秋津島開発は紆余曲折の末、色々な事業に手を広げている。その中でも比較的大規模なのは世界各地に点在する海上プラットホーム群であり、土地を失った亡国の特産品などが栽培されていることが有名だ。
「…非効率的ですよ、わざわざ海上で屋内栽培だなんて」
「なんだ新入り、気に入らんことでもあるのか」
「今世界に食料を供給しているのは海洋資源を用いた合成食料プラントです、飢える人々も多い中でこのような商品作物を優先して作るなんて」
「そういう考え方もあるな」
プラットホームの保守要員として雇われている男性は何やら拗らせている青年を見て、またこの手の奴が来たかとため息を吐いた。
「だがなぁ…海洋資源とやらも無限じゃないんだ、別の方法で作ることで崩れつつある生態系を保全出来る」
「合成食品市場の利権争いを避けているだけでは?」
「お前米国やらオーストラリアに喧嘩売れってのかよ、適度に距離を置く必要性ってものがあるんだ」
それに嗜好品ばかりを作る計画など秋津島開発以外に持ち込んでも受け入れられる筈がない、良くも悪くも余裕というのは判断材料の一つになるからだ。欧州もアジアも戦線は膠着気味というだけで内部は長年の戦争で疲弊している、余裕が無いのだ。
「合成食品よりこの手の作物は手間がかかる、維持にも何も人の手がかかってしょうがない」
「それはそうでしょうが、何故急に?」
「ここの奴らは元難民ばっかりだ、雇用の創出って点では大きなメリットだろ。それに秋津島も企業であって慈善事業家じゃあない、お前さんの言葉は国家に向けるべきだとは思うがね」
「…それは、そうなのかもしれませんが」
「どうせ難民キャンプから出て来たばかりだろ、暫くここを見て回ってから判断するのも悪くないんじゃあないか」
諭された青年は精神が不安定な状態であることを知り、攻撃的になっていた自身の言動を顧みた。恥じるべき内容だろう、あまりにも無遠慮過ぎる。
「この職場の良いところは飯が美味いことと戦地から離れていること、そして何よりも家族を連れて来れることだ」
「家族を?」
「難民キャンプの状況は悪化の一途だ、配給も治安も悪くなり続けてる。だがここに来て秋津島食品の社員になれば人並みの生活ってもんを多少は取り戻せる」
スペースが限られる海上であっても娯楽施設や教育機関は設置されており、多種多様な船が来たりもする。ちょっとした趣味を嗜む程度の余裕は存在しており、家族ごとに個室を割り当てられるため安心感はキャンプと比べて段違いである。
「港だったりマスドライバー施設だったり、なんだかんだ雇ってくれるんで助かってる。中には汚染された国土を浄化するための車輌を作ってる奴らだって居るらしい、俺もその手の技術があれば参加したかったさ」
「…そう悲観ばかりをするような状況ではないと?」
「それはなんとも言えんな、俺は家族を戦争で失っていないから気楽に働けてるだけだ」
施設運用にあたって扱い易い人員を選定しているという側面もあるだろう、狭い海上施設での生活となれば精神面も考慮する必要がある。
「久しぶりに土を踏みたいって気持ちもある、このプラットホームは港で働いてる連中と入れ替わりだからな」
「港ですか」
「ヨーロッパの港湾施設は大忙しだからな、MMUの操縦資格は早めに取得しておくことをお勧めするぞ」
秋津島開発の事業拡大に伴い、多くの難民に職が与えられた。問題も少なからず発生したが、AIによる管理と統制が可能であるため大きな問題へと発展することは殆ど無かったとされている。
原作においてキリスト教恭順派に傾倒したであろう難民達は、少なくない数が秋津島の手で定職に就いた。難民救済組織の腐敗は今も大きな課題ではあるが、幾らかマシな状態であるのは間違いないだろう。
「まあなんだ、このまま何処かの星で国を再建するってのも悪くない」
「秋津島開発の宇宙植民構想ですね」
「色々と良くしてくれてるんで信じる気にもなる、それにだな」
そして男性は懐から端末を取り出し、ディスプレイに表示された広告と思わしき画像を青年に見せた。
「宇宙ワインってのも売れそうだろ、少し早いが皆んなで広告のデザインを考えてるんだ」
「…絵には自信があるんです、お手伝い出来るかと」
「決まりだな、これからよろしく頼むぜ」
忘れられたかと思われた宇宙開発の夢は、国を失った人々の中で再燃していた。BETAに脅かされぬ新天地、それを渇望する想いは大きい。
希望は大切、必要なものが足りてこその人生です。