「加速度がデータと違…」
大きな水柱が立ち、射出された物体が海に落ちる。戦術機を模した試験体は加速が上手くいかなかったようで、予想されていた速度に達することが出来ずにいた。
「あっちゃー、回収お願いしまーす」
「へいへい」
この海上プラットホームの一部を改修した実験場で行われているのは、電磁カタパルトの研究開発だ。将来的な空母保有のため、秋津島の得意分野を活かして製作中である。
「マスドライバーといい超電磁砲といい、何かを使って物体を飛ばすのは得意分野ではありますが…」
「その両方の中間あたりでカタパルトを作るとなると、まあ簡単じゃないよな」
地上の基地などでは既に戦術機用のカタパルトは運用されているが、船に乗せるとなると小型化や負荷の低減など様々な改善が必要なのだ。
「陸で使うならここまで気にしなくてもいいんですけどね」
「特に腐食がなぁ…」
秋津島開発の技術者達は試作機をバカスカ作っては有用なデータを取り、次々と改良版を積み上げて完成度を上げていく手法を使っている。プリンタによる試作品製造の高速化と低コスト化があるからこそ成せる技であり、近年においてはAIによるデータ解析なども活用されているようだ。
「それにしても、戦術機(仮)くんは何回海に落ちたのかねぇ」
「もう彼も三代目ですしね、そろそろ壊れそうな気もしますが」
水陸両用型のMMUが試験体を引き上げる中、カタパルトの再射出準備を待つ技術者達は呑気に茶を啜っていた。次の試験に使うデータは入力済み、後は待つだけなのだ。
「空母用の電磁カタパルトなんて、米国の原子力空母くらいしか載せてませんよね」
「戦術機は元々自力で離陸出来るからな、燃料の節約と展開の高速化が大きな利点だが無くてもいい」
「帝国軍は戦後初めての正規空母を手に入れるつもりなんでしょうかね、この手の仕事は気が乗らないんだよなぁ」
二人はただの技術者だ、会社が国から作れと言われて金を積まれた以上は社員として働く必要がある。
「社長曰くこの規模の射出装置は宇宙進出後の艦載カタパルトとして有用らしくてな、そっち方面でも活躍が期待されてるとかなんとか」
「じゃあ話は別ですね、対腐食性の試験後は宇宙での試験を行うよう上に言ってみましょう」
「手のひら返しやがって…」
秋津島開発内は二つの派閥が存在し、会社設立当初からの宇宙開発浪漫派と戦術機開発以降に入社した社員達が中心となったBETA殲滅派に分けられる。BETA殲滅派は兵器開発部門に行くため戦術機やら砲撃機やらは彼らの作品であり、逆にそれ以外は宇宙開発浪漫派の作品だと言える。
「BETA殲滅派の人達は無人機が完成したことでお祭り騒ぎじゃあないですか、僕らも何か大きな実績を作りたいですよねぇ」
「ML機関は浪漫派の管轄だったが第四計画と造船に人員を根こそぎ持ってかれたからな、うんまあ…暫く無理だろ」
「浪漫派代表の社長みたく一月の特許申請数が日数を超えるくらいのことをやってみたいんですよ!」
相変わらず社長は化け物を地で行くような所業を続けているらしい、他社潰しもいいとこだ。
「それ表に出せない技術含めると相当ヤバいらしいな」
「老化の二文字が辞書に無いのは確定ですよね、外見もほとんど衰えてませんし」
不思議な人も居たもんだと笑う二人だが、試験開始を知らせる警告音が鳴り響いたことで身体の向きを変えた。MMUによってカタパルトに固定されたオレンジ色の試験体は加速を始め、レールの上を滑走する。
「…おっ?」
電磁カタパルトは理論値に近い速度を叩き出し、固定機構も機体を開放するタイミングを調整されたことで減速は起こっていない。試験体は理想的な放物線を描き、これまでで一番遠くに落下した。
「これは…やったんじゃないですか?」
「やった、みたいだな」
こうして帝国は戦術機を射出可能な電磁カタパルトを手に入れ、空母保有に一歩近付いた。船舶に搭載可能なほど小型で原子炉を持たない艦船でも運用出来る消費電力という優秀な性能を獲得し、今後の帝国軍を支えていくことになる。
「まあ次は運用する戦術機の重量別に細かな試験が必要なんですけどね」
「地道な積み重ねはいつの時代も必要ってわけだ、待ってる時間が減った分こっちが忙しい」
「本土の試験場が恋しいなぁ…」
秋津島開発は今日も一歩前に進んでいるのである。