斯衛軍は既存機体の強化改修機である瑞鶴や鐘馗の他、仕様を変更した疾風を運用している。何故なら征夷大将軍の座する首都防衛を主任務にする彼らにとって、超電磁砲は是が非でも手に入れたい装備だったからだ。
「斯衛軍の疾風は装甲形状が変更されている程度で、大きな改修が要求されなかったのが意外でしたね」
「ああ、ちょっと事情があってな」
斯衛軍特有の階級別塗装に身を包んだ疾風は目新しかったが、殆どが最下層の黒色に塗装されていた。機体の特性からして先陣を務めるのに向かない機体であり、帝国軍以上に格闘戦を是とする斯衛の武家達には受けが悪いようだ。
「第三世代機調達のために大改修を諦めたんだよ、斯衛悲願の独自仕様機さ」
「新型を作ると言っても、国内の企業に余力は残っていないように見えますが」
「残ってるところを寄せ集めて作らせる気だよ」
国内三社は国外の戦術機需要を鑑みて、国内外の生産施設を拡張中だ。秋津島開発も自動工場を含めたとしても生産施設の規模が小さく、超電磁砲や各種センサ類など高度な品目を扱っているため余裕がない。
斯衛軍が新型機を欲しがったとしても、第三世代機の量産と改良に帝国は手一杯だ。
「納期短縮のために設計に参加してくれとは言われてるけどな、まあどんな機体にするかは想像が出来るが」
「首都防衛用の戦術機となると、疾風クラスの大型戦術機ですか?」
「いや、不知火のような近接戦に優れた機体だろうな」
砲撃戦は疾風を導入している以上、それに任せれば良い。近接戦を一手に引き受ける機体を導入するべきというのは理に適っているように見えた。
「幸い跳躍ユニット周りを手掛ける遠田技研の手が空いてるらしい」
「国内三社の方は何処か動けそうですか、でなければキツい仕事になりますよ」
「経験豊富な富嶽重工に余裕があるそうだ。大仕事が終わった後だが、働いてもらうことになるだろうな」
原作と同じ布陣に秋津島も参加する形になる、あの機体の誕生に携われるとは非常に光栄な出来事だ。願わくば年端も行かない少女達が乗るような事態にはなって欲しくないが、今の戦況を見るにその可能性も薄まっただろう。
「万全とはいかない体制ですね、そう上手く行きますか?」
「中身は不知火の設計を流用しつつ、駆動系や主機を変更して性能向上を目指す辺りが妥当だな。それに武御…新型機は特徴的な外見にしたいしな」
こうして余力を振り絞っての新型機開発、飛鳥計画が始まった。
設計に関しては短い納期でも高い完成度を担保することに定評がある(社長が出力する場合に限る)秋津島開発が携わり、1997年に試作機を納入することを目指して三社は邁進するのだった。
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「不知火ベースかつコスト度外視で作るんだろ、取り敢えず不知火を弄るところから始めようぜ」
「妥当ですね、弄れる機体を調達しますか」
秋津島開発の社長がそう言ったことで、ひとまず不知火をテストベッドに性能の強化や拡張性の限界などを確かめることになった。
元々切り詰め気味な設計が将来的に問題視される可能性はあったが改修を施せないレベルではなく、三社が技術を持ち寄って改造を始めた。
「外装まで弄ってたら時間が足りなさそうだな、ひとまず現状に収まる範囲にするか」
改造内容としてはより高出力な燃料電池の搭載、フレームの強化、人工筋肉の強化と配置変更、エンジンの高出力化などを行った。ひとまずやってみようという挑戦の産物であるためバランスは悪く、燃費や操作性の悪化などが見られた。
「やはり上手く行きませんでしたね」
「よし次!」
城内省の予算はたんまりある、今やるべきはトライアンドエラーだ。不知火強化型一番機はその性能を活かしきれなかったが、カタログスペックを見れば要求性能に大きく近づいた。
「あー、熟練の衛士ですら振り回されるとは」
「不知火に慣れてる分ギャップがあるのかもな」
ならば次はこの機体を扱い易くして、今後のためのデータを得るべきだ。そう考えて作られた2番機だったが、バランスを改善出来たとは言えなかった。
「2番機のテストパイロットはなんて言ってる?」
「俺のSPFSSを返せと言ってます」
彼の相棒は声援を送りながら手を振っているが、市街地を再利用した演習場の建物に機体を突き刺した彼には死活問題だろう。
「補助無しでマトモに飛べなきゃ戦術機じゃない、次!」
3番機では更に全体のバランスが向上したが、燃費に関しては多少改善されたかどうかという範囲に収まった。しかし駆動系の強化と主機出力の向上は元から高かった格闘戦能力を更に強化し、斯衛が求める機体に近づいた。
「あと三ヶ月待ってくれたら前より効率のいいセンサ系パーツが完成する、吹雪用に試作してたが不知火にも使えるよな」
「フレームと駆動系の材質変更は上手く行きそうです、耐久試験を見る限り弾性は良好ですね」
「機体の軽量化が進んでないのが痛いですが…今はひとまず形にして、その後に突き詰めた方が効率的ですね」
和気藹々と話す技術者達だったが、テストパイロットはそれを見て頭を抱えた。彼はまたもや特性が違う機体に乗ることになりそうだ、比較的大人しい3番機に慣れて来た所だというのに。
「いやSPFSS搭載前提で試験させてくれよ…完成したら載せるんだろ?」
「却下」
短期間で次々と試作機を作り上げていく開発計画の所属企業達は、妥協を許さない設計を求められたこともあり職人魂に火をつけていた。今はまだ不知火の改造機止まりだが、社長の中には既に完成図が浮かんでいた。
「外装はスーパーカーボンを使おう、全身凶器だ」
「アリですなぁ!」
「だろぉ!?」
「そんなのに乗せられるのか!?」
だからこんな滅茶苦茶なことを言い始めるのである、技術者達は久しぶりにハジケた。
次回からは少し早いですが1991年、遂に大陸派兵編です。
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