「話が違うではないか、証拠隠滅のためとはいえ規模が大き過ぎる」
『国連の動きが想定以上に早かったのはご存知でしょう、我々としても不本意でしたが露見を避けるためには手を尽くす必要があります』
「…本当に第四計画を引き摺り下ろせるのだろうな」
『我々は今までどのような実績を打ち立てて来たか、それはご存知の筈ですが』
薄暗い部屋で男が話しかける先は小さな通信端末であり、そこからは人工音声と思わしき声が発せられている。話す内容からしてテロ組織と男は繋がっているようで、今回の騒動について意見を交わしていた。
「回収業者を通じて戦術機を提供していたが、もうそのルートも使えんだろう。今回の便が最後だと思え、ソ連製も品切れだ」
『充分な数が集まりました、それに他のルートでも別途確保していますのでご心配なく』
「水素燃料を輸送する船に関しては航行ルートを割り出してある、好きに使え」
『ありがとうございます、これで実行に移せます』
「難民共を上手く扇動した挙句爆殺か、碌でもない組織と手を組んだものだな」
嫌味の一つでも言いたい気分だったのだろうが、男はそれを言える立場ではない。第四計画が破綻した場合、次なる第五計画が積み上げた研究成果を接収すること。それがこの男を含めたテロ組織の後援者が望むシナリオであり、都合の良い夢とも言えるだろう。
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「分かっていて手を組んでおいて何を今更、情報を吐かれる前に消すのが得策か」
「どうされましたか」
「問題ない、我々は未来のために戦うだけだ」
未だ姿を現さない黒幕だが、ある船内で次の騒動を引き起こすための準備を行なっていた。船と言っても彼らの所有物ではなく、廊下には息絶えた船員達が今も転がっている。
「艦橋の者達は?」
「通信機を使われる寸前でしたので、やむなく射殺を」
「…仕方ないか、怪しまれないように演技は頼む」
「お任せください」
海上のプラットホームから地上各地へと燃料を運ぶタンカーは、彼らの手によって外部への通信を行うことすら出来ずに制圧された。大量の水素と酸素を手に入れた彼らが向かうのは日本列島、バビロン計画にて埋め立てが進む東京湾だった。
「
「秋津島開発が生み出したと言う自走式G弾ですね、未来では立ち向かった国の街を悉く滅ぼしたと言う」
「ああ、アレはこの世にあってはならないものだ」
何故か秘匿されている筈の第五世代戦術機を知る男は、その機体を手に入れるつもりのようだ。タンカーには水陸両用型のMMUや、改造された多脚車輌が運び込まれている。
「同志の船と連絡が取れました、戦力の受け渡しは可能だと思われます」
「よろしい、戦術機が無ければ片手落ちだ」
東側で運用される小型戦術機であるMiG-29が飛来し、甲板に用意されたスペースへと着艦する。そして伏せる形で機体を固定した上で布を被せ、衛星の目から隠す。今回のタンカー襲撃も分厚い雲の下で実行されており、秋津島の衛星監視網でも捉え切れてはいない。
「現地の工作部隊にも連絡を頼む、時は来たとな」
「はっ!」
「私は今後の計画をもう一度確認する、すまないが部屋には近寄らないよう言っておいてくれ」
「お任せを、お手を煩わせるようなことはさせません」
数回に渡る妨害工作でも息の根を止めきれなかった、社会的な信用の失墜も回避された。彼らにとってオリジナルハイヴを攻略されるまでが残り時間であり、もう後がないのだ。
「死に損なった秋津島も、馬鹿な難民の連中も、この先には不要なんだよ」
そう一人呟く彼の手には四角い記録媒体が握られており、それにはある文字が刻まれている。シュタージファイル、何者かによって持ち出されたそれは爆弾と化した船の中にあった。