宇宙開発企業なんですけど!?   作:明田川

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第百五話 UTSF

「入社おめでとうございます、隊長」

 

「元だ、今はただの一社員になれた訳だしな」

 

秋津島警備の社員は多忙だが、そんな彼らの殆どが集まって彼を出迎えた。彼こそオスカー中隊の隊長であり、人類反撃に大きく貢献した人物の一人だ。

 

「後進の育成から各種兵器の試験運用、特に試験はこれから忙しくなりますよ」

 

「国連の基地で色々試したが、それの延長線上という訳では無いようだな」

 

「社長からは隊長には全て見せておいて欲しいと頼まれていますから、後で格納庫に行きましょう」

 

今は歓迎会を楽しむことが先決だ、同じ隊の戦友達もこの場に多く居る。もう歳だが戦術機に乗り続けたいだとかで、旧隼が新鋭機の時代から飛んできた衛士すらオレンジ色のジャケットに袖を通している。

 

「隊長ォ!」

 

「貴方があの…」

 

「共に働けるとは、光栄です!」

 

しかし周囲に目をやれば、存外にも若い衛士が多い。秋津島開発の知名度と人気の高さ故に、帝国軍ではなく秋津島警備を選ぶ者も居るらしい。

 

「若い衆も出来る奴が多くて助かってます、指導出来る実戦経験者が多いので成長も早い早い」

 

「例の仮想訓練装置も役に立つらしいな」

 

「えぇ、衛士を育成するための環境は日に日に良くなっていることを実感するばかりですよ」

 

生存率の向上は衛士達の教育時間を増やすことに繋がり、より高度な教育を長く受けられた衛士達は更に生存率を上げる。一部の戦線では状況が好転しつつあるため、訓練に使える時間を増やす余裕が出来たのだ。

 

「AIも新型が来てます、SPFSSⅡですよ」

 

「あれも世代交代が迫ってるのか、早いもんだな」

 

「秋津島で仕事をしてると退屈しなくて助かります、いつか追いつけなくなるのが心配ですけどね」

 

心残りだった欧州の戦線も疾風の導入により持ち直し、今は次のハイヴ攻略のために色々と準備をしているらしい。戦友の居る東ドイツも秋津島開発があれからも手を貸しているようで、かなりの速度で内戦の混乱から立て直した。

今はもう憂いはない、社長と共に未来を変えるだけだ。

 

「…やはり無人機を見ておきたい、いいか?」

 

「いいですとも、そう言うと思ってましたから」

 

そう言ってパーティ会場を抜け出し、案内されるがままに地下格納庫へと向かう。そこには厳重な警備体制が敷かれていたが、社員証や生体認証など様々なセキュリティを抜けて先に進む。

 

「まだ組み立て中ですが、ある程度は形になっています」

 

「これが、無人機か」

 

 

【挿絵表示】

 

 

独立して稼働するモノアイには既に電力が供給されていたようで、眼球のように動いてこちらを見た。胸部と頭部しか無い状態だったが、その異質さには少し違和感を感じざるを得ない。

 

「あの置いてある腕と足なんだが、なんかおかしくないか」

 

外装には軽量化のためなのか一部に大胆な肉抜きが施されていたり、フレーム構造が分かるほど構造材が露出している箇所があった。

 

「複数の素材を同時に使えるプリンターが完成したんです、あの機体は一部を除いて殆どが一体形成だそうです」

 

「…配線もか」

 

「一部の部品は途中で配置して中に埋めるそうです、配線や駆動系も全て組み上がった状態で出て来るとか」

 

そのために構造が簡略化されていたり、より大胆な軽量化が施されていたと言うわけだ。時代は変わりつつある、戦術機も全てプリンタで組み上げられるようになるのも時間の問題だろう。

 

「Unmanned-Tactical-Surface-Fighter、UTSFって所ですね」

 

「恐ろしいものを作ったな、社長は」

 

「これが完成した暁には人類はBETAに対して前例のない規模の大反抗が可能になります、量産体制が整えば低コストかつ高性能な戦術機が衛士の配属を待たずに戦地で戦ってくれるのですから」

 

それは良いことの筈だが、こうして効率化され続ける対BETA兵器を見ると思うところがある。無人化された多脚車輌と戦術機の群体で構成される部隊、まるでBETAだ。

 

「俺達は何処まで行くんだろうな」

 

「分かりませんよ、BETAを殲滅した後も勢いが止まらない時が一番怖いと感じていますがね」

 

「ああ、社長は宇宙開発に専念しているべきお人だったんだとつくづく思うな」

 

米国のF-22という対人戦術機の噂は彼の耳にも届いている、地球の将来はお先真っ暗だ。この戦争に人類が勝ったとしても、ハイヴから得たG元素を巡る次なる戦争は必ず起こるだろう。

 

「…今だけでなく戦後のためにも、コイツは人の手を離れても戦えるように育てておく必要があるな」

 

「ええ、戦争で若者が命を落とすようなことは避けねばなりません」

 

「頼むぞ救世主、人類を救ってくれるような機体になってくれ」

 

そう言い残し、その場を後にする。歓迎会の会場にこっそりと戻った二人は知る由もないが、内部に搭載されていたAIユニットは彼らの会話を一言一句逃さず聞いており、それを理解するために思考を続けているのだった。

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