「今後の活動方針を固めるためにも一度腰を据えて考えたいとは思っていてな、協力してくれ」
「勿論です、何か描くものを持って来ますね」
いつも通りの面子である社長と秘書は、社長室で何やら小さな会議を行うようだ。無人機を完成させるのも大切だが、既にハードに関しては手出しする必要も無いまでに最適化されている。
今行っているのは衛士達によるソフト面の開発であり、社長は少しばかり空いた時間が出来ていた。
「まず目下の問題として、活動に影響を与えるであろう勢力を書き出していくぞ」
「我々人類国家とBETA、後は宇宙港のクラッキング騒ぎで接触したという謎の組織あたりでしょうか」
「国はある程度細分化する必要はあるが、まあその通りになるな」
ホワイトボードに赤と青で国を描き、相関図という形でまとめる。中心に秋津島開発が来るような構成で、各国との大雑把な関係などを書き込んだ。
「次売り出す新商品として無人機がある訳だが、これに関しては全ての国が賛成という立場を取るなんてことは無い。最近になって自称第三世代機を揃え始めた共産主義国家は特にな」
ソ連は元々米国と苛烈な宇宙開発競争を行っていたが、企業である秋津島開発の急速な台頭と経済事情の悪化から宇宙戦力の殆どを放棄していた。その結果現在のソ連軍の編成は陸軍偏重と言ってもいい状態にあり、国内の不満を逸らすためにも秋津島開発が槍玉に挙げられることは何度かあった。
「熾烈な第三世代機の開発競争は無人機の発表で一応の沈静化を見せた、秋津島開発が次世代機より優先して別のことを研究してたんだから様子見したくなるのも無理ない」
「この業界の先駆者である我々の取った行動こそ正解であると見る者が多い、ということでしょうか」
「性能は良いが製造及び運用コストの肥大化は無視できないからな、新しい兵器にその手の話は付きものだが」
第三世代機を無理して揃えるよりも、第二世代機の大量生産と無人化による省人化を行った方が結果的に安く済むのではないか。秋津島開発の無人機は製造技術の発展により第二世代機相当の性能を保ちつつ大きなコストダウンを可能にしていたというのも、注目された要因の一つだろう。
「多少の無理をして戦力を整えた共産圏にとっては既に時代遅れの流行に乗ったと思われるのは避けたいと…政治ですね」
「他国製の無人機なんざ怪しくて運用したくないってのもあるだろうよ、アレから対策は進めたとはいえ宇宙港の制御が一時的に乗っ取られた前例があるのもまた事実だしな」
無人機を共産圏に輸出する許可が帝国から降りるわけが無いのもまた事実だが、兎に角赤い国の方々には導入の見込みなしと判断せざるを得ない。
「米国も無人機導入には反対の姿勢だな、まあG弾やらステルス機を抱えてるのが論調の元になってそうだが」
「別種の兵器が次の主力商品になるのは避けたいということでしょうか」
「有人機のマーケットじゃあF-16の成功もあって大きな影響力を持ってるのも事実だが、レールガンやらG元素利用兵器では俺達に負け続きだ。主力製品の一つが脅かされるのも嫌だろうが…」
「何か商業以外の観点があると?」
「F-22の優位性を損なわないためには米国製の戦術機が増えれば増えるだけ助かるんだよな、機体そのものというよりコックピットのシェア率の方と言った方が正しいか」
原作から得た知見だが、米国製の管制ユニットには中々大きなバックドアが仕掛けてある。F-22の強力なステルス性は全て機体のレーダー反射面積の少なさによるものではなく、システム上でF-22という存在を欺瞞するという凶悪な仕様が大きく手助けをしているのだ。
「この資料に関しては内密にな、まだ解析が終わったわけじゃ無い」
「米国の管制ユニットシェア率は未だ50%前後、AIの運用にも対応しています。特に共産圏のコックピットは殆どが米国のライセンス品でしたよね」
「戦後に最強の戦術機としてF-22は君臨するだろうな、特に対共産圏では勝てる奴が居ないくらいには」
秋津島開発製の戦術機を目の敵にする理由は、恐らくこれだろう。彼らさえ居なければ管制ユニットは全て米国製の物になり、F-22の優位性は揺るぎないものになっていた筈だからだ。
「ソ連と米国、二つの大国は今後の販売戦略を容認しないだろうな」
「中々大きな問題ですね、その二国以外に何か問題はありませんか?」
「無人機に対する不信感だとか心理的な影響だとかを心配していたんだが、存外にも問題なく受け入れられそうってことが分かってな」
「といいますと?」
無人戦術機というのが衛士達にどのような目で見られるかというのは秋津島開発内でも度々議論になっては居たが、よくよく考えると自社製の無人兵器というのは前線にて大量に運用されていたのだ。
「多脚車輌と補助AI、最近では歩兵に至るまで無人機が使われ始めてる。そこで戦術機が出て来たとして、そこまで大きなインパクトを与えるってことは無いわけだ」
「図らずとも我々は段階を踏んで製品を提供していた、ということですね」
「そうなるな」
戦術機以外の正面戦力である戦闘車両を自国のみで生産出来る国は多くない、国力に乏しい国家にとって対BETA戦に特化したとはいえ安く強力な兵器である多脚車輌群は大いに歓迎されていた。世界中に散らばった多脚車輌の存在は、無人機に対する信頼を積み上げていたということだろう。
「無人機は帝国と欧州連合で先行運用が行われた後、ある程度の間隔を空けて他の国々にも輸出される方向で上と話が纏まってる。最前線の東ドイツとも独自のパイプがあるんで、そっちでも手伝ってもらうけどな」
「まーた何か送るんですか、確かにあの部隊から得られた物は多いですけども」
何か理由をでっち上げておきますと言う秘書に社長は感謝しつつ、最後の問題に関して考えるためにペンを置いた。
「でだ、今後を考える上で一番の問題はコイツらなんだよな」
「秋津島開発への妨害を行うテロ組織であり、現段階で実用化されていない筈の量子コンピュータを保有している謎めいた集団とは聞いていますが」
「催眠暗示と指向性タンパク質に対してもソ連並みの知識を持ち、現在は難民キャンプを中心に勢力を広げているってのが調査で分かってる。米国に潜伏していた奴らは殆ど狩り尽くされたとは思いたいが、次はどの国で暴れ始めるか分からん」
秋津島開発への破壊工作以外に目立った行動を起こしていないというのも不気味であり、一部では自作自演ではないかとすら言われているのが現状だ。宇宙港への攻撃は各国も秘密裏に行っては失敗しており、テロ組織が可能な芸当ではないというのは確かにそうだ。
「キリスト教恭順派と繋がりがある、というか奴らを隠れ蓑にしているというのも分かりつつある」
「聞けば聞くほど厄介なのですが」
彼らを騙るテロ組織も増えており、帝国が手を広げた東南アジアへの襲撃も何度か確認されている。大抵は秋津島警備によって鎮圧されたのだが、被害が出なかった訳ではない。
「何処からか廃棄された戦術機を拾ってきては直して使ってるらしい、それこそ戦場には大量に残骸が散らばってる訳だしな」
衛士の脱出率が増えたことで損傷の少ない管制ユニットを回収出来る確率も上がっているようで、破損した機体同士を組み合わせては使える機体を作り上げているらしい。ただのテロ屋にしては技術力が高すぎる、これも奴らが裏で手を引いているのだろうか。
「我々への営業妨害を行うために他国が協力するとしたら、最も費用対効果が高そうな組織ですね」
「やっぱりそう思うよな、秋津島憎しで協力されちゃ面倒だ」
どいつもこいつも迫って来るBETAの姿が見えないのだろうか、人類の数は今日も減っているというのに危機感が薄い。
「…G元素による並行世界間の移動、それにより送り込まれた他世界からの刺客というのは間違いでは無いのかもしれませんね」
「荒唐無稽過ぎて信じて貰えないと思っていたんだがな」
「この世界で信じ難いことは多いですが、こと貴方が絡むと大抵真実です。皆が社長を慕う理由の根本が理解出来た気がしますよ、あの人が入れ込むわけだ」
あの人というのは前任者のことを指すのだろう、現秘書は屈託の無い笑顔を浮かべて見せた。
「障害は跳ね除けて行きましょう、お手伝い致します」
「最短コースで行くぞ、第四計画も抱き込んでな!」
ホワイトボードを回転させて裏返すと、そこにはオリジナルハイヴ攻略という文字が大きく強調されて書かれていた。