老朽化が懸念される第一宇宙港だが、今月に入ってやっと第二宇宙港が全力稼働を果たした。より洗練された内部構造と拡大した許容量、肥大化した宇宙艦隊の維持も単体で行えるほどの能力を持つ巨大な宇宙建造物だ。
「…素晴らしい!」
仕事の合間に視察に来ていた社長はそう一言溢し、宇宙に慣れない新人と共に無重力区画を見て回っていた。
「第二宇宙港の完成により第一宇宙港は解体が決定、それと同時に第三宇宙港の建造も行われます」
「いい傾向だな、人類は宇宙への投資を続ける気らしい」
大量に打ち上げられた早期警戒衛星はBETAの侵攻を従来とは比べ物にならない速さと正確さで察知し、それを全ての兵器から兵士に至るまで共有することが出来る。その結果抑えられた被害は大きく、国連の国々は投資した以上が返ってくると分かったようだ。
「はい、これらの建築事業により多額の報酬が支払われ続けています」
「更なる大型艦の運用も可能になったしな、月の制圧に向けての戦力も整えられるって訳だ」
「大型船というと、ラグランジュ点からの移送品ですか」
秋津島開発が移民船の建造を行い続けているのは有名な話だが、その結果完成した試作船は殆どが探査船として太陽系の外へと飛ばされている。長期間の運用で船体にどのような影響が出るのかを調べつつ、BETAが何処まで広がってしまっているのかを調べているのだが、何事にも例外はある。
「ああ、惑星間MMU輸送船として設計した船だ」
「ですが全長一キロを超えるとなると、流石に巨大過ぎるのでは?」
「移民船が一キロに収まるわけねぇだろ、もっと大きな船を作るためにも地盤固めが必要なんだよ」
本当の事を言えば巨大な船だろうと何だろうと作ることは可能だ、だが行った先々でBETAとの交戦が予想されるのであれば話が違ってくる。船には高い対地攻撃能力と、ハイヴを攻略しBETAから拠点を守るための陸戦兵器運用能力が追加で求められてしまう。
逃げるためだけの船を作る気は無い、地球からBETAを叩き出した後に次の星へと希望と野心を持って旅立つための船を作るのだ。
「コイツは戦術機を投下するための再突入殻を抱えて戦地に向かい、即座に36機の戦術機を投下出来る言わば強襲揚陸艦だ」
「36…だ、大隊規模の戦術機を一度に投下できると」
「戦術機以外にも大気圏を突破出来るようにしたクラスター弾で対地攻撃も出来る、完成間近の無人機を投下するには持ってこいの船だろう?」
秋津島開発から帝国の航空宇宙軍に移籍となった強襲揚陸艦は現在艤装の真っ只中であり、各種装備品を取り付けられている。将来的にこの手の艦船は月奪還のための中核戦略となることが予想され、帝国は新たな戦力の整備を進めている。
「無人機はロケットによる自在な運用と強襲揚陸艦による集中運用の二つを用いることで、更に強力な戦力になるわけだ」
「ここまでの戦力を整備して、将来的にはどうされるおつもりで?」
「そりゃ植民星で邪魔なBETAを一掃するために使うんだよ、ハイヴを攻略しないと開拓なんて夢のまた夢だろ」
明らかに戦後の火種になりそうな戦力だが、社長はこれら全てを開拓に使う気らしい。ここまでの武装大型艦が就航したという事実は宇宙戦力の常識をまたもや塗り替える事態となったが、各国が追随することは不可能に近い。
何故なら宇宙で1kmを超える船を作り上げる造船所など、秋津島開発しか持っていないからだ。オルタネイティヴ計画のような枠組みを使って各国が協力するのであれば別だが、一国で用意しようとすれば材料の輸送費だけで破綻するだろう。
「戦前に飛ばしてた探査機が送って来た惑星の観測情報はどれも住める物じゃなかった上に、技術が進んで無かった時の代物だから精度も低い」
「は、はぁ」
「その中でも見込みがありそうな惑星に探査機代わりの移民船を送ったんだが、一番最初に見送った船からの返信がコレさ」
その惑星の地表には見慣れた建造物が幾つか聳え立ち、BETAの存在を示していた。ハイヴというこれ以上無いほどに分かりやすい目標があるのは有り難い、少なくともぬか喜びをすることは無いからだ。
「BETAは付近の惑星にはもう蔓延っていて、戦後の開拓において交戦は避けられないというわけですか」
「この写真は他言無用だが、まあそうなるな」
人殺しの兵器を作るつもりは無いが、もう開拓はBETAと会う前に思い描いていたようなものでは無いことが確定してしまった。それならばもう仕方ない、BETAをより効率的に殺すためには一つ踏み越えなければならない段階があったのだ。
「俺が生きている間に人類が旅立つ日は来ないだろう、だがその日のためにやれることはある」
「そのための船と無人機ですか」
「移民が無理ならその余裕を作る、今の目標は生きている間に月の奪還を行うことさ」
全ては共に働き続けた前秘書や設立当初の社員と共にもう一度月の砂を踏みしめに行くために、社長は老いを振り切って進むことを決めたのだった。
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