宇宙開発企業なんですけど!?   作:明田川

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閑話 戦いの合間に

「光線級吶喊の訓練指導?」

 

『頼むよー、君らくらいしかエキスパートが居ないんだ』

 

「いやそうは言って…言いましても、我々も部隊再編後の練兵を行っている最中で…」

 

秋津島製の通信端末で赤髪の衛士に話しかけるのは、最早顔を隠すのをやめた社長だ。

 

『勿論タダじゃない、これとかどう?』

 

 

【挿絵表示】

 

 

社長が彼に見せたのは他国にも出回っていないような新型の多脚車両であり、一回り大きくなった車体には50mm機関砲が装備されていた。添付されている資料には、当初の悲願であった120mm砲の搭載型も確認出来る。

 

『内乱でソ連系の戦車は大きな被害を受けたらしいじゃないか、国連規格の弾薬を使える兵器は欲しくないかい?』

 

「それは…」

 

『要塞は今後の攻勢と防衛を考えると規模が不足している、復興支援として派遣したMMU建設部隊も増援が居た方が良いのは確かだろう』

 

教導の対価としては明らかに過大な物がどんどんと積み上がっていく、兵器に弾薬に装備にと暫くの部隊運営に全く困らない量の物資だ。

 

『それに欧州連合は実験場を求めてる、ECTSF計画の実験部隊がここを使うとなれば護衛として部隊を引っ張ってこれるさ』

 

長らく形になっていないと言われていた欧州連合の次世代機だが、データ取りのための実験機は投入可能な段階にあるらしい。

 

「留守の間も問題ない、と」

 

『無人兵器群は承認さえ貰えば衛星軌道から直ぐに配達出来…』

 

「部下を困らせるのはそこまでです、社長殿」

 

仕事の後だったのだろうか、スーツ姿の女性が部屋に入るなり会話を遮った。社長はそれを見て分かりやすい程に狼狽えた後、何事も無かったかのように姿勢を正した。

 

『べ、ベルンハルトさん、どうもお久しぶり』

 

666中隊の隊長だった彼女は軍を離れ、東西に別れたドイツを元の形に近づけるため日々尽力していた。

 

「テオドール、外していいぞ」

 

『そんなぁ』

 

この一時間後、結局彼女は頭を抱えながら部屋から出て来た。そして一週間後には滑走路を埋め尽くす程のコンテナが宇宙から飛来し、要塞には次々と多脚車両が搬入された。

 

 

格納庫で整備を受けるのは最近輸出規制が撤廃されたという隼改であり、何故かこっそりと隼改二すら混ざっていた。コックピットの中には専用の運用マニュアルが収まっており、貼り付けてあったメモ用紙には"隼改って言い張ってね"と書いてあった。

 

「…あの社長、どうして俺達にあそこまで関わろうとする?」

 

『社長はマスター達のことが好きなんだと思いますよ、ただ単に』

 

「それで説明がつくかよ」

 

『いーや本当ですよ、じゃなきゃ妹さんの治療方法まで研究し始めませんよ?』

 

壊れた人間の心を治すというのは、今まで不可能だとされて来た。だがある研究者によると人格や思考、記憶の全てはデータで表すことが出来るという。

 

『心の研究が進めばシュタージの被害者はトラウマや暗示に悩まされることはありません、そうでしょう?』

 

東ドイツ最寄りの海上プラットホーム群には研究施設も混ざっており、精神に疾患を抱えた兵士達を相手に治療法を模索していた。彼の妹も治療のため何度か通院しており、環境の変化もあってか最近は落ち着きつつある。

 

「そうかもしれないが…」

 

『ちょっと宇宙馬鹿で裏表がなくて突っ走りやすいだけですから、信用してあげて下さい』

 

被造物に馬鹿と説明されるように作った社長のことはよく分からないが、普通なら言えないようにでもするだろう。そうしなかったということは、彼女らAIを物ではなく人として扱っているということだろうか。

 

『666中隊の皆さんを出し抜けるような性格も頭もしてませんよ』

 

「なんというか、言い過ぎじゃないか」

 

『兵器は一杯送りつけて来た癖に、私の新型ボディは一ヶ月後だって言うんですよ!?』

 

「そこかよ」

 

定員割れの状態で激戦を潜り抜けた666中隊は隊長と新人が革命を機に軍を離れたことで再編が決定、昇任したテオドール大尉が隊長の座に着いた。

 

「…少なくとも機体のことは感謝しないとな」

 

旧式機で戦っていた頃が遠い昔に思える程で、格納庫には秋津島製の第二世代機が所狭しと並ぶ。国内では装備を東側から西側に転換することを目標に生産施設の再整備が行われており、MiG系戦術機を作っていた工場には様々な機材が次々と搬入されていた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

ひとまずは旧隼を作ってみるらしい、計画は問題なく進んでいるとニュースで取り上げられていたのを知っている東ドイツ国民は多いだろう。

 

『整備班長達が早く帰って来ると良いんですけど、欧州で旧隼の整備を学んだ数少ない整備士となると忙しいかな』

 

「こっそり社外品のオイル貰うのやめろよ、メーカーの整備に出せなくなる」

 

『味が違うんですよ、味が!』

 

ちなみにこのAI、テオドール大尉の個人情報を数人の女性に売っているらしい。本人曰く恋のキューピット役とのこと、なんとも罰当たりなロボである。

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