「帝都の家でゆっくり…出来ねぇなぁ」
「まだ慣れませんか?」
少しばかり居心地が悪そうにするのは社長であり、その様子を見ていたのは巫さんである。
「申し訳ないけど、そう長くこの家に滞在出来たことが無いからね」
社長は何処からか用意して来た戦術機の模型を土産に、帝都の屋敷に帰って来ていた。といっても本社は帝都にあるためそこまで遠いという訳では無いのだが、この男は宇宙から海外まで飛び回っているため中々長期間の休みというのは取れないのだ。
「一ヶ月休ませてくれって言うわけにもな、残念ながら仕事は多いし」
「貴方が休まないと秘書さんも休めないでしょう」
「いや、有事の際には最悪アイツが引っ張り出されるからな…」
後継者の育成も進んでは居るのだが、あの会社は中々歪な形に成長しつつある。宇宙開発以外で働き過ぎたことで、社員の思想が二分されつつあるのだ。
「将来的には会社を分けるのが一番良い選択肢か、やりたいこともあるしな」
優秀な人材が集まるのは良いのだが、会社を設立した時に集まってくれたような宇宙馬鹿の比率はかなり下がった。今ではBETA殲滅のため技術開発に勤しむ企業としての在り方の方が強くなり、本来やりたかった事の実現が難しくなって来た。
「悠々自適に宇宙開発、死ぬときゃ月か火星で大往生って決めてたんだがな」
「宇宙港すら危険なのが今の時世ですから」
「そうだなぁ、BETAとの戦争も生きてる間に終わるかどうか分からん訳だし」
人も金も設備も集まった秋津島開発だが、今後の展望には色々と悩みを抱えているようだ。
「あの子達もそろそろ帰って来る頃です、何か用意しますか?」
「…気分転換も必要か、そうしよう」
社長から見ればアホほど広い屋敷だが、それは庶民の感覚が抜けていないだけである。警備のために多くの製品が導入されており、屋内用に軽量化された機械歩兵や、SPFSSと同型の身体を持つお手伝いロボなどが働いている。
「贈り物には事欠かないんでね、まあ良さげな物でも…」
『社長ー、緊急連絡ですー』
果物でもと思って立ち上がった社長だが、戸を開けて入って来たアンドロイドに呼び止められる。通信端末を受け取って通話を開始すると、何やら騒がしいことになっているようだ。
「…あの、どうされました?」
「大陸で大事件、本社に戻れと言ってる」
仕事の合間を縫って家族に会おうとはしているものの、彼本人しか分からないことというのは意外にも多い。全てを書類に記すというのも時間がかかり、特に新たな分野ともなると通常の業務が滞る。
そのため、こうやって呼び出されることも珍しくない。
「息子とユウヤ君によろしく!」
ー
呼び出しから数時間後のこと、社長の手でホワイトボードに書き出されたのはML機関に関する数式だ。しかしどれも今回の事象とは結び付かないようで、周囲の研究者達も半ば匙を投げている。
「分からんな」
「お疲れ様です、事情はお聞きになったようですね」
パイプ椅子に腰掛けた彼に茶を手渡したのは、同じく呼び集められた秘書だった。
「…ML機関によるBETAの誘引、それを原因とする戦線の崩壊か」
「戦域の全BETAが浮遊艦イザナギに向け侵攻、防衛ラインの一部に想定の数倍もの敵個体が集結したそうです」
中華統一戦線の部隊はBETAに食い破られ、超電磁砲の集中運用ですら削り切れないほどの敵が集まった。矢面に立つ戦術機を失ったことで戦車を中心とする機甲戦力は大きな打撃を受けたそうだ。
地下侵攻も多発し、前線の穴を埋める筈の予備戦力は突如出現したBETAへの対応で手一杯になるという有様だったと聞けば悲惨さも分かるというものだ。
「G元素はBETA由来の物質だ、奴らが反応したとしても無理はない」
「BETA自体がどのように動いているかもよく分からないんです、奴らを呼び寄せる原因を探れと言われても無理がありますよ」
社長自身は原作からの知識でML機関がBETAを引き寄せることは分かっていたが、それを裏付けることが出来なかった。
「オルタネイティヴ計画でやって欲しい領域だな、G元素の構造すら理解出来ない人類には100年早い話だろうよ」
今回の議題であるBETA誘引の原因は何かと書かれたホワイトボードにペンを握り締めて近寄り、G元素と書いてイコールで結ぶ。
「BETAはG元素に大きな反応を示す、何故かは不明!」
「そんな身も蓋もない」
「これ以外に報告出来ることが無い、確かにイザナギは我が社の製品だが主機関に関しては現在の人智を超えた代物であることを理解して貰いたいねェ!」
今回の事件について意見を求められた秋津島開発だが、作りはしたけどよく分かってないから仕方ないというのが現状だ。
「BETA誘引を前提に作戦を立てるしかないだろうな、ML機関が有用なのは事実なんだし」
「集まって来たBETAを荷電粒子砲で殲滅したそうですから、実力は示せた筈です」
その後各新聞社の一面には帝国軍新兵器が活躍したことが載り、秋津島広報も公開可能な範囲の情報を国民に公開した。人類反撃の要として注目され始めた新型兵器は、仔細はどうあれその存在感を見せつけることに成功したようだ。
お久しぶりです、今は別のオリジナル小説を書いたりしてて更新が遅れてます。マブDという公式からの供給を受けてるせいで、少し離れないと良いのが書けなさそうだなと思っての措置です。
更新の合間に辺境惑星冒険譚って方も読んでやって下さい、ではまた。