宇宙開発企業なんですけど!?   作:明田川

107 / 188
第九十二話 さらば中枢

「メインコンピュータを諦めるって、本気ですか!?」

 

「動かせる戦力があるなら安牌を取る、サブでの書き換えはリスクが高いからな」

 

隔離されているサブコンピュータを汚染されている方に繋げば、流れ込んだウィルスに侵される危険性があるのは当たり前のことだ。

 

「流星の120mm砲に徹甲榴弾を装填させて重要区画、所謂バイタルパートの装甲をブチ抜く」

 

「ですが外から攻撃するには中枢に達するまでの間にある構造物が邪魔ですよ、幾らなんでも砲弾が貫通し切るとは思えませんが」

 

「通信区画の切り離しはもう終わるから、その後は人を送って砲弾が通過する場所を作る。隔壁の操作とプラズマカッターで一直線に穴を開けるわけだな」

 

そうすれば120mmの砲弾は重要区画の装甲を貫通し、メインコンピュータのある部屋で炸薬のエネルギーを解放させる筈だ。爆発は隣接する冷却区画との通路を開放しておくことで圧力を逃す、被害は最小限に収まるという算段である。

 

「汚染されているコンピュータをどうしようも出来ないなら、いっそ跡形もなく吹っ飛ばしてしまえ…という訳ですか」

 

「操作が一切効かないなら電源も切れないしな!汚染された機械なんざどうせ二度と使わん、景気良く吹っ飛ばしてやろうぜ!!」

 

「相変わらず吹っ切れると滅茶苦茶やりますね、付き合いますけど」

 

通信区画の切り離しで地上からの干渉を排除し、メインコンピュータの爆破でウィルスによるシステム障害を取り除く。人員の避難には少し時間がかかるだろうが、コンピュータのある区画は放熱の関係で隔離されているためそこまでの時間はかからない。

 

「宇宙港の全設備が停止しますよね、大問題では?」

 

「軌道艦隊の運用に必要な港湾施設はある程度独立してる、MMUだけで今も稼働してるのがその証拠だ。だから今はウィルスに何が仕掛けられているか分からん以上、サッサと無力化するのが最優先だ」

 

居住区画は以前の宇宙港改造計画に際して試作移民船が転用されており、最悪の場合は独立して稼働することが可能だ。システムが止まろうが、あの中に居れば死ぬことはない。

 

「発破の後直ぐにやるぞ、流星には伝えたか?」

 

「ええ、やってくれるそうです」

 

流星は既に120mm砲を構えて待機しており、命令があればいつでも撃てるといった様子だ。

 

「ぶっ壊した後はあらゆる電子機器を調査した後入れ替えて、サブコンピュータで宇宙港を稼働させることになるな」

 

「サブの位置を離しておいて正解でしたね」

 

「やっぱり万が一に備えての策は金をかけておくのが最善だよ、今嫌というほど実感してるさ」

 

 

事件発生から半日後に帰還した捕獲艦隊が目にしたのは、光を失った宇宙港の姿だった。軌道上で他の作業に当たっていた筈の工作艦が何隻も集い、何やら作業に当たっているのが分かる。

 

「…なんとも信じ難い話だな」

 

「コンピュータウィルスにクラッキング、衛星の乗っ取りとは世界は進んだものですね、私は学び直さねば仕事を続けられなさそうですよ」

 

長距離通信を担っていた通信区画は根本から宇宙港と切り離され、電子機器用の放熱板があった場所は内側から外壁がめくれ上がっている。流星が汚染されたメインコンピュータを破壊したという話は聞いたが、中々派手にやったようだ。

 

「艦隊の受け入れは?」

 

「捕獲した着陸ユニットは予定通り新造された調査ステーションへ送り、その後衛星軌道にて港が開くまで待ってくれと連絡が来ています」

 

「あの有り様では艦艇の補給もままならんだろうな、船員が不安がるぞ」

 

溜め息をつく艦隊の指揮官だったが、宇宙港から入った通信に司令室の雰囲気は一変した。

 

『貴重なサンプルの確保、大成功じゃあないか!』

 

「社長、やはりご無事でしたか」

 

『宇宙港はちょっと大変、いや大惨事だけどなんとかね。今流星と彗星が補給物資を持って向かってるから、しっかり休息をとってくれ』

 

後期に生産されたHSSTや巡洋艦以上の大型艦は居住性が向上しており、船員はある程度の休息を取ることが出来る。入れ替わりでの休息にはなるだろうが、宇宙では貴重品である食料や嗜好品を今回ばかりは大いに楽しめるとなっては喜ばない筈は無かった。

 

「感謝します、中々先の見えない航海だったので船員は疲弊しておりまして」

 

『月に向かうことなんてBETAとの地上戦が始まって以来初めてのことだからね、心労は察するに余り有るよ。でもこれで君達は艦隊による月の往来とBETAのサンプル捕獲を同時に達成したっていう記録を打ち立てた訳だ』

 

「光栄ですな」

 

『是非誇ってくれ、内容物によってはこのサンプルが人類の勝利を導いてくれるかもしれない』

 

その言葉に沸き立つ司令室だが、音声に何やら作業音のようなものが被り始める。

 

『社長ォ!送電網に異常発生です!』

 

『マジかよ、消火設備は動かせそうか?』

 

『小型の初期対応用は動いてますが大型の移動式が使えません、格納庫の次は倉庫が吹っ飛びますよ!?』

 

『ああもう!』

 

宇宙港の傷はまた暫く癒えることはなさそうだ。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。