「吹雪じゃあ駄目なんですか?」
「死地に行くってのに一番良い機体で送り出してやらないのはこっちの怠慢だろ、不知火を用意してやりたいんだ」
「確かに性能には差がありますけど、不知火を帝国軍以外に出すとなると国が納得しますかね」
「問題はそれだな」
第四計画成就のため奔走する帝国と秋津島開発だったが、社長は実働部隊が使う機体に関して考えを巡らせていた。原作通りの国連仕様機を見たいという願望もあるにはあったが、単純に少しでも良い装備を提供するべきだと心の底から考えていた。
「帝国の人間が整備を担当するとかでどうにかならんか?」
「我が社から提供しようにも第三世代機は使っていませんからね、隼改二は吹雪に負ける性能ですし…」
「こんなことなら戦術機も作っておけば…いやしかしな…」
有人戦術機事業から半ば撤退しつつあることが裏目に出た、シェア率がいまだに100%を保っている砲撃機であれば話は別なのだがそうはいかない。
「せめて部隊の疾風は疾風改に置き換えましょう、それだけでも相当変わる筈です」
「そうだな、そっちの調整もしないと不味いか」
第四計画のために走り回っている社長は持ち前の、というか意図せずして手に入れた影響力を使って様々な方面との協力を取り付けていた。今回の計画にあまり協力的ではない米国に対抗するため多くの国を味方に付けるべく、帝国と共に苦手な交渉を頑張っていたりするのだ。
「下手したら宇宙港が沈みかけた時よりキツイぞ、机に向かってる方が百倍マシだ」
「社長はこの手の仕事は苦手なのは分かっていますが、ご自身の存在の大きさを今一度考えられた方がいいですよ」
「…いやまあ…うん…色々とやったな」
全く調子が出ない社長とそのフォローで疲労が溜まっている秘書、今は建設的な議論よりも寝た方がいい。
「前もこんなことがあった気がするな、少し寝よう」
「休んでもいいんですか?」
「睡眠時間も削って仕事したんだ、その分休むべきだろ」
そう言ってオレンジ色のアイマスクを取り出し、ソファに横になった。そして一瞬で眠りについた社長に秘書は驚いたが、何か支離滅裂な言語かも分からない寝言を喋り出したことで腰を抜かした。
「ご、護衛の方々、これってよくあることですか?」
「何度かありましたね、この部屋は防音なので外に漏れることはないと思われますが…耳栓を使いますか?」
「そうなんですね、ありがとうございます」
取り敢えず社長と共に寝よう、そう思い別のソファにもたれかかった秘書は疲労からか数分と経たずに眠りに落ちたのだった。
ー
疲れがある程度取れた社長は国連に不知火を提供するため、政府を動かそうと画策していた。幸いにも首相である榊氏は賛成の立場だったが、技術の流出を懸念する国防省と関係閣僚からは猛反発を受けていた。
「第四計画が装備選定で停滞するのは本来得られる筈の国益を損なう上、誘致国として国連に対して悪印象を受けるような議論に時間を費やすべきではない…と私は考えます」
膠着した状況に一石を投じたのは秋津島開発の社長であり、今回の第四計画に対して協力する姿勢を全く崩していない人物だった。
「そもそも基地の早期稼働のため秋津島グループが大部分の運営を現在に至るまで担っています、施設完成後に行われる国連への受け渡し時に独自の機体整備区画を設けることは容易です」
年齢を全く感じさせない姿と気迫に驚かされた者も多いだろう、この場に居るのは老人に片足を突っ込んでいる筈の男だからだ。社長は既にAIになっているだとか、身体が老けないのはクローンが入れ替わりつつ演じているからだとかの陰謀論が絶えないのもわかるというものだ。
「不知火は帝国の整備士のみで維持と管理を行えばよろしい、装備や部品も全て専用の区画に用意しましょう」
原作の落とし所を知っていた社長はそれを早期に提案、賛成派と反対派の溝がこれ以上深まる前に話を付けた。これには不慣れながらも自ら走り回った社長の根回しがあったと噂されるが、対外的には真偽は不明ということになっている。
「第四計画の成否は帝国の未来、延いては人類の存続に直結する問題です。確かに不知火の技術が国連を通じて流出する可能性を危惧するのも開発に携わった一人として懸念することではあります、ですがここで人類の剣として働く任に着いてもらうことこそが戦術機の在り方ではないでしょうか」
第三世代機を保有する国は少なく、対外的に販売を行なっているのは帝国くらいのものだ。欧州もタイフーンの量産を進めてはいるが、輸出するほどの余裕など今はない。この機会に帝国戦術機のブランド力を更に高める、社長はそう言って国内三社を口説いてみせた。
「帝国が誇る最新鋭機が英雄となることに協力を惜しむつもりは毛頭ありません、是非ご一考を」
製造元を仲間に付け、日和見姿勢の議員をネームバリューで抱き込む。そして反対派には一人の技術者として話を聞き、そんな真似は絶対にさせないと言って納得させる。大企業のトップであり、更には戦術機開発の第一人者という立場は交渉において強力なカードとなった。
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演説を終えた後、程なくして不知火の提供が決まった。国外での運用を鑑みて整備士達が色々と準備を進める中、ロールアウトしたばかりの機体が基地へと運び込まれている。
「反対派の切り崩し、お見事でした」
「二度とやりたくない…とは言えないな、半年くらいは政治家と戦いたくないね」
「やっぱり疲れますよね、でも見て下さいよ」
「何?」
秘書が取り出した端末には一枚の写真が表示されていた。それには青く塗装された機体が写っており、社長にとってはある意味灰色の帝国軍機よりも見慣れた姿と言えた。
「国連仕様機です、既に塗装も始まっていると」
「…嬉しい話だな、俺達はもうここまで来たのか」
BETAとの決着は近い。