宇宙開発企業なんですけど!?   作:明田川

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祝100話達成


第八十五話 捕獲作戦と後遺症と

「出発まで時間がない、今のうちに改めて作戦内容を説明するぞ」

 

宇宙港の会議室には多くの人員が詰め寄せており、皆が宇宙服のままブリーフィングを受けていた。秋津島の社員が大多数を占めているが、国連軍の姿もある。

 

「我々は準備が出来次第直ちに出発、月へと向かう」

 

大型艦の大推力エンジンやHSSTに取り付けられた追加ブースターであれば、月への到達は難しくない。BETAとの戦争が始まる前には月との往来能力は条約により制限されていたが、それはもう効力を失っている。

 

「その後月の軌道を回り方向転換、着陸ユニットを背後から追いかけて速度を合わせる」

 

宇宙空間で何かしらの作業をする場合、相対速度を合わせなければ危険極まりない。雑な言い方をすると、艦隊が着陸ユニットに向きと速度さえ合わせてしまえば止まっているのと同じになる。

 

「その後軌道変更装置を射出、落下軌道から周回軌道にまで敵ユニットを移動させる」

 

宇宙港より外側に位置する周回軌道に着陸ユニットを誘導、落下の危険性を無くしてから本格的な調査を始めるというわけだ。

 

「目標の軌道には着陸ユニットを確保するための設備と工作艦二隻が待機している、そこまで送り届ければ後は待機だ」

 

何事もなければ、ただ単に作業をしたのみで終わる。だがそうとは思えないからこそ戦力が掻き集められたのであり、油断は出来ない。

 

「国連軍からは彗星改のアーミータイプが二個小隊参戦して下さる、我々には純粋な戦闘用が流星の一個分隊しか居ないことを考えると破格の戦力だ」

 

 

【挿絵表示】

 

 

テロの過激化を警戒した国連軍からの要請により再設計された彗星改は、既にかなりの数が宇宙港で運用されていた。あくまで彗星改のバリエーション機という位置付けのため固有の名称は無いが、社長の発案によりゲートキーパーという愛称が付けられていた。

 

「軌道の変更に失敗した場合、軌道上で待機していた国連宇宙軍の艦隊により核弾頭の投射が行われる。この際我々が充分な退避を行える保証は無い、スペースワンでの迎撃を放棄している以上ギリギリの攻撃になるからだ」

 

既にこのことは周知されていたが、改めて告げられようと誰も狼狽えることはない。G元素が有ればBETAとの戦争が早く終わって犠牲が減る、それに戦後の宇宙開発では自分達がトップを走れるという野心もあった。

 

「捕獲用の装備は暴走事件の影響もあって余裕がない。本来なら国連軍の艦隊も捕獲作業に参加して下さる手筈だったが、我々だけでやるしか無くなった」

 

宇宙港の建て直しと新造計画の発動、衛星網の復旧、大量にばら撒かれたデブリの処理など面倒ごとが山積みになったのは、捕獲作戦に対して大きな悪影響を与えていた。

 

「…燃料の充填作業があと5分で終わるか。ブリーフィングはここで終わりだ、各員持ち場に戻ってくれ!」

 

暴走事件が無ければ倍の戦力が確保出来ていた筈だ。もしも事件の首謀者がここまで読んでいたとすれば、恐らく未来人か予知能力者だろうと説明していた幹部は唸った。

 

 

「慣れないな」

 

戦術機のパイロットスーツである強化装備の上に専用の宇宙服を重ね着した男性は、操縦席で腕を組んで待機していた。

 

『ダンデライオンとは勝手が違いますか?』

 

機体に搭載されたAIがそう聞くが、手をひらひらと振って否定する。

 

「いや、そういう訳じゃあない」

 

戦艦を改造して作られたMMU母艦の一隻に流星は搭載されており、その中には一人の衛士が乗り込んでいた。周囲で行われていた殆どの作業は遅滞なく終わり、最終チェックと共に船が出航準備を進めていた。

 

「今回は港から遠すぎる、推進剤の量も考えれば艦載機だけで帰還するのは不可能だ」

 

『前は生き残りました、今回もきっとそうなります』

 

若干ネガティブな思考に陥った彼をAIが無理矢理励ました。ディスプレイにはSPFSSの文字があり、AIも最新型に更新されていることが見て取れる。

 

「…ああ、そうかもな」

 

彼は暴走事件の際にダンデライオンでML機関の確保と核弾頭の観測を行なった宇宙港の英雄であり、機体を失っていたところを救助され生還していた。

 

『リハビリは無事終わりました、この機体に乗るのは貴方が相応しいと伝えられている筈です』

 

「ありがとう、そう気を使うなよ」

 

『僚機も心配していましたから』

 

もう一機の流星に乗るのは事件の際に超電磁砲による迎撃を成功させた凄腕の射撃手だ、無口な奴だが腕は確かなのは訓練を通じて彼も知っているだろう。

 

「アイツがか、悪いことをしたな」

 

『はい、気は紛れましたか?』

 

「紛れたよ、助かった」

 

鈍っていた脳波も元に戻り、思考制御の感度が回復する。ペダルと操縦桿を傾ければ各部の推力偏向ノズルが細やかに動き、宇宙での姿勢制御の様子が脳裏に浮かぶ。

 

『今の回避パターンは教本とカリキュラムには有りませんが』

 

「要塞級の鞭を避ける時の回避機動、昔シミュレータで叩き込まれた」

 

元衛士だと言ったろと言う彼だが、AIは今も戦術機に乗っているだろうと返す。作業を行なっていたMMUが格納庫から離れ始め、皆に見送られながら船は港を出ようとエンジンに火を入れた。

 

『じゅんよう出航、続いてひようも出ます』

 

宇宙港の管制塔からの通信が船体に響いた。

秋津島開発が保有する大型船を改造して作られた母艦は帝国海軍から名を借りており、船体には大きく艦名が平仮名でプリントされている。

 

『艦載機に問題なし、加速を行うため指定区域の作業員は退避せよ』

 

『艦隊データリンク強度問題なし、レーダーに接近するデブリ群確認出来ず』

 

今回使用する航路上に危険なデブリは無い、最後まで回収と捜索に当たってくれた工作艦も既に退避中とのことだ。

 

「久しぶりの大舞台だな、次は漂流しないことを祈る」

 

『しませんよ、貴方なら』

 

改造艦という特性からか、普段より大きな揺れが機体を襲う。デブリの雨と比べれば小雨もいいとこだと彼は思いつつ、長い待機時間を潰すために音楽の再生をAIに頼むことにした。




完結まであと100話必要かもなと感じるほど、偉大なる原作の年表は続いております。マジでどうしようかな…

設定画の作成やらこれから先の展開に向けてのプロット作成など色々とやることが多いので、更新頻度は落ちると思われます。完結まで行きたいと考えていますので、良ければこれからもよろしくお願いします。

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