宇宙開発企業なんですけど!?   作:明田川

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第百十三話 疾風改

試験場に予め用意されていた模擬標的は36mm弾の直撃を受けて砕け散り、数キロ先に設置された的にはレールガンが向けられる。武装を振るうのは疾風に似た機体であり、頭部のセンサは目のように独立していた。

 

「標的残り12」

 

「かなりの高ペースだな…」

 

標的はBETAの姿がCGで重ねられており、中には多脚車両を用いて移動させている的すら用意されている。大量のBETAを前にしても秋津島警備から出向して来たテストパイロットは狼狽えず、的確な砲撃で数を減らしていく。

 

「新型の機体と超電磁砲、上手く動作しているようですな」

 

「これだけの連続砲撃、冷却設備を接続した疾風でようやく並べるかといった領域か」

 

最後の目標が120mmの直撃で吹き飛び、試験は終わった。機体はその場で突撃砲の弾倉を外し、薬室内の砲弾を抜き取った。管制室の社員達も今回の試験結果に驚いているようで、社長がこの場に居ないことを悔やむ声も少なからず聞こえてくる。

 

「テストユニット、長距離狙撃装備のまま待機」

 

「仮想戦闘スコア推移、想定以上です」

 

「レーザー発電装置、超電磁砲、跳躍ユニット、全ての冷却機能に問題無し」

 

「あれだけの負荷をかけてこれか、こりゃ社長も喜ぶぞ」

 

「第四計画の件で国連と色々あるらしいですからね、仕方ないとはいえ見て欲しかった気持ちもあります」

 

秋津島開発の試験区画で限界を試すようなテスト項目を突破したのは、前述した通り疾風と若干の差異がある機体だ。だがその工業製品は細かい部品で構成されてはおらず、全てが繋ぎ目なく構成されている。

 

「材料工学と生産工学の同時ブレイクスルー、その相乗効果か」

 

「新型砲身の自己診断結果出ます、依然として発射可能状態!」

 

「他の試験含めて1200発の発射後だぞ、センサの誤作動じゃあ?」

 

「…次世代型の砲撃機が今になって出来上がるとはな」

 

疾風の運用開始から10年以上、耐用年数から考えて退役した機体も少なくない。その重心位置から安定性に優れ、長距離狙撃のために用意されたセンサ群は戦術機以上の射撃精度を叩き出す。機動性こそ第三世代機に劣るものの、機体特性の近さから第一世代上がりのベテランが疾風への搭乗を希望するケースも多い。

 

「社長が全面協力するっていうあの計画、それに間に合いましたね」

 

「地球で一番古くて大きいハイヴを潰すんです、高性能機は幾らでも要るとは確かに思いますが」

 

「例の新型プリンタが無いとこの機体は作れませんから、暫くの間は製造設備周りの更新を待たないといけないのが問題ですけどね」

 

「ごく少数の精鋭部隊に渡す分にはどうだ」

 

「いけます、製造部門も最近になって力を増してますから」

 

開発部門の技術者達は新型機が持つ予想以上の性能に驚きつつも、今後どうするかを話し合い始めた。超電磁砲は輸出出来る国が限られているが、それを運用する疾風は共産圏以外になら出せる。

 

「中隊支援砲を超電磁砲の代わりに用いて活躍する疾風は欧州にも多いと聞きます、本来の主砲が無くとも疾風は十二分に働いてくれますよ」

 

「歯痒い話だがな、アレが拡散すればどうなるかというのは分かっているんだが」

 

「高性能機であることに変わりはありませんよ、我々が出来るのは一機でも多く優秀な戦術機を製造することだけです」

 

「最近は焼き直しばかりだったからな。機体の名前こそ同じだが、完全な新型機と言っていい機体に携われて良かった」

 

待機命令が解かれて格納庫に帰って来た機体からは既に装備が取り外され、受けた負荷がどのような影響を与えたかを調べるために別の施設へと輸送される。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「もう装備が外されてるじゃないか、急いで見に来たってのに」

 

「肩部の補助推進器なんて今は安定しているだけの爆発物ですから、折角使い倒した試験機を吹っ飛ばしたくないでしょう」

 

「そりゃそうだが…」

 

長距離狙撃能力を活かした光線属種の殲滅と、ハイヴ突入時における効率的な敵集団の撃破。ハイヴ攻略に大きく貢献した疾風は、新たな姿で第四計画の尖兵として働くことになる。

 

 

試験結果は良好どころか想定以上だとする報告を受けて、社長の口角が上がった。超電磁砲の有する問題の殆どを克服した新型機が完成したのだ、喜ばない筈がない。

 

「第四計画遂行に必要な戦力がまた一つ完成したな、G元素利用兵器の護衛にはうってつけだ」

 

「量子伝導脳の安全を確保しつつハイヴへの突入を可能とする大型兵器を守らせると」

 

「無人機だけじゃあな。それに超電磁砲はそれ専用の機体じゃなきゃ運用出来ない、疾風の世代交代も必要だったし丁度いい」

 

第四計画は既に動き出した、香月博士は秋津島開発が着陸ユニットから掘り出したG元素を提供されて予想以上の成果を上げ続けている。根幹となる00ユニットに関しても実機の完成は秒読みだろう、足踏みする気はない。

 

「ロックヴィード社と話はついた、計画の権限を使って例の機体は接収出来る」

 

「ほ、本気であの空中要塞を完成させる気なんですか!?」

 

「コンピュータの性能不足で船型になっただけだ、その制約が無いならハイヴに突入出来る凄乃…XG-70を使うのは当たり前だろ」

 

以前スクラップ同然の試作機を得た秋津島開発は、浮遊艦の製造などを経てML機関搭載兵器に関する知見をひたすらに積み上げていた。00ユニットクラスのメインコンピュータの量産が可能になれば、大量の空中要塞が戦列を組むことすら可能だろう。

 

「HI-MAERF計画は俺達が引き継ぐさ、そのためにこれまで研究を続けて来たんだからな」

 

「これまで大きな成果を出せなかったオルタネイティヴ計画が今回に限って成功すると、社長は確信されているのですね」

 

「多少ヤケクソになってるのはまあ否定しないがな、やれると思ってる」

 

「なら私も信じます、親戚に人類を救う手助けが出来たと自慢させて下さい」

 

「させてやるさ、絶対にな」




装備込みの画像はもう少し後で、まだ描けてないんですよ。
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