第九十五話 無人機と外骨格と
「第三世代機も後は量産体制が軌道に乗るのを見届けるだけ、やっと共同開発もお終いか」
「吹雪の方は装備の関係で我々が担当した箇所が多かったですし、感慨深いものがありますね」
新型機の完成により余裕が出来た秋津島開発だったが、宇宙部門が手一杯ということもあり陸戦用兵器の研究を進めていた。社長と秘書の二人は日常的な業務を行いつつ、最近の動きについて整理がてら話し始めた。
「SPFSSが国連に採用されると聞きましたが、なんでも衛士以外にも使わせたいと要求があったそうですね」
「アイツ自体が高性能コンピュータだ、より高度なデータリンクを行うなら欲しくなるのは当然だろうな」
「いえ、なんか資料を読む限り無人強化外骨格を調達する計画みたいです」
「えぇ…」
戦術機に比べて既存の兵科は対BETA戦に特化しているということはなく、大部分が対人類用に設計された兵器を流用している。その結果様々な問題点も見つかっているのだが全てを入れ替えるわけにはいかず、放置されているのが現状だ。
「運用兵器の最適化か、多脚戦車が売れてるのもそれが理由だしな」
「陸軍は90式戦車を採用しましたが、まだ売れているとは」
「対外的な売り上げが占める割合が多いのと、単純に対人用の戦車じゃBETAと戦うのに色々と面倒なんだよな」
特に問題になるのは継戦能力の低さだろう、36mm弾を何万発と持ち歩く戦術機と比べると息切れが早過ぎる。それに120mm砲であっても突撃級の甲殻を撃ち破るのは簡単ではなく、中々難しい立ち位置での戦闘を強いられているのが現在の戦車と言える。
「多脚戦車は対人用の装備を廃した上に省人化した代物だ、速力も相まってBETA戦においては最強の車輌だろうな」
補給に時間がかかるという問題も、弾薬庫を丸ごと交換することで解決している。
交換式では被弾した際の被害が固定式よりも大きくなるという欠点があるが、BETAは徹甲弾を撃ってこないので問題ない。それよりも味方の砲撃に巻き込まれる心配をした方がマシだ。
「90式と戦うとどうなります?」
「負ける」
これが既存の対人用戦車を人類が手放さない理由である、もし人同士で戦争になったら多脚戦車は主力戦車とは同等の戦力足り得ないのだ。
「まあ住み分けが出来てていいけどな、国連軍が欲してるのも恐らく省人化や無人化の分野だろうし」
戦車の主任務であった陣地防衛以外にも多脚戦車は使われ始めており、その優れた速力から生み出される展開能力は想定外が多発するBETAとの戦闘において有用だ。今までは砲兵隊の護衛と戦術機の後詰めが精々だった車輌兵器だが、機動力と継戦能力に優れる新兵器の登場によって用法も変わりつつある。
「戦車兵一人で4両1組の戦車小隊を指揮出来る、これって凄いことだろ?」
「ここまで進んでいたとは思いませんでしたが、確かに素晴らしいですね」
最も需要が高いのは戦術機パイロットである衛士であることに変わりはないが、戦闘車輌を操れる熟練兵もまた貴重な存在だ。土地を取り返す際には最終的に歩兵での制圧が必要なことを考えると、戦術機に全力投球とはいかないのだ。
余裕が出来た今、戦術機以外も対BETA戦のために最適化しようという動きが国内外で進んでいるのかもしれない。対人用の兵器を作れと言われるのが嫌いな秋津島開発の技術者達にとっては追い風に違いない。
「問題は今年の改修に当たってSPFSSと同じチップを採用したから需要を食い合ってることだがな!」
量子コンピュータ完成までの繋ぎに作られた筈のニューロチップは、コストパフォーマンスの良さから広く使われるようになり始めた。SPFSSなど操縦補助用のAIから無人機の管制システムは、実質的に秋津島の寡占状態と言っていい。
「チップの量産体制を強化することが目下の課題になるな」
「国連軍に提供するとなると、かなりの数になりますからね」
「そこなんだよなぁ…」
国連軍が求める物が強化外骨格などの歩兵クラスの兵器である場合、頭数は必須だ。量産するとなると、今ですら手一杯なのが現状だ。
「結局生産が止められない旧隼と更新の需要が高い隼改、コストが高いながらも常に数が求められる疾風の三機種に合わせて各種無人兵器もありますからね」
「戦術機って滅茶苦茶作るの大変なんだよな、パーツの数が尋常じゃない」
そして初期ロットの量産が始まった吹雪向けの部品も既存のもの、取り分け隼改の物が流用されているため慢性的な部品不足は継続中だ。生産施設の拡大と国外移転も重なり現場が一時的に混乱しているというのもあるが、中々タイミングが悪い。
「でもまあ国連軍のお眼鏡に叶うかは分からんがとっておきの試作機がある、オスカー中隊に試してもらおうじゃないか」
「例の試作武装運用に対応した人型兵器ですか、SPFSSとは毛色が違いますがどうなりますかね」
ー
射撃訓練場にて歩兵達に紛れ、一機のSPFSSが銃を構えていた。国連軍が使うブルパップライフルは機械の身体では少し扱い難いようで、倉庫から引っ張り出してきた別のライフルを使っている。
「上手いな、百発百中かよ」
「機体側で5.56mmの弾道計算やってんだよ、レーザー測距と大気の情報を合わせりゃ逆立ちしても勝てないさ」
「恐ろしいなそりゃ」
秋津島開発カラーのSPFSSが銃を撃っているのだが、それを見る試験官の隣にも少しタイプの違う機体が居た。少し前に試験導入という形で国連軍に渡っていた機体で、頭部センサーの形状が変更されていた。
「次の試験機入れるぞ、標的頼む」
そういってオスカー中隊と共に現地入りしていた軍の技術者達が何やら準備を始めた、SPFSSの時とは違い作業員達も防護服を着込んでおり、何やら物々しい雰囲気だ。
「お前にもようやくお仲間が増え始めたな」
『国連軍の先輩としてしっかり育てます、お任せください』
何やら自慢げな国連仕様機を見て、試験官は人間臭い仕草をするものだなと肩をすくめた。
「…先輩風を吹かすと嫌われるぞ、データ共有だけにしとけ」
『身体に叩き込むのが良いと聞きましたが』
「お前らの駆動系に記憶領域は無ぇだろうが!」
最新鋭機が旧時代的なことを喋るというのはなんともシュールだ。そんなコントを見ている合間に二機目の試験機が射撃場に入ったのだが、SPFSSとは明らかに別物だ。
『知らない機体ですね』
「お前は国外仕様だから情報が制限されてるんだよ、ありゃ秋津島の新型機械歩兵だな」
試験機は2m程の機体と遜色ない大きさの狙撃銃を構え、的を狙う。周囲の人々は電子機器を持って退避しており、残っているのは防護服を着て紙とペンを使う記録担当だけだ。
『この電磁波、レールガンですか』
「歩兵用に小型化されたタイプだよ、秋津島のパーツを使った帝国軍の試作品らしい」
設置された金属製の的はあまりのエネルギーに真っ二つ、かなり離れているのにも関わらず弾着までのタイムラグは無い。
「…戦術機の突撃砲くらいまで小さくするつもりだったらしいが、突撃級を正面から倒せないんで完成しなかったんだ。色々あって研究成果がここまで流れ着いたって訳だと聞いたな」
帝国軍が次期主力火器として超電磁砲を指定したものの、その小型化は難航しているらしい。特に威力を落とさずにというのが面倒らしいが、突撃砲とは一線を画す能力が無ければ代替には至らない。
結果大量の試作品が失敗作として倉庫に積み上げられたわけだが、車輌搭載用の小型超電磁砲に目をつけた陸軍が色々と手を加えたことによる産物らしい。
『小型化がそこまで進んでいたとは、流石は製造元です』
「お前ら秋津島のことになるとテンション上がるよな、プログラムされてんの?」
ちなみに彼らAIの大元になるプログラムは社長の出力品が元になっており、本社への忠誠心が設定されているかは開発陣のみぞ知る。
SPFSSが女なら新型が男ってデザインにしたかった。