「秋津島開発の人道支援パッケージが襲われた?」
「はい、現地の方々によって実行犯の多くは取り押さえられたようです」
未だ混沌を極める難民キャンプにて、支援活動をしていた部隊が襲われた。護衛として機械歩兵が配備されていたとはいえ、負傷者が多く出るなど被害は甚大だ。勝利の余韻に浸りたかった社長と秘書だが、酒瓶を空にするというわけにはいかないようだ。
「治安が悪い地域だからな、この手の事件が無いわけじゃないが…」
「タイミングと規模が少々不気味かと」
「だな、テロ組織の構成員が先走って起こした事件という可能性がある」
すぐさま秋津島警備に場所を問わず重武装を許可し、凄乃皇四型の防衛網を警戒体制に移行させる。こうも簡単に尻尾を出すとは考え難いが、時期を考えるとどうにも嫌な予感しかしない。
「テロ行為の件数は減少傾向にありました。これは我々の勝利だと思っていたのですが、もしかすると身を潜めていただけなのかもしれません」
「一丁前に戦力を温存してたってわけかよ、嫌になるな」
「ボパールハイヴに展開中のA-01およびA-02にも警戒するように連絡を入れておきましょう、キャンプでの取り押さえに協力してくれた方々には何かお礼をする準備をしておきます」
この事件をきっかけに国連軍主導での強制監査を実行、テロ組織が根を張っていたと思われる難民キャンプに手を出すことが出来た。一部の地域については秋津島開発が多くの協力者を抱えており、捜査は思いの外迅速に進んだ。
その結果派遣された人々が目にしたのは管理組織の形骸化と腐敗、それに伴う劣悪な環境だった。
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「罪状はえっと、どうしますか」
「ひとまず暴行で連れて行け、これだけ派手にやれば後で幾らでも付け加えられるだろうしな」
キャンプに突入した治安維持部隊だったが、捜査を行う中で見たくもないものを見てしまうことはある。銃床でぶん殴った男数人を縛り上げ、トラックの荷台に放り込んだ。
『警戒監視モードにて被害者の護衛に当たりますが、機械歩兵である当機がこの任務に適しているのでしょうか』
「秋津島製のロボットはそこらの人間より信用されてんだよ、近くに立ってるだけでも充分だ」
『了解』
女性ばかりの被害者達がテントの外に連れ出され、それを機械歩兵達が守っている。人間味が薄くなるよう調整されている彼らは平常心を保っているが、人間の兵士達にとっては直視し難いもののようだ。
「宗教団体の闇ってやつか、まあ手っ取り早く信者を集めるには便利だろうな」
「このキャンプでも調達出来るもので何かするとなればこうなるのは分かりますが、ここまでやるものですか」
「規模はあるが隠蔽出来るよう他のキャンプとの配置を工夫して、逃げるための地下通路まで掘り進めているとは思わなかったがな」
協力者からの情報により地下通路の出入り口はある程度押さえられたが、まだ知り得ない場所から逃走した容疑者も多い。名簿と人数が合わないなんてことも頻発している上に、キャンプを去った者達で身元の確認が取れる人も少ないと来た。
「…よくもこんな状態にしておいたな、吐き気がする」
「戦術機部隊から連絡です、キャンプより16km先に痕跡を発見したと」
「痕跡?」
「車輌が複数台移動した後があるそうです」
「既に逃げたということはこの馬鹿共は囮か、小賢しい真似を」
この監査を予見していたということは、国連軍から情報が漏れていたということだ。難民キャンプに潜伏するテロ組織がそこまでのネットワークを持つとは到底思えない、違和感が大き過ぎる。
「不味いな、これは」
「どうされましたか」
「部隊を集めろ、置き土産の一つや二つ…」
しかし既に遅かった、テントと人間だった物が爆発によって宙を舞う。証拠隠滅を兼ねたその不意打ちは、本来なら難民達が冬を凌ぐために用意されていた燃料を盗んで転用されたものだった。
「仕掛けられていたか」
「隊長!」
「伏せておけ!もう逃げることは出来ん!」
タンクが爆発によって破裂したことで化石燃料が辺り一面に広がる。広がった液体が気化し、周囲の高温によって発火点に至ればもう誰も止められない。
「得る筈だった証拠も灰になったな、これではもう…」
「戦術機部隊から救援に向かうと連絡が!」
「巻き込まれるぞ、来るなと言え!」
更に発電用の燃料電池に使われていた水素と酸素が流出、気体同士が混ざり合う。燃えやすいテントを中に居た人間ごと焼き払う大火災が合わさり、二種の気体に引火した。
「繰り返せ、来るなと…」
大規模な水素爆発、人の命を奪うには充分だった。
ーーー
ーー
ー
『再起動…完了、命令の続行を…』
爆心地で一人立ち上がった機械歩兵は、最後に言い渡されていた難民の護衛を続行するために周囲を見渡した。共に待機していた機体はすべて破壊されたようで、立ち上がる機体は他にいない。
『部隊員の通信途絶、全バイタルフラット』
乱立していた筈のテントも、保護すべきだった人々も、共に行動すべき仲間も居ない。地面には爆発によって飛散した破片が突き刺さり、既に息絶えた人々の亡骸があるばかりだ。
『…命令の続行は不可能、護衛対象が存在しません』
機体の装甲には血と肉、誰かが着ていたであろう布が張り付いている。BETAの返り血を浴びることなど日常茶飯事だが、この状況は曲がりなりにも人の脳を持つAIにとってあまりにも残酷だった。
『生存者の捜索を実行します』
一人残された機械歩兵は生き残りを探すべく、足を引き摺って前に進み始めた。
S11でも落ちて来たのかと錯覚するような大爆発と共に、国連軍の治安維持部隊との通信は途切れた。監査中という状況によって避難に大きな遅れが出たこと、爆発が連続して起こったこと、避難ルートがテントによって塞がれてしまったこと、様々な要因により被害者の数は膨れ上がってしまった。
その後難民解放戦線を名乗る集団により爆発は国連の陰謀であるという告発文が発表、BETAとの戦闘と国家間の対立ばかりを重視する現在の状況がこのような悲劇を産んだと声高らかに叫ばれることとなる。
凄乃皇四型に関してなのですが、後半に出て来た双発化用の追加装備と追従装甲及び低負荷G弾の三つがオリジナル要素です。つまり大量のレールガンは原作において本来なら搭載される筈だった装備となるわけで…