秋津島警備が所有する訓練所にて、二機の戦術機が実機での模擬戦闘を行っていた。片方は帝国軍にすら一個中隊あるか無いかという貴重な隼改二、もう片方は戦術機とは思えない異形の脚部を備えた無人機だ。
「久しぶりの実機だな、どれだけ動けるか…」
年老いたとはいえその経験と腕は確かな衛士、元オスカーの隊長が有人機にてAIの教育を行っており、控えの衛士達は上空のUAVから送られてくる映像に釘付けだ。
「隼がここまで進化していたとは、時の流れとは恐ろしい!」
しかしその隼改二ですら無人機の圧倒的な推力には敵わない。通常の跳躍ユニットは勿論、背部と肩部にスラスターユニットを搭載しているのだ。
「一撃離脱に特化した強襲機とは、社長も中々尖った機体を作ってくれたようだな」
『敵機視認』
「おっと、これは不味いか」
無人機のAIが隊長の機体を捉え、距離を縮めるべく更に加速した。その脚部から遺憾無く発揮される脅威的な脚力はロケットエンジンを使わずとも瞬間的な加速を可能にし、蹴ることが出来る足場がある際は更に凶悪な機動を見せる。
「建物を蹴って加速したな、その程度の機動は最早朝飯前とでも言うのか」
単純な機体性能で勝負した場合、突出した性能を持たない隼改二の方が押されてしまうだろう。だからこそ腕で勝負する必要がある、AIにより良い刺激を与えるためにもだ。
「不意の接近戦に何処まで対応出来るか、見せて貰おう」
突撃砲で牽制し、無人機の砲撃タイミングを読んで回避機動を行う。数発のペイント弾が肩部を掠め、機体は弾幕の中を潜り抜けた。
「最悪機体が壊れても構わんと聞いている、悪いが手加減は無しだ!」
兵装担架の火薬式ノッカーが長刀を跳ね上げ、その加速を乗せたまま刃を振るう。無人機が咄嗟に行った跳躍ユニットの逆噴射により斬撃は致命打とはならなかったが、手に持っていた突撃砲がそれに重なった。
「お前の機体に予備の突撃砲は無い、さあどうする」
無人機のAIは弾き飛ばされた突撃砲に執着せず、空いた両腕を使って咄嗟に胸部を守った。跳躍ユニットはジェットからロケットに切り替わり、一度距離を離すつもりのようだ。
「良い判断だ、もう一撃差し込めるからな」
だが隊長の機体も既に前へと加速し、逃げようとする機体を追っていた。長刀をもう一度振るうのではなく、その勢いを利用して身体を捻る。そして放たれたのは、機体の全重量と加速力を乗せた蹴りだった。
「まさかッ!?」
しかしその蹴りの威力が相手に伝わろうとした瞬間、ロケットエンジンが一斉に火を噴いた。わざと点火のタイミングをずらし、衝撃を逃すために最適な瞬間を見計らって背後に飛んだのだ。
「決まっ…てないか、流石の反応速度だな」
既に多数の仮想訓練で相当鍛えられたらしい、既に生半可な腕の衛士では戦いにならないのではないかと思える完成度だ。
「まだやるだろう、さあどう来る」
武器を失った無人機は落下の最中に膝の格納モジュールからナイフを引き抜き、接地した後に逆手から順手に握り直した。距離を取るために高度を失ってしまい不利な状況だが、この機体には今までの常識が通用しないだけのパワーがある。
「ナイフで突っ込んでくるか、お前と一緒にハイヴへ潜りたかったぞ!」
隊長からの砲撃を足を使った左右への細かなステップで避け、前へ進むにつれて速度を上げていく。そして全てのロケットエンジンを点火、それに合わせて跳躍する。
「速ッ…」
短時間の助走で一気に最高速へと至った機体はそのままナイフを突き出し、長刀を構えた戦術機相手に突撃した。そのまま衝突するような勢いだったが互いに避け合い、二機はすれ違い様に雌雄を決することになった。
『腹部に致命的な損傷、大破判定です』
「久しぶりに冷や汗をかいたな、勘が鈍っても腕は動くらしい」
長刀とナイフではリーチが違い過ぎる、刃を潰された刀は思い切り無人機の腹に沿って振り抜かれていた。しかし無人機も一矢報いたようで、隼改のナイフシースの塗装が少し削れていた。
『お疲れ様でした、ナイフシースの機能喪失判定以外に目立った損傷が無いとは驚きです』
通信を寄越したのは待機していた技術者の一人だろう、興奮冷めやらぬ様子で話しかけて来た。
「無人機の斬撃を鞘で受けた、同じスーパーカーボンの刃なら止められるからな」
『成る程、道理ですね』
大破判定を受けた無人機は立ち尽くすようにして待機していたが、数秒後には一人でに格納庫へ向かって飛んでいった。あれだけ動いたのに機体はまだ飛べるらしい、恐るべき剛性だ。
「あの加速力は既存の戦術機とは一線を画す能力だな、何Gほど出ていたか分かるか?」
『少々お待ち下さい、ええっと…』
技術者は調べるために少し黙ったが、中々返答が返ってこない。
「どうした?」
『その、19Gです』
「…無人機は何事もなく飛んでいったぞ、自壊するようなGがかかっても無事なのか?」
『あの機体に関しては機密が多く詳しいことは分かりませんが、製造技術に何か大きな進歩があったとは聞いています。あのレベルの剛性を担保しつつ戦術機レベルの軽量化を行うなんて、即座に信じられる話ではありませんが…』
あの社長はまた何かやったらしい、隊長はそういうこともあるかと一人納得した。相手をした無人機もよく育っている上、最後に見せたような底知れぬ爆発力もある。
「戦術機は人に扱い切れない所まで進化している、ということか」
衛士のパイロットスーツである強化装備は高い耐G能力を提供してくれるが、それでもあの機体の全力には身体が持たないだろう。あの跳躍など行った日には、首がどうにかなるというレベルでは済まない。
「これくらいでなければBETAの殲滅も叶わん、月への社員旅行のためにも働いて貰わねばな」
機体のAIが彼ら衛士の全てを吸収し、人には扱い切れないような機体に乗った場合、勝てる人間は居るのだろうか。帝国軍がステルスに関する技術研究に躍起になっている理由が少し分かった気がした隊長は、対AI戦術についても考え始めるのだった。