宇宙開発企業なんですけど!?   作:明田川

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隼vs撃震、ファイッ!


第九話 戦術機性能試験

帝国内新兵器試験場、富士山周辺。

敷地内で相対する二種の戦術機があった、戦術機用の各種武装も用意されている。米国製の36mmと120mm砲を合わせて構成される突撃砲と、帝国軍のために設計された74式近接長刀が揃っている。

 

隼は先行生産された三機ではなく、生産ラインが稼働してから製造された正式バージョンだ。内部に細かな修正が行われている。

 

対する撃震は米国から急遽納入された12機の内の三機が駐機されている、原作と変わらぬ姿だが、その装甲は優れた性能を誇るルナチタニウム製となっている。

 

「隼と撃震の性能テストですか、どう見ます?」

 

「隼が勝つ」

 

「断言しますねぇ…」

 

隼の性能は限りなく第二世代機レベルに近い、1.8世代くらいだ。

一部以外は装甲を施さずスーパーカーボンのみを使い軽量化、重心を上半身に寄せることでわざと転倒しやすくし運動性を向上させ、常に不安定な状態の機体をコンピュータ制御で安定させている。未来でオペレーション・バイ・ワイヤと呼ばれる技術だ、米国が実用化出来るのは6年後になる。

 

「と言っても、あまり重心は高くしてないんだがな」

 

「現状でも相当過敏に反応しますが、アレ以上の物にする予定だったとは驚きです」

 

高すぎる機動性が産むであろう操縦への影響の大きさが不明だった上、これ以上細身にして機動力を上げるとフレームの剛性を担保仕切れないかもしれないという材料工学的な限界もあった。

外装に使うスーパーカーボンや装甲に使うルナチタニウムはまだしも、歩行や着地など様々な方向と強さで負荷を与えられ続ける脚部に相応しい骨格を作り上げることが出来なかった。

 

未来の第三世代機、とりわけ不知火のようなプロポーションを持たせつつも燃料タンクと駆動系を脚部に押し込むとなるとまず不可能だ。ここは開発チームの頑張りを待つしかない。

 

「MMUの時から操縦系には拘って来たからな、慣れれば自分の身体のように飛ばせるさ」

 

「思考制御に関しては確かにある程度仕上がっていると思いますが、人間は元々飛べないんですよ?」

 

帝国軍の衛士達が三機しかない隼をぶん回し、ひたすら最適化を行った甲斐あって操縦難易度の高さは和らいでいた。それでもF-4より過敏とレポートに書き記されるのだが。

 

「…慣れだよ、慣れ」

 

機体の方は将来的に再設計でもして脚部の延長などを行えればいいなと考えているため、内部の拡張性を犠牲にしてまで細くしたくなかったというのもあるのだが今は良いだろう。

 

帝国軍選りすぐりの戦術機パイロット、通称衛士達が機体へと乗り込んでいく。既に何度か動作試験はここで行なっており、今回は模擬戦を行う予定となっている。実機を使い、ペイント弾にて実戦さながらの射撃戦をやるとのことだ。

 

「アレは?」

 

「都市に存在する高層建造物を模した遮蔽物です、市街戦を想定しているとか」

 

演習場にはまばらにだが障害物が設置されていた、流石に市街地さながらの数は用意できなかったようだ。先ずは一対一で始めるらしい、双方が位置につく。

 

『始めェーー!』

 

二機が一気に加速するも、やはり隼の方が初速を乗せられている。倒れやすくするということは、素早く踏み込めたり前傾姿勢になれたりするということだ。

点在する障害物を利用しつつ、隼が先手を取った。

 

「おお、撃ちましたね」

 

「中々操縦に慣れてるな、ここまで早く乗りこなすとは思わなかった」

 

跳躍ユニットの偏向ノズルを使うことで機体をほとんど動かさずに軌道を変えつつ、障害物に隠れたばかりの撃震を撃てる位置まで一気に回り込む。

その際反撃されないように牽制射撃を忘れない。

 

「撃震も中々ですね、避けましたよ」

 

「そりゃウチと同様に思考制御技術が使われてるからな、それに隼と比べれば鈍重かも知れないが戦術機としての機動力は舐められたもんじゃない」

 

撃震は隼が狙いを定める前に障害物を捨てて一気に後退し、機体正面を隼に向けたまま突撃砲を撃つ。撃ち返された隼は燃料タンクが配置されている脚部に当たれば撃墜判定を貰いかねないため、自慢の機動力を活かして回避しつつも距離を詰める。

 

「また仕掛ける気か」

 

隼のパイロットは撃震の制動能力と推進力を熟知していたのだろう、一気にスロットルを上げて追い抜いた。つまり後ろ向きに加速していた撃震は背中を取られたこととなる。

 

「おぉ!」

 

「コンピュータがジェットエンジンが加速し切るまでの間をロケットで埋めた…にしては点火が早すぎる、もしや手動で?」

 

隼の跳躍ユニットからはジェットエンジンが放つ高温の青い噴射炎だけではなく、一時的にだがロケット噴射によって発せられる赤く低温で煙を伴った炎を見ることが出来た。思考制御で操作できる範囲を拡張しているのだろうか、本来ならロケット点火は自動の筈だ。

 

更に方向転換することを強いられた撃震は身体を大きく振り、跳躍ユニットの向きを変えることで通常よりも早く振り向いた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

しかしその隙を隼が流すわけもなく、ペイント弾が放たれた。予想よりも早かった方向転換により機体の中心は外してしまったようだが、突撃砲とそれを持っていた手に命中させることが出来た。

 

「撃震突撃砲一門喪失、右腕部損傷!」

 

だが既に撃震はロケット噴射で離脱していた、かかるGは計り知れないがまた体勢を立て直したのだ。

 

「よくあそこまでぶん回せるな」

 

「流石は選りすぐりの衛士ですね、機体の角度と四肢の動きで重心を変化させてます」

 

「第一世代機でそれやるのかよ、バケモンだな」

 

しかし度重なる回避機動で速度を失っていた撃震は高度を失い、地面に着地してしまう。地を蹴って速度を得ようと試みるも、隼が今度は逃がさないと言わんばかりに36mmを放つ。

 

「撃震、コックピット被弾!」

 

「演習終了、勝者隼!」

 

この後も様々な演習が行われ、その後の機体整備なども演習の一環として行われた。今回の演習で秋津島開発として得られたものは大きい、実際に使うことになる兵士達の意見を隼に反映しなければ。

 

「…実際に使われてる戦術機を見れて良かったよ」

 

「どうしたんですか、柄でもない」

 

「早いところ量産して、国外にも売らなきゃな」

 

「国内需要が半端ないので、生産ラインの拡大を急がなければなりませんけどね」

 




戦闘回です

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