「…勘弁してください、私の本業は操縦士じゃないんですよ!?」
『助かったよ、コイツを動かせるヤツが丁度居なくてな』
秋津島開発製の戦術機回収車を運転するのはいつぞやの政府関係者であり、秋津島レポートの作成者だ。情報収集のために最前線である欧州に派遣されており、拳銃一丁だけで基地やら修理拠点やらを巡っていた。
「にしてもこのトレーラー、馬鹿みたいな大きさですね」
『お前んとこの国が作ってるからな、スケールがおかしいのさ』
そう返すのはトレーラーに載せられた戦術機からの通信、中には人が乗ったままということだ。
「メートルとヤードポンド間違えたわけじゃないですよ、それはアメリカに言ってもらえますかね」
『ジョークだっての』
大きく損傷した戦術機を後方の補給基地まで下がらせ、そこで修理を行うらしい。丁度そこまで行く予定があったとはいえ、こうも働かされるとは思わなかった。
「…それで、報告は?」
『操縦席右のコンテナを開けてくれ、資料はそこにある』
「どうも、この手の情報も十分な軍事機密ですからね」
欧州戦線の兵士から見た帝国及び秋津島の印象、これは今後の活動において重要な情報になる。今のところ仲が良さそうに見える二つの勢力だが、それは超電磁砲を供給出来るのが帝国だけだから…という見方もある。
『帝国の第三世代機、吹雪だったか。アレが発表されたお陰で欧州の新型機は立つ瀬が無いようで』
「欧州は他国に戦術機を依存して来ましたから、脱却への道筋を妨害する要因が帝国からとあれば思う所もあるでしょう」
『欧州を飛ぶのは帝国の隼と疾風、それに米国のF-15とF-16だからな』
戦術機開発能力が低いとなれば、戦術機調達の際に足元を見られるのは当然だ。人類存亡の危機と言えど兵器を売るのは企業だ、民需が崩壊した今では軍需を得なければ存続出来ない。
「隼改の自国仕様機ですらまだ試験機止まりです、実機が戦線に投入されるのはまだ先になりそうですね」
『これでは開発計画の存在意義が疑われる始末、吹雪のタイミングが悪かったな』
「母艦級の攻撃を恐れて生産施設の大規模移転を行いましたから、開発拠点の移動による混乱もあったでしょうね」
欧州は蹂躙を免れたとは言え、その内部は大きな変貌を遂げている。工業地帯は拡大の一途を辿り、戦線近くの大地は漏れなく重金属雲による汚染を受けた。ハイヴの攻略で奪還した国土も荒れ果てており、元いた人が戻ってこられるようには暫くならないだろう。
『欧州は秋津島から得た設計図を用いて何か作っているという噂があったが、本気で超大型テラフォーマーを完成させる気らしい』
「物資の流れですか、無人機周りの資材に見慣れない品目が多く混ざってますね」
『秋津島はガワさえ作ってくれればいいらしい、必要とする高度な部品は大量に欧州へ輸出されてることを考えるとな』
フル回転し続ける欧州の生産施設は、国土の復旧にも不可欠な代物を作り上げようとしているらしい。設計図の提供が行われたと言う話は帝国内でも噂になっていたが、あの規模のものを本気で作ろうとするとは思わなかった。
『一つ懸念点があるとすれば、採掘されたばかりのG元素が搬入されてることだな』
「一気にきな臭くなりましたね、ML機関周りですか?」
『陸上戦艦みたいな規模の移動物体だ、荷電粒子砲の搭載も可能だろうな』
超大型陸上車両の軍事転用、これは中々の大ニュースだ。
「ML機関を持つのは今のところ米国と帝国のみ、ですがG弾推進派が解体された今では技術や情報が流れていても不思議ではない…」
『G弾を無効化する兵器を考え出さなければ、人類は核ではなくG弾を抱えながら疑心暗鬼になりつつ動くようになるだろう』
「秋津島開発に任せるしかありませんね、恥ずかしながら国内のG元素研究はお世辞にも進んでいるとは言えませんから」
ため息を吐きながらアクセルを踏み、モーターの回転数を上げる。回収車両はその姿に見合わない速度を出しながら、BETAから取り戻した大地を疾走する。
「しっかしマスクが無ければ一瞬で重金属の中毒症状が出るでしょうね、この辺りはハイヴ攻略に当たって軌道爆撃と砲撃の両方を受けた地域ですから」
『舞い上がる土埃にも大量に混ざってる、機体や車両の洗浄にはいつも手を焼くさ』
この大地から汚染を取り除くために設計されたものは、今や戦争の早期終結のためにML機関を乗せようとしている。秋津島の社長がこれを見て何を思うかは分からないが、情報を手にした身としては複雑だ。
「あー、今はメカニックとして動いてるんでしたっけ」
『腕の評判は良いんだぜ?』
資料にある程度目を通し、二つ目の報告内容に移る。直近の調査内容も大切だが、自分が来た理由は欧州から見た帝国というイメージの把握なのだから。