今回チャーハンによる犠牲者は出ませんのでご安心を。
──加古隊・訓練室──
「韋駄天!」
「うおっ、はやぁっ!」
俺は戦闘開始五秒で戦闘不能になった。
訓練室から出ると、双葉が勝ち誇った笑みを浮かべ、部屋の前に立っていた。普段そんな顔に感情を出さないため、そんな表情するんだとか少し可愛いなとか思ったのは内緒。
モニターに視線をやるとそこには俺と双葉の名前が表示されていた。
蓮:十戦六勝四敗
双葉:十戦四勝六敗
結果だけを見れば俺が勝っているが、双葉からすれば快勝である。双葉はこれまで俺に十本勝負で二勝が限界だった。そして今日、俺は双葉に四回負けた。
正直に言うと、とても驚いている。加古隊に入ってから意識が変わったのか、防衛任務や戦闘訓練に対する意欲が上がったと隊長の加古さんからよく聞く。
まだ隊に入ってから一か月しか経ってないので、実力としてはまだまだ周りのA級には劣るものの、それでも少しづつだが確実に実力を伸ばしてきている。
これは俺も頑張らないとなと考えた。
「それにしても、さっきの初めて見たぞ。韋駄天、だっけか?」
「そうよ、私専用に作ったの」
まさかの回答に驚く、自分専用の試作トリガーを作ってしまうとは。
試作トリガーは、A級隊員のみ作ることのできる物で、かといって全員が何かしら持っているわけでは無い。ちなみに俺は自分専用のトリガーを持っている。
「実はこれ、昨日完成したばかりで、早速試してみたくて……その、どうだった?」
「そりゃぁもう強いだろこれ、一対一でも多対一でも活躍することが出来ると……双葉どうした?」
〈韋駄天〉について熱く語り始めると、双葉が顔を背けた。どうしたんだと思い顔を覗きこむと、頬がとっても紅くなっていた。
「だめ、今こっち見ないで」
消え入りそうな小さな声が双葉の口から出てきた。なんなら最後の方は聞こえなかった。
何故か見ているこっちまで恥ずかしくなり顔を背ける。
お互いが黙ってしまい、何を話せばいいのか分からなくなってしまう。
この状況をどうしようか考えたいのに頭が働いてくれない。
「あらあら、双葉は自分で考案した試作を褒められて嬉しいのね」
そんな時、加古隊のキッチンから隊長の加古さんがひょこっと顔を出した。双葉の事で頭がいっぱいになって忘れてた。
「こ、これ双葉が自分で考えたやつなのか?」
「……うん」
俺が驚いて問いかけると、恥じらうように顔を背けながらこくりと頷く。
「本当にすごいよ。双葉は」
一か月でこんなに高性能な試作トリガーを作れることに感心した俺は、心の中で負けてられないなと思うのだった。
「それじゃあ二人とも、お昼にしましょうか」
タイミングよく出てきてくれた加古さんに心の中で感謝を述べる。
よく見ると、テーブルにはチャーハンが三人分並んでいた。隊長であり双葉を誘った張本人である彼女は、チャーハンを作るのが好きである。普通に作ればとてもおいしいのだが、本人には抗えない好奇心があるようで、チャーハンを作る際にはよく作るのに必要ないだろと思う物を混ぜている。
そしてそのチャーハンは、ボーダー内にて何人もの被害者を出している。
とある髭を生やした大学のレポートを全く出さない人はこう述べている。
「あ、あのチャーハンの事か? 味なんて覚えてねーぞ。ありゃ一口入れた瞬間に意識が飛ぶからな」
という感想があるように、加古さんの気分次第で被害者が出る。
幸か不幸か、山で育った双葉と蓮の二人にはそれらは普通のチャーハンと変わらず食べることが出来る。
お互い気まずいのか、黙々とチャーハンを食べる。もちろん味など分かるはずもないので、オイシイデスネーと感想が片言になってしまう。
早く食べ終わってこの状況から逃げ出したい。と心の中で叫んでいた蓮だったが、その思考は一瞬で吹き飛ばされることになる。
「……んっ!?」
ふと肩にかかるふわっとした感触。そして香る甘い匂い。
蓮の思考は止まった。自分の隣には誰が座っていた?
答えはとても簡単。そう、双葉である。
目の前の加古さんに助けを求める形で視線を送る。が、彼女の手にはスマホが握られており、カメラがこちらを向いていた。レンズと目が合ったと錯覚するのと同時にパシャっとスマホから写真を撮るときに鳴る音がした。
全ての状況に追いつけない蓮。
今理解できているのは肩に乗っかる程よい重みと、サムズアップする加古望。
「いやいや、なにしてんですか。助けてくださいよ」
大きな声で突っ込みそうになったが、何とか声を抑えて話した。
そんな必死そうな連に向けて加古は。
「あなた達、最高よ。私は応援してるわ。頑張ってね」
と告げてそのまま隊室を出ていった。そう、出ていったのである。
あの人何考えてるんだ。と心の中で叫ぶ蓮であった。
余談だが、加古は部屋を出る際。扉前にただいま作戦会議中、お腹が空いててチャーハンを食べたい人は良いわよ。という張り紙を貼って行ったのだとか。
もしかして本人すごいチャーハン作ってる自覚ある……?
隊室の前を通る人皆がそう思った。
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