「MMUによる要塞構築とは、まあ考えたな」
「多脚戦車が収まる塹壕に突撃級を抑えるための防壁、どれも既存の方式とは比べ物にならない速度で構築されているようです」
ある程度形になったものを本国から船で輸送し現地で組み立てているのだが、MMUであれば場所の移動や細かな作業であっても単独で担うことが出来るため、非常に効率的に仕事が進んでいるらしい。
「帝国のMMUを利用した野戦築城構想は国内のインフラ構築の際に誕生し、この日までに研究が続けられて来たらしいですよ」
「バビロン計画は暫く終わらんだろうと思ってたら、体良く実験台にしてたって訳か」
港には絶えず軍需品が積み上げられているが、その多くが砲兵隊のための弾薬だ。最近では東南アジアに建設された工場から来たものの割合が増えており、国内で生産した分は貯蓄に回せているらしい。
「小耳に挟んだことがあってな、斯衛も出るって話は本当か?」
「欧州への派兵で大成功を納めた帝国軍は実戦におけるデータを大量に得ることが出来ましたが、斯衛はそうではありません。恐らくは色々と試したいことがあるのでしょう」
「オスカー中隊でも鐘馗の運用は大変だったそうだからな、基地を構えるとはいえ国内仕様の戦術機が何処まで通用するか…」
これで軍が二つ中国に渡ることになる、頼もしい戦力だが連携には少し不安があるのが難点か。組織全体で見た際の経験の差というのは大きい、対BETA戦というのは初心者を殺す要素で溢れているからだ。
「そういや相乗りして来た国連軍は?」
「補給基地を作って物資広げて、ひたすら前線に補給路を伸ばしているそうです」
「流石は世界の軍隊、兵站に関しちゃ他の追随を許さないエキスパートだったな」
国連軍カラーに塗装された補給機も多数運用され、そこらを飛び回っている。秋津島製兵器の一大整備拠点にもなるようで、極東の国連軍で運用されている隼シリーズが既に出入りを始めている。
「より出力出来る規模が大きくなった最新の3Dプリンタが既に運用されているようです、彼らは帝国軍でも前線に持って来ないものをよく置く気になりましたね」
「3Dプリンタは米国企業にも投げてるからな、もし壊されても次がすぐに来るさ」
戦術機の維持費を大きく下げることが出来る立体成形技術は対BETA戦が始まった初期から急速に普及したものなので、帝国も輸出規制を諦めている。だから米国の手を借りられるというわけであり、少し複雑だ。
「…まあそれは分かった、でも旧隼の補修部品がなんでこんなに減ってるんだ」
「国連軍と中華統一戦線にて運用されてるからとのことです、解体待ちの無人工場に火を入れますか?」
「これ滅茶苦茶前に帝国軍が放出した前期生産型じゃねぇか!こんなもん使わせ続けるなよ!」
モスボール状態で保管されていた予備機達は隼改と不知火の登場により、国外へと一斉に売り払われた。この措置により他国の前線では、F-4だと思ったら撃震だったという事態が頻発することになる。
「今も中華戦線だとF-4を改修した機体が主力ですし、旧隼であっても重宝されるのは致し方ないかと。新型機も開発が難航しているそうですしね」
「えっ」
2年後の1994年にはF-16を改修した機体の話が出るのだが、中華戦線に何故か音沙汰が無い。イスラエルの開発計画に協力する形で完成した筈だが…
「(イスラエルって、ウチのお得意様じゃあないか)」
そう、正史ではF-16の改修を選んだイスラエルは隼シリーズのリピーターだった。既に隼改を受領しており、その改修計画が進行中だとかで開発班と意見を交わしたと言っていたのを思い出した。
「殲撃10型の完成は先延ばしか、仕方ないと言えば仕方ないけども」
「殲撃は8型までしか居ませんけど」
「それは気にすんな。それより戦術機の部品じゃなくて、機体自体を売れないか?」
「そりゃあ無理な話ですよ、東側の国に戦術機を売れば大問題です」
「政治だねぇ、人が死んでるってのに嫌になる」
そろそろソ連がF-14を元にSu-27ジュラーブリクを完成させる頃だ。それが中国の手に渡れば世代交代が可能になるが、更に数年の時間を要するのは明らかだ。正史であれば運用開始は1996年、この被害を見ると前線に行き渡るのは相当先の話になるだろう。
本来であれば低コストなF-16改修機が間を埋める筈だった訳で、高コストなSu系の大型機を大量に配備する力が未来の中国にあるとは考え難い。
「隼改も改二が形になって、更には帝国には不知火が居るわけだ」
「…なんです?」
「高性能な代替機と新型である第三世代機の登場で隼改は一気に陳腐化、改修の予定も打ち切られた。つまり近代化改修待ちだった初期型は、急に梯子を外されたことになるよな」
メーカーとしては維持にかかる負担を減らしたいし、帝国は古くなった機体は売り払って新型に入れ替えたい。だが輸出している機体は漏れなく最新ロットであり、わざわざ同じような価格で旧型を買う必要もない。
戦術機の生産速度が向上したことで、購入する側としても待つ余裕があるのだ。
「この行く先がなくなった可哀想な機体、使い道も無いし中華戦線に売っちまおうぜ」
「そんな馬鹿な、そんなことしてコピー機でも作られたら…」
「忘れたのかよ、アビオニクスは俺達が独占してるんだぜ」
帝国が輸出しなければ大規模な量産など出来るはずもない、第三国を経由しようとも数を用意できないだろう。代替品に載せ替えたとすればセンサ類の性能は大きく下がり、秋津島製戦術機の強みは失われる。
「未だ旧式機で戦う前線に心ばかりのプレゼント、話が進んで機体を売ることになったら帝国は他国の主力機に首輪を付けられる」
「新規生産から維持にまで電子部品は必須、何をするにも帝国の顔色を伺う必要が出ますね」
「…まあそんな上手くは行かないだろうけどな、帝国の上層部へ吹き込むには面白い話になっただろ」
欧州で示されたように、前線の損耗率を減らす鍵は高性能なAIと戦術機だった訳だ。中華統一戦線が立ち直るために必要なのは他国からの派兵ではなく、戦術機を駆る衛士が長生きしてくれる環境だ。
「今の話を紙に纏めておきますか、国連軍の旧隼はどうされます?」
「下取りに出せばお安く隼改に乗り換えられる特別セールでもやってやるさ、んで買い取った旧式を中国に流す」
秋津島製の機体が多く流入すれば、新たな機体の受け入れもスムーズに進み易いだろう。それに今ある機体より多少の改修を行なった旧隼の方がマシな性能をしているというのも確かで、規格の関係からAIを普及させるための布石に出来るというのもある。
「良いかもしれませんね、経営的にはギリギリプラスってレベルですけど」
「前線に寄り添った経営戦略とでも言い張っておいてくれ」
この件を機に秋津島の戦術機は資本主義と共産主義の垣根を超え、隼改の輸出制限が撤廃されることになる。国際的な影響力を更に増したいという帝国の思惑もあったが、結果として社長の望み通りに事は進んだことになる。
10型君の出番は少し後になります。