追記
加筆しました。
第一話 BETA来襲
地球と月の重力が均衡となる場所、ラグランジュポイント。そこには宇宙開発競争が始まって以来躍進を続けるある企業の大型宇宙港があった。宇宙港の入り口には大きく「秋津島開発」と文字が書かれているが、それは無論彼らのことだ。
「んー、地球を見ながら飲むお茶は美味いな…」
「それ一杯で幾らするんだか」
秋津島開発の社長が青い宝石と称される地球を窓から見ながらパックに入った緑茶を啜っていたが、それを秘書が冗談交じりに冷やかした。
「やめろやめろ、味が分からなくなる」
月面基地の建設もひと段落し、連日行われていた物資輸送も維持管理用の物資に絞られたことで行き交う宇宙船の数も落ち着きを取り戻した。それでも拡張されたばかりで使い勝手に慣れない各所の宇宙港は平時の業務でも大変そうなようだが、うれしい悲鳴というヤツだ。
「イカロス1建造用の大型MMU、ウチのが採用されそうですね」
「だろぉ?」
太陽系の外を観測するという人類の夢を載せた無人探索機建造は遅れに遅れていた、その対策としてMMU、つまるところ作業機械の更新と大型化が承認されたのだ。
世界中の資本が集まる宇宙開発事業は様々な技術革新を起こし、宇宙に飛び立ったばかりの頃と比べると人類は遥かに進歩していた。
「高速で飛来するデブリをものともしない新素材、太陽からの電磁波を受けても動作する各種センサ、思考を読み取ることで動作の柔軟性を格段に向上させた操縦系統…会心の出来だったからな!」
「ウチのだけ頭一つ抜けてましたね、米国の連中ぽかんとしてましたよ」
「してやったりだな、まあスーパーカーボンは完全に先を越されたが…」
思考制御を行うという観点から人型にせざるを得なかったが、それでも十二分な性能を発揮してくれた。無重力で重心把握に慣れた宇宙飛行士であればこの機体への習熟訓練は短くて済むことが分かっており、テストパイロットに困らないためか開発はスムーズに進行中だ。
「宇宙軍の連中もウチのMMU、欲しがってるみたいですよ」
「軍用か、彼らにはもしもの時に宇宙人と戦ってもらう必要があるしなぁ…」
実をいうと目の前に浮かぶ地球では核兵器まで使用された第二次世界大戦が終わったばかりであり、宇宙開発で湧く裏側には政治的な思惑も大いにある。
それでも人類の進歩に直結する計画に参加できていることは名誉なことだ、このまま争いが起こらないほど広大な土地と資源が手に入れば良いのだが…
「宇宙人っていうとアレですか、火星で見つかったヤツ」
「探査機が壊れなきゃあ色々と分かっていたのかもな」
人間と何処か似ているような風貌の宇宙生物が一瞬映っていたその映像は、宇宙開発を行うもの達の間で密かに話題になっていた。
ー
あれから5年、何やら火星の宇宙人に関して研究が進められていた頃のこと。
月面で火星同様の生命体と遭遇、結果死者が出てしまった。
「…は?」
「で、ですから!宇宙生物が人を襲ったんです!」
「べ、BETAじゃんか、サクロボスコ事件ってことじゃん」
「そうです、サクロボスコクレーターで発生した事件でして…」
その時思い出したのだ、この世界へと来た経緯を。
クソッタレな現実を直視せざるを得ない知識と共に。
『君さ、夢のある仕事好き?』
「ええ、まあ…」
自分は死んだ後、訳あって死後の世界に留まっていた。目の前の白いとしか形容出来ない神を名乗る人物に転生することが告げられていたからだ。
『ならさ、あいとゆうきのおとぎばなしとかは?』
「いや何をおっしゃっているのかさっぱりでして」
神はニヤリと笑い、何かを投げ渡して来た。それは光り輝いており、触っても重さは感じなかった。確かにそこには存在する筈なのだが、重さという概念を持っていないかのような感覚だ。
『それは君が世界の流れを変えるための力』
「は、はぁ」
『戦う相手はBETAだけじゃない、頑張ってね』
「ちょっ!?BETAってまさかあの…」
記憶はここまでだ、それ以降は転生時の会話を忘れて知識チートで楽しく人生を謳歌していた先程までの自分が鮮明に思い出せる。馬鹿みたいだ、このままでは頑張って作り上げた月面基地が陥落してしまう。
だが打てる手はある、思い出していなかったにしろ過去の自分が行なって来たことは無駄ではなかったのだから。
「開発班を呼べ、怪物退治には武器がいる」