『機体が高いぞ、AIの補助ありでも爪先を擦るのが怖いのか?』
国連軍の一部が後方の演習場にて、かなり目標が厳しく設定された仮想訓練を行なっていた。視界にはコンピュータ上でBETAの映像が重ねられ、腕を振るう要撃級に120mmを叩き込む。
「支援砲撃の迎撃率が高すぎる、重金属雲が濃すぎるぞ」
「光学走査に支障が出るレベルだ、AIに全部任せるなよ!」
支援のために後方に布陣していた多脚車輌部隊が前に出て砲撃を加えてくれているが、敵陣の奥へと進軍した彼らにはさほど大きな支援とはならない。
『A班ポイント2を通過、目標時間から30秒の遅れだ。貴様らを支援するための砲撃は有限だ、長引けば皺寄せで味方が死ぬぞ!』
彼らが今回の目標としているのは精鋭部隊でも難しいある作戦行動、光線級吶喊だ。AIと新兵器の普及で育った衛士が片端から死んでいく悪循環が解消され始めたため、更なる質の向上を図っているようだ。
「…クソッ、この密度設定はハイヴ並じゃないか!」
「弾薬の消費速度が予想よりも速すぎる、コイツを担いで来て正解だったか?」
「すれ違い様に切るなんて高等技術を全員が会得してると思うなよ、大抵三回目までに落伍する」
アジア圏以外では欧州を中心として色々と研究が進められる近接武器だが、現在は扱い易さからトップヘビータイプが人気だ。ハルバードや大剣といった比較的大型の兵装で、リーチが長く扱いが単純なのが特徴と言える。
「斧だと機体が振り回される、そう上手く行くかよ!」
『余裕だな、話す余裕があるなら急いだ方がいいぞ』
結局のところ彼らの帰還は成功せず、光線級の撃滅も中途半端な結果に終わった。BETAの密度が非常に高く設定されてはいたが、敵の規模によっては可能性は低いものの現実でも起こり得る状況だ。
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「突撃級を避けた後は要撃級と戦車級がひたすら居るわけだが、この二種への対応が少し間に合って居ない。隼改であればいっそのことブレードベーン装備に換装した方が貴様らには合うかもな」
非常に淡々としたデブリーフィングだが、内容は濃密かつ実践的なものだ。根本的な問題である機体の装備と衛士達の練度、光線級吶喊という作戦の特異性、武器の使い所など多岐にわたる。
「というか前衛機は必要以上に相手を倒そうとするな、ダメならもう後続に任せて突入ルートの確保だけを行うんだ。最も早く敵を視認するのはお前達で、仲間は前衛の後に続くんだからな」
前衛を務める突撃前衛と強襲前衛は敵陣への斬り込み役、開けた穴を広げるのは後から来た奴らの仕事だ。
「まあ敵陣を切り抜けたのは評価出来る、要塞級の撃破に手間取り過ぎたのは全く理解出来ないがな」
光線級が存在する敵陣後方には、同じく足の遅い要塞級が多く存在する。近年ではBETAも光線属種を守るように布陣することが増えて来ており、任務を完遂するためには避けられない障害と言える。
「この演習では実機を用いずに仮想空間内で行われたとはいえ、百名を超える兵士が参加して居た。多脚車輌も無人有人問わず被害が広がり、突入した戦術機は壊滅というのは現実で許される被害ではない」
国連軍は全世界で戦闘を続けているが、未だ大きな反抗に出られる状況は整っていない。そこである程度の上澄みを集めて少数精鋭での行動が求められる光線級吶喊といった任務を任せ、今後に備えているのだとは思う。
「貴様らに下駄を履かせているAIに感謝しておけ、次はせめて死んでも光線級を撃滅することだな」
目の前に居る男は戦況が今より悪かった時代の欧州戦線を生き残った猛者であり、1.5世代機でハイヴを踏破した人類の英雄でもある。説得力というのは実績から生まれるものだ、彼の言葉を疑える衛士はこの場に居ない。
「時間はかかるがマンツーマンでの指導も契約の内だ、事前に配ってあるカリキュラム通りにお前達を鍛え上げるので覚悟するように」
秋津島警備は戦術機を用いての施設防衛が主目的だが、抱える人員の優秀さから軍への指導も活発に行われている。ハイヴ突入戦後に帝国軍を離れた衛士や、月面戦争にて故郷を奪われた者達の子孫といった構成員達は今日も秋津島の元で働いてくれている。
「仮想訓練後には制圧したハイヴでの実地訓練に移る予定だ、迷ったら出られなくなるので気をつけるように」
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社長が少し難しい顔をしながら見つめるのは、自社傘下のある組織についての資料だ。
「秋津島警備、か」
「軍を離れた衛士の移籍先になっているので少々トラブルになっているそうです、オスカーの隊長も今期で移る予定だとかで」
「帝国軍から教導部隊レベルの人材を引っこ抜いてるわけだしな、まあこんな場も必要だとは思うが」
BETAと戦うのに限界を感じただとか、欧州からの撤退や秋津島開発に対して行われている優遇策の撤回だとかを理由にこちらに来ているらしい。自身が働き易い場所に転職するのは良いことだ、受け入れ側としては怖いものがあるが。
「一企業がこんなに戦力を持ったらヤバいぞ、有事の際には帝国軍の指揮に従うことにはしてあるけど」
「平和になったら解体か、惑星開拓時のMMUパイロットになってもらう辺りが妥当ですかね。現状秋津島開発の施設は戦術機レベルの戦力を置く必要があるというのは、話を聞く限り政府も理解してくれてるようですし」
「そうだな。今は隊長が教え子を引き連れて来ないことを祈るさ」
最寄りのイ○ンモールとか変形してロボにならねえかな。