宇宙開発企業なんですけど!?   作:明田川

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第八十六話 軌道変更

BETAが月から送り込んで来た着陸ユニットと相対速度を合わせた宇宙艦隊は、作戦の第一段階を始めようとしていた。

 

「軌道変更ユニット順次射出、制動距離に注意しろ」

 

 

【挿絵表示】

 

 

コンテナを背負った宇宙船から打ち出されるのは円柱に足が生えたような無人機群であり、彼らが取り付くのは目標の前方だ。

 

「ユニット1〜6、7〜12が固定完了、現在連携取りつつ角度調整中」

 

「ユニット17から応答なし、全コマンドを受け付けません」

 

「通信系のトラブルか、衝突を警戒しろ」

 

重量が多ければ着陸の難易度が上がってしまうが、軽くすればエンジンの推力も燃料の搭載量も減ってしまう。その二択で小さく軽くする方を選んだ開発陣は少ない推力を数で補うというアイデアを中心に制作を推し進め、全ての軌道変更ユニットが柔軟に連携して稼働するという一つの群体として完成させたのだ。

 

「衝突経路に船舶無し」

 

「内部機器が生きているのならスタンドアローンで減速し始める筈だ、放っておくぞ」

 

過酷な宇宙空間において故障は付きもの、どうしてもこの手のリスクは避けられない。しかし群体として構成された軌道変更ユニットは一機や二機失ったところで問題なく稼働する、織り込み済みというわけだ。

 

「故障率は3%…いえ4%、問題なく運用可能です」

 

「第一次噴射で目標の速度を落とす、我々も速度を合わせるから追い抜くなよ!」

 

あと20時間後には地球に到達していた筈の着陸ユニットは大きく速度を緩め、船団は予定より少しだけ短いが2日の猶予を得る事が出来た。減速の瞬間に何か動きがあるかと警戒していたが、目標からの反応は何も無い。

 

「…何も示さないな」

 

「減速終了、このまま予定通り軌道への投入を試みます」

 

武装を持つ船は砲身を目標へと向けていたが、軌道変更ユニットの青い噴射炎がレンズに映るのみだ。拍子抜けするほどに動きはなく、報告を受けた宇宙港の面々もかえって不安なようだ。

 

『月のBETAに動きはない、我々の動きを感知していないのかもしれない』

 

宇宙港からの回答は何も分からないというのと同義のものだ。BETAの生態が知られていないのが原因であるので責めることは出来ないのだが、なんとも頼りない。

 

「BETA間での通信は行われないのか、それとも地上に辿り着くまで休眠状態なのか…」

 

「何もかも不明ですが好都合なのは確かです、今のうちに簡易的な内部調査を行いましょう」

 

「…刺激する可能性もクソも無いか、軌道変更ユニットの振動でピクリともせんのだからな」

 

戦艦ではなく巡洋艦を改造して作られたMMU母艦から旅立つのは最も普及しているMMUこと彗星改であり、その手には見慣れない装置が握られていた。

 

「今のうちに目標外殻のサンプル回収、振動とレーダーによる内部調査を行う」

 

この先地球の近くで目標が活性化した場合、軌道上での捕獲と調査を行えない可能性がある。そのため今のうちに最低限の調査を終わらせておかなければ、得るものが何も無くなってしまう。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「了解、作業を開始します!」

 

数機の彗星改が目標に着陸し、すぐさま機器の設置を始めた。内部の透視には複数箇所からの多角的な情報が必要だが、その分精度は高い。

 

「…これは結晶でしょうか」

 

「恐らく結晶化したG元素だ、重力異常も何も無いということは非常に安定しているようだな」

 

内部には大量のG元素が結晶となって収まっていることが分かったが、それは全体の2割にしか満たない量だ。それ以外はというと、なんとも奇妙な物質であることが分かった。

 

「粘度の高い液体?」

 

「有機物のようです、一定の周期で流動しています」

 

内側を満たすのは大量の有機物、それも液体状だ。その正体が何なのかと彼らは頭を捻ったが、BETAの内の一種を思い出した。

 

「要塞級のBETA運搬能力を思い出しませんか、体内から液状のBETAを排出するあの特性です」

 

「…つまりアレの中にはBETAの原料がありったけ詰め込まれている、そう言うわけだな?」

 

「はい。例えるならば変態を終える前の蛹のように、とでも言うべきでしょうか」

 

確かにBETAが本来の形のまま詰め込まれていたとして、多少緩められたとしても十分に大きい着陸時の衝撃には耐えられないだろう。しかしまだ形を成さない液体の状態であれば話は違う、なんとも合理的な話だ。

 

「参ったな、この量の液体を軌道上で処理出来ないぞ」

 

「空の燃料タンクをありったけ手配…いえ、それでも足りませんね」

 

「研究用の資料としてこの上ない物体だぞ、オルタネイティヴ計画を擁する国連が欲しがらない訳がない」

 

どうしたものかと考え始める艦隊の頭脳達だったが、現場は指示通りに作業を進めていた。その結果、G元素の密度が高い場所のすぐそばに何も満たされていない空の空間を発見したのだ。

 

「奇妙な空間があると中心を調査していた機体が言っていますが」

 

「…ここだけ何も詰め込まれていないとは、何かあるな」

 

「減速に使用するBETAの重力制御機関でしょうか、G元素を持つ彼らがML機関を持たない保証は何一つありません」

 

減速を成功させたことで時間はある、今は調査を進めつつ軌道上の受け入れ態勢が整うのを待つだけだ。

 

しかし彼らにとって一つだけ誤算があった。BETAが強い反応を示す物体を主機関として採用した試作艦が、少し離れた軌道上に存在するということだ。原作において大量のBETAが人類を無視して一斉に群がったML機関という存在は、今最も居てはいけない場に待機していた。




ユニット内部は私の妄想です。

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