「俺はどうしたらいいんだ……」
俺は今とても困っている。なぜかって? それはこの状況を客観的に見れば直ぐに分かるさ。
──自分の肩に好きな子が頭をのっけて眠っている──
どんな状況だよ分かるかぁ! むりむりむり、死ぬ、死んじゃうよ?
今心臓の音凄いよ、バクバク鳴ってるよ張り裂けそうだよっ!
一応声を出さないように気を付ける。だって出したら双葉起きちゃうし、なんなら起こす自信しかない……それ以前に自分の心音で起きちゃわないかとても心配です。
「あー、ほんとにどうしよぉ」
ボソッと呟き、天井を見上げる。現実から少しでも逃げなければ。
逃げようとしたのがいけなかったのか、現実を受け入れなければならなかったのだろう。
「うーん、あれ」
現実逃避したのがいけなかったのか……双葉が目を覚ました。
あ、だめだこれ終わった。この状況に気が付いたら嫌われるに違いない。
な、なんて言い訳しよう……
双葉と目が合う。まだ寝ぼけてるのか、半分開いた瞳。
彼女は支えを得るためか、俺の胸に手を乗っけた。顔が近い。
少しうるんだそれに顔がぼやけて映る。自分がどんな顔をしているのかまでは分からない。ただただ心臓の鼓動が、どくどくと耳に届いてくるだけ。
どれくらい経ったか、実際は数秒かもしれないが数時間にも感じるその瞬間。
「……あれ、まだつづいてるの?」
双葉が口を開いた。寝起きで呂律の回らない様子は、普段の彼女からは想像もつかない。
その姿を見て、俺の心臓は更に早鐘を打つ。このままでは本当に破裂してしまう。刺激が強すぎる。なんて破壊力なのだろう。
……まった、今続いてるって言ったか? 何のこと?
「ふ、双葉? 続いえええぇ」
「んぅー」
何のことか聞こうとすると、瞳を閉じた双葉はそのままもたれかかってきた。
胸に置かれていた腕から力が抜け、支えを無くした双葉は重力に従ってそのまま落ちる。
俺は咄嗟に彼女の肩を掴んで落ちないように抱き寄せた。つまり抱きしめているようなものだ。
ごめんちょっと状況が良く分からない。とりあえず俺死ぬってことでいいのかな? あってる?
……だめだ落ち着け、落ち着くんだ俺。こういった時こそ冷静さは大事だ。何か別の事を考えよう。
めっちゃ良い匂いするな。肩柔らかー。髪の毛触りたい、もふもふしたい。
「……よし」
何が良しじゃぁ⁉ 双葉の事しか考えてないぞ俺っ!
仕方ないだろ。だって相手は双葉だぞ、好きな人なんだぞ!
誰に向かって言ってるんだ俺……とにかく早くどうにかしないと。
さっきの発言からするに、双葉は今の状況を夢と思っているに違いない。でなきゃこんなことしないだろうし。
一体どんな夢を見てるのかな。こうも遠慮なくくっ付いてくるって事は、双葉の好きな相手でも出てきてるのかな。
きゅっと胸が締め付けられる感覚に襲われる。嫉妬かよ、笑えるな。
双葉が選んだ相手なら、邪魔なんかしちゃいけない。加古隊に入ると言った時みたいに、背中を押して応援するべきだ。
それに、俺が選ばれるはずがない。こんな頼りないやつ、俺なら選ばないだろう。
昔の嫌な記憶がちらつく。自己嫌悪は良くない。
俺のすべきことは、彼女を陰ながら見守る事。幼いころ、彼女の存在があったからこそ、俺は今こうして生きていられるんだ。少しでも恩返ししないとな。
でも今は、もう少しこの時間が続くことを望んでもいいだろうか。
そして願わくば、彼女の選ぶ相手が、己でありますように……
それからしばらくの間、隊室の中に小さな寝息が二つ。静かに反響していた。