今回はわたくし、セシリア・オルコットが担当しますわ。
クラス
ふぅ、前置きと冗談はこれぐらいにしておきまして――さて、事件があってもわたくしたちには学園生活という日常が待っている。
今回は、わたくしたちの日常にちょっとしか変化があった話ですわ。
IS ~クロノス~ 20話 告白(前編)
暁人さんの謎が紐解かれ始めます。
2022年5月21日(土)
IS学園
食堂
IS学園襲撃事件から数日が経った土曜日。後処理や各方面への説明などで先生方は忙しい日々を過ごしたでしょう。そんな多忙な先生方の手が流石に回らなくなったのか、本来であれば本日の午前中も授業を予定しておりましたが急遽取りやめになり、自習時間となりましたわ。
わたくしは他の生徒たちとは異なり専用機持ちである鈴音さんや一夏さんたちとの模擬戦を終え、昼食が終わり――
「……暇ですわね」
「ええ、そうね」
「確かに暇だ」
鈴音さんと箒さんの3人一緒に暇を持て余していた。そして、3人同時にブラックコーヒーを静かに飲む。
(さて、今日の午後からどう過ごしましょうか?)
そんなことを考えていたところ、テレビから出演者達の不快な声が聞こえてきた。
『――まさか、2人目の男性操縦者にこんな辛い過去が』
『ええ、中学時代の三年間はまさに地獄だったでしょうね……彼のことが心配です』
「「……」」
テレビは暁人さんの辛い過去を一切のプライバシーを無視した番組を流していた。1番最初に暁人さんの過去を暴露し始めたのは週刊誌だったと聞きました。そうしましたら、その週刊誌を皮切りに他の雑誌やテレビでも、特大のネタを逃さないと言わんばかりに暁人さんの過去を報道し始めた。
あまりにも不快だったのか、料理長は自分は食堂や厨房で1番偉いという謎の理由で番組を切り替えたのですけど、どこのテレビ局も同じ内容を放送していて徒労に終わりました。……テレビまで破壊しようとしたところを周りにいた部下の人に止められていた。
(しかしながら、この方達はずいぶんと楽しそうですわね)
テレビに映る人たちの表情や声色から、楽しそうに話していると思う。被害者である暁人さんが男性IS操縦者だからでしょうか?それとも、一夏さんとは違って織斑先生という後ろ盾がないから好き勝手言えるからでしょうか?
(人は……ここまで、無責任に人を傷づける事ができるのですのね)
暁人さんには何か重い過去があるとは思っておりましたが、予想をはるかに超える壮絶な話――だったとしか、感じられません。
……不思議ですわね。あれほど不快な話を聞いた直後だというのに、目の前の光景は、妙に安心して見えてしまう。
「はい、くろろん……あーん」
おにぎりを手にした本音さんが、おにぎりを暁人さんの口元に近づける。いつもは改造した制服の長い袖で見えない綺麗な手で、ゆっくりと優しく暁人さんにおにぎりを食べさせています。
「あーん……」
そして、暁人さんは口元に運ばれてきたおにぎりを満面の笑みで頬張る。もぐもぐと美味しそうに口を動かして、とても喜んでいることがわかる表情をしている。
(……暁人さんは、本当にテレビで話をされていたの当人なのか疑問ですわね)
「くろろん、おいしい?」
「むぐむぐ……うん、美味しいよ!ほーちゃん!!」
「わーい、よかった〜」
「「「………」」」
甘ったるいイチャイチャを目の当たりにしたわたくしたち三人は、無言でコーヒーを口にしました。……ブラックコーヒーのはずなのに何故か甘味を感じますわ。
「あ、ほーちゃん、指先に米粒が……」
「え?本当だ〜」
暁人さんは本音さんのお米がついた指先に口を近づけて――彼女の指先についた米粒をペロリと舐めとりました。
「キャハハ、も〜、くすぐったいよぉ〜」
「「「………」」」
本音さんは両腕を骨折した暁人さんの『サポート』をしている――はずなのですが、最新の補強バンテージのおかげで日常生活にほぼ支障はないと本人が言っておりましたわ。……つまり、あれはただのイチャイチャですわ。
(それにしても、昨日は親子丼で、今日はおにぎりセットですか……今日は一段とレベルが高いですわね……)
「えへへー、ほーちゃん」
「んー?なーに、くろのん?」
「……なんでもなーい♪」
「もー♪なんなのー♪」
……しかしながら、あんなニュースを放送されている中で、本人は本当に幸せそうですわね。本当に……よくもまあ、人がたくさん集まる食堂でイチャイチャでき――あら、料理長が何かサービスを……クリームぜんざいという日本のデザートですかね?メニューにはあることを知っているのですが、わたくしはまだ食べた事はありませんわ。
今度、わたくしも食べてみましょうか?……あの2人、今度はぜんざいでイチャつき始めましたわね。
「あれ、あの2人は?」
「ん?」
「あら?」
鈴音さんの声を聞いてあたりを見渡すと、ぜんざいでイチャイチャしている2人に近づく女子生徒が2人いる事に気がつきましたわ。
特徴的な三つ編みと小柄で猫背の女子と、もう片方はおそらく一夏さんよりも身長が大きくて……そして色々開放的な女子で、水着でもないのに胸元が見えており、ブラジャーも見えるというだいぶ大胆な格好をしておりました。
あのおふたりは――
「っで、誰なのよ?」
「一年生の中では見覚えのない顔だな」
「……背の低い方が2年生のフォルテ・サファイアさん。お隣の身長が高い方がダリル・ケイシーさん。お二方とも代表候補生ですわ」
先輩方はなぜあの2人に……いいえ、暁人さんと話そうとするのでしょうか?この場所からは会話の声は聞こえてこないので不思議に思っていると、暁人さんとダリル先輩は握手をする。
……ただ挨拶をしに来ただけでしたわね。少し考えすぎましたわ。そう、想っていると突然ダリル先輩は……
ダリル先輩は無理やりフォルテ先輩の唇を奪いました。みんなが見ている食堂の中で、舌まで入れる深い方のキスをした。
「?????」
何故、なんで、どうしてという疑問の思考で頭の中が支配される。後から暁人さんたちに話を聞いたところ『オレたちの方が熱々だ』などとダリル先輩は言われたらしい。
ディープなキスを見せつけたダリル先輩は、一言二言を暁人さんと何かをお話をされた後に、キスをされてボーッとしているフォルテ先輩をダリル先輩が引っ張っていく形で食堂を後にされた。……強引に連れて行かれたように見えますが、フォルテ先輩は満更でもない雰囲気だったので問題はないでしょうね。
「……また暁人に近づく生徒がいるわね?」
続いてもまた暁人さんに近づいてくる女生徒の姿を鈴音さんは捉えた。その生徒は、長い水色の明るい髪が特徴的な生徒でした。少々オドオドとしており、手元には何か可愛らしいデザインの袋を持っていらっしゃいますわ。
「……どこかで見たことがあるわね」
「4組のクラス代表である更識簪さんですわ」
「……ああ、先日の事件時に兄さんと一緒にいたという」
「今日の暁人は千客万来ね」
4人会いに来た程度で『千客』という言葉はおかしいのではと思いながらも、暁人さんたちの様子を眺める。
「あの袋の中身は何だろうか?」
「うーん、『直感』だけど、おそらく手作りのお菓子ね」
「……鈴音さんの『直感』って、戦闘時以外にも使えるのですわね?」
「今のは乙女としての『直感』よ」
「……ん?兄さん達がどこかに行くようだぞ」
2人とお話をしていると、いつの間にか暁人さん達3人はテーブルから立ち上がり食堂から出ていかれました。
「……状況を整理しましょう」
「命を救ってくれた恩人である兄さんに、手作りのお菓子を持ってお礼をしに来た後、3人で何処かへ行った状況だな」
「命の恩人で、吊り橋効果により恋心が芽生えていてもおかしくはないわね」
「そんな恋心が芽生えた状態であれば、勢いに任せて告白するかもしれません……しかしながら暁人さんには実質彼女がいる状態……」
そのように、わたくしが言った後に3人して腕を組み悩む。……いったい、どうして食堂を後にしたのでしょうか?
「しかし、その彼女(仮)の目の前で告白できるのか?いや、それよりもなぜ本音を一緒について行ったんだ?」
「そりゃ、まあ……今の暁人には一応サポートが必要だからじゃない?あと、お礼を伝えるだけの可能性が……」
「それなら食堂でもお礼の言葉を伝えても……食堂は人が多く告白ではなくとも注目をされて恥ずかしいので、人目のない場所に移動したという可能性も考えられますわね」
「「「………」」」
考えても仕方がない状況ですが、どうしましょうか?そう悩んでいると鈴音さんがポツリと呟く。
「……なんかどうな結果になっても面白そうだから、出歯亀……あの3人の後をついていってのぞき見をしようと思っているんだけどあんたらは――」
「「行く/行きますわ」」
わたくしと箒さんはブラックコーヒーを飲み干して立ち上がった。その姿を見ていた鈴音さんは、苦笑を浮かべながら口を開いた。
「……あんまし言いたくないけど、暁人に似てきてるわよ。あんたら」
「1番付き合いが短くて、そこまで兄さんに似た鈴音に言われたくない」
それもそうねと苦笑しながら鈴音さんも自分のブラックコーヒーを飲み干して立ち上がった。そして、わたくし達も食堂を後にし、暁人さん達の後を追った。
「あれ?お前ら、何してるんだ?」
暁人さんの後を追っている途中で一夏さんとばったり会いました。どうやら、昼食後すぐにクラス代表の仕事をされており、いま終わったところですわね。
一夏さんに軽く経緯を説明し、一緒にのぞき見をしに行くかお誘いをしたところ――
「いや、流石にのぞき見は悪趣味だろ……」
「ええ、それは確かに……ですけが、暁人さんを揶揄うネタが出来るかもしれませんわよ?」
「行くか」
一夏さんもだいぶ暁人さんの、こう、意外と姑息な部分に染まってきましたわね。
……わたくしも人のことは言えませんが。
そんなこんなありまして、一夏さんが暁人さんの後を付けていく仲間に加わりましたわ。
追跡を再開して暫くすると、暁人さん達は立ち止まりました……どうやら、この整備室に入るようですわ。
わたくしたちは、先に入った3人に気付かれぬよう、足音を殺して整備室へと忍び込む。
華やかなIS学園の空間から無機質な空間になり、先ほどまでとは異なり人の気配がなく――だからこそ、密やかな会話には最適でしたわ。
(人目を避けるには、確かに都合の良い場所ですわ)
わたくしたちは物陰に身を潜めた直後、簪さんが小さく息を吸い込んだ。
「……こ、こんな場所まで……つれてきて、ごめんなさい……」
簪さんの視線は床へ落ち、指先がわずかに震えている。緊張していることが一目で分かる。
「周りに……他の人がいると……恥ずかしくて……こ、これ!……お礼って……訳じゃ無いけど……」
差し出されたのは、丁寧に包まれた小さな袋。暁人さんはポリポリと頬を掻いた後に――柔らかく笑う。まるで、懐かしいものを見たかのように。
「……ありがとう。でも、ごめん」
受け取りながら、少しだけ困ったように頬をかく。簪さんは、その一言を聞いて落ち込んだ様子を見せる。
「そ……そう……」
(ああ、これは――よろしくありませんわね)
暁人さんの対応に男性の対応として減点をしようかと思いました。ですが、その沈みかけた空気を変えるように、袋を持ち上げて見せながら、暁人さんは言葉を続ける。
「ちょっと、食べすぎちゃって……正直一人だときついんだよね。だから、せっかくだし、ここにいる三人で食べようよ」
「……っ」
「ほーちゃんも食べる?」
「食べる食べるー」
本音さんも暁人さんの提案に即座に乗っかり、空気は一気に柔らいだのを感じた。
「それにさ、ちょうどいいし――少し聞きたいこともあって」
暁人さんは整備室全体を見渡したながら、話を続ける。……ほんの一瞬だけ、視線が整備室の奥へ流れたのが気になりましたわ。
「せっかく整備室にいるんだし、ISの話もいいかなって。今使ってる打鉄、ちょっと動かし辛くってさ」
「……えっと……どういう風にしたいの……?」
「個人的には、もう少しスピードが欲しいんだけど……エネルギー配分とか、まだ上手くいかなくて」
「ふ、普通の……打鉄のままだと、限界はあるよ……ね?……だ、だから……そのままよりは……高機動用パッケージか……ラファールに乗り換えるのが現実的……かな?」
「やっぱり、そうなるよね」
暁人さんは素直に頷く。……暁人さんの理解力や成績からすると、すでに自分でも分かっていた内容だったのだろう。
「だ、だけど……私が調整中の『打鉄弐式』みたいに……物理シールドを外して……機動力重視にするとか……」
「『打鉄弐式』?」
「う、うん……ちょっと、事情があって……未完成だけど……私が今……『打鉄弐式』の機体や武装の……最終調整をしているの……」
簪さんは言葉を途切れがちに話しながらも、一生懸命に相談に乗っているのは分かる。個人的に好感が持てましたわ。
「へー、大変だな、あの子」
「………」
「セシリア……その目はなんだ?」
「……いいえ、なんでもありませんわ」
わたくしは簪さんの状況をある程度把握しておりますが、当事者たちで話し合いをされていない内容を伝えるのも|憚≪はばか≫られますので、一夏さんには言わないことにしました。
「へぇー、1年生でもうそこまで手を出してるのか――と、まあ。せっかく面白い話だけどさ」
少し困ったように両腕を見せる。
「長い話になると思うから、悪いけど飲み物を用意してきてくれない?」
「う……うん……わかった……」
「わかったー」
簪さんと本音さんが二つ返事で了承する。
「ドク○とルート○アとレッド○ル、モン○ター混ぜて持ってくるねー」
「流石にそれは混ぜ過ぎかなぁ!?」
「……自分で……処理してね……」
そんなやり取りを目にしつつ、わたくしたちは2人が整備室から出ていくのを見送りました。
(出ていくタイミングを見事に逃してしましましたね)
特に面白い話も暁人さんを揶揄うネタも出てこなかったことに多少の落胆を覚え、どうやってこの場から抜け出そうかと考える。
「……それで、そろそろ出てきたらどうですか?」
暁人さんは整備室全体に聞こえるように言う。てっきり、わたくし達の事かと思いギクリと体を強張らせました。
(――違いますわね。この声は、わたくしたちに向けたものではありませんわ)
わたくしたちに向けた言葉なら敬語ではなく、もう少し砕けた言葉で言ってくるはずと思ったところに……いつの間にか――そこに立っていた。
(あ、あの人はッ!?)
そこには、整備室にいなかったはずの扇子をもった2年生がいた。……そして、整備室の空気が、わずかに
「あれは、IS学園生徒会長の更識楯無さんですわね」
「確か暁人の話だと、2年生で学園最強の人だよな……初めて見た」
「「……」」
……一夏さん、いま更識(姉)さんに見惚れてましたわね。一夏さんはお姉さんっぽい人でスタイルの良い方がタイプなのでしょうか?その様子に気付いた鈴音さんと箒さんは冷たい視線を向けているのを感じますわ。
「ん?更識って苗字は、もしかして……」
「まあ、珍しい苗字だし顔立ちも似ているから十中八九、更識簪とは姉妹よね」
「……不思議と更識妹とは親近感があるぞ」
「あー、束さんも色々できるからな……」
「苦労してんのね、あんたら……それにしても、『私の可愛い妹はどこの馬の骨とは分からない奴にやらないんだからね』……みたいな展開とかかしら?」
「……やっと出刃亀した甲斐が出てきましたわね」
多少の罪悪感と、これからの展開に期待をして私たちは2人の様子を見守る。
「こんにちは、楯無さん……先回りして整備室に潜んでいるのは、正直どうかと思いますよ」
暁人さんの声音は穏やかでした。ですが――わずかに、試すような響きが混じっている。
「いつもの軽口は必要ないわ……暁人くん、あなた何者なの?」
「「「………」」」
その一言で、空気が変わった。さっきまでの軽い空気が嘘のように、整備室の温度が一気に下がる。ラブコメ漫画的な軽いノリで後を付けるべきではなかったと、わたくし達は後悔しました。
「あなたのあの武器は一体なんなの?」
「……あの武器、とは?」
「とぼけないで」
間髪入れずに楯無さんは暁人さんの言葉を切り捨てました。
「アリーナの遮断シールドを貫通して、敵ISにダメージを与た試作レールガンのことよ。まるでああいう事態になる事が分かっていたかのような準備をしたわよね?」
言葉は淡々としているが、その一つ一つが『証拠』のように突きつけられる。楯無さんは、1歩距離を詰める。
「それに、あのレールガンは、ISの絶対防御を貫通して操縦者を傷つけることや……そのまま操縦者を殺すこともできる兵器よ」
「………」
「はっきり言って暁人くん、あなたは怪しいわ。IS操縦経験がないはずなのに、入学した当初から高いIS操縦技術や状況判断能力、それに加えて今回の襲撃事件の立ち回り」
楯無さんの目が細められ、視線が鋭く暁人さんに突き刺さる。
「全部が出来すぎているのよ……はっきり言うわ。あなた、スパイじゃないの?」
「……あのISは少なくとも俺のことは殺そうとしてましたよ。それを俺は両腕を怪我してまで無人機を倒しましたよ?」
暁人さんは淡々と返す。反論ではない。ただ、事実を置いただけの言葉でした。
「だからこそ怪しいとみることもできるわ。命を賭けて信頼を得る……スパイとしては、むしろ満点じゃない?答えなさい、暁人くん……あなたは――何者?」
「………」
楯無さんの言葉を受けて暁人さんは沈黙する。まさか、本当にスパイなのか?と考え始めた際に、暁人さんはほんの僅かに視線を落とし、どこかをチラリと見た。……その視線の意味を、わたくしは理解できませんでした。
そして――
――次の一言で。
「出来の悪い妹を持った気分はどうですか?」
空気が凍ったのを感じた。凍ったのは空気だけではない。思考すら、一瞬止まった。
(な、なにを言っているんですか、
~次回予告~
ダリル「この時のみんなの気持ちを代弁してやろうか?」
暁人「別にしなくていいっスよ」
ダリル「『自殺なら別のところでやってくれ』だ。あと、フォルテの口調真似すんな、殺すぞ」
暁人「こっわ、なんで定期的に他の人から殺意を向けられるんだろ」
ダリル「……半分は同情するけど、もう半分は自業自得だとオレは思うぞ?」
暁人「……だよなぁ」
次回、第21話:告白(後編)