宇宙開発企業なんですけど!?   作:明田川

138 / 188
第百十二話 第四計画

社長が合間合間の休憩時間に茶を啜っている際、机の上に置かれていたある報告書に気がついた。それの封を切って中身を見ると、帝国がまとめた国連の動向に関するものだった。

 

「次期オルタネイティヴ計画か、第三計画の停滞とあの損害が決め手になったか?」

 

「軌道上で捕獲した未確認BETAと交信を行おうとするも失敗、研究用の宇宙施設に甚大な被害が出たと聞きましたが」

 

「G元素の採掘にも問題が出るところだったぞ、ホントにな」

 

国連では次期計画の選定が進められていたが、各国はその主導権を握るべく様々な手を尽くしていた。第四計画の本部誘致に立候補したのは日本、カナダ、オーストラリアの三国であり、帝国も国際的な主導権を握るべく動き出したと言えるだろう。

 

「帝国は強大な軍事力を持ち、軌道艦隊も強力だ。計画の実行国になれば国際的な影響力は更に増し、戦力として国連軍を駐留させることも出来る」

 

「駐留のメリットは今の帝国にとってそこまで重要視される物だとは思えませんが」

 

「米国のロビー活動が激化しててな、主導権を奴らに握られるのはこっちとしても困るから頑張って貰ってる訳さ」

 

米国が強引に推し進めるのは宇宙船による地球脱出、原作で言うところのオルタネイティヴ5だ。限られた人間を乗せ地球を見捨てるという内容であり、今も戦い続ける国々からの心象は良くないだろう。

 

「米国案に決まれば我が社の宇宙船建造設備が接収されるのは目に見えてる、マスドライバーやら第二宇宙港も危ないだろうな」

 

「計画が持つ力は非常に大きな物とは聞いていましたが、そこまでとなると非常に危険ですね」

 

「だからこそ話が分かる人に指揮権を握って貰う必要がある、帝国があの手この手を尽くしているのもそれが理由さ」

 

米国案に決まれば秋津島の資産がどれだけ接収されるかは未知数だ、他国に我が物顔で使われるのは避けたい。

 

「我が社の命運がかかってますね。では帝国の案というのは?」

 

「敵司令塔との接触と、前回不可能だった対話の実現だな。名目上は…と但し書きが必要になるがな」

 

帝国は香月氏の研究を次期計画にしたいらしく、それに関しては秋津島開発も賛成している。というのも彼女の研究には電子機器、特に半導体に強い秋津島の協力が不可欠だからだ。計画に協力するということは、それに関する知見を得ることができるということでもある。

丸ごと接収されるような計画案よりも、手を取り合ってやっていけそうな方を選びたいというのは社員達の総意でもあるからだ。

 

「香月氏には社長がかなりの支援を行っているという話が有りましたが、その研究がここまでの物になることを見越しての物だったとは」

 

「あー…」

 

かなりの額のポケットマネーが消えていたが、これは社長が時折見せる特定の人物へ非常に甘くなる現象によるものだ。

 

「いやまあ、うん、そういうことにしておくか」

 

「使った額は聞かないことにします」

 

強引に話を元に戻すために咳払いをした後、湯呑に残っていたお茶を一気に流し込んで喉を潤した。秘書は苦笑しながらも、この手の話に首を突っ込むことはしないようだ。

 

「結局BETAへの研究は進んでいないも同然、着陸ユニットのサンプルも吹っ飛ばしたお陰で残骸しか残ってねぇ」

 

「この方であれば現状を打破出来ると?」

 

「荒唐無稽かもしれんが、俺は賭ける価値はあると思うぜ」

 

そう言う社長は少し前、その香月氏と話したばかりだった。秘書は彼女と対話した後の社長がやけに興奮していたのを知っている、天才にしか分からない何かがあったのだろうと話の内容を思い出すことにした。

 

そう、あれは一週間前のこと…

 

 

「そう、馬鹿みたいに数だけ増やせばいいってことじゃないのよ!」

 

「分かってくれますか香月さん!」

 

「脳細胞を生体コンピュータとして稼働させるなんて、全く別の解決方法ね…」

 

何故か滅茶苦茶打ち解けていた二人は、かれこれ数時間話し続けていた。二人が周囲の会議室から掻き集めてきたホワイトボードには謎の計算式が書き込まれ、社長は何度も頷きながらそれを眺めていた。

 

「それにしても世が世ならノーベル賞確実ですね、脳を丸ごと転写する技術とは…」

 

「社長の協力あってのことですわ」

 

「この技術が有れば人類史が終わることは避けられるやもしれません、第四計画では是非よろしくお願い致します」

 

「まだ決まったわけでは…」

 

「決まりますよ、必ずね」

 

なんだか雰囲気が変わった、そう感じざるを得ない。

 

「色々と必要な物があるのだけど」

 

「機材ですか、人材ですか、それとも施設そのもの?」

 

「全てよ、決まり次第発注するから揃えておいて」

 

「任せてくださいよ、このために準備して来た物が沢山ある」

 

社長は懐から紙の束を取り出し、彼女に渡した。秋津島開発の中でまだ試作機が出来上がったばかりのG元素利用技術すら網羅されたその紙は、横で見ていた秘書が度肝を抜かれる程の機密情報の塊だった。

 

「無人機の提供は?」

 

「宇宙で待機している強襲揚陸艦…ああその次のページの奴です、それごとお渡し出来ますよ」

 

既に同型艦が完成間近ということで、第四計画の指揮下に明け渡せる戦力は多い。新鋭機である無人機群に関しても機体自体は第二世代機の範疇に収まる技術で構成されているため、操縦を担当するAIは秋津島から出向した人員以外に触らせないことを条件に合意が可能だ。

 

「貴女の研究が有れば、オリジナルハイヴ攻略のための確固たる根拠を得られる。私はあの場所にこそ諸悪の根源が居ると確信していますよ」

 

「…BETAの司令塔が居る可能性、それを確実に暴く必要があるということね」

 

「それさえ分かれば潰せるだけの戦力を用意して見せますよ、帝国の尻を引っ叩いてでもね」

 

G元素を利用した量子頭脳によるBETAからの情報奪取、その実現は現実的なものになりつつあった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。