今回のあらすじは織斑一夏が担当するぜ。
前回はシャルが転校して来てIS実習訓練をしたところだったな。
いやー、あの2人が一緒のグループにならなくて良かっ――あぶねぇ、レールガン撃ってきやがた!!しかもこれ非殺傷弾じゃないだろ!?
ふぅ、暁人からのいつものツッコミはさておき、改めて見るとシャルも結構迂闊な言動してたよなぁ……
2022年6月6日(月)
IS学園
屋上
「……どういうことだ」
「ん?」
昼休み、俺たちは昼食をとるため屋上にあるデーブルの1席にいた。
「あれ?一緒にご飯食べるって話じゃなかったか?」
「そうではなくてだな!」
箒が俺以外の面子に視線を向ける。俺と箒の他にはセシリア、
「ああ、運動した後の昼飯だしせっかくだから大勢で食った方がうまいだろう。それにシャルルは転校してきたばかりで右も左もわからないだろ?」
「そ、それはそうだが……」
「フンッ、抜け駆けしようとしたからよ」
ぐぬぬ……と、箒は何かを言いたげに拳を握りしめる。その箒の手元には手作りの弁当があった。
IS学園は全寮制なので基本的に生徒たち食堂で食事をする。しかし弁当を持参にしたい生徒もいるため早朝に家庭科実習室が使えるようになっており、今日の箒は弁当を作ってきたらしい。しかも俺の分まで作ってきてくれたようだ。
「はい一夏。アンタの分」
「物を投げるな物を……おお、酢豚だ!」
鈴も俺に弁当を作ってきてくれたらしい。やはり持つべきものは幼馴染だな。
「ええと、本当に僕が同席してもよかったのかな?」
俺の隣にいるシャルルが遠慮がちに言ってくる。
「いやいや、男同士仲良くしようぜ?分からない事があったら何でも聞いてくれ――IS以外で」
最後に締まらないのは我ながら情けない限りだけど、実際にシャルルの方がIS詳しいことはさっきの授業で分かっているからな。
「ありがとう。一夏って優しいね」
「い、いや、まあ……これくらい当然だよ」
笑顔でそんなことを言うシャルルに不意にドキッとさせられた。シャルルは男なのにこんな感情になるのはおかしいよな。
「せめて最後まで格好つけてください……まあ、ISについては暁人さんや今日の授業見る限りデュノアさんの方が詳しいでしょうが」
「あんたはもうちょっと勉強がんばんなさいよ」
「みんなに教わりながらやってるけど、やっぱり覚える事が多すぎるんだよ。お前らは入学前から予習してるから余裕なんだろけど」
「ええ、適性検査を受けた時期にもよりますが、遅くてもみんなジュニアスクールのうちに専門の学習を始めますわね……ですが、何事にも例外というものがありまして――」
「……ああ」
「急にこっち見て何なのよあんたら?」
俺とセシリアは会話をしながら鈴に視線を向けた。鈴は中学三年から勉強して約1年で専用機持ちの代表候補生になった例外で、更に言えば暁人は入学する1週間程度前からの勉強で授業についてきている。
同じ男子である暁人に出来たんだから俺にだって――と意気込んでいるが、あの量を1週間はやっぱり頭がおかしいと実感している。
しかも暁人は勉強だけではなく実力も俺達の中で一番ときたものだ。今は怪我して模擬戦に参加できないけど、暁人が参加し始めたらトータル勝率1位の鈴が2位に転落するのは目に浮かぶ。ちなみに2位がセシリア、3位が俺で4位が箒だ。
「それにしても……一夏さん、デュノアさんの部屋割りはもう決まったのかしら?」
「いや、まだどうか分からない。俺の部屋になるのか暁人の部屋になるのか……」
そんな話をしながら昼食に手を付ける……お、よく見たらセシリアもサンドイッチ用のバスケットを持参している。
「ん?セシリアも今日は自作の弁当なのか?」
「ええ、今朝は早く起きてしまい朝食までかなりの時間あいてしまいましてね……最近お弁当を作られる生徒も見かける事が多くなった事を思い出しましたので、この機会を機に初めてのお弁当に挑戦したのですわ」
「おお、セシリアらしい良い心がけだな」
「フフフ、お褒めにあずかり光栄ですわ。せっかくですので、おひとつどうですか?」
そういってセシリアはバスケットを開けて俺に差し出した。バスケットにはタマゴやBLTなどの複数の種類のサンドイッチが綺麗に敷き詰められていた。
セシリアの手料理か。初めて食べることになるな。せっかくだし頂くか。
…………なんだ?鈴は何故かセシリアがサンドイッチを手に取った瞬間にセシリアから離れたぞ。例の『直感』が働いたのか?……なんで?
ん?アーメン?鈴ってキリスト教徒だったけ?いや、なんで今俺に十字を切った?訳も分からずに俺はセシリアのサンドイッチを頬張――ぐああっ……無茶苦茶に甘いしバニラエッセンスを大量に入れた時の風味と苦みががが……なんだこれは、俺は何を食べているんだ!?
俺はふと、今回の昼食に暁人を誘った際の会話を思い出した。
『なんだ一夏?え、一緒に昼飯?別にいいぞ、最近はほーちゃんと簪さんと食べてたから、お前と一緒っていうのは久しぶりだからな。ちなみに聞くけど他に誰が来る?あ、ふーん、箒ちゃんに鈴音、シャルロ……ゲフンゲフン、シャルルに……え?セシリアもいる……場所は屋上?…………すまん、俺とほーちゃんは別のグループと食べる約束をしてた気がしたから、また今度な!!』
そう言って暁人は怪我人とは思えないスピードで走りのほほんさんを強引に連れてどこかに消えてしまった。
(
「……本当の事は早めに言った方が良いわよ?」
鈴、お前は分かっていたなら先に教えてくれ……なんで
「どうしました?」
「あ、ああ、いいんじゃないかな?……お、俺は好きだよ?」
「それはよかったですわ……さて、わたくしも――」
「「あ」」
俺と鈴が止める間もなくセシリアはパクリと自作のサンドイッチ(?)を口にして――完全に固まった。自分で作った人類未開の味を体験しフリーズしたか……
「……と、ところで箒、そろそろ俺の分の弁当をくれるとありがたいんだが――」
「………」
場の雰囲気に耐え切れず俺は話題を変えるように箒に話しかけた。……話しかけたのだが、箒は無言で弁当を差し出してきてこっちでも反応に困ってしまう。
箒とは部屋が分かれてから少しぎくしゃくというか、箒の方から避けられている。俺に対して怒っているという気持ちもあるっぽいけど、今のは専用機持ちの俺たちに対して何か思うことがあるといった感じか?
「じゃあ、早速……おお!」
箒が作った弁当を開けると鶏のから揚げ、卵焼き、ほうれん草のごま和えといった栄養のバランスが取れた色鮮やかな見るだけで楽しい弁当となっていた。
「これは凄いな!どれも手が込んでいて美味そうだ」
「つ、ついでだついで。あくまで自分で食べるために時間をかけただけだ」
「そうだとしても嬉しいぜ。箒、ありがとう」
いやー、しかしこうして食べる人の事を考えて作られたことが分かるごはんを頂けるのは素直に嬉しい。箒も先ほどの少し思いつめたような表情からどこか嬉しそうな表情となった。
俺はその変化を眺めつつ箒の作った唐揚げに手を付ける。
「じゃあ、まあ、いただきます……おお、うまい!」
箒の唐揚げはお弁当に適した濃いめの味だが、不思議と後味のしつこさがなくさっぱりとしていて食べ終わったらまた次が欲しくなるような唐揚げだった。
「これって結構仕込みに時間かかってないか?」
「味付けは生姜と醤油、おろしにんにく。隠し味には大根おろしが適量だな」
「本当にうまいな……箒、食べなくていいのか?」
俺が美味しそうに食べている姿に箒もニコニコと笑顔だった。うんうん、一生懸命作ったものを美味しく食べてもらえるのが分かるのは嬉しいよな。
「……失敗した分を全部自分で食べたからな」
「ん、どうした?」
「あ、いや、大丈夫だ。まあ、その、なんだ……おいしかったのならいい」
よく箒の言っていることが分からなかったが、せっかく自分で作った美味しい物を自分で食べられないのは不幸だと思い、俺は唐揚げを一口サイズに切り分け箸で持ち上げて箒の口元へと運ぶ。
「箒も食べて見ろよ、ほら」
「な、なに……」
「ほら、食ってみろって」
「うわぁあ!?」
なんだ?鈴が驚いたような声を上げたが……いったい何に驚いているんだろうか?
そして、セシリアは鈴の声にも反応を見せず依然とフリーズしたままだった。
「そ、そうか、それでは……」
そう言って箒は何故か緊張をしているような、嬉しいような不思議な表情で俺が切り分けた唐揚げを食べた。少しの間、唐揚げを味わいながら箒は何度も頷いて感想を口にした。
「いい……いいものだな」
「だろ?うまいよなぁ、この唐揚げ」
「……唐揚げに対してではないが――んん!いいものだ」
そうだよな、この唐揚げはうまいよな!
……なんで鈴は信じられないといった表情を俺と箒に向けているんだ?
「あ、これってもしかして日本ではカップルがするっていう『はい、あーん』っていうやつかな?仲睦まじいね」
シャルルは微笑みながらそんなことを言う。そしてその一言で鈴は抗議(?)の声を上げた。
「だ、誰がっ!なんでこいつらが仲がいいのよ!?こんなのずるいわよ!!」
なんでずるいと言われたのか、俺には分からず終いで昼食を終えた。
あ、フリーズしていたセシリアは何とか再起動を果たし、俺達4人からおかずを分けてもらい午後の授業を乗り切った。
2022年6月6日(月)
IS学園
学生寮 1025号室(一夏の自室)
「はぁー、今日も疲れたなー」
「お疲れさん」
「あはは……お疲れ様」
今日の分の授業が終わり夕食も食べ終えた男子三人はいったん俺の自室に集合していた。あ、シャルルは俺と同じ部屋となり、シャルルの自室でもあるんだったな。
食堂では大変だったな……三人目の男子で貴公子なシャルルは当然のごとく女子に囲まれて質問攻めにあった。そこを俺と暁人が「転校初日で疲れているだろうから」と助け船を出して俺の部屋に撤退をさせた。
今は食後の休憩を兼ねて俺が淹れた日本茶を飲んでいる。
「暁人……お前昼食の時に逃げただろ」
「さて、何のことやら」
暁人はしれっとすっとぼけながら渡したお茶を啜っていた。ははっ、こやつめ……いつかからなず仕返ししてやるぞ。
「ふぅー、しかし男同士っていいもんだな」
「……おい、女子の前では絶対に言うなよ」
「わかってるよ……もう『ウ=ス異本』はこりごりだ」
「……?何かなその『薄い本』って?」
「「知らなくていいよ、純粋な君のままでいてね」」
俺と暁人は遠い目をしながらシャルルに語り掛けた……シャルルは腐った女子の思想に触れないでくれ……
「う、うん……そ、それにしても日本茶って紅茶とは随分違うんだね。不思議な感じ」
「緑茶も紅茶も原料は一緒で、発酵のさせ方が違うだけなんだけどな」
「へぇー、そうなのか。暁人はこういった事も知ってるんだな」
「まあ、お嬢様……名家出身がいる生徒会に所属しているから自然とな」
「それだけでこんなに味が変わるんだね……でも美味しいよ」
お、シャルルは緑茶を気に入ったようだ。
「気に入ってもらえたようで何よりだ。今度機会があったら抹茶でも飲みに行こうぜ」
「抹茶ってあの畳の上で飲む奴だよね?特別な技能がいるって聞いたけど、ふたりは淹れられるの?」
「いや、俺も略式のしか飲んだことない……暁人は?」
「一応、点てられる……あー、本物の抹茶を淹れる事ができる」
「へー、流石名家のいる生徒会に入っているだけはある」
「いや、一夏それは関係ないし暁人に失礼だと思うよ?ひとえに暁人の努力の成果だよ」
「シャルル、ありがとな。そういえば、この間駅前に抹茶カフェ出来たって、ほーちゃんや女子たちが言っていたから行ってみるか?もちろん3人で」
ああ、あの抹茶カフェか。俺も気になってたんだよな。いやー、女子たちとの話す機会が多くなり共通の話題といえばグルメ――特にデザートとかおしゃれなカフェの話題が中心だ。
やはり、女子たちの噂の情報網は侮れないな……男の俺でも気になるグルメとかデザートの情報が山ほど出てくる。
「……意外だったよ」
「ん?」
「いや、その……僕はってきり暁人に嫌われちゃったんじゃないかと心配だったんだ」
そういえば昼間の暁人は結構シャルルに対して呆れたような表情やため息を吐くことが多かったな。夕食後にシャルと一緒に暁人を誘った所、二つ返事で了承されたのには俺も少し驚いた。
だけど、暁人は呆れたような言動をしつつもシャルルの事を気遣っているのが分かる。今だって茶を『点てる』をシャルルにも分かるように『淹れる』と言い直したからな。
「あー、別に他意はないんだ……ないんだけど、シャルルは『男性』操縦者としての自覚が足りなんじゃないか?」
ん?なんだ、暁人が含みのある言い方をした気がする。
「ウッ、そ、そんな、ことは」
「まあまあ、急にIS使えるようになってIS学園に強制入学させられて、理解とか実感が追い付いていないんだろ」
「そ、そうなんだよ!」
……シャルルは変なタイミングで人の話に乗っかてくるな?
「そういえば一夏と暁人は放課後にISの特訓をしているって聞いたけど、そうなの?」
「ああ、俺は他のみんなから遅れてるからなぁ……放課後は必ず訓練して地道にがんばってる」
「俺はこの怪我もあって最近は不参加だけど……まあ、こいつらのコーチとして見に行って色々口を出してる」
暁人は俺たちに見せるつもりはないだろうけど、腕の感覚を確認するのに手をグッ、パーと開いたり閉じたりと繰り返す。
腕に巻いてある補強バンテージが包帯のように見えて痛々しい。
「その特訓に僕も加わっていいかな?専用機もあるから役に立てると思うんだ」
「おお、ぜひ頼む!暁人もそれでいいよな?」
「ああ、俺もいいぞ」
「うん、任せて!」
そんな約束をしながら、シャルルが転校してきた初日は終わった。
「それにしても、なんで男子3人一緒の部屋じゃないんだ?もう3人とも一緒の方が何かと都合良いだろ?」
「……政府や学園上層部などの上にいると思っている奴らの考える事なんて分からんさ」
「はあ?」
「……僕は男子2人と一緒より、まだ1人と一緒の方が安心できるかなって」
「え?」
「……シャルルは初対面の俺達は、まだ緊張するって事だろ」
「う、うん!ほら、僕はまだ転校初日だからさ、こう色々とね!ははっ」
「……本当に気を付けろよ男装女子ィ」
「???」
まあ、とにかく今日もIS学園は平和で終わった。
2022年6月7日(火)
IS学園
1年1組の教室
シャルルが転校してきた次の日、1年1組の教室内は困惑の空気で満ちていた。
「「「………」」」
「えーと、今日も嬉しいお知らせがあります。また1人クラスにお友達が増えました」
何故なら、2日連続で転校生がこのクラスにやって来たからだ。
山田先生は困った様子で転校生の紹介を始める。
「ドイツから来た転校生のラウラ・ボーデヴィッヒさんです」
「………」
腰まで伸びる長く輝く銀髪に白い肌、左目につける眼帯……そして山田先生から紹介をされても反応せずに目を閉じたたまま何も言わない。今日の転校生は昨日のシャルルとは何もかも対照的だった。
~次回予告~
楯無「やっほー、久しぶりね、昼食から逃げた暁人くん。語感が良いわねこれ」
暁人「あ、どうも、長期間妹から逃げていた楯無さん」
楯無&暁人「「………」」
楯無「あの戦争だと結局戦えずじまいだったから、ここで決着つけましょうか?」
暁人「いいですよ、俺の部下にボコボコにされてロシアに逃げ帰った人がどこまで戦えるのが試しますか」
楯無「……『アレ』ってあなたの部下だったの?」
暁人「厳密には違いますかね……しかし『アレ』呼ばわりはひどいですね?一応『アレ』でも人類ですよ?」
楯無「そういうならあなたも『アレ』呼ばわりはやめなさいよ」
次回、26話:転校生は問題児!?