だよな」
「あ……。うん、元気――だと思う」
俺が鈴の親父さんの話をすると、鈴の表情に陰りが差したことに俺は違和感を覚えた基本的に鈴は明るくさっぱりとした性格だ
そんな鈴が暗い表情を出すということはよっぽどのことがあったのではないかと心配になる。
「それよりもさ、今日の放課後って時間ある?あるよね。久しぶりだし、どこか行こうよ。ほら、駅前のファミレスとかさ」
「あー。あそこ去年潰れたぞ」
「そ、そう……なんだ。じゃ、じゃあさ、食堂でもいいからさ。ほら、積もる話もあるでしょ?」
「――生憎だが、一夏は私とISの訓練をするのだ。放課後は埋まっている」
待て箒、なんでお前が決めるんだ?あと箒は訓練機の貸し出しの件は問題ないのか?
「そうですわね……クラス対抗戦に向けて
「………」
俺は『特訓』という単語を聞いて恐怖で身体が震えた。その単語で思い出されるのは、千冬姉や暁人たちによるとても辛い時間……
まあ、その訓練の分強くなれた自覚はあるから文句は言わないけどさ……あと、箒もセシリアは一回くらい俺に確認取ってくれ。
「じゃあそれが終わったら行くから。開けておいてね。じゃあね、一夏!」
そう言うと、こくっとラーメンのスープをレンゲでひと口飲んだ後、俺の答えも待たずに鈴は片付けに行ってしまう。
勿論、テーブルに戻って来るなんて律儀なマネはしない。そのまま食堂を出て行った。
(断ることもできなかったから、絶対待ってるしかないじゃねえか……)
「まあ、訓練後に話すぐらいであれば特に波風は立ちませんか……」
「一夏、当然訓練が優先だぞ」
……そして方放課後の訓練も断れる状況じゃなかった。本当に俺って難儀だよなぁ……
2022年4月21日(木)
IS学園
職員室
「織斑先生、書き終わりました。どうぞ」
「ふむ……うん、記載している内容に不備はないな」
俺は現在、職員室の織斑先生の席に織斑先生と一緒にいる。何故、俺が職員室にいるのかというと、夕飯を食べているタイミングで織斑先生から食後でもいいから話をしたいので職員室に来るようにと、口頭で呼び出しを受けたのだ。
普通は先生から突然話をしたいと言われたて呼び出されたら身に覚えがなくても色々身構えるものだ。
しかし、俺の場合はつい最近まで心身ともに辛い虐待を受けていて、そしてIS学園に強制的に転入となっている状況だ。IS学園……というより先生方は俺が精神的に不安定になっていないか確認をしたかったのだ。
つまり、織斑先生は俺に簡単なカウンセリングを行うために、職員室に呼んだのだ。
……呼び出しを受けた際に一緒にいた一夏とセシリアは何をやらかしたんだとからかってきた。
(何かやらかしたら、職員室じゃなくて生徒指導室に呼び出されるだろうが……分かっていて揶揄いやがって)
因みに、なぜ入学から時間が経ったこのタイミングで俺のカウンセリングをしたのかというと――
・入学してすぐの期間は先生方は色々と忙しいかったこと。
・基礎教科を教えられる先生や、ISの操縦を教えられる元IS操縦者などはいるが、精神科に通っていても可笑しくない生徒をカウンセリング出来る先生がいなかったこと。
・俺の入学してから精神的におかしなところは見られなかったこと。
以上の3点から、俺のカウンセリングが後回しになっていたのだ。……酷い話に聞こえるが、虐待や性犯罪の被害者をISを動かせる希少な男性という理由だけでIS学園に無理やり入れたのは、IS委員会や政府であってIS学園の教師たちではない。
そもそも、俺のIS適性が分かったタイミングが、入学式の2週間前だ。
そして、IS学園に入ることが決まったのが、入学式の5日前ぐらいだったはずだ。
……うん、俺のような奴のカウンセリングの用意するとか普通の先生たちだと無理。
「織斑先生……もう8時を過ぎましたよ?」
そんなことを考えていると、山田先生の申し訳なさそうな声を聞こえた。
俺と織斑先生は机にある時計を確認すると、8時10分を過ぎたところだった。
「もうそんな時間か……今日はこんな所にしておくか。こんな遅くまですまなかったな」
「アハハ、俺の武装追加の申請もあったので……」
「いや、それでもだ。本来、私が気を付けるべきだった……改めてとなるが、二者面談などと言って急に呼び出してすまなかった」
「いえ、お気遣いいただきありがとうございます。それでは、失礼します」
「ああ、おやすみ」
「遅くまで、お疲れさまでした。おやすみなさい」
「はい、先生方もおやすみなさい」
俺はそう言って職員室から出て、暗く静かになったIS学園の廊下を歩く。
「……やっぱり、怪しまれているかな?」
織斑先生から疑念の目を向けられているのをここ数週間で何度か感じた。今回の二者面談も、
「………」
その疑念とは俺が裏切ろうとしているのではないかということだ。確かに今は俺への裏切りの疑念はあるが、現実的にあり得ないという思考から俺を問い詰めるたり、捕まえたりしないのだろう。
逆に言えば、織斑先生の俺への疑念が現実的にあり得ないという思考を上回ったら、何としてでも俺を捕まえるだろう。
(俺のIS学園にいる主目的は、『あのパーツ』を手に入れること)
『あのパーツ』さえ手に入れば、いつでも
(だから、それまでの間は学生生活を楽しんだって
「――っと」
考え事をしながら歩いていると、俺はいつの間にか学生寮の玄関の前まで来ていたようだ。
「あぶな」
俺は無意識のうちに校内から外に出て、学生寮まで続く道を歩いていたのか……危うく、扉に頭をぶつけるところだった。
「考え事もほどほどにしないとな――」
俺はそう呟いて学生寮の中に入るつもりだった。
カサッ
しかし、俺は学生寮の近くの茂みの方から人の気配がしたことに疑問に思い、つい立ち止まってしまった。
(なんで人の気配がする?
しかも、この声は知っている人物のものだ……俺は頭をガシガシと掻く。
「聞こえちまったから一応見に行くか……はぁ、今回のパターンは初めてだな」
そう諦めるように呟いた俺は、声の聞こえる方に向けって歩き出した。
予想通り、鈴音が目立たない場所に座り込んで、声を押し殺して泣いていた。俺はその姿を見て、つい話しかけてしまった。
「えーと、鈴音……さん?」
「ぐすっ……あ、あんたは暁人?なんで……」
「あー……」
勢いで来たのは良いものの、この後どうするか全く考えていなかった……とりあえず、場所を変えるか。
「こんな所で話すのもなんだし、ちょっと移動しない?」
……以前も友人だった鈴音の泣いている姿を見て、見なかった振りは俺にはできなかった。
俺はそう言って、鈴音の返答も聞かずに学生寮の入り口に向かって歩く。
「え……うん」
鈴音が涙を拭ってから俺の後をついてきた。
「「………」」
あたしは今『二人目』の男子、暁人の後ろを言われるまま付いてきた。
学生寮に入り、そして階段を上り、いまあたしたちは二階の廊下を歩いている。
……そして、先ほど話しかけられて以降、あたしたちは会話をしていない。
(正直、余り面識のない奴に泣いている姿を見られてすっごい恥ずかしいんだけど)
無言でいる時間や恥ずかしさを紛らわすために、あたしは暁人に声をかけた。
「ね、ねぇ?」
「ん、どうした?」
「今、二階にいるけど、このフロアは二年生が使っている場所じゃないの?」
なんでそんな場所にあたしを連れて来られたのかが分からない。
この先に落ち着ける場所でもあるのかな?
「うん、基本的には鈴音さんの言う通りだけど、何事にも例外があってね」
「例外?」
「そう、俺の部屋は特殊な都合で一年生が使う一階のフロアじゃなく、二階のフロアにあるんだ」
暁人はそういうと、ある部屋の前で止まった。もしかして、この部屋は暁人の部屋なのか?
(こいつ、女子を自分の部屋に連れてきて何をするつもり?)
あたしはそう思い、警戒心を強める。
「……言うタイミングが悪かった。安心してくれ、ここは俺の部屋じゃない。俺の部屋はすでに通り過ぎてる」
コンコンと暁人は扉をノックする。
「え?……じゃあ、ここは誰の部屋なの?」
あたしが疑問を口にした後、暁人が答える前に扉が勢いよく開いた。
「はいは~い、こんな夜にどちら様~?」
部屋からラフな格好をした女子が出てきた。このフロアにいるという事は二年生だろうか?
(――わ、凄く綺麗な人)
出るとこは出て、引っ込むところは引っ込んでいる抜群のプロポーション。女子でも見惚れる綺麗な顔。目を引く水色の髪に吸い込まれそうな赤い瞳。
この、少女を一目見れば生涯忘れられそうにない印象を植え付けられるだろう。
こんな人がいるのかと驚きつつも、一瞬であたしと色々な意味で違う事を理解させられた。
「この時間の襲撃は、止めてって――」
「こんばんは、楯無さん」
「……ごめん、暁人君?隣の女子は誰?どういう状況なの?何をしに来たの?」
「ちょっと、部屋を貸してください」
「はい?」
そして、暁人はそんな少女のミステリアスな雰囲気をぶち壊しながら部屋に来た目的を言った。
(あ、こいつ、一夏とは別の意味で常識がない奴だ)
2022年4月21日(木)
IS学園
更識楯無と布仏虚の部屋
こんな夜にやって来たお客さんたちをとりあえず、奥の方のベッドに座らせた。私は反対側のベッドに座りふたりから話を――というか、主に鈴音ちゃんを連れてきた暁人君から話を聞いた。
「……それで暁人君は、詳細は分からないけど泣いていた鈴音ちゃんを見なかった振りはできなかったと?」
「はい……」
「そして、泣いている女の子を自室に連れ込むのは不味いと考えて、私たちの部屋まで連れてきたのね?」
「はい……突然、部屋に押しかけてしまい申し訳ございませんでした」
「あ、その……ごめんなさい」
「………」
ふたりは私に謝った後に頭を下げた。自室に暁人君と今学園で噂の転校生が突然やってきて私は驚いた。
正直、今でも頭の中は疑問符でいっぱいだ。
(まだ整理は出来ていないけど、いつまでも可愛い後輩たちに頭を下げさせ続ける訳にはいかないわね……)
色々思う所はあるが、暁人くんが私を頼ってくれたということだ。それに泣いている子を見て行動をしたという所は好感がもてる。
ここは頼ってくれた後輩の為に先輩として助けないと。
「はぁ……頭を上げてふたりとも」
「「はい……」」
「特に鈴音ちゃんはそこまで畏まらなくていいから。何も知らずについてきただけだもんね?」
「えぇ……まあ」
「なら、もっと気楽にしていいから……って、いっても難しいわよね」
「えっと、はい……」
「クスッ、借りてきた猫みたいな状態で可愛いけど――虚ちゃん」
「はい、会長。どうぞ、お客様」
虚ちゃんは私達に温かいココアを渡してくれた。部屋に入って来たふたりの様子を見て、虚ちゃんがキッチンで作ってくれていたのだ。
受け取った私たちは虚ちゃんに感謝の言葉を述べて、ココアを飲む。
(うん、いつもながら美味しいわね♪)
甘く、そしてカカオの豊潤な香りが口いっぱいに広がる。
「……おいしい」
「クスッ。喜んでもらえて良かったです」
自分の分のココアを持ってきた虚ちゃんが私の隣に座る。鈴音ちゃんは、思ったことがそのまま口に出たことを恥ずかしかったのか少し顔を赤くしていた。
恥ずかしがってはいるが、先ほどよりは緊張がほぐれたようだ。
「まあ、とりあえず鈴音ちゃん?何があったのか話してみない?」
「う、そ、それは……」
「ええ、折角の学園生活の初日を鬱屈とした気持ちを抱えたままというのは見逃せませんね」
「ええっと……う、うん……あんまり、気が進まないけど……」
~数十分後~
「という事があったのよ!!ほんと、信じられない!!」
「「「そーですね……」」」
(((気が進まないってセリフは何だったんだろうか……)))
私達三人はそんな感想をココアを口にし、言葉にしないようにした。鈴音ちゃんの話を簡単に纏めると、以前約束をしたことを一夏くんが勘違いをして覚えていたというものだった。
それも、約束の内容に告白が絡むのだから怒るのも納得する。
……しかし、一夏くんが一方的に悪いという訳ではない。日本で有名な『私が毎日味噌汁を作って上げる』という告白を変化させ、『味噌汁』の部分を『酢豚』変えたものであった。
①告白をしたいけど、恥ずかしいから遠回しに伝えたい。
②遠回しの告白の言葉は、『君が作った味噌汁を毎日飲みたい』or『私が毎日味噌汁を作って上げる』。
③だけど、好きな人には自分の得意料理を食べてもらいたい……そうだ!!
④『料理が上達したら、毎日私の酢豚を食べてくれる?』。
まあ、察するにこのような手順で告白に至ったのだろう。鈴音ちゃんはこの④の部分しか相手に伝えていない状態だ。
ただでさえも遠回しな告白をさらに自分流にアレンジして伝えているのだ。ちょっと考えないと相手には理解できないだろう。
はてさて、鈴音ちゃんに何といったらいいかな?先輩としてかっこよく悩みの解決をするつもりだったけど、恋の悩みかぁ……
正直、もう簡単明瞭に回りくどいことをしない告白をすればいいのにとか思っちゃうけど、それが出来ていたら悩まないわよね……
「……フム」
「……?」
暁人くんが何かを考えている?何か、良い考えがあるのかな?
(今は私から何か言えることないし、ここは暁人くんに任せますか)
「鈴音さん」
「ん、何よ?」
「正直、その告白は『ない』ね」
「……は?」
……任せたことを数秒で後悔した。突然、何を言い出すのこの子は!?
「ちょ、ちょっと、暁人くん!?」
「まず前提として『毎日味噌汁を~』という告白は、日本人にとって味噌汁が毎食出てきてもおかしくない食文化をしているから生まれたものだ」
「うっ……」
「それを酢豚に変更した?汁物が主菜に代わってるじゃないか?しかも普通、主菜は毎日同じもの食べない。これじゃお前が伝えたい意図が伝わらないぞ」
「う、うぅ……」
「『I love you』を何の説明もなく『月が綺麗ですね』って訳すようなものだぞ?」
う、うん、私たちが思っている事そのまま言ったよ……暁人くん?あくまで今はお悩み相談なの?
正論で殴る時間じゃないの分かる?
「……因みに、言っておきますけど『I love you』を文豪、夏目漱石が日本人の感性に合わせて『月が綺麗ですね』と和訳した話がありますが、それは俗説ですよ?」
「「「え、そうなのっ!?」」」
虚ちゃんの一言に、私達三人は驚いた。え、ずっと、夏目漱石がそう和訳したと思っていたんだけど……コホン、とにかく、暁人くんのいう事はもっともだ。
相手に伝わるように話さないと、自分の気持ちが伝わらないものだ。
しかし、暁人君は何をしたいのだろうか?鈴音ちゃんが泣いている姿を見過ごせないはずなのに、なんでそんな相手を傷つけるようなことを言うのだろうか?
「コホン……っで、どう?頭から否定されて、俺の事ムカついたでしょ?」
「あ、あんたねぇ……そりゃ、ムカつきもするわよ。……あんたはいったい何をしたい――」
「俺と戦わない?」
「「「………」」」
本当に何をしたいの暁人くん?わざわざ鈴音ちゃんを私たちの部屋に連れてきて、怒らせて、その上で戦いたい?
暁人くんの意図について考えていると、鈴音ちゃんが軽く笑った。
「フッ……あんた、あたしの事よくわかってるじゃない?」
「どうも……で、どうする?」
「フン、折角誘ってくれたんだし、
「あー、そういうことね暁人くん」
鈴音ちゃんの言葉で、暁人くんのあんなことを言った意図がやっと理解できた。
「そういう訳で楯無さん。これからアリーナを使いたいのですが……」
「クスッ……ええぇ?この時間から~?お姉さんもう夜も遅いし休みたいんだけどな~」
「度々、ご迷惑をかけますが、そこをなんとか」
「夜更かしは乙女の天敵なのよ暁人くん?……なにか、こう、な~い?」
「ん?あ……ちょっと、流石にあたしの都合でそこまで……」
「今回のお願いを受け入れてくれましたら、とりあえず楯無さんと虚さんに二人にはそれぞれ俺への『貸し』を一つづつ」
鈴音ちゃんは話の流れに気付いて話を止めようとしてきたが、暁人くんはそれを無視して条件を提示してくる。
「ふんふん、それで?」
「そして、更に俺が生徒会に入って仕事のサポートをします」
「うん……良いわね。よし、その条件でいいわ。今なら、第二アリーナが使えるわ」
「わかりました。それじゃあ、鈴音さん。案内するからついて来て」
「……いいの?」
「俺が勝手にやっている事だから気にするな……入学祝いだと思って受け取ってくれ」
「わかった……だけど、コレは『貸し』だからね?」
「……なにか頼み事ができたら、お願いするよ」
「一応、審判兼監視員として私も見に行くから、私が着くまで戦っちゃだめよ?」
「「は~い」」
そんなやりとりをしつつふたりは私達の部屋から出て行った。
「あのー、お嬢様?」
「ん、なになに?」
ふたりを見送った後に、虚ちゃんが私に小声で話しかけてきた。
「私には彼らの話の展開についていけないのですが……」
「つまりね、回りくどいけど、暁人くんは鈴音ちゃんに気を遣ったのよ。普通は初対面の相手からストレス発散をするために自分と戦おうと言われても気後れするじゃない?」
「ええ」
「だから、鈴音ちゃんを少し怒らせるようなことを言ったの。彼女のあの切り替えの早さから、結構サバサバした性格してるわよ?だから、意図に気付けせれば後は気後れせずに戦ってくれるのよ」
「……言われてみれば、確かにそうかもしれませんね」
(まあ、彼女の性格をある程度理解していないとできないけどね)
なんで暁人くんが短い時間で、あそこまで彼女のことを理解していたのは疑問が残る。
「しかし、この時間からアリーナの使用許可は取ることはできません」
「そこは、ほら。生徒会長権限で、なんとかするわよ」
「……そこまでして、彼のお願いを聞いてあげるのですか?」
「まあ、今からアリーナで訓練するのは問題ないわよ?」
場所や時間的な事に関しては特に問題がない。入学式から時間も経ち、これからのIS学園でおこなうイベントは5月のクラス対抗戦のみで、現在はそこまで忙しくない。
だから、私たちはこの時間に自分の部屋で休めているのだ。
「そういう話ではなく……」
「今の話だけでも、色々収穫はあったわ」
まず鈴音ちゃんは直情的な部分は目立つけど、頭の回転は悪くなく、そして優しく義理堅い子であることが分かった。
暁人くんが私たちへ、何かしらを差し出すことを事前に気付いて、それを止めようとした。
自分だけ、何もしないという状況に居心地の悪さを感じて、すぐに暁人くんに『貸し』を出した。三十分にも満たない時間で、鈴音ちゃんの人格が分かるのは良いことだった。
暁人くんに関しては彼の能力を確認できたことと、人格を垣間見れた。
事前に持っていた情報から相手の欲しいもの提案し契約を結ぶ交渉力。
暁人くんが提示してきた『貸し』二つと生徒会入りの条件は、突然夜遅い時間に部屋にやってきたこととアリーナの貸し出しで、ちょうどトントンって感じかな?
自分が必要以上に身を切らないという点も評価できる。……人格に関しては、まあ、本音ちゃんと恋人同然のやり取りをしていたり、学園生活の態度などから確認する限りは問題はないだろう。
(ただ少し危うい感じはするけどね)
「……まあ、実質ふたりで動かしている生徒会の人数が増えることは嬉しいことですけど」
「ほんと、それは嬉しかったわね……」
現在、生徒会に所属をしている人数は三人だが、実質二人で生徒会を回している。生徒会初期である本音ちゃんがね……本当に生徒会の仕事ができないの……それに私達には対暗部用暗部の仕事もある。
……生徒会の仕事だけでも、手伝ってくれる人が1人でもいれば本当に助かる。
「それに――」
「それに?」
「暁人くんを近くに置くことで監視がしやすいじゃない?」
「………」
「暁人くんって、ちょっと怪しいのよね~」
「経歴上は、特に問題がなかったはずですが……」
「うん、データ上はね?だからこれは私のカンよ。実をいうと織斑先生も怪しんでいるのよ?」
「だから、そのためにアリーナの使用許可を?」
「そう、そんな怪しい人物の実力って把握したいじゃない?」
暁人くんは異常と言える実力をもってる。1年1組のクラス代表を決める戦いの様子は、他の生徒達から聞いた。
曰く、
曰く、
しかも、ただの量産型の打鉄で、試作第三世代のそれぞれタイプが異なる相手に対してだ。話を聞いた限り評価にはなるけど、機体込みで最低でも代表候補生の中で平均ぐらいの実力はある。
機体性能がもっと上の物を使えば、もしかしたら国家代表に手が届くかもしれない……
もう
(その異常な実力をこの目で直接見れる機会が早々にやってきた。それを逃すという選択肢はない)
さーて、警備や保守管理をしている人達に連絡をしたら私も第二アリーナに向かいますか。
~部屋の場所を知っていた件~
「それにしても、暁人君はよく私の部屋の場所知っていたわね?」
「ああ、それは前に黒野君に本音のことについて尋m――」
「ねぇ、いま日常会話で出てこない物騒な単語出そうとしなかった?」
「……本音とよく遊んでいるので、姉としてO☆HA☆NA☆SHIをするために部屋に招待をしたこともありました」
「あ、そうなの……」
「その時に、ついでとばかりにお嬢様と初めて会った時のことも聞きましたが……」
「えっ……?」
「残念ながら、上手く話をはぐらかされてしましました」
「あー、うん、そーなんだー」
「それでお嬢様?私、気になることがありまして――」
「あー、先にアリーナに行ってる二人を待たせる訳にもいかないし、私も行ってきます!!」
「……逃げられました」
~次回予告~
本音「………」
暁人「………」
本音「……ニコー」
暁人「……二へー」
本音「アワワ」
暁人「ワァワァ、ワァ」
鈴音「……なんかしゃべりなさいよ、ボケカップル!!」
次回、第15話:クラス