宇宙開発企業なんですけど!?   作:明田川

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第百三話 台風の雛形

「これが例の機体ですか」

 

「問題点の洗い出しを手伝うために一機貰ってきた、性能は現時点でも隼改二に迫るレベルだぜ?」

 

秋津島開発の社員達と共に搬入されてきた機体を囲むのは、いつもの社長と秘書だ。

 

 

【挿絵表示】

 

 

欧州連合が作り上げた機体は隼改を原型にしつつも、多くの改修が施されていた。この機体はあくまで実験機であり、設計が進む第三世代機のためのデータ収集が主な役割だ。

 

「帝国軍の機体とは毛色が違いますね…本当に帝国は不知火の空力制御技術を渡したんですか?」

 

「渡されたデータをそのまま使うほど落ちぶれてねぇって話かもな」

 

全身に装備されたスーパーカーボン製のブレードは攻撃手段以外にも操舵翼としての機能を持ち、機体単体で完結した格闘戦能力を持つ。ナイフシースを搭載せず、その代わり大きなブレードを腕部に搭載している辺りが帝国軍との思想の差を大きく表しているだろう。

ナイフを抜くよりそのまま殴ればいい、真理である。

 

「センサ配置の変更、半導体の改良による消費電力の低下、良好な燃費、エンジンによる広い行動半径と、長駆侵攻能力に関しては一級品だ」

 

依頼を受けて秋津島開発の電装品部門が作り上げたセンサ類だったが、要求された仕様通りに稼働しているようだ。複数のセンサを分散配置することで高い冗長性を持たせる秋津島開発の設計とは異なり、欧州は破損し難いように配置や装甲を調整することでリスクを抑えたままセンサを集中配置する設計に切り替えたのが見て取れる。

 

「仕上がるかどうか分からなかったエンジンはなんとかなったな、結構ギリギリだったが」

 

「フランスと主機選定で揉めたと話がありましたが、それはどうなったんです?」

 

「跳躍ユニットの基部は俺達秋津島の規格に合わせるのが決定事項だった、気に入らないならエンジンだけ載せ替えれば済む話だろ」

 

主機の変更が機体にどれほど大きな影響を与えるかどうか、というのは技術者であれば分かることだ。機体側である程度の調整は必要になるが、不可能ではないという範囲に収まるだろう。

 

「まあこの隼モドキじゃあない、本物の第三世代機が組上がってからのお楽しみだがな」

 

「完成が近いのは事実です、欧州の機体は吹雪の大きな競争相手になり得るでしょうか」

 

「国連軍が積極的に吹雪を購入してるのはよく聞くが、欧州では第三世代機の研究のために少数の発注があった程度だ。隼シリーズはこれからも買うだろうが、吹雪は元から買う気ねぇな」

 

国連軍が第三世代機を欲するのはハイヴ攻略戦を真剣に考えた結果であり、唯一人類の手に落ちた敵の巣は突入部隊の訓練場と化している。吹雪の機動性であれば光線級吶喊といった極限状態での作戦でも高い生存性を発揮することが分かっており、精鋭の力を存分に引き出すための乗機として求められていた。

 

「吹雪は不知火の廉価版とはいえ秋津島開発の戦術機部門が国内三社の協力と共に作り上げた機体だ、そう簡単に遅れを取るとは思えんが…」

 

「懸念点はなんです?」

 

「スーパーカーボン製の装甲はハイヴ攻略戦への適性が高い、そこらの市場は掻っ攫われるかもな」

 

あの手の装備は整備性や運用コストに負荷をかけるので採用され難いのだ、格闘戦大好きな帝国軍ですら採用を見送っている。

 

「不知火がブレードを持たないのは、格闘戦能力の使い道が斬り込みから疾風の護衛に変わったのが大きいと俺は思う」

 

「機体から刃が飛び出してたら危険極まりないですしね、運用場所にも寄るってことですか」

 

「山が多くて戦術機同士の距離が近くなることもあるだろうからな、欧州はこれから真っ平にされた大地を行くんだから楽でいい」

 

「楽って、流石に語弊がありますよそれ」

 

攻撃と防御、どちらが優先される土地かと言うのもあるのかもしれない。

 

 

あれから半日、社長はある会議に出席していた。議題は欧州の戦術機に関してであり、その性能は帝国軍内部でも中々注目されているらしい。

 

「完成品の性能は不知火に匹敵すると言うが、それは本当かね」

 

「嘘偽り無い真実ですね」

 

帝国軍は空力制御に関しての技術を渡したが、それ以上には踏み込んでいない。この機体が不知火に迫る性能を得られたのは秋津島開発の協力あってこそであり、社長の指示で主力の開発チームが出向していたという話すら聞く。

 

「不知火や吹雪に関する技術の流出は本当に無いのか、今回の議題はそこだ」

 

「事前に送った資料の通り、帝国軍機との類似点は吹雪と電装系の一部を同じにする程度です」

 

「…つまりアレは全て欧州連合によるものだと?」

 

「我々の領分は設計に関する問題点の洗い出しと部品の提供であって、何も手取り足取り戦術機を作ってあげた…なんて訳じゃあありません」

 

急に第三世代機が完成したことを受け入れられない人間も居るようだ、戦術機開発分野と言えば長い間米国と帝国の独壇場だったことも大きいのだろうか。

 

「欧州連合の戦術機開発能力は一線級です、この機体の後にも機体は生まれるでしょう。隼シリーズもF-16という対抗馬が居たように、吹雪にもタイフーンという相手が出来たということです」

 

「欧州は吹雪をそう多く買わなかったが、やはり第三世代機の生産に目処が立っていたということか」

 

生産施設の整備など運用のための準備は開発と同時に進められており、欧州連合の何処にどれだけ機体を送るかというのも決定済みだ。秋津島開発もその計画通りに部品の納入を行っており、欧州にある工場は連日大忙しだ。

 

「第三世代機の市場独占をみすみす逃すとは、他にやりようは無かったのかね?」

 

「我が社が協力を渋ることで開発が遅れれば良かった、とでもこの場で仰るつもりでしょうか」

 

「…すまない、失言だった」

 

軍事機密は漏らさないという条件で欧州連合との共同開発に携わった秋津島開発だが、流石というべきか活躍し過ぎたのだ。第三世代機を唯一有するというステータスは、思いの外あっさりと崩れ去った。

 

「だが必要以上に手を出していないとは言っても、電装品の殆どが秋津島製というのも事実だろう」

 

「国内三社が設計した不知火も同じ、というか帝国軍機は皆そうです」

 

この会議に嫌気が刺したのだろうか、社長は少々含みのある言葉で返す。結局のところ電子機器は秋津島開発の独壇場であり、同等の部品を作れる企業は国内に無い。

秋津島開発の協力が無ければ戦術機の必須装備であるAIすらマトモに製造出来ないのだ、如何にこの国が一企業に依存しているのかというのは言わずとも分かる。

 

「…ご安心を、皆様方が心配なさっているであろう件に関しては近々良い報告が出来るかと思われます」

 

「何?」

 

「悪い、ちょっと配って差し上げて」

 

彼の秘書が配り始めたのは数ページしかない資料で、コピー用紙を束ねただけの簡素なものだ。しかしそのタイトルには誰もが驚くような言葉が記されており、全員が言葉を失った。

 

「秋津島開発が半導体事業を立ち上げた際に目標とした無人戦術機、それは既に形になりつつあります」

 

「…この搭載AI、従来型では無いのか」

 

「性能は保証します、まだ実験中ではありますが」

 

隼改二を自社用に生産しては試験場に送っているというのは彼らも知っていたが、それを無人で動かしていたとは知らなかったようだ。

 

「多脚車両と同じく有人機とのセット運用を前提に設計しています、我々は単純な機体性能以外で勝負したいと考えていましたのでね」

 

莫大な戦死者の数に悩まされる必要も無くなり、特殊な素養が求められるが故の慢性的な衛士不足も解決する。

 

次世代の兵器の登場に沸く会議室だったが、社長はなんとも機嫌の悪そうな顔をして時間通りに去っていく。彼にとって戦後のパワーバランスや軍需産業の影響力争いなど、全く興味を示す事柄では無かったからだ。

 

「あーやだやだ、話の分かる人とだけ話したいね」

 

「帝国は戦術機供給権を持つが故の巨大な影響力に酔いしれている、というのは本当なのかもしれませんね」

 

「巌谷さんの言葉は冗談でもなんでもないってことか、首相も全部が全部抑えられるって訳じゃあないし困ったよ」

 

秋津島開発は情勢の変化により、何やら難しい舵取りを要求されているようだ。戦後への到達をどう考えるか、その大前提が違う者たちは分かりあうことが出来ないのかもしれない。

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