宇宙開発企業なんですけど!?   作:明田川

116 / 188
閑話 BETA戦線、現状報告 その3

「まあ悪い印象が特にないというのは分かりました、これは有効に利用したい話ですね」

 

『士官、指揮官クラスともなると少し複雑だがな、上層部は色々と思うところがあるみたいだぞ?』

 

「気に入らないことがあると」

 

『有り体に言えばそうなる』

 

「国家に真の友人は居ないってことですかねぇ」

 

ハイヴ攻略という成果を挙げた欧州連合だが、最奥の反応炉を破壊したのは帝国軍、その支援を行ったのはワルシャワ条約機構軍だ。脱出時に大きく活躍したのは確かだが、道半ばで戦力の多くを失っていたというのは痛い。

 

「戦術機は国外頼り、戦果も他国ばかりが目立つというのはよくない状況でしょう」

 

『だろうな、疾風の配備が始まって損害が極端に減ったのも嬉しいばかりじゃあないだろう』

 

旧式も掻き集めての軍備拡充を図る彼らの思惑としては、次期ハイヴ攻略で他国の上を行くというのがあるのだろうか。

 

「ML機関搭載の超大型車輌…便宜上陸上戦艦とでも呼びますか、それを用意しようとしているのもそれが理由ですかね?」

 

『いつ完成するかも不透明だがな』

 

「物理攻撃が全く通用しない新型兵器が帝国以外にも登場する可能性があるとなれば、少々困り事も増えそうですね」

 

『欧州戦線の更なる反攻に繋がるかもしれねぇだろ、素直に喜べないもんかね』

 

「さっきも言ったでしょう、国と国の友情を信じられるほど夢のある世界に生きてないんですよ私は」

 

欧州連合といってもヨーロッパ各国の仲が良いわけではない。疾風の導入により防衛線が強固になった今、国家同士の諍いは増えるだろう。欧州連合に送られたG元素の配分にも揉めているに違いない。

 

『それくらいな方が国は安泰だろうな、次のページには面白いニュースがあるぞ』

 

「次の項目…秋津島放送に関してですか」

 

現在は衛星からの放送を中断しているものの、地上に設置されたアンテナからサービスを継続しているらしい。前線の娯楽と言えば秋津島放送の端末であり、前回の不祥事もあっという間に忘れ去られたらしい。

彼らにとって頭のおかしい宗教団体も、グロテスクな宇宙生物も見慣れた存在だったのだ。

 

面白くないジョークはやめろ、エイプリル・フールじゃないぞとお叱りの連絡があったらしい。それはそれでどうなんだと思わざるを得ないが。

 

『娯楽に関しては秋津島の独壇場だな、社長殿はその道でも天才らしい』

 

「アニメーション、ゲーム、ドラマ、小説…どれも大人気じゃないですか」

 

『最近始まった戦術機の整備士に密着したドキュメンタリーはとんでもない再生回数になってるぜ、民間人はこの手の話題が大好きらしいな』

 

秋津島放送の端末は元々軍用の通信機器であるため、通話も可能だ。遥か後方にいる家族とビデオ通話をするというのは、前線に居る兵士達の大きな楽しみとなっている。衛星網が死んでからは通話出来る時間帯や回数が決められてしまったものの、常に民間向けの回線はパンク寸前だ。

 

「この手の産業は国が全く奨励して来なかった、いえ来れなかった分野ですから、ここまで一企業が成長させていたとは」

 

『この歳になるまでゲームなんざ手を出してなかったけどな、時間潰すのに最高なんだよ』

 

「諜報員は待つのも仕事の内でしょうに」

 

『端末の画面でやる単純なゲームってのは中毒性が高くてな、なんとも手が離せない』

 

「アンタまさか今も弄ってないでしょうね」

 

エンターテイメントに関しては秋津島放送の独壇場、あらゆる立場の人間に場所を問わずサービスを提供出来るのは強力だ。何かしらの記憶媒体を運ばなければ見られない既存のものでは補給を圧迫するため、軍からしても都合が良いのだ。

 

『まあなんだ、秋津島を擁する帝国と戦争しようとしても世論がそれを許さんだろうな』

 

「人民は流されやすいものですが、ここまで来れば相当な影響力となるでしょうね」

 

『人間なら楽しいものを見ながら生きて行きたいだろ、あの端末は両手に収まる大きさで夢を提供してるのさ』

 

「放送事業というのは情報統制に直結します、見方を変えれば秋津島開発に誰もが洗脳される危険性があるということですけどね」

 

少し楽観的な見方をする諜報員はため息を吐き、秋津島に対して疑いの目を向けるような態度を隠さない彼のことを機体越しに睨んだ。

 

『何がそんなに気に入らないんだ?』

 

「…秋津島開発の社長は確かに善良なお人です、ですがもう歳が歳です」

 

『へぇ、聞いてもいいかい』

 

ただ単に秋津島を嫌っているわけでは無さそうだと思った彼は、参考がてら聞くことにしたようだ。

 

「彼の後継者は武家出身の子になります、政府と武家で組織が別れている以上将来的な火種になりかねません。社長と同じように宇宙開発を第一に考える人間であれば上手く回るかもしれませんが、そうでなければ…」

 

『社長の子だ、武家の子にはならんさ』

 

「そうとは限りませんよ、武家以外にも彼が成長するまでに誰が何をするか分かりませんからね」

 

『秋津島のことを信じてるのか信じてないのか…お前は面倒くさい奴だな』

 

「おまっ、言っていいことと悪いことがあるぞ!」

 

『図星かよォ!』

 

二人を乗せたトレーラーは拠点を目指して進み続ける、暫くは車内に口喧嘩の内容が反響しているだろう。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。