宇宙開発企業なんですけど!?   作:明田川

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第八十九話 断絶

「宇宙港はブロック構造になっていて、各区画の接合部を弄れば簡単に取り外せる」

 

「それで通信区画を丸ごと切り離し、宇宙港とネットワークを切り離すわけですか」

 

物騒な計画を立てるのは社長であり、非常用の工具を纏めて引っ張り出して来ていた。

 

「タイムリミットは一日だ、捕獲した着陸ユニットが試作艦の近くまで来たらどうなるか分からん」

 

宇宙服の背中に作業用の追加装備を接続し、推進器の調子を確かめる。全ての隔壁が開かれたことを逆手に取り、非常口から最短ルートで船から脱出する。

 

「外骨格が移動可能な通路は現在手動にて閉鎖中、船はお任せください」

 

「悪いが頼んだぞ、俺達は船と繋がる通信ケーブルを切断できないか試してみる」

 

「社長こそ無理をなさらず、本当ならここに居て欲しいものですが…そうも言えませんか」

 

「この船と宇宙港の構造を丸暗記してるのは俺くらいだ、全人類と一人を天秤に載せる気か?」

 

解体用のプラズマカッターの出力を調整し、安全装置をかける。全ての通路が開放されているため、司令室から艦外への脱出も容易だ。細い人間用の通路を選べば外骨格には襲われない。

 

「艦載機があれば楽になるんだがな」

 

「作業用の追加装備があっただけマシですよ、それに細かい作業は難しくないですか?」

 

「36mmがありゃチマチマ溶断しなくていいだろ、ぶっ放せば終わる」

 

「乱暴にも程がありますよ!?」

 

数人の社員を引き連れ、ハッチから出る。手動での操作が必要なエアロックが閉じたままだったことで空気が失われていないのは有り難い話だった。

 

「今後の復旧のためには通信区画を破壊するのは悪手だが、この場で即座に切り離せるならやった方が良い状況なんでな」

 

「確かに一刻も早く止めないと、今後の経営戦略に大きく響きますね」

 

「いやもう終わりだろ、秋津島放送の信頼性は宇宙から一気に地にまで落ちたぞ」

 

解決したとしても、どう弁明しようか悩むところだ。

 

「まあ…今は動かないとな、というか動いて後のことを忘れたい」

 

いざ宇宙服を着て外に出ると、宇宙港の大きさに圧倒される。作業員の精神的な負荷を抑えるためMMUでの作業が推奨される理由が少し分かった気がする、18mの巨人として物を見ないとスケール感が狂いそうだ。

 

「こんな風に作業するのはいつぶりだろうな、BETAが来る前に遊んだのが最後か?」

 

「懐かしい話ですね、社員旅行は月でしたっけ」

 

「また行けるのは何年後になるか分からんな、結局気持ちが落ち込むじゃあないか」

 

宇宙港に入るために最寄りのハッチを開けようとするが、やはり開かない。仲間に目配せをした後、爆薬を設置した。

 

「加圧されている区画にも無理矢理侵入する、扉が弾け飛ぶぞ」

 

「人が居たらどうするんですか」

 

「居住区画以外は宇宙服の着用が義務付けられている、それに部屋の扉を閉じていれば問題ない」

 

「…もしもがあれば恨まれますよ」

 

「責任は取るしかないさ、開けるぞ!」

 

爆薬が時間通りに起爆、振動を伝えるものがない宇宙では閃光だけがその威力を伝えてくれる。少し遅れてしがみついていた宇宙港の外壁が揺れ、何かが軋む音と共に、空気が抜けていく。

 

「最短距離を突っ切るぞ、突入だ」

 

 

宇宙港との通信が途切れた捕獲艦隊は、予定通り目標を運び続けても良いのかということで意見が割れていた。

 

「明らかな非常事態だ、最悪の場合我々は地球防衛のための核攻撃を受ける羽目になる」

 

「衛星との通信が復旧すれば事態も分かるでしょうが、長距離通信だけが死ぬとは怪しいですからな」

 

決断を下そうにも推進剤は有限だ、何か行動を起こせば起こした分だけ取れる手段は少なくなっていく。

 

「…目標を減速させ到着時刻を遅らせ、宇宙港へ向けて伝令を走らせるというのはどうかね」

 

「堅実ですな。辿り着くまでに時間はかかりますが、それが最も確実でしょう」

 

「決まりですね、駆逐艦とMMU一機を向かわせましょう」

 

比較的燃料に余裕がある大型艦艇から一隻のHSSTは補給を受け、加速のための準備を始めた。船体の背に乗せていた軌道変更ユニットのコンテナは取り外され、その代わりMMUが相乗りするため持ち手が展開された。

 

「機体はどうしますか」

 

「流星を向かわせてくれ、最悪の場合戦える機体の方が良いだろう」

 

流星の背には120mm無反動砲や36mm低反動砲といった物騒な兵器が搭載され、載せられるものは全て載せたと言っていい重武装だ。

 

「…こんな状況になっても社長殿からの一報が無いというのが1番恐ろしくてね、無線が通じないと分かれば矢文の一つでも飛んで来そうなものだが」

 

「あり得ますな、鏑矢は宇宙では鳴りませんし見落としているのやも」

 

不可解な状況であることには変わりはないが、ちょっとした冗談でも言わねば狭い艦橋が更に窮屈に感じてしまう。限りある推進剤を使って艦隊が減速する中、想いを託されたHSSTと流星は加速を始めるのだった。

 




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